どうやら俺の親友は主人公らしい   作:湖森生気

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ヒロインとの旅行は主人公の特権

地華さんが転校して来て数日が立った。

俺自身には特にイベントは無かったが、勇希の方はヒロインの二人に挟まれたり。

何やら探し物で町中走り回ったり、海未さんと地華さんと三人で何かの稽古をしたりと忙しい毎日を送っていた様だ。

俺にも関係ある事と言えば、学校が改装の為に数日休みになる事くらいか。

そんな改装を明日に控えたある日、登校した時に下駄箱手紙が入っていた。

 

「まさか……ラブレター。は無いな勇希なら兎に角俺には無い」

 

古めかしい和紙に書かれた差出人は……玉。

早速開けて中身を読む。

そこに書かれていたのは一言だけ。

 

[今日の放課後、まっすぐ勇希の家に来てほしい。]

 

読み終わった後、手紙は直ぐに崩れ落ち跡形もなく無くなってしまった。

玉様直々の呼び出し。

恐らく勇希に秘密の話が有るのだろう。

手紙を処分したのも勇希にバレる可能性を減らす為だと思われる。

 

「……今度はどんな厄介事なのかね」

 

そう口では愚痴りながらも。

役に立てる事が有る、その事実に嬉しくなってしまっている。

幸い今日は図書委員の仕事は無い。

いつも通り。勇希を取り合う二人と四苦八苦の勇希を眺めながら学校が終わるのを待った。

 

 

 

所変わって勇希の家。

今日も稽古なのか勇希はまだ帰っていなかった。

故に出迎えてくれたのは玉様だ。

隠す必要も無いので今日は耳と尻尾を出した状態だ。

 

「すまぬの、呼びだしてしまって」

「いえ。構いません」

「そう言ってもらえると助かる」

 

わざわざ玉様が入れてくれたお茶を飲みながら話の続きを待つ。

あ、美味しい。

特別に茶葉が良い訳じゃはずだから単純に玉様のお茶の入れ方がうまいのか。

 

「さて、お主を呼んだのは他でもない。これを見てほしい」

「これは…旅行券?」

 

何が出るのかと戦々恐々だったが、出てきたのは気が抜けてしまう物だった。

まあ、兎に角詳しい内容を見てみよう。

何々。

 

「4人一組、一週間温泉旅行の旅。大自然の秘湯で日頃の疲れを癒しませんか……普通の旅行券の様ですが?」

「その旅館も、旅行会社も存在しないと言う点を除けばな」

「………なるほど」

 

今回の厄介事はこれかー

とは言え、これを俺に話す意図が分からない。

 

「それで、そんな見え透いた罠。行かなければいいだけでは?」

「厄介なのはこれが純粋なサプライズの可能性が有る事じゃ…」

「と言うと? その言い方だと相手の事を知っている用ですが」

「うむ、海未も地華も知っておろうな…古くから関わりの有る喜納(きとう)家からの招待状じゃ」

 

あーなるほど。

単純に家に遊びに来ないかと言う招待状を。志向を凝らして旅行券として贈って来たと。

罠である確証も無く、古くからの繋がりが有る以上無下にするのも角が立つ。

 

「しかし、だとしたらこの4人は勇希に玉様、海未さんと地華さんの4人ですよね? 俺に用とは何ですか」

「うむ、実はわらわが行けない事情が有っての。景、わらわの代わりに行ってくれぬか?」

 

ふむ、玉様が何を心配しているのか分からない。

色々と想像は出来るがはっきりと聞いておいた方が良いな。

俺に求められているのは何なのか、把握しておけばいざと言う時動けるはずだ。

 

「詳しくお伺いしても?」

「勿論じゃ、隠そうとしている勇希は兎に角。知っておるわらわは説明する義務がある」

 

ゆっくりと玉様はお茶を飲んで…説明の為に口を開く。

 

「今現在、勇希の立場は複雑じゃ。勇希を取り込もうと神薙家、不藤家の二つが動いておる。勿論、海未と地華が乗り気だからじゃが」

「家まで動くとか…本当に面倒な事になってるな勇希の奴。まぁ青春の範囲内で収まってるだけマシか」

「うむ、そこに喜納家も参戦しようとしている可能性が有る。ただし喜納家はかなりの力技を使って来るじゃろう」

 

確かに、旅行券じみた招待状を送ってくる上に一週間と来た。

学校が改装中なのを知ってないと一週間なんて長期間の日程を組まないだろう。

分かりやすく、つぎ込んできた予算が違う。

いやそもそもこの時期に学校の改装工事はタイミングが良すぎる。

 

「………もしかして学校の改装工事も?」

「十中八九、の」

「一体どれだけ金持ちなんだ喜納家」

「神薙も不藤も似たようなモノじゃがな…そこで、もしもの時の懐刀として同行してほしい」

「………俺、行っても何もできないと思いますが」

「それは案ずるな、重要なのはわらわの代わりに一般人のお主が行くと言う事じゃ」

 

なるほど、一般人としての俺が必要なのか。

だけど実際、どれほどの抑止力が期待できるか。

戦えない、防げない、抵抗もできない。

そんな俺に価値が有るのか。

そんな不安を見通したのか、玉様が再び口を開く。

 

「まず、お主は勇希の親友じゃ。手を出せば勇希の印象は悪くなる。その上わらわの代わりに行く以上、わらわの顔にも泥を投げつける行為ととらえる事もできる」

「なるほど、つまり俺に何かをするのはリスクとデメリットが多すぎると」

「関係者の海未や地華なら、実力不足と一蹴できるが一般人である以上それもできん」

 

なるほど、相手からしたら手の出せないお邪魔虫という事か。

うん、納得した。

常に勇希と一緒に居るだけである程度以上のけん制になるだろう。

 

「後はお主が男と言うのも大きい。むしろこっちがメインじゃ」

「と言うと」

「わらわ達だけでは男は勇希だけ、当然部屋は男女別になるであろう。自分の家に取り込もうとしておる男が一人、部屋で無防備に寝ておるのだぞ……」

「何も起きないはずもなく…って事か」

 

本当に手段を選ばないらしいな。

勇希のやつにそこまで価値があるのか。

本当に、あいつの親友も楽じゃないな。

 

「けどそれなら、勇希に直接教えたらどうです?」

「まだ決まった訳でないしの、何より喜納の娘が勇希に惚れる可能性もある」

「………確かに」

「その場合、忠告のせいで勇希が色眼鏡で見るのは避けたい」

「他人の恋路を邪魔すれば馬に蹴られますからね」

「それ以上に、純粋に旅行を楽しんでほしいのじゃ。これはお主にも言えることじゃが」

 

そう言って笑った玉様はとても優しそうな顔をしていた。

確かに、勇希には振り回されているが。実害は無いので何だがむず痒くなる。

 

「お主は居るだけで十分役目をはたせる。あまり気にし過ぎず旅行を楽しんでほしい」

「分かりました、お心遣いありがとうございます」

 

両親は反対しないだろうし。

日程も問題はない。

修学旅行を除けば遠出の旅行なんて初めてだし、高校生とは言え。

子供だけでと言うのはやっぱり特別感がある。

唯一の懸念は。

 

「勇希のやつ反対しませんかね」

「大丈夫じゃろ、あやつは只の旅行としか思わん」

「我が親友ながら、もう少し危機感持ってもいいと思う」

「それがあやつの良い所なのも事実なのじゃがな…」

 

貞操の危機なのに何の疑いもなく罠に飛び込む勇希を想像して。

俺と玉様は同時にため息をついたのだった。

その後、俺はさっさと家に帰り旅行の準備をした。

 

 

 

余談だが。

今回の旅行中限定で、海未さんと地華さんが一時休戦し。

共同戦線をはったらしい。

 

次の日。

早速電車に乗り込み、移動中ゲームなどで楽しみつつ。

田舎の旅館…と言う名の喜納家の本家に到着した俺達は旅行を満喫するのだが。

それはまた別の話だ。




楽しい旅行の前にこんな話をしてたんだよ。
と言う感じの回でした。

唯一事情を知っている玉様が関わると勇希くんが主人公の物語と一気に距離が近くなる。
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