Dreamer -My Imaginary Irelia's brother-   作:Moa

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少女と家庭と闘技場

 ソフィアに忠告されたのは腕を切り落とされたら死ぬということ。

「腕を切り落とされたら死ぬって普通じゃないかな」

「でも片腕なくして生き延びた人もいる。この紋様にそういう事は起こらない」

「なんで?」

「魔力で生命活動が遮断されるんだって。その代わりに、それが付いている間は高い能力を得られる」

「ひょっとしてこれ結構危ない?」

 ナユタは手の甲を見せながら尋ねる。

「まあ、デメリットはあるよね。気をつけて」

「うん。そういえばソフィアにはないんだな、これ」

「わたしの場合、入れると力を失うから駄目なんだって」

 

 

 ここ最近ソフィアの疲労を見て、ナユタは雑用を積極的に引き受けるようにしていた。

 何日か後の朝に目を覚ますと倦怠感に気づくけれど。

「でもソフィアはもっと大変なんだ。こんなとこで弱気になっちゃ駄目だよな」

 

 

「お兄ちゃん、ごはんできたよ」

「もうそんな時間? ごめん、今行く」

 朝食はソフィアが個人的な趣味で育てているという花のジャムを添えたパンと魚のスープだ。少し前にも同じメニューを食べたことを思い出す。その時は他の家族はいないのかと聞いてソフィアが無言で俯いたんだった。

「これどうやって作ってるの」

「適当に入れてるだけ」

 どうでもよさそうにソフィアはそう言うけれど。

「凄く美味しい。やっぱりソフィアの料理好きだな」

「『弱くて情けない』って言わないんだね」

「家庭的で良いと思う。言う奴がいるのか?」

「ノクサスは強さこそ正義って価値観だから仕方ないんだけどね」

 どう返せばいいか迷っている様子のナユタにソフィアは続ける。

「でもいいの。ノクサスの言う強さって別に相手を殴ったり蹴ったりするだけのことじゃないんだよ。もちろんそれでもいいけど頭を使うとかお金で解決するとか方法はいっぱいあるから」

 

「何かあったらすぐ言えよ。俺に出来ることなら力になるから」

「……ありがと。お兄ちゃんこそ無理してない?」

 本当は辛いけど。

「え、ああ、いつも通りだよ俺」

「それ嘘だよね」

 即答。

「別に大したことないって」

「お兄ちゃんの嘘は何でもわかるよ」

「俺ってそんな分かりやすい?」

 ソフィアは首を振ると笑って答えた。

「ううん、わたしが特別なだけ」

 

 結局その日はいいから寝ててと世話を焼かれてしまった。

 

 

***

 

 病も治ってしばらくしたある日ナユタとソフィアの二人がバイロンに連れられた場所はとある街だった。

「闘技場が有名なんだ。チケットを確保できたから皆でと思ってね」

 

 受付に向かうと周りの声が聞こえる。ドレイヴンという名前が何度も耳に入ってくる。ふとドレイヴンって誰?とナユタが聞いてみたところ受付に呆れられた。

「ドレイヴンも知らずになんでよりによって今日来たんだ」

「許してやっておくれ。私が無理言って連れ出しただけなんだ。ドレイヴンどころか自分の記憶ごと失ってしまっててね」

「お、おう。そりゃ難儀なこった。戻るといいな」

 あー。バイロンは複雑だという気持ちを表すかのように何とも言えない声を出す。

「恐らくは戻らないだろうね」

 その言葉に、ソフィアは複雑な顔をしていた。

 

 席につき(ナユタが二人の間に座る形だ)、バイロンは嬉々として語る。

「ドレイヴンは天性のエンターテイナーなのさ。趣味が仕事って最高だよね」

 

 戦士たちの入場。観客が沸き上がる。一戦目は暴れ牛と戦う槍使い。それを見て頼まれてもいないのにバイロンが話し続ける。

「ヴィスチェロ・スタイルじゃないか! 牛相手なんてアリスターを思い出させるね。ああ、ヴィスチェロというのは昔闘技場にいた戦士の名前でね。一人で闘技の概念を変えたとまで言える存在なんだ。突然消えてしまったのは惜しかったな」

「バイロンさん実年齢いくつなんですか?」

「ソフィア、世の中には暴かない方が良い秘密もあるのさ」

 

 いくつかの戦いを経てクライマックス。ついに本日の目玉でありノクサスを代表する戦士が現れた。

「この俺! ドレイヴン様のお出ましだ!」

 歓声が上がる。

 

 そんな彼と相対するのは大群だった。多数を前にドレイヴンは余裕綽々。群の一人が仕掛けた剣技をあっさり弾いてからドレイヴンは斧を投げ上げた。別の男が背後から槍で突き刺そうとする。獲物を奪い取り薙ぎ払う。複数人がまとめて倒れた。落ちてきた斧を拾いとどめを刺す。

「これだよ! これこそがドレイヴンだ」

 バイロンは目を輝かせる。

 ドレイヴンが敵を倒すたびに新たな的が補充される。彼らは実際のところドレイヴンの的でしかなかった。簡単に蹂躙される。この場にいる人間のほとんどはドレイヴンの蹂躙を望んでいた。

「これで最後だ、ドレイヴン様を称えろ!」

 振りかぶって大きく斧を投げる。それは地面を転がる殺人車輪となり彼の敵を轢き抜いた。

 

「パーフェクト。それでこそドレイヴンだよ! 見れてよかった」

「本当に強いですよね。わたしもあれくらい強かったらなあ」

「無い物ねだりしても仕方ないさ。ソフィアには他の誰も持たない力があるだろう」

「ノクサスの原理に従っていないと言われるんですけどね」

「確かにソフィアは一見したらそうも見えるだろうね。『トリファリックス』……ノクサス帝国三原理の『予見』、『力』、『狡智』。この三つが揃って初めて真のノクサス人と他者には評価される」

「そっか」

 ナユタは少し戸惑った。それがノクサス三原理だというのなら、隣にいるこの、いかにも非力で人を疑わなそうな少女ソフィアはどうなるんだろう? 彼女の顔を見るとソフィアは。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ソフィアって人を疑わなそうだなって思ってさ」

 しばらくソフィアはぽかんと口を開けていた。やがて話し始める。

「人を疑わない。そっか、お兄ちゃんにはそう見えるんだね。……わたしからしたらお兄ちゃんの方がずっと」

 後半はよく聞こえなかったが、このあたたかな少女を見ていると守ろうという気にさせられる。

「俺が守らなきゃ。ソフィアが騙されないように」

 ソフィアは嬉しそうで、少しだけ悲しそうだった。

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