荷解きを終えた俺たちは、旅の疲れもあって夕食までゆっくりする事にした。
食事と入浴を終えた後にも遊べるようにトランプの準備だけは怠る訳にはいかない。
「景、明日の予定はどうなってるんだっけ?」
「確か……鍾乳洞に行って、午後から山で山菜狩りみたいだな」
「山菜狩りか…確かにめったにできない経験だよな」
「その日の夕食に使ってくれるみたいだな、量が多ければ持って帰れるっぽいぞ」
俺は兎に角、勇希は持って帰っても料理しないと思うが…いや、玉様が居たか。
俺の場合は母さんに渡す事になるだろう。
多く取れたら、なので捕らぬ狸の皮算用なのだが。
「失礼します……夕食の準備が出来ました」
「お、待ってました」
「流石に期待せざるおえない」
どうやら夕食は別室に用意されていたようで。
移動中に海未さんと地華さんと合流して向かう。
因みに俺たちを呼びに来たのは空さんだったが海未さんたちの方には別の人が呼びに行ったらしい。
そして肝心の料理の内容だが……すごくうまかった。
海未さんと地華さんの二人は慣れてるみたいだが、俺と勇希は思わず無言になってしまうくらい感動したね。
「さて、食事も終わったし次は…」
「温泉…だな!」
「確か露天風呂になってるんだっけ。楽しみだな」
「本当にな……俺、本格的な露天風呂は初めてだ」
ラノベとかならよく女湯を覗きに行ったり。
それに準するハプニングも多数有るのだが。
今回は断言しよう…無い!
何故なら勇希は女湯を覗く奴じゃないし、そういう事を提案するポジションの親友キャラである俺はそんな提案をしないからだ。
「とは言え、事故関係は防ぎ様が無いからな……」
「ん、何か言ったか景?」
「いやこっちの話」
本当なら勇希と入浴時間をずらすのが万全の策なのだが。
玉様に任されている以上それもできない。
……仕方ない、事故った時は大人しく巻き込まれますか。
覚悟を決めて温泉に入る。
温泉に入るだけで覚悟を決めなければいならないのは、世界広しといえど勇希の親友である俺位だろう。
「ふー…いい湯だな」
「本当にな……日頃の疲れが溶けていく」
勇希も珍しく顔がだらけてるな。
まあ、気持ちはよくわかる、この温泉の心地よさは犯罪的だ。
後数日、この温泉に入れるってだけで来てよかった。
《ほう、ここが噂に聞く喜納家の露天風呂か》
《空さんに話だけは聞いてましたが流石は喜納家ですね》
海未さんと地華さんの声がしきりの向こうから聞こえてきて、温泉で油断してた心が一気に引き締まった。
丁度あの二人もお風呂に入って来たのか。
どうする?
っと勇希にアイコンタクトしようとするが……ダメだ、勇希のやつ動揺してアイコンタクトに気づいてない。
《それにしても、海未のは大きいな……》
《な、何ですかいきなり!?》
《なに、男性は大きなモノに母性を感じると小耳にはさんでね…勇希もそうなのだろうかと》
おっと、話が変な方向に行って来たぞ。
これは間違っても俺たちが聞いてたと知られたらまずいやつだ。
《ゆ、勇希がどうなのかは知りませんけど。最近の男性は引っ張ってくれる女性がいいと小耳にはさみました》
《そうなのか? もしそうなら、勇希もそうであってくれれば若干私が有利か?》
《あ、あくまで小耳にはさんだだけですからね》
ふむふむ、勇希の好みのタイプか。
そう言えば俺も詳しくは知らないな。
俺は万が一、海未さんと地華さんに聞かれない様に勇希に近づき小声で話しかける。
「で、どっちが良いんだ?」
「……………の、ノーコメントで」
「ヘタレ」
「うぐっ」
まあ、まだどっちとも付き合って無いのなら問題ないか。
浮気にはならないしな。
問題はあの二人の他にもう一人、恋のライバルが増えるかどうかだけど…今のところはそんな素振りはないな。
「兎に角、このまま盗み聞きするのもあれだし。上がるか」
「……そうだな、後俺はヘタレじゃない」
「彼女作ったら認めてやるよ」
「お前も彼女なんて居ないくせに」
俺に彼女が出来ない原因の三割はお前だのせいだと思うけどね。
お前と一緒に居るとどうしても俺は霞んじまうんだよ。
勉強でも運動でも顔面偏差値でも。
……自分で思ってて悲しくなってきた。
ともあれ、俺たちは無事に露天風呂を脱出できたのだった。
「…あれ、空さん?」
「お二人とも、お湯加減はいかがでしたか?」
「うん、いいお湯だったよ」
「それは良かったです」
そう、露天風呂を脱出する所までは無事だったのだ。
もしかして待ち伏せていたのか?
「勇希様、この後お時間は有りますでしょうか?」
「え、時間は有るけど」
「でしたらこの後、アレをもって修練場にお越しください。喜納家としても確認したいと、お爺様が」
あ、これは俺が関われないやつだ。
どうするか…いや、どんなことが有っても最終的に何とかしちゃうのが勇希何だけども。
「…分かった、それで修練場って?」
「あなた方の部屋から見える離れがそうです。ではお待ちしております」
それでけ言うと空さんは帰って行った。
何やら不穏な空気だが。
俺にできる事は何もないな。
「そんじゃ、俺は先に休んでるよ。流石に疲れたし」
「長旅だったもんな、俺の事は気にせず休んでくれ」
「へいへい」
翌朝、いつの間にか戻って来ていた勇希は特に怪我など無かった。
どうやら、本当に確認だけだったらしい。
さて、今日は鍾乳洞に行って山菜取りだったな。
どちらも空さんが案内をしてくれるのだが。
「…景さん、昨日何かありました?」
「何か空さんのお爺さんに勇希が呼ばれてた」
「となると本腰を入れてきたか」
うん、現在鍾乳洞を案内してくれているのだが。
近い。
距離が近い。
空さんと勇希の距離が、急接近ってレベルじゃない。
まだ案内のていを保ってはいるが露骨にボディータッチが多い。
それを見かねてか、海未さんと地華さんが間に入りに行った。
「けど何か…海未さんや地華さんのそれとは違う気がする」
正直、勇希はモテる。
小学校の時から勇希に憧れてる女子は多かった。
勇希が色々と規格外だったので告白してきた人は皆無だったが。
それでも。勇希の近くで、勇希に惚れた女の子を多く見てきた。
だからこそ分かる、空さんのアレは違うものだ。
「勇希のやつも分かってるみたいだし。ここは勇希に任せるのが吉と見た」
恋愛経験0の俺には色々と荷が重すぎる。
この結末がどうであれ、俺には何もできない。
せめて勇希への被害が最小限になるよう、なるべく一緒に居てやることしかできない。
「まあけど、それも本当に最小限で十分なんだろうな」
空さんに負けないくらい、勇希と距離を詰めようとしている二人を見ながらそう思ったのだ。
その後の山菜取りも勇希たちのラブコメを見せつけられる以外は特にトラブルもなく終える事が出来た。
その日の夜。
「あれは…空さん?」
トイレに行った帰り。
中庭で空さんを見かけたが、どうやら表情がすぐれない。
勇希と上手く行かなかったからかと思ったが。
彼女の心境を俺は正確には測れなかった。
とりあえず声をかけようとして……
「なあ空、今朝からの事なんだけど」
「………勇希様」
俺より先に勇希が話しかけた。
これは俺の出る幕じゃ無いな。
今日も大人しく帰って、勇希の帰りを待つとしますか。
その後、しばらく経っても勇希は帰ってこず。
代わりに海未さんと地華さんの二人が俺を訪ねてきた。
「景さん、勇希を見ませんでしたか?」
「勇希、空さんと一緒に居たのは見たけど」
「………となるとやはり」
二人の視線は、ここから見える修練場に向けられている。
「俺も探そうか?」
「いえ、居場所にも心当たりが有るので大丈夫です」
「遅くなるだろうし、先に休んでいて大丈夫だよ」
そう言って、二人は部屋を出ていく。
休めと言われても、やはり気になるのが人情だ。
結局俺は休まずに、修練場に視線を向けていた。
余談だが。
修練場から見えた力強い光に今回の件は無事に終わったのだろうと。
何となく思った。
次の日。
どうやら、問題は解決したらしい空さん。
だけど相変わらず勇希との距離が近い。
いや、前よりも近い。
これは完全に勇希に惚れたな…けどまあ、それはまた別の話だ。