彼女は非日常の象徴だしベクトルがほとんど勇希に向けられてるから仕方ないけど。
海未ちゃん、まだ完全に素を見せて無いんだよな……
玉様の存在を知った次の日。
流石に狐の土地神と言う分かりやすい特徴があり。
この町と関係が有るのなら、地図や歴史の本で調べられた。
その結果、大いに反省する事になったのだが。
「まさかこの町で一番大きな神社の神様とは…子供の頃から初詣は毎年あの神社行ってたのに肝心の神様に関心が無さすぎた」
昨日は遅くなってしまって行けなかったが、今日の放課後にでも参拝に行こう。
これまでもお詫びも含めて15円とは別に500円持って。
「今日も遅いな…勇希たち」
玉様とこの町との関りは決して浅くない。
歴史も、社の大きさも、この町一番だと断言できる。
そんな土地神様が現在、俺の親友の家に居るのだ。
それがどんな事情にしろ、大事だと言うのは想像に難くない。
どうやら俺の想像以上に事は大きいらしい、勇希が俺を遠ざけるのも当然と思える
。
「けど、それだけで巻き込まれないのも。見て見ぬ振りもできないよな」
少しだけ挫けそうになった心に渇を入れる。
面と向かっては恥ずかしくて言えないが……勇希は俺の親友だ。
勇希の事だ、俺が何もしなくても上手くやるだろう。
だが、それが傍観する理由にはならない。
「ま、できる事をできる範囲でやるだけだな」
決意を新たにした時、ちょうど二人が教室に入ってきた。
何時もの様に時間ギリギリだ。
「おはようお二人さん、今日も精が出るな」
「おはようございます景さん」
「おはよう…もしかして知ってる?」
「朝ランニングしてるのを見かけた程度だよ」
今日は朝から図書委員の当番だったので何時もより早く出たのだ。
その時、走っている二人を見かけたのだ。
勇希は余裕が無さそうだったが海未さんはしっかり俺に気づいて会釈していた。
注意深く見てみると、勇希は少し疲れが見れる。
やはりバトル物濃厚だな。
そんな事を考えていると先生が入ってきた………見知らぬ生徒と一緒に。
「今日は授業の前に転校生を紹介する」
「不藤 地華だよろしくな」
日本人には珍しい綺麗な赤毛のショートヘアーに勝気な笑顔が魅力的な女の子だ。
一部装甲は小さめだが、それが逆に健康的で活発な印象を与える。
にしても、まだ5月なのに二人目の転校生。
普通は別のクラスに分けるよな……どうせ主人公絡みなんだろうな。
そう思い勇希の方を見ると。
「………何でここに」
予想外にも大きな反応をしていたのは海未さんだ。
大きめの眼を更に大きくさせて驚いている。
これは…予想外の展開だ。
不藤 地華、彼女の席は海未さんの隣だ。
「どうして貴女がここに?」
「府抜けの誰かさんが心配でな、今のあんたじゃアレは荷が重いだろ」
「ご心配なく、既に託すべき方に託しています」
「……ほー」
あ、地華さんが勇希に視線を向けた。
アレって何だアレって。
何だやっぱり勇希関係じゃないかと思い直しす。
となればこの後の展開は予想できる。
「アンタは?」
「勇希、日名田 勇希だ」
「分かるだろ、アレはそう簡単に持つ事を許される物じゃない。納得できない奴も多い」
「分かってる」
だから、アレって何なんだよ!?
どうせ聞いても教えてくれないんだろうけど。
まぁせっかく展開が予想出来ているのだ、心の中だけでもアレをやっておこう。
「なら、分かるよな。今日の放課後…」
(地華さん、次にお前は……)
(「私と勝負だ!」と言う)
よっし決まった!
なるほどー今回はこんな展開か。
まぁ勝つにしろ負けるにしろ、俺にはあんまり関係ない事かな。
所詮勝負だしゆっくり結果を待つとしよう。
それにしてもアレって何なんだろう?
いきなり宣戦布告してきた地華さんだったが、流石に直ぐに勝負とはならなかった。
授業もあったし、何より学校では人目が多すぎる。
そんな訳で何事もなくお昼休みを迎えたのだ。
そして現在、俺たちは作戦会議のため屋上に居る。
何故か海未さんが普通に鍵持ってて驚いたが、今更だ。
「で、今回はどんな厄介事なんですかね宣戦布告された勇希さん」
「まぁ…見てた通りだよ」
流石に誤魔化す方法を思いつかなかったのか。
素直に認めてくれた。
けれど。
「アレって何か聞いても教えてはくれないんだろ、まあ良いけど」
「………すまん」
さて、勇希をいじるのはこれ位にして…まじめな話をしよう。
「それで海未さん、勇希は勝てそう?」
「正直厳しいです」
「………」
…俯く海未さんもこんなに絞り出すように言葉を発する海未さんも初めてだな。
何より、勇希が拳を握りしめてる。
今回の場合は不甲斐ない自分に怒りが向いてるな。
「せめてあの技を完全に使えれば勝機は有るのですが」
「手ごたえは有るんだこうなったらぶっつけ本番で…」
「ただ使えた技で勝てるほど彼女は甘くあいません]
ふむ、手詰まりって感じか。
とはいえ俺は考えるだけの情報がそもそも少ない。
ただ、勇希は主人公だ。そのセンスもかなり良いはず。
「なぁ勇希、その技ってのはどれ位で完成しそうなんだ?」
「……後1時間あれば多分…いや、絶対に物にする」
「それだけでは不十分です、実戦形式で使うタイミングや実際に使う感覚を覚えて。試合前に万全の状態に戻すとなると……4時間は欲しいです」
ふむふむ、なるほど。
つまり、試合前の練習時間が圧倒的に足りないと。
…ん?
4時間…それなら。
「なるほど…ならギリギリ何とかなるか?」
「何!!?」
「どういう事ですか!?」
勇希と海未さんがすごい勢いで俺を見る。
まあ確かに気づきずらいか。この二人は優等生だもな。
「ただし、当然対価はある」
「対価…」
「対価が有ってもいい、教えてくれ景!!」
親友にそこまで頼まれたら断れない。
それに、選択するのはあくまで二人だ。
故に、俺は選択肢を二人の前に提示する。
「今から学校抜けて午後の授業さぼれば、ギリギリ4時間は確保できるぞ」
「「…え?」」
二人はほぼ同時に時計を確認する。
現在時刻は12:30分。
食事は終えてるし、移動に30分かかるとしても放課後になる17時まで約4時間。
「ただし、当然無断で学校をさぼるのは評価に響く。場合によっては反省文もありえる。クラスでも噂になるかもしれない」
どうする?
と、二人に視線で問う。
二人は互いに顔を見合わせて……頷きあった。
昼休みが終わって最初の授業に、二人の姿は無かった。
となれば必然的に、二人と一緒に教室を出た俺に地華さんが聞いてくる。
「あの二人はどこに行ったのかな?」
「貴女を倒すための最終調整。それより自己紹介をしてなかったね、俺は三木 景。勇希の親友だ、景って呼んでくれ」
「よろしく景、私の事も地華でいいよ。それより君は彼らが勝つと思ってるみたいだね」
「正直、アレが何なのかも勇希の実力も知らないけどね。でも、あいつは負けられない戦いには絶対に勝つ奴だってのはよく知ってる」
「そうか、それは…楽しみだ!」
嫌味でも何でもなく、心底楽しそうな地華さんを見て俺は理解した。
彼女は、恨みも無ければ悪意もない。
ただ本当に、実力を知らない相手に不安を感じたから勝負を挑んだのだ。
そして放課後、傍目からでも闘志を滾らせている地華さんは悠々と下校していった。
「…そう言えばどこで勝負するのか聞いてなかったな。どっちにしろ見学させてもらえないだろうけど」
今日は図書委員の仕事は無いので俺は500円玉を手に入れる為コンビニで適当に買い物を済ませる。
さて、早速だけど玉様の神社にお参りに―――――リンッ
―――――明日で良いか。
「あ、でも明日は放課後に図書委員だっけ…まいっか」
少し早いが。後から玉様に聞いた余談を。
今日、人払いの結界が張られたとある神社の境内で、神様の見守る中…一つの勝負があったらしい。
翌日、笑顔で登校してきた二人を見れば勝敗は明らかだった。
相変わらず勇希は怪我してたけど。
意見を出した一人として喜びを分かちあっていると…地華さんが登校してきた。
そして地華さんが有る意味今までで一番の爆弾を投下する。
「勇希素晴らしい実力だった」
「ありがとう」
「うん、そこで勇希…私の婿になってくれ」
「………え?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
おお、海未さんが嘗て無いほど取り乱している。
なるほど、こうなるのか…。
「何だ神薙、勇希は許嫁も彼女も居ないのだろう。問題無いだろう」
「ゆ、勇希さんには大恩が有ります。不藤の毒牙にかかるのを見過ごせません!」
あーなるほど。
これが主人公を見守るモブの気持ちかー。
羨ましいかと言われれば微妙だが、とりあえず勇希は爆発しろ。
次の日、ではなく数日後。
校舎に大きな改装が有るらしくしばらく休みになるらしい。どこかから多額の寄付が有ったとか…。
そして、そのタイミングで勇希に届く旅行券。
しかも自分は行けないからと玉様の代わりに俺が付いて行くことになってしまったのだが。
それはまた別の話。