「高幡くん、貰い物ですがどうですか?」
生徒会の雑用を押し付けられた高幡志緒は、会長たる北都美月がお礼として差し出してくれたお菓子を見て眉をひそめる。少し前から甘い香りが漂っていたが、どうやらこれが原因のようだ。
「とても美味しいですよ」
笑みを浮かべ、件のお菓子──ウイスキーボンボンを美味しそうに食する美月。それを横目に、しかし志緒は彼女の机に紅茶が出ていないことに気付き、先に準備しておこうと1度奥に消えた。
「…適当に選ばせてもらったぞ」
アールグレイの茶葉を選び、美月の専用カップに注ぐ。彼女ほど手慣れていないにしろ、ここに呼び出されることも多く少しはましになったと思う。
「ふふっ」
「……なんだ、その笑みは?」
紅茶を差し出すと、何故か美月は微笑んだ。だがいつものにこやかな笑みとは違い、どこか彼女らしくない気がする。
「なんだか気分が高揚しているんです~」
「……おい、まさか」
妙に間延びした声に、ほんのりと赤らんだ頬。流石にあり得ないのではないかと思ったが、この様子からして間違いないだろう。
「酔ってんのか、お前?」
「酔ってなんかないですよ~。ふふふ♪」
「いや、酔ってるだろ」
酔うと笑う性質なのか、美月は笑みを絶やさない。その様子に志緒は溜め息を零し、別のカップに水を注いで美月に差し出す。
「ほら、飲め」
「んー」
乗り気でない美月の口元にそっとカップを当てると、少しずつ飲んでいく。だが、既に酔いが回っているのか、水が僅かに零れてしまう。
「あ、悪い」
慌ててカップを下げ、指で口元を拭おうとする。だが、いざ美月の口元に手を当てたものの、その手が止まってしまう。
(なんか、妙に色っぽいな)
濡れた唇に加え、ぼんやりとしながらも綺麗な瞳が上目遣いに見詰めてくる。そのどれもが、普段の美月からは想像できない艶やかさがあった。
「高幡、くん?」
思わず手を止めていた志緒だったが、美月の声で我に返る。まさか見惚れていたなど言えるはずもなく黙っていると、おもむろに頭を伏せた。
「お、おい?」
「すぅ……」
「…寝ちまったのか」
恐らくアルコールと、普段からため込んでいる仕事疲れも影響しているのだろう。
「ったく……」
変な風に思われずに済んだ安堵と、緊張がほぐれたことから深い溜め息が自然と出てしまう。からかわれたみたいで気が重く、苛立たしげに頭を掻く。だからと言って起こすほど意地の悪い性格はしていない。
(いつも仕事を頑張っているとは聞いていたが……ちゃんと寝ているのか?)
女性らしくたおやかでほっそりとしている腕。しっかりとした意思を持ちながらもそれを感じさせない華奢な体つき。魅力的な女性なのは間違いないだろうが、とても激務をこなしているとは思えなかった。
(そもそも、ちゃんとバランスよく食べているかどうかも怪しいもんだ。
どうせ会食ばっかで偏りが出ているんだろう……今度、何か作ってやるか)
生徒会の雑用を手伝わされることも多いが、それ以上に彼女からたくさんの助力を受けている。いつか礼をしようと思っていた所だ。ちょうどいいだろう。
志緒は踵を返そうとするが、ふとその足を止めたかと思えば美月の傍に戻り、その背中にそっと学ランをかけてやる。
(風邪をひかれても面倒だしな)
そして傍らに椅子を持ってくると、そこに腰かけて持ってきていた文庫本を開く。時折視界の端にうつる美月の寝顔を見て、志緒はふっと微笑した。