Dreamer -My Imaginary Irelia's brother- 作:Moa
ナユタとソフィアは二人で暮らすことになった。時々バイロンが来て気にかけてくれる。ソフィアはその度に緊張している様子だった。
今日の朝食はソフィアが個人的な趣味で育てているという花のジャムを添えたパンと魚のスープだ。少し前にも同じメニューを食べたことを思い出す。その時は他の家族はいないのかと聞いてソフィアが無言で俯いたんだった。
「これどうやって作ってるの」
「適当に魚とか野菜入れてるだけ。味付けも塩くらいだし」
自信なさげにソフィアはそう言うけれど。
「凄く美味しいよ」
「ありがとう」
「料理得意なのか?」
するとソフィアは恥ずかしそうに固まった。
「……えっと、その」
「家庭的で良いと思う」
ソフィアはぼかんとした顔で見上げてきた。
「弱くて情けないとか言わないんだね」
「なんだよそれ、そんな事言う奴いるのかよ」
「強さこそ正義って土地柄だからね、仕方ないよ」
何を言おうか迷っている様子のナユタにソフィアは続ける。
「それにね、ノクサスの言う強さって別に相手を殴ったり蹴ったりするだけのことじゃないんだよ。もちろんそれも入るんだけど、頭を使うとかお金で解決するとか方法はいっぱいあるから」
「何かつらいことあったらすぐ言えよ。俺に出来ることなら力になるから」
その一言をソフィアは噛み締める。ナユタはソフィアに嘘をついたことはなかったし、あったとしてつき通せやしないだろう。
「優しいんだね、お兄ちゃん」
その時、誰かが家に来た。
「やあ二人とも。ここでの生活は慣れたかい」
バイロンが髪をかき上げるとナユタはびくりと一瞬震える。
「ま、まあ。少しずつ」
目をそらしながら答えた。
「それは良かった。君たちのこれからについて話したいんだ」
「改めて自己紹介すると私はアレックス・バイロン。戦いはまあできないこともないが本業は研究者だ。そうありたい」
バイロンは紫色の髪を弄りながら話す。その度にナユタの表情が強張った。あまり追求せずバイロンは話を続ける。
「『ポータル』。簡単に言えば瞬間移動できる扉の研究をね」
「瞬間移動?」
「私達が『宝の浜』と呼んでいる場所がそうだ。魚が流れ着いていただろう?」
「ああ、皆で魚食べたの美味しかったな」
バイロンは話すと長くなるがと言いながら説明してくれた。
「実は私、特殊体質でね。魔力が見えるんだよ。かといって別に他人の魔法を奪えたりはしないのだが。いや、こちらの話さ」
ちなみにナユタは白だそうで、癒しや守りを象徴する色だった。ノクサスではかなり珍しい素質に入るらしい。
「君ならノクサスでも最高の防御術師になれるんじゃないかな。皆が攻撃にばかり目を向ける国で守り手を目指すのも茨の道かもしれないが、それでも君の才能は活かすべきだと私は思う」
長い髪が揺れる。ナユタはそのたびに息が止まりそうになった。
「お兄ちゃん? 怖い顔してどうしたの」
「怖い? そんなつもりはなかったんだけど」
「何かあったら言ってね」
「……うん」
「さて。魔力が見える体質だったが故に私はある魔法的存在に魅入られた。それは猫だった。目で見るままに追いかけたら、なんと彼女は空飛ぶ本に乗ってポータルに飛び込んだんだ」
ポータルの先で起こったことは言葉にできないほどで。だからまたあの猫に会うのが夢なのだとバイロンは夢を語り続けた。
「私はポータルから流れ着いた人間からある女の情報を得た」
「それがイレリア、ですね」
ソフィアの言葉をバイロンは肯定して言葉を続ける。
「彼女は今や我が帝国にとって最大級の危険人物でね、ノクサス帝国元帥ジェリコ・スウェインですら腕を切り落とされたのさ。イレリアには宙に舞う無数の刃を操る力があった」
手に持つならせいぜい二本が限界だが、イレリアの刃にそのような制約はない。
「ポータルから得たその情報こそが、イレリアを攻略する鍵だ。別に恨みはないんだが、研究に集中したくてね」
バイロンはナユタの右手を取り手の甲に描かれた紋章に触れる。
「君の手に描かれている紋章は、死の瞬間までノクサスに忠誠を誓うという証明だ。もしイレリアがその情報を持っているならば、どうなると思う?」
バイロンの髪と同じ紫色の瞳がナユタを射抜く。
「問答無用で殺される、かな」
「それだけで済めば良いのだけれど」
と、彼は悩ましげに溜息をついた。
まあ何とかなるよ。君の協力があればきっと。
そう言ってはいたけれど。