Dreamer -My Imaginary Irelia's brother-   作:Moa

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ゾウン(後)-散る運命、満ちる偶然

ナユタとソフィアはその場を後にし宿を探そうとしていた。数日滞在する予定だ。

 

手を繋いで歩いていたナユタは視界の端に何かを見つける。

 

石ころだろうか。なのにナユタは不思議とそれが気になった。

 

周りの人は気にする様子もない。ソフィアに了承を得てそれに近寄ってみる。掌にすっぽり収まる大きさの鳥だった。

 

「鳥?」

 

ナユタは鳥を手で掬いあげる。灰色に汚れていたがナユタが撫でると埃が取れて青色の毛並みが明らかになる。

 

「きれいになったね」

 

よく見るとどうやら羽根を怪我しているようだ。何かできることはないだろうか。

 

「ソフィア。薬塗ってあげてもいいかな。このまま放っておくのは可哀想」

 

「えっと……お兄ちゃんがそう言うなら」

 

羽根に薬を塗りこんでやると青い鳥はばたばたとナユタの周りをくるくる飛び始めた。鳥の言葉はわからないが、動けるようになった喜びを歌っているのだろう、多分。

 

しばらくナユタの周りを飛んだ後、青い鳥はぴいぴい鳴いてソウンの灰色をした空へと飛び去って行った。

 

男女が集団に取り囲まれているのを見つける。

「そこをどけ!」

そう叫んでいる男たちはゾウンの犯罪者集団だろうか。

 

勝てない戦いはするものじゃないとソフィアは言うが、ナユタは見捨てたくなかった。

 

 

戦いは、あっけなく終わった。いや、始まりすらしなかった。

 

ナユタが少し魔力を込めるだけ。それであっけなく犯罪者らしき男たちは気が変わったといって離れていった。

 

二人が助けたのはとある科学者夫婦。もう夜も遅い時間。ソフィアが一晩泊まらせてくれないかと頼みこんだら助けてくれたお礼をしてくれた。

 

男女の話によると彼らは夫婦で、残酷な実験に使われていた息子―血は繋がっていないらしいが―を助けたことで追われているのだという。ナユタはそれを聞いて胸のあたりがきゅう、と締め付けられた。

「息子さんは今どちらに」

「出掛けてるよ」

「そっか」

 

その夜、彼らの眠る家が襲撃を受けた。

 

二人だけでも逃げてくれという夫婦だったが、ナユタは首を横に振った。

 

「お兄ちゃんが死んじゃったら、わたし」

「死なないって。無理だと思ったらとっくに見捨てて逃げてる。二人で」

ソフィアにはわかる。ナユタが本気でそう思っていることが。

 

ナユタが壁を貼り、科学者夫婦がその実験成果で攻撃面を担う。

 

ソフィアも夫婦が開発した技術を活かしナユタの盾が追い付かない場所を援護。これが基本戦略だ。

 

いくら強化人間とはいえども彼らでは家ごとは流石に吹き飛ばせないので攻撃すべきは扉と窓だ。玄関に壁を貼る。壁を壊そうと奴らは殴りかかっているが壊れるまでには時間がかかるはず。

 

その間にソフィアが夫婦から受け取った薬品を壁の上から投げ入れれば奴らは奇妙な叫び声をあげる。だが退かない。薬で強化されているだけではなく、理性も奪われているらしい。

 

ソフィアは臨機応変に立ち回る。魔法を継続的に行使し続け消耗が激しいナユタには回復薬を飲ませる。攻撃、回復、妨害。その一瞬において最も効果的な行動を選ぶ。

 

夫婦は主に窓からの襲撃に対応する。彼らが開発した機械が弾を放ち、敵の頭に直撃する。

 

ただ、数が多すぎる。一人を倒してもまた一人が湧き続ける。

 

刃で壁を斬られ、怪力の拳で殴られ、砲撃を受ける。壁にひびが入る。そのたびにナユタは魔力の限りを込める。少し壁は修復するが破壊するスピードの方が早い。壁が削られるたびナユタの肉体と精神も消耗していく。ソフィアがここぞというタイミングで回復してくれるものの、それでもジリ貧だ。

 

「いっそこの家を捨てて逃げませんか。窓からなら、なんとか」

しかし夫婦はそれを断った。

「何も知らない息子が帰ってくることを思うとこの家を明け渡すわけにはいかない。逃げるなら君達だけで」

「それでお二人が命を落としたら息子さん悲しみますよ、きっと」

やる気十分のナユタを見ながら仕方ないんだからとソフィアは援護を続ける。

 

予想より人数が多いが、ナユタは諦めたくはなかった。

 

窓から何かが入ってくる。夫婦は照準を向けるがすぐにやめる。

青い鳥だったからだ。ソウンで青い鳥といえば、幸福をもたらす象徴とされている。風の女神が青い鳥の姿でソウンの人々を見守っていると信じられているのだ。

 

「青い鳥?」

「……これは、運が向いてきたってことかもしれない」

「とにかくやるしかないさ」

 

青い鳥はくるっと宙で一回転してから玄関の方へ飛んで行った。

夫婦は改めて敵を狙い撃つ。強い意志を込めたその精度は格段に上がっていた。

その中でもソフィアは辺りの警戒を続ける。窓からの射撃に集中する夫婦を突然誰かが襲いに来ないとも限らないのだ。音が近づいてくる。下水管から? 大きさを考えると人間が入れるはずがない。じゃあ人間以外、何が?

 

その瞬間はついに訪れた。ヒビだらけのナユタの魔法防壁がついに壊れる。一度開いてしまえば後は脆かった。もはやバラバラになった壁を潜りぬけて奴らがナユタに襲い掛かる。もう一度と願った魔法は現れてくれない。

 

「はは、ちょっと、無茶しすぎたかな」

 

攻撃力が低いナユタの元へそれほどダメージを受けていない大群が押し寄せる。彼らは武器を振りかぶりナユタに襲い掛かる。

 

が、その武器がナユタに届くことはなかった。風が吹いた。

 

奴らは突然吹き飛ばされた。尻もちをついた強化人間たちの姿はちょっと滑稽だ。ナユタの身体も動きが軽くなる。ほんの一瞬前まで立っているのがやっとだったのに。

 

ナユタの前に白い髪の神々しい女性が躍り出る。どこから来たんだ。彼女は誰だ。助けてくれたのか?

 

「あと少しよ。ほんの少しだけ時間を稼げば全てが上手くいくわ」

 

「本当に?」

 

「ええ。助けの音が聞こえてくる。機会があれば恩返しでもと思っていたけれど、まさかこんなに早く訪れるとはね」

 

「恩返しって、俺何かした?」

 

こんな女性と出会った覚えはない。あ、それとも記憶を失う前の知り合いか?

 

「ふふ。私はジャンナ。名前だけでも覚えてくれると嬉しいわ」

 

ジャンナと名乗ったその女性は襲い掛かる暴漢達に竜巻を浴びせた。男は綺麗に空中で軌道を描き、地面に打ち付けられる。

 

ナユタはその隙に再度防壁を作り出すことに成功する。ボロボロですぐに崩れそうなものではなく最初に出した時のように硬い。

 

「ありがとう。お陰でもう少し時間稼げると思う。だから」

 

ソフィア達を助けてほしい。その続きをわかっているかのようにジャンナは続けた。

 

 

「裏側は大丈夫よ。……間に合うわ」

 

「間に合う?」

 

「全部貴方たちが時間を稼いでくれたおかげ」

 

そもそも、奴らの狙いは本来ナユタではない。気付いた敵は窓側にいる夫婦を狙っていた。玄関には人数を割く。だが、窓側には集団の中で最も強い男が襲ってきた。

 

全身を機械と薬品で強化したその男は常人には到底出せない速度と破壊力で、窓に飛び込んだ。

 

見えてもソフィアには対応が追い付かなかった。発言の真偽など暴力だけが支配する今この瞬間無価値だ。

 

窓から飛び込んで部屋の真ん中あたりへ着地。唸り声をあげながら夫婦に刃を振り下ろそうとする。

 

一瞬ソフィアの視界に緑色の何かが映った。それは男と夫婦の間にジャンプして割り込んだ。

 

男はその緑色を横に二つに切り裂く。伸縮自在の身体はすぐに合体し男にパンチを食らわせる。

 

「ザック!」

 

「お前、助けに来てくれたのか」

 

その緑色は、スライムだった。

 

とらえどころのないスライム相手に男は劣勢になる。斬っても元通り、殴っても拳は受け止められる。酸でもかければ話は違うかもしれないがそんなものは持ち合わせていない。そもそもこの男に戦略を考えるなどという頭は残っていなかった。彼にできるのは目の前の障害に暴力を浴びせることだけ。そしてその暴力はすべてザックに無力化される。

 

男の攻撃は意味を持たない。だがザックは男にパンチを何発でも食らわせることができる。戦いの結果は明らかだった。

 

動かなくなった男をザックが投げ捨てると魔法壁と風を越えようとしていた集団も怖気づいて一目散に逃げだしていった。アレが勝てないなら無理だと判断したようだ。

 

「皆様方には感謝してもしきれません」

 

夫婦に礼を言われ、ナユタは答えた。

 

「俺だけじゃなくて皆がそれぞれ力を合わせた結果だよ」

 

「わたしはこれからもお兄ちゃんの側にいるからね」

 

ソフィアはいつも通りの笑顔だ。

 

「ナユタ達はオイラの家族を守ってくれた恩人だ。また会ったら今度は何かオイラに手伝わせてくれ」

 

ザックはぷるぷるした身体を使い全身で感情を表現している。ちょっと可愛い。

 

「ん、また会ったらな」

 

夫婦とその息子ザックはまた隠れられる別の家を探すらしい。

 

ザックの力を見せつけたのでしばらくは襲ってこないだろうが、「しばらくは」でしかない。だけどきっと大丈夫だろう。ザックが家族にいれば彼ら夫婦が殺されることはないだろう。風の女神ジャンナだって見守っている。

 

妙な事件に巻き込まれたと思ったが、終わってみればナユタの気分は晴れやかだった。

 

***

 

息を吸い込むと、穏やかな自然を感じることができる。花畑だ。ピンク色が一面に広がっている。

 

どうやらソフィアが育てていたものと同じだ。

 

花畑を見回すと、長い黒髪の女が座っていた。そういえば前にも彼女の夢を見たような。

 

夢の乙女はナユタに気づくと走ってきた。

 

「ふふっ……また会えた」

 

乙女は嬉しげにナユタを見つめる。

 

「そうだな」

 

「ナユタ!その、少し話さないか」

 

「良いけど」

 

適当に花畑に座る。

 

「じゃあさ、まず名前教えてほしいんだけど」

 

「は?」

 

乙女は驚いている様子だった。

 

「だから名前だよ」

 

「――――」

 

乙女は口を開く。が、聞こえない。

 

「ごめんもう一回」

 

「――――」

 

同じだ。何度聞いても。

 

五回目くらいで乙女は流石に怒った。

 

「からかうのもいい加減にしないか!」

 

「本当に聞こえないんだって」

 

地面に文字を書くのも試したが何故かナユタに理解ができない。

 

「これはわかるか」

 

「名前以外は」

 

「じゃあこれは」

 

「『ナユタ、お前は私の』まで。ここで途切れてる」

 

「伝えられない?」

 

乙女はぶつぶつ何か言った後に話を切り替える。

 

「それなら別の話をしようか。ナユタ、その、綺麗だろ? あ、ほら、花の話」

 

「そうだな」

 

花を見せる乙女にナユタは同意する。

 

 

その時、空が文字通り割れた。割れ目の間には果てのない漆黒が広がっている。

 

舞い上がる風。花畑の一角が地面ごとえぐり取られ空へと吸い取られる。足を取られナユタは空中に浮かび上がる。割れ目の黒へとまっすぐナユタは引き寄せられる。

 

「掴まれ」

 

夢の乙女は手を伸ばす。

 

「ナユタっ……!」

 

乙女は表情を歪めながらナユタへと届こうともがく。指先が一瞬触れ合い引き離される。ほんのわずかな差が2人を阻んだ。

 

地上から遠ざかる。涙を浮かべる乙女がただこちらに手を伸ばし続ける。ナユタも手を伸ばしているが風は非情に2人を遠ざけていく。

 

永遠に流され続けるような感覚を覚えながら何かにひっかっかった。そのまま何かに引きずり出されるような。

 

目を覚ますとソフィアが心配そうにナユタの顔を見ていた。

 

ああ、何の夢だったっけ?

 




タイトルはジャンナが青い鳥の姿を取る事を踏まえて若干のチルチルミチル意識
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