Dreamer -My Imaginary Irelia's brother- 作:Moa
「おかえり。あれ?」
アレックス・バイロンは驚いた。ナユタとソフィアだけならまだしも増えているのだから。
片方は行方不明になっていた自らの部下、ウィル。もう片方は熊のぬいぐるみを抱えた幼女だ。待て。誰だ。
「君は?」
「あたしアニー。こっちはティバーズ」
「アニーか。ソフィア、これは私が頼んでいた件かい?」
ソフィアに尋ねる。
「旅してた時に見つけた候補で、炎の魔法が使えるんですよ」
「私はアレックス・バイロン。よろしく」
「うん」
「随分と幼い子を連れてきたじゃないか。孤児かい?」
「いえ、家族はいるんですけど許可取ってきました」
「じゃあアニー。ちょっと来てくれ。早速儀式を行おう」
「ぎしき?」
「……君を強くするための魔法をかけるよ」
バイロンはアニーを連れて奥の部屋へ向かう。
ソフィアは何かを諦めたような目で二人を見つめていた。
どたばた音がする。外から聞こえてきたそれをソフィアが気に掛ける。
「アニー、その子落ち着けられないかい?」
「ティバーズ、どうしたの」
「えっと、バイロンさん?」
何があったのかとソフィアがドアを開けると、巨大化したティバーズに入れ墨用の針(バイロンお気に入りの魔術具だ)を取り上げられているバイロンの姿があった。バイロンは紫の髪を揺らしながらティバーズから針を取り返そうとしている。長身のバイロンだが彼が手を伸ばしてぴょんぴょんしてもティバーズの手にはあと一歩のところで届かない。
「儀式を邪魔されてしまってね、全く、悪い子だ!ぬいぐるみに戻りなさい」
「言っても戻らないの」
「え?」
「……まだ操作が難しいのかな」
バイロンは考える。
「でも帰る前は戻ってっていったら戻ってくれたよ」
アニーとティバーズを凝視したバイロン。結局入れ墨を諦めざるを得なかった。
「できないこともあるのか?」
「あるよ。相性は大きい。ソフィアは事情があって術をかけられなかったしね」
「事情?」
バイロンは髪をいじりながら答える。
「力が変質しそうだったのさ。例えば彼女が純粋な攻撃魔法使いになるのは損失だと判断した」
勿論魔法で攻撃できるという才能は良いものだ。だが、敵を殺すのは非魔法使いでも代用ができる。ソフィア・ミュラトールは金で買えない。バイロンはそう語る。
「前にピルトーヴァーに行った時『嘘を発見する機械』を見たが精度が悪すぎて実用からは程遠かった。自称最新鋭ヘクステックが笑わせる」
「そうなんだ」
「ソフィアを量産できれば面白いと思ったんだがね」
ナユタの頭の中には増殖したソフィアが出迎えてくれる映像が浮かび上がった。悪くないかもしれない。
帰ったナユタは魔法の修行の成果を見せてほしいと言われた。ウィルとソフィアも同行している。アニーもティバーズを大事に抱きかかえながら見学中だ。
外の広場で始める。
魔法の壁を出す。それだけなのだが、前より器用に形状を作ることができた。
宙に浮かせた壁に乗ってみる。自分を丸く囲う事だってできる。
「空を飛べるとなかなか戦術の幅が広がるよね」
色々な形状の壁を複数個出せるのだが、結構疲れる。
「ふう。……こんな感じかな」
ナユタは丸い壁を消してすたっと地面に着地する。
「凄いじゃないか」
バイロンは素直に称賛を口にする。
「すごーい!」
アニーも目をキラキラさせている。
「ここではね、魔法使いはすごーいって大事にされるんだよ」
ソフィアはアニーにこの場所の話をする。
「バケモノ、っていわれたりしない?」
「アニーちゃんはそう言われたことがあるのかしら」
「……」
「でも……大丈夫、もう苦しい思いしなくてすむはずだから」
この言葉でアニーが落ち着いてくれればいいなと思いながら、ソフィアはアニーと話していた。
「じゃあいっぱい燃やしていい?」
「火をつけるものは選んでね。たとえば、暖炉の中とか?」
「はーい」
抵抗の代償
ある街を占領するための魔術師としてナユタはバイロンに連れられた。ソフィアも同行している。そんなある日。
ノクサス領となることを拒んだ、ただそれだけの話。
「よくある話さ。利害の計算もできない愚か者はどこにでもいる」
「かわいそうですね。負けることでしか避けられない滅びがあることを知らないなんて」
ミュラトールの名を広めるための戦いだとバイロンは語る。
「断るなら君たちに待つのは破滅のみだ」
「せいっ!」
魔法で軍の前に強大な魔法壁が生み出される。透明な板が太陽の光を浴びて輝いた。
「なんだあれは」
ざわめきが走る。
「一人でやってんのかよ……」
後ろからは驚きの声が聞こえてくる。
「天才だわ。それに加えて例の刻印持ちでしょ?無敵じゃない」
「あれだけ魔力あるなら全部あいつに破壊させればよくない?」
その言葉にはバイロンが笑いながら答える。
「跡形もなく破壊したら占領にならないだろう。別に逆らった報いという事にしてもいいけれど少々後処理が面倒だ」
「だから皆に頑張って欲しいんだ。できる限り守るから」
城壁からの狙撃などにはナユタが魔法の壁を展開する。その間に他が正門から強行突破する手筈だ。
あまりにも簡単に終わった。ナユタの魔力にかかれば彼らの攻撃など届くはずもない。
「……最終通告だ」
バイロンは告げる。従うならよし、逆らうなら容赦はない。
そして彼らは逆らった。
「かわいそうな人たち。『従ったところでどうせ殺されるんだ。俺たちは最後まで抗う』……逆だったのに」
「大事な事を忘れている。彼らは君じゃない」
「そうだね。彼らの死因は、わたしじゃなかったこと」
戦争の後処理の中、ソフィアの様子が妙だった。
「……」
ソフィアはぼんやりと前を見つめる。ナユタはそれに気づき声を掛ける。
「どうした?やっぱり疲れてる?」
「えっと、わたしは」
「ずっと嘘見破り続けるの疲れるかなって。俺もこの壁出し続けたら疲れるし。ちょっとの間でも止めたら楽になるんじゃ」
ソフィアはナユタの言葉に驚く。
「えっ」
「せめて誰もいないときくらいはさ」
「この力が使えなくなったらお兄ちゃん困るでしょ」
「ソフィアが元気でいることの方が大事だよ」
その言葉にソフィアは固まった。そんなことを言うのか。
「わたしの方が、嘘を見抜けることより?」
「そう言ってるだろ」
ソフィアは目をぱちくりさせながら兄を見つめる。
「お兄ちゃんあのね。この力は止められないの。生まれた時からずっとあったから。……でも、ありがとう。嬉しかった」
それからしばらくして。二人の女の子が部屋で遊んでいた。
「いっけーティバーズ!てきをやっつけちゃえ!」
アニーがティバーズを持ってソフィアが持っているぬいぐるみをぺしぺししている。
「うわー!やられたー!」
ソフィアの人形が倒れる。ごっこ遊びをしていたらしい。
「えっへん、ティバーズは強いんだから!」
「ぐわー」
そうして読み聞かせなどをして過ごす。案外アニーは戦争ものの話も好きなようだった。
「アニーちゃん、恋物語とかはどう?」
「よくわかんない」
まだそんなものか。
「ナユタは好きだけどそういうのじゃないし」
「そっか」
「ソフィアはナユタと結婚したいの?」
「な、何を言ってるのかないきなり。……そういうのじゃ」
魔法の修行も怠らない。威力は申し分ないので魔法制御を主体に行っている。前にアニーが家ごと燃やしてしまった時は魔法を使っているのを見られ化け物と言われたのを聞いてしまったという経緯があるらしい。それで感情が昂ったと。
ぬいぐるみティバーズが実母の手作りだと聞いたのでティバーズが実体化するのは彼女の魔法的な守りによるという説も考えたがソフィアはそれには懐疑的だった。
というのもあの夜アニーは全てを焼き尽くしたからだ。多分あのままだったら全員死んでたんじゃないか。そしてアニーに養母への恨みはあったかもしれないが、少なくとも父親を焼き殺そうという意思はなかったはずなのだ。そして実母にも。
「ソフィア、考え事?」
「ちょっとね。大したことじゃないよ」
勝手に力が暴走してしまっただけ。不幸な事故。ソフィアはアニーの件をそう結論付けた。
アニーを見送った後、ふと身体が熱いことに気づく。
「あれ?アニーちゃんの魔法かな」
ナユタと結婚しないのかと聞かれたのは関係ないと言い聞かせながらベッドに横たわる。
「そういうのじゃ、ないもん」
ベッドに倒れたソフィアは眠りにつく。熱を持つ身体に違和感を覚えながら。
そして彼女は、翌朝目覚めなかった。