Dreamer -My Imaginary Irelia's brother- 作:Moa
浜辺のポータルに飛び込んだ先。金属に囲まれた街の一室にたどり着いたのは少し前の話。
「ここにイレリアがいるのか?」
「まさか。……その前にいくつか下準備が必要なの」
辿り着いたのはアイオニアではなくピルトーヴァー・ゾウンと呼ばれている地域。バイロン曰く東西を結ぶ回路が作られ発展したという。年は上下に広がっており都市は上下に広がっており、上がピルトーヴァー、下がゾウンと呼ばれているそうだ。
手袋で隠しながら新たな街に降り立つ。これがなければ異国で出会ったナユタを初対面でノクサス人だと気付く人は殆どいない。アイオニアかという人が時々いるくらいだ。ノクサス領は年々のうちに広がって様々な人種を取り込んでいるから見た目だけでは判断しにくいのだが。ノクサス内でさえナユタは少々目を引いた。珍しい顔立ちなのだと。
ふとソフィアが気づいた。この街に暮らしているのであろう少女がナユタを見て口元を抑えている。隣に立つ少年が不機嫌そうに少女の肩を叩く。とはいえ見られているだけだ。何か実害を与えようとしてくる気配はない。
しばらく呼吸を止めていた少女は流石に耐えきれなくなって手を下ろし息を吐き出す。深く吸い込む。胸に手を当てる。
「……カッコいい」
うっとりした声の少女に少年の舌打ちは聞こえなかったらしい。
「ふふ、事実顔はいいよね」
「何の話?」
「ううん、なんでもないよ」
科学技術の街だと紹介されていたが予想以上だった。ここまで金属に囲まれた場所をナユタは初めて見た。ノクサスで見た金属は大抵武具だった。金属が動くのを見てナユタは新鮮さに目を輝かせた。鎧は普通動かない。動く鎧は人間が着ている鎧だけだ。『鋼の魂奪者』でもない限り。
ナユタもの考査す出ある程度の都会は見たことがある。だがここは少々違う。何が違うかというとナユタが見てきたノクサスの都会は平面的な迷路であり、この街は立体的迷路であるという点だ。
ノクサスで上下に移動するなら大抵は階段やら梯子やらを使うのだがここでは上下移動も機械だ。
周りにあふれる機械とそれが動く音。
辺りに溢れる機械とそれが動く音。人も多いし一瞬で見失ってしまいそうだ。
「どうしよう、迷いそうなんだけど」
「じゃあ手繋ごうかお兄ちゃん。そうしたら大丈夫」
答えを聞くより先にソフィアはナユタの左手を取る。手袋越しだが暖かさは伝わってきた。
「俺が守るから」
「……ありがとね」
これだけ人が多いと警戒していても難しい。
建物の合間を抜けて人波をかいくぐる。何度かスリに狙われそうになったがかわす。『壁』は最終手段だ。
魔法使いというのは基本的に目立つのさ。科学技術が支配する場所では尚更ね。
確かバイロンがそう言っていたから。
目的地にたどり着き、ソフィアは臆さずドアを開ける。
「おじゃましまーす」
明るい声が響く。反応はない。しばらく反応がないことを確認するとソフィアは怪しげな室内に乗り込んでいく。
そこにいたのは男だった。俗な言葉を使うならそう、ハゲだ。怪しげな薬品を調合しては笑っている。
「アレックス・バイロンの使者。ソフィア・ミュラトールです」
ソフィアの声に気付いて男は振り返る。
「お兄ちゃん、こちら錬金術師のシンジドさん。時々薬が必要な時に来てるんだ」
「ナユタです」
するとシンジドは緑色の液体が入っているビーカーをナユタに差し出した。
「君も一杯どうだい?」
緑色なだけでなく時々ぶくぶくと泡立っている。
ナユタは確信した。駄目だろこれ。いや絶対駄目な奴だろ。
「えっと、俺は遠慮しとくよ」
断られたがシンジドは気にせずソフィアに薬の話を続ける。
「それなら君はどうだ」
「もちろん」
ナユタは一瞬ぎょっとしたがソフィアは続ける。
「もちろん、それは薬の内容次第です。長くなるのですが質問に答えていただけますか?」
ソフィアの質問は長かった。研究者の性なのだろうか。自身の研究については嬉々として語るシンジドにソフィアは薬の性能、副作用などを尋ねた。
「効用なら紙に書いたものがあるが」
「ありがとうございます、じゃあ読み上げていただけますか?」
しかしそれに続くナユタの声は、ソフィアには予想外だった。
「それ俺が読もうか?」
「え、いいよ」
ソフィアは断る。
「大丈夫だって」
「そうじゃなくて。そういうことじゃなくて……どうしよう」
やっぱり話した方がいいかなとソフィアは要領を得ない言葉をつぶやいた後ナユタに提案する。
「じゃあ効果書いた紙とシンジドさんの言葉にかみ合わないところがないか確認してもらっていい?」
「わかった」
それは病弱な人間向けの栄養剤で、シンジドの錬金術によって作られたものだ。どちらかというと毒を作る方が得意なシンジドではあったのだが、こういうことだって頼まれればやる。
「わたしのために?」
「君は役立つと言っていたからな」
「ありがとうございます」
見た目は酷いが問題ないことが既に判明している。全ての説明を受け質問を受けたソフィアはあっさりと液体を口にした。
呑みこんで口を押さえる。今にも吐き出しそうなソフィアを見てナユタは大丈夫かと声をかけた。
「おいしくない……」
「良薬口に苦しと言うだろう」
「言い方変えましょう。改良の余地がありますね」
帰り際。ソフィアはナユタにあることを告げた。
「もう言っちゃうね。お兄ちゃん、わたし」
ソフィアはナユタを見上げて微笑む。
「人が嘘ついてるかわかるの」