俺の名は三木 景どこにでも居る高校生だ。
成績は中の上、得意なのは数学で苦手なのは英語。
図書委員をしてはいるが、じゃんけんで負けた結果だ。
高校に入学して早1か月だが、特にイベントも無く出会いもなく、彼女も居ない。
特別な血筋でもなければお金持ちでもない。
一人暮らしでもないし、両親の帰りが特別遅いわけでもない。
何処にでも居るかは置いても、特に目立つ人間では無いと思う。
高校生と言う多くのラノベ主人公と同じ年になって、何か特別な事でも無いかと思ったが。
そんな事もなく、3年間を終えるのだろう。
さて、そんな俺が今何をしているかと言うと…
「机に突っ伏してどうしたんだ景?」
「変わり映えのない日常に思いをはせてた」
「…なんだそれ?」
「退屈すぎて死にそうって事を中二病的に言ってみただけ」
そう、男の子としてちょっとは期待してた特別なイベントも無く迎えた高校生活2月目。
無気力感故に机に突っ伏して不貞腐れていたのだ。
「で、そう言う勇希はどうしたんだその頬の怪我?」
「あーほら、階段で盛大にこけちゃって……」
「階段でどう転んだらほっぺだけ怪我できるんだよ。まぁあ良いけど」
ようやく登校してきた親友、日名田 勇希が通り道を挟んで隣の席に座ったのを確認して体を起こす。
俺が不貞腐れてたのは、せっかく仕入しれたとっておきのネタを話そうと思ったら、肝心の親友がなかなか登校してこなかったのもチョットある。
もう時間は無いがせっかくのネタだ、話すだけしておこう。
「知ってるか、今日転校生が来るらしいぞ」
「転校生?」
「そうそう、5月なのに珍しいよな。しかも、職員室で先生が話してたがどうやらこのクラスらしい」
「へー」
本当ならここから転校生が女の子な事とか、写真をチラ見したけど結構美人だったとか。
話を広げるつもりだったのだが、肝心の親友が遅かったせいで時間が無い。
チャイムと共に先生が転校生を連れて入ってくる。
長い黒髪をポニーテールにまとめていて顔は写真で見た時は美人に思えたが、実際見てみると可愛らしく感じる。
「早速だが転校生を紹介する」
「神薙 海未ですよろしくお願いします」
「仕事の都合でこの街に引っ越してきたらしい、まだ不慣れな事も多いだろうから気にかけてやってくれ」
声まで可愛いとか反則じゃね?
思わずドキッとしてしまい、興奮のまま勇希に話しかけようとして…気づく。
勇希の顔が引きつっている事に。
え、何その反応。
「それじゃあ席は…後ろの空いてる席に座ってくれ」
「分かりました」
勇希の隣の席だ。
彼女はそのまま席に座ると勇希に向って一言。
「よろしくね…勇希君」
「は、ははは」
え、何で名前知ってんの?
しかも勇希、なにその乾いた笑い。
え、何このラノベの導入?
いや一巻の終わり、エピローグ?
そう言えば俺の朝の会話も何か主人公の友達のモブみたいだったな………でわなく!!
何、勇希お前。主人公なの!?
日名田 勇希と俺の出会いは小学校だった。
ずっと前の事だから覚えていないが、特に劇的な出会いは無く。
気が付けば一緒に遊んでいた。
そこから中学、そして高校と同じ学校。同じクラスだった。
俗に言う腐れ縁だ。
そんな俺から見た勇希だが。
両親は海外で仕事をしていて一人暮らし、正義感は有るが特に強いって訳じゃない。
しかし、思いっ切りの良さは人一倍だ。
リーダー気質では無いが、必要なら人を引っ張れる人間で人望もある。
運動は得意な方、学力も悪くない、顔も……少なくとも俺よりは良い。
…そして、可愛い転校生と転校前に出会っており既に名前で呼ばれている。
………主人公かな?
「さて、勇希。彼女がお前の名前を知ってた事について話してもらおうか」
「え、えっと。それは…」
休み時間、俺は早速勇希を教室の隅で尋問する。
だが、休み時間は十分。
時間は少ない、ここはちょっとづつ情報を引き出すべきだろう。
勇希も言い淀んでるし。
「なら質問を変えよう…バトった?
「バトったって何だ!?」
「バトルしたの略語だよ、その頬の怪我バトルした結果と見たがどうか?」
因みに彼女、海未さんはクラスの皆に質問攻めにされているのでこちらに来る可能性は無い。
さぁ、キリキリ吐いてもらおうか。
勇希がバトル系の主人公なら俺も気を付けた方が良いかもしれないからな。
「………この怪我は喧嘩でしたモノじゃない」
「ふむ、なら彼女と出会った場所は?」
「し、商店街」
「何時? 朝、昼、夕、夜でも可」
「えっと……」
残念だがここでタイムアップ。
予鈴が鳴ってしまった。
次の質問時間で答えをはっきりさせるつもりだったが。
勇希は海未さんの当たり障りない質問(学食、図書室等について)で忙しそうだった。
決戦は…昼休みだ。
「初めまして神薙さん、俺は景。勇希の友達だ」
「神薙海未です、海未で良いですよ。これからよろしくお願いしますね」
「それしゃあ、よろしくね海未さん」
昼休み、さっそく行動を開始する。
二人が席を立つ前に海未さんに話しかけ、最初の休み時間で聞けた質問との矛盾を探す!
「ところで、勇希の事しってたみたいだけど知り合いだったの?」
「ええ、実は昨日引っ越して来たんです。そこで日用品を買うために商店街に居たんですけど、買いすぎてしまって。困ってた所で勇希君が荷物を運んでくれたんです」
「なるほど」
なん…だと…。
てっきり商店街で矛盾してくれると思ったが。
話を聞いた所で矛盾は無い。
「なるほどね。確かに勇希らしい」
「もういいか景、これから彼女に校内を案内するんだけど」
「あ、そうなの。なら俺も…ってのは流石に野暮か」
「そ、そんなんじゃ無い」
「ふふ、よろしくね。勇希君」
ふむ、失敗だった。
教室を出ていく二人を見ながらそう思う。
勇希の尋問は海未さんの聞こえない場所でやるべきだった。
「けど流石に後をつけるのはやりすぎが」
大人しく二人が帰るのを待っていようと思っていた。
思っていたのだが…
35分後
「遅い」
いくら何でも遅すぎる。
昼休みは50分、そもそも校内を見るなら5~10分有れば十分だろう。
勇希は学食だから食堂に来るだろうと思って食堂に居るがまだ来ない。
食べる時間を考えれば時間が無い。
「まさか、抜け出したか?」
今までの勇希なら考えられないが主人公ならあり得る。
もしくは…
「行ってみるか」
普通の高校なら大体は立ち入り禁止になっていて、ラノベではよく登場す場所。
空き教室か屋上。
この学校に空き教室は無いので向かう場所は屋上!
そうと決まれば時間もない、この学校では屋上は鍵がかかってるが行くだけ行ってみよう。
「…まさか本当に居るとは」
何故か鍵が開いていた扉の隙間から屋上を覗き見る。
流石に距離があるので会話は聞き取れないが、弁当箱が二つ見える。
時間的に中身は空だろうが、勇希は弁当なんて作らない。当然、弁当箱も持ってない。
必然的に海未さんの物だろう、勇希の分の昼食も作ってきたのか。
「いや、問題はどうやって入ったかだな」
この屋上の鍵は職員室にある。
しかも鍵のかかったキーボックスの中にだ。
常に誰かいる職員室から鍵を持ち出すのは難しいしそんな事をする意味は無い。
「どうやって屋上の鍵を…たまたま開いてた? それはそれでどんな運だよ」
少なくともこれで確信できた。
普通じゃない。
彼女の正体について気にはなるが教えてはくれないだろうから自分で調べよう。
珍しい苗字だし何か分かるかも。
まさか図書委員で良かったと思う事があるなんてな。
「とりあえず、予鈴鳴る前に帰るか」
その後、予鈴が鳴ってから二人は帰ってきた。
そして放課後。
俺は図書委員として校舎に残り。
勇希は海未さんと一緒に帰って行った。
邪魔するのも悪ので、確実に家に着いたであろう放課後になってから勇希にメールをする。
件名:今日の昼休み屋上に居たよな
本文
何かあれば相談位は受けるぞ
余談だが、その夜。ふと窓の外を見てみると。
海未さん勇希がないやら深刻そうな顔で道を走っていたのが見えた。
案の定、次の日に怪我をした勇希が登校してくるのだがそれはまた別の話である。