Dreamer -My Imaginary Irelia's brother- 作:Moa
もう少し南下してノクサスの領土を広げたい。その要望に応えるため刻印持ちが貸し出されることになったのがこの前。とはいえ最近は人材不足でなかなか人がいないとバイロンが語っている。攻撃性の低いナユタが領土拡大の為に貸し出されるのはそのような事情でもあった。
「何か作戦とかある?」
「魔力で押し切ればいいさ」
「そんな雑でいいの」
「君にはそれだけの才能がある」
なんて会話をしたのはいつだったか。
「俺、人を殺したいわけじゃないんだけど」
「でも逆らった人に甘くしちゃだめだよ」
「わかってる。それがノクサスなんだろ、わかってるけど」
「大人しく降伏してくれるようにわたしも祈るね」
降伏しなければ殺す。それは逆に言えば降伏したなら殺さないということなのだとソフィアは教えてくれた。
戦いの準備をする兵士たち。投降を呼びかける声。抵抗すればすぐさま大群が敵を押し流すだろう。しかし。
「拍子抜けだな」
あっさり終わった。というより、始まりすらしなかったのだ。
彼らは戦わない事を選んだ。町長が男に頭を下げる。
「どうか命だけは」
頭を下げている町長に、男は剣を振り上げる。
「そうだな」
ナユタにはそのままどうするか迷っているように見えた。
隣から小さな声が聞こえる。
「ふざけないで。剣を下ろしてよ」
ソフィアを見ると彼女はその光景を見て身体を震えさせていた。瞳には涙が浮かぶ。
「えっ、何でいきなり泣き始めて」
突然の事にナユタは戸惑う。ソフィアはぼろぼろ涙をこぼしながら町長たちを見つめていた。
「ナユタ、お兄ちゃん。あの人町長を殺すつもりなの。ちゃんと逆らわないって約束したのに。そんなのって」
ぽろぽろとソフィアの瞳から水が零れ落ちる。少女の悲しみは止まってくれそうにない。
「逆らわない者を殺さないからこそ安心して従えるのに。忠誠を誓ったのに殺すなんて、真のノクサス人がすることじゃない」
ソフィアの涙にナユタの心は揺さぶられる。面識のない誰かが死ぬのも気分は良くないがそれ以上にソフィアを放っておけない。
ナユタが軽く肩を抱くとソフィアは身体を寄せてきた。彼女を見ているとどうにも平常心でいられなくなってしまう。
「俺が何とかするから。ソフィアが泣いてるの見たくないよ」
振り下ろされた剣は不自然に弾かれる。見えない壁に阻まれた事に男は周囲を警戒する。
「誰だ?邪魔したのは」
ナユタが踏み出した。穏やかで大人しそうな美青年の登場に男は鼻で笑った。
「弱そうなガキじゃねえか」
「抵抗しなかったのに殺すのは真のノクサス人がすることじゃないって聞いたけど」
「強者が弱者を自由にして何が悪い」
「でもさ、逆らわなくても殺されるってなったら無謀なことしてくるかもしれないし危なくない?」
「そうなれば攻撃を受けた方が弱いのが悪い」
「無駄に敵を作る必要はないと思うんだけどなあ」
腰を抜かしている町長にナユタは声をかける。
「大丈夫、俺が守るから」
自分の中に巡る魔力を開放する。周りの場がマナで満ちる。天から光が降り注いだ。
涙していたソフィアもナユタの魔力に触れ穏やかさを取り戻す。
男の様子が少し変だ。
「何だ、これは」
男が何もできず立ち尽くしている隙に町長はよろよろと立ち上がり安全な場所へと離れていく。
またあっさりと上手く行ってしまった。おそらく何かナユタの魔法なのだろうけれど。
「シュリーマにはノクサス人になりたいって人がたくさんいたって聞いたよ。それを減らすような真似しちゃ駄目だって」
胸元に右手を当てながらナユタは男を諭す。
「待て。その手、まさかアレックス・バイロンの術か」
「知ってるんだ」
「あれに逆らう気はしないな」
どうやら引いてくれるようだ。よかった。
「お兄ちゃん、ありがと。無理させちゃったかな」
涙を拭いソフィアは兄を見上げる。
「これくらい平気だけど」
「そっか、強いんだね」