Dreamer -My Imaginary Irelia's brother-   作:Moa

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浜辺の贈り物

 ある日、ナユタはバイロンに散歩に誘われた。紹介したいところがあるのさ、と。

 ソフィアも当然とばかりに同行する。

「わたしがお兄ちゃんを見てないといけない、そうですよね」

 だそうだ。

 

 家を出るとすぐ近くに広場が見えた。広場で遊んでいたらしい子供たちが駆け寄ってくる。

「バイロンさん! その人だれ?」

「拾った」

「海から流れてきたの?」

「その認識で概ね正しい。奇跡的に拾ったのさ」

 バイロンはさらりと紫の髪をかき上げる。

「ぼくも拾われたんだ。よかったね」

「あたしも!」

「ちなみに彼は我が部隊の仲間なのさ」

「えー? ぼく『ぎしき』してもらってないのに!」

「悪いね。どうしても適性に左右されてしまうんだ」

「はーい」

 子供は少々寂しがりながらも納得した様子。

 

「儀式って何してるんだ?」

「ああ、手に刻んだ紋様の事だよ。君に魔法をかけたのは目覚める前の事だから覚えていないのも当然だが」

 バイロンは楽しそうに語り続ける。

「この刻印はあえて言うなら敵に恐れず立ち向かう意思を強めるもの。君はきっと迷わないだろう」

「あ、ありがとう」

 ナユタの礼に一瞬きょとんとしてからバイロンは表情を緩ませた。

「そうかい。そこまで言われてしまうと私としても笑みが抑えられなくなる」

 

「素質ある者を育てているんだが最近はほとんどいないね。昔はもっと多かったんだが。今では数えるほどだ」

「そうなんだ。見つかるといいな」

 

 

「私は空飛ぶ本に乗った猫を追いかけて飛び込んだ。なんとその先はヨードルの住む街だったのさ」

 ヨードルって何、とナユタが聞くとバイロンは愛らしく気まぐれな小人だと答えてくれた。ソフィアは曖昧な記憶で返す。

「なんでしたっけ。……草むらに隠れた丸眼鏡の魔王?」

「それ偽物だよ。多分色々混ざってるね。キノコを愛する毒矢の暗殺者と格下を有無言わせず葬る邪悪なる魔術師。丸眼鏡も大方別のヨードルだろう」

「不死身だって言ってたのは別の話でしたっけ」

「間違ってはいないさ。寿命は人よりも遥かに長いそうだから」

 

 

 

 話しながら浜辺へとたどり着く。

 

「ここだよ」

「海?」

「ああ。私は宝の浜と呼んでいる。時々流れ着いてくるから」

 興味を示したナユタの表情を見てバイロンは続ける。

「何故そのようなことが起こるかというと、『ポータル』、つまり移動魔術が発動しやすい領域だからなのさ。極秘研究だからくれぐれも漏らさないようにね。命令だ」

 命令なら従わなきゃ。ナユタは自然にそう思った。

「ナユタは心配ないがソフィアもだからね」

「はい、わかってます」

 ソフィアはうつむきがちに答えた。

 

「しかし最近はポータルが不安定でね、突然使えなくなる可能性もあるのさ」

「そうなったらただの浜になっちゃうよな」

「今のうちに稼げるといいんだが」

 

 浜を見回すが、特に宝らしきものは見当たらない。

「バイロンさん、何もないですね」

「そんな日もあるさ」

「普段はどんな宝物が流れてくるんだ?」

「結構ランダム性が高いから何とも言えないけれど、例えば」

 と言いつつバイロンは手持ちの武器を取り出す。

「私の鞭もここで得たものなんだよ。使い手の魔力を利用して力に変えてくれる」

「魔法の武器なんだ」

「今では自慢の相棒さ」

 

 聞こえる波音が、ごうごうと大きく変わる。

 

 水上に不自然な穴が開く。まるで渦を巻いているように海の一点だけが凹む。その窪みから巨大な魚が飛びあがってきたと思うとソフィアの頭上に落ちようとしていた。

 

 とっさの動きに反応しきれないソフィア。避けようとするものの速さが足りない。

 

「危ない!」

 ナユタは咄嗟にソフィアを突き飛ばす。

「きゃっ……えっ?」

 何とかして妹は救えたものの。

 

 彼の上に、魚が落ちた。

 

「いてて……」

 かろうじて上体が出ているが、下半身は魚の下敷きになって見えない。

 

「ソフィア、大丈夫か」

「わたしよりお兄ちゃんの方が」

 ハッとしたソフィアは何とかして魚を持ちあげようとするが動かない。バイロンにソフィアは頼む。

「あの、もしよろしければ手伝っていただけませんか? わたし一人の力だと足りなくて」

「こうなるか。わかった、少しだけ辛抱してくれ」

 

 バイロンは鞭を手に何かを呟きながら念じる。魔力を纏ったそれは空中で自立したかと思うと魚を押し出す。

 しばらくしてナユタはようやく解放された。

 

 

「ごめんなさい。わたしのせいで」

 謝罪の言葉を口にするソフィアはぽろぽろと涙を流していた。

「ソフィアが怪我しなくてよかった」

「責めないの?」

「え」

「わたしが悪いって言わない?」

「考えたこともなかった」

「……優しいんだね。お兄ちゃんは」

 ソフィアは儚げな笑顔を見せた。二人の間に柔らかな空気が流れる。

 

「何をいちゃいちゃしてるんだい君たちは」

「別にそういうのじゃないです」

 口を挟まれるまでの僅かな時間だったが。

 

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