Dreamer -My Imaginary Irelia's brother-   作:Moa

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黒の乙女

 星空の下、透き通るような歌声が聞こえる。その音に導かれたナユタは月に照らされた長い黒髪に目を見張った。腰まで届く程のストレートはさながら夜空に巡らされたカーテンのよう。少女が動くたびに髪が揺れ動く。どうやら踊っているらしい。

 少女の周りには銀の刃が無数に揺らめいている。少女の動きに追随するようだ。

 

 

「綺麗だ」

 素直にそう思えた。その美しさが誰に汚されることもなく、ただそこにあり続けてほしいと。

 

 歌に耳を澄ませる。

 星に願いを、君に誓いを。例え離れていても心は共にある。別れは悲しいけれど。

 そうやって苦しそうに歌い上げるのだ。

 

 彼女の舞は優雅でありながら容赦なく心を突き刺してくる。

 まるで何かを取り戻そうと必死に足搔いているように。

 

 髪を揺らし上空に手を伸ばしたまさにその瞬間、少女の頭上に流星が煌めいた。それはまさに歌詞の通りで、吸い込まれそうになった。

 

 少女は流れる刃と共にふわりと一回転した。目が合う。

「え……?」

 

 時間が止まったような感覚。

 少女の表情が一瞬輝いたように見えた。わかりにくいけど。

 

 先ほどまで歌っていたはずの少女は、ぱたりと音を止めた。

 黒髪の美女は何かに取り憑かれたように一歩こちらに近付く。

「うそ」

 と呟きながらもう一歩。

 その歩みは早まる。走ってくる。

 

 そして、呆然としていたナユタに派手に飛び込み倒れ込んだ。

 

 バランスを崩し地面に座り込むような姿勢になったナユタ。

 寄りかかられて倒れそうになる上体を、後ろに手をつくことで何とか支える。

「いてて……」

 黒髪の少女は抱き着いたまま離れない。

 何かをこらえるような声が耳元で微かに漏れた。

「ナユタ」

「え、何?」

「ごめんなさい」

 かすれた声がナユタの耳を刺激する。なんだか緊張する。

 

「いきなり謝られても何のことだか」

「……っ、そんなの、守れなかったからに決まってる」

 泣きじゃくる少女に惑う。しかしナユタに心当たりはない。

「苦しかっただろう、悲しかっただろう、怒り狂っただろう。私が遅すぎたから」

 だから何の話、と聞いてみる。

「私が夢なんか見たせいで」

 よくわからない。でも、なんだか辛そうだ。

 

「暖かい」

 一向に離れるつもりのない少女をどう扱っていいかわからない。泣き続けている少女を無理に引きはがすのも気が引ける。

「ずっと会いたかった」

「人違いじゃないか?」

 名前を呼ばれたにもかかわらずナユタはつい口にしてしまう。

「そんな、はずは」

 

 少女は一度離れてナユタの姿を眺め始める。

「やはりそうだ。人違いのはずがない」

 確信を持った少女の声にナユタは答える。

「……ごめん。俺かもしれない。覚えてないんだ」

 少女の事も何も。そう伝えると少女は微かに悲しそうな顔を見せた。

「そうか」

 

 

「姿はあの時と変わらないな、少しも」

 何度も目元を拭いながら視線を向け続けてくる。

 

 少女が寄りかかる状態から解放されたナユタは手を前に出せるようになる。それを見て、少女は急に表情を歪めた。

「貸せ」

 許可を得る間もなく少女は彼の右手を掴んで引き寄せる。

「わっ……どうしたのいきなり」

「何だこれは」

 握る手が強くなる。

 辛辣な声色で少女は尋ねる。さっきまで全然怒ってなかったと思うのに。

「えっ、これはノクサスの」

「奴らに身を売ったのか」

 手練の戦士と見紛う程の殺気。一体この身体のどこから。

 

 少女の背後に浮かぶ刃が揺れ始める。夜空を切り裂こうとしているように震えた。

 

 

 そしてそれは、本当に夜空を切り裂いた。

 風景がバラバラと切り取られ、虚空に落ちてゆく。

 世界の一欠け一欠けが剥がれ落ち、二人から遠い場所から黒に塗りつぶされる。

 

 

 黒に染まるにつれて、ナユタの意識も闇に沈み……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたナユタは記憶の片隅に沈んだ何かを思い出そうとしてもう一度目を閉じる。

 何か夢を見ていたはずなんだけど。ほんの少し前まで覚えていたはずなんだけど。

 

 黒が広がり押し潰される光景を思い出す。でも、他に誰かいたような。

 

 

 

 夢でぼんやりと浮かぶ長い黒髪の美女。

「それでさ、夢で会った人が凄く綺麗だったんだ」

 顔が思い出せないのに、美しいと感じたことだけは覚えている。

 

 その話をするとソフィアは何故か不機嫌になった。

「ただの夢じゃない? 気にしない方がいいよお兄ちゃん」

「あ、うん。……わかった」

 素直に話題を変える。

 妹に悲しんでほしくないなあと思ったから。

 

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