Dreamer -My Imaginary Irelia's brother-   作:Moa

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ヴォイド-異形の救済者

 拠点に戻ってきて数日。

 宝の浜で変な踊りをするバイロンを見て、なんだあれとナユタは戸惑う。謎の動きを終えてナユタに気づき手を振った。

 自分の元に来たナユタに、バイロンは語る。

「今ポータルのメンテナンスしてたんだよ」

「その動きが?」

「傍目には奇怪に映るかもね」

 

 

「このポータルで世界中を繋いだら要所になるはずだ。秘密の計画だよ」

「俺に教えていいの?」

「君が私を裏切るはずがないからね」

 確信している様子。

 

「少し手伝ってくれ。『刻印持ち』に任せているんだが、今は手元に君だけだから」

 

 ナユタは頼られることが好きだった。自分で力になれるなら嬉しいと快諾する。

 

 

「……じゃあ、はじめようか」

 魔力が満ちナユタは浮遊するような違和感を覚えた。

「ポータルの開閉権限を登録した。これで君も自由に開閉できる。試してごらん」

 

 指示通り魔力を注ぐと浜の向こう側に灰色の景色が見えた。ゾウンの街並みだった。

「はあ!?」

 驚愕するバイロンにナユタは恐る恐る尋ねる。

「こ、これでいいんだよな? 何か間違ってた?」

「間違いはない。ないが……初回でここまで綺麗に繋げられる事に驚いてね。やはり君には魔法の才能が溢れている」

「あ、ありがと」

 

「これは嬉しい誤算だ。助かるよ、その調子で世界を巡ってほしい。転移魔術が正常に動作するか調べてほしいんだ」

「行って戻るだけ?」

「近隣でポータルを置けそうな場所があったら観光がてらに増やしてほしいね。魔力が特殊な循環をしている場所で儀式を行えば浜と繋がる道が開ける。君ほどの魔法使いなら見ればわかるだろう」

「ふーん、そういうもん? まあ見てみるけど」

 

 

 

***

 

 次の目的地は砂漠地帯として知られるシュリーマ。ノクサスから見て海を挟んで南。

 実はこの辺りノクサス領だ。

 

 というのも、

「歯向かって殺されるくらいなら這いつくばって従ってでも生きていた方がいいでしょ?」

 ソフィアが笑って解説する。

「この辺りの人たちは好きよ。勝てない敵に逆らって殺されるなんて馬鹿なこと考えなかったから」

 少女は、可愛らしい笑顔でそう言った。

 

 

 ここから隣の集落まで歩く予定だ。とはいえ砂漠を抜けるのは簡単ではない。砂漠に住んでいるわけでもない人間が二人で抜けるのは難しい。

「案内してもらおうよ? その手見せれば何とかなるよ」

 ソフィアの言う通りだった。ナユタの手を見せることがここでは効果を発揮した。

 

 そして少女は可愛らしく微笑んで。

「彼が『死の瞬間まで忠誠を誓う』事は知ってる? 変なことしない方がいいですよ」

 

 

 

「へえ、ミュラトールねえ。北大陸にそんな名前の国があったな。幼い姫様のお陰で繁栄したと聞いたが」

「あら博識ですね。でも、今はもう王族なんていませんよ。ミュラトール王国はノクサスの保護下に入りましたから」

「周辺諸国は戦争でボロボロにやられちまってミュラトールの一人勝ちだなんて言われてるが」

「一人勝ちしたのはどう考えてもノクサスですけどね」

「それもそうだ」

 

 

 刻印持つ者を案内する砂漠の旅。しかし、通る道を少し間違えれば、あるいは間違えなかったとしても運が悪ければ。ここでは化物に襲われる可能性があるのだ。

 

 突如裂けた地面から虫のような生き物がぞろぞろと這い出てくる。ヴォイドと呼ばれるそれは生命を脅かす災厄であった。

「嘘だろ……この道に、何で、あり得ない」

 案内人が嘘をついたわけではないのだが、奴らの食欲はそんなこと配慮してくれるはずがない。

 

「守りよ!」

 ナユタは壁を作り出す。一枚、二枚、三枚。自分たちを囲うように。ナユタ達の周りを複数の板が囲った。

 

 案内人の男がパニックになったようで、逃げ出そうとして壁にぶつかる。

「お兄ちゃん、切り抜けるあてはあるの?」

 一方男は助けてくれと怯えている。

「ちょっとだけ考える時間がほしい。化け物のこと何か知ってる?」

「ヴォイド。全部食い尽くしちまう。全部だ。サボテンも、ラクダも、勿論人間も」

 

 その時、目の前の化け物に壁が齧られた。

「これ食えるの!?」

「言っただろう……全部だ」

 一瞬、視界の端で何かが光った。

 来る。ナユタは構えて全神経を集中させる。

 

 未知の砲弾が降り注ぐ。不思議な事にナユタの盾には降り注がず被害はなかった。

 そして、気づけば周りの化け物たちが半分ほども消え去っていた。

 

 紫の影が目の前に飛び込んできた。女だ。その全身は未知の物質で包まれている。異形の肩当てが光った。

 

 案内人は叫んだ。

「まさかお前、カイ=サか! 化け物め」

 眼前の女は微かに眉を顰める。

「このひと知ってるんですか?」

 ソフィアの声に案内人は返す。『ヴォイドに飲み込まれ化物になった娘がいる』という噂の話を。

 

 カイ=サは語る。

「傷つけるつもりはないわ。むしろ逆。助けに来たの」

 ソフィアはほっとした様子で息を吐く。

「そうだったんですか、ごめんなさい勘違いしてて。ありがとうございます」

「信じてくれるの?」

 こうもあっさり信じられるのは予想外の反応だったらしく目の前の娘は呆気に取られている。

「あなたが本当にそう思ってるのわかったから」

 

 ナユタにも目の前の女性が悪い人には見えなかった。

 見えなかったが念のためソフィアを守れるよう防壁を展開し続ける。

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。この人は本当のこと言ってる」

 

 

「誰もわたしを欺けない。理屈とかじゃなくそういう風にできてるの。わたし自身がそう作られてる」

 

 

 

 

「えっとカイサ、でいいの? ちょっと発音自信ないんだけど」

 目の前の娘は一瞬だけ何かを躊躇った後、満足そうに笑った。

「……ええ。そう呼んでくれると嬉しい」

 

 『戻ってきた娘』。彼女の肩から放たれた光線がヴォイドの怪物達を追尾する。数匹がまとめて潰えた。

 化け物にまた壁が齧られた。

「この壁、あなたの?」

 ナユタは頷く。

「そう。それなら……いや、ちょっと待ってて。すぐ蹴散らしてくるわ」

 

 その言葉を発するなり娘は一瞬のうちに敵地に飛び込んだ。ナユタは彼女の行動に驚く。あの大群に、たった一人で飛び込むなんていくら何でも無茶じゃないか。彼女の後ろを狙う化け物。ナユタは直感した。

「そこで待ってて」

 透明なドームがソフィア達を包み込む。

 ナユタはソフィア達を結界で守り、自身は外へ飛び出した。

「ちょっとお兄ちゃん!」

 

 走った。何とか追い付き娘の背に透明な魔法壁を貼る事に成功する。

「後ろは俺が守る」

「そう、助かる」

 レーザー弾が浴びせられ、敵の数は瞬く間に減っていく。

 非戦闘員を守る力を消さずに一つ壁を増やす事で疲労は当然増すがナユタは彼女を守ると決めた。最悪俺が倒れたとしても彼女さえ無事なら倒せる。文句なくそう思ったからだ。そうすれば、ソフィアは助かるし。

 

 

 

 彼らのコンビネーションで随分と敵の数は減っている。今できることはないか。ソフィアは考える。だが何もない。出られたとしても今は外に出るべきじゃない。わかっているからこそ二人を眺めることしかできなかった。

 何もしないのが最善。頭でわかってはいても心は休まらない。

「お兄ちゃん……がんばって、応援してるから」

 

 

 その時何かうめき声のようなものが聞こえた。ひときわ大きな個体だった。全身紫色で、四つ足で動いている。

「あれを倒せばみんな消えるはずよ」

 娘の声が聞こえる。

「わかった」

 

 カイ=サと呼ばれた女性がレーザーを浴びせかける。彼女を狙い親玉が足で払おうとうする。

「させるか!」

 だがその足を別の一撃が止める。ナユタのキューブだ。動きが止まっている間にさらにカイ=サが親玉を撃ち抜く。足の一本を撃たれ動きが緩慢になる。

 理想的な動きで二人は追い詰めていった。だがその一方でソフィアに向かう群体の数が増える。

 

 向こうが親玉を倒すまで持ちこたえればいい。わかっていてもその時間はあまりにも遠かった。防壁を食らう大群。すべてが終わるのも時間の問題だろう。

 

「こっちはもういいわ。行ってあげて」

「大丈夫?」

「任せて」

 

 ソフィアを守っていた壁が食い破られる。一か所が消えれば他も崩れるのはあまりに早い。複数から同時に攻め込まれる。

 ソフィアの背後から一体が飛びつこうと空に舞い上がった。奴らの生体には謎が多いが噛みつこうとしている事だけは確かで。奴の軌道はソフィアの首の後ろに辿り着こうとしていた。

 口を開けた化け物。嚙り付こうとする。

 

 が、少女には届かず弾き飛ばされた。

 空中で口を開けたまま化け物は固まる。

 

「離れろ! たった一人の妹なんだよ!」

 化け物は壁に激突して止まった。

 

 

 カイ=サを狙う親玉は再度足で攻撃しようとするが見失った。消えたのだ。どこかにいるはずだが。辺りを見回すような動きをするが親玉は気づけない。姿を隠す捕食者としての能力。それはこの時、彼女が上回った。

「これで終わりよ」

 親玉の急所を見抜き狙い撃つ。消耗していたそれは動かなくなり砂になって消えていった。

 

 その瞬間、全ての敵が砂に溶けた。

 

 

***

 

 

「あの人がごめんなさい」

 未だパニックに陥っている男の代わりにソフィアが謝る。

「別にいい。化け物って呼ばれることには慣れてるから」

「慣れてるんですか」

「カイサこんなに美人なのに」

「お兄ちゃんそれナンパ?」

「いや、そういうつもりじゃないんだけど」

 本心だ。当然だがソフィアには伝わる。

「ちょっとからかっただけだよお兄ちゃん。下心なんてひとつもないのわかってるよ」

「あら兄妹だったのね。それにしては似てないけど」

「似てないかな」

「そうね、兄妹というよりはむしろ」

「助けてくれてありがとうございました!」

 遮るかのように叫ぶソフィア。何かを感じ取ったのかそれ以上追及されることはなかった。

 

 

 

「ところであなた達旅人よね。途中までなら送れるけどどうする?」

「この辺りのこと詳しいの?」

「奴らに遭わない道なら。それに何かあっても戦えた方がいいでしょ?」

「俺はカイサが良ければ一緒にいてくれると助かるけど。いいかな?」

「わたしも賛成です。とても親切で強い方なので」

 

「こっちよ」

 歩き出すカイ=サ。それに続き一見何も変わらない景色が続く砂漠を進んでいった。

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