東亰ザナドゥ SSオリジナルカップリング集   作:雷電丸

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シオ先輩が怪異に呑まれてしまったお話し。中途半端な終わり方をしますが、あらかじめご了承ください。


呑まれた黒い焔

「ぶっちゃけ……シオ先輩ってどうなの?」

 

 

 祐騎は自身のソウルデヴァイス、カルバリー・メイスを一閃し、何気なく呟く。

 

 

「どうって、何が?」

 

 

 共に異界の探索を行っていた洸と美月は怪異が片付いたため手を止め、彼の発言に首を傾げる。

 

 

「あのままで平気なのかってこと。他人のことばかりで、自分のことなんて全然じゃん」

 

「そりゃあお前もだろ」

 

「うわ……コウ先輩に言われるとか、流石にショックなんだけど」

 

「失礼だな……」

 

 

 祐騎の露骨な反応に、洸は最初こそムッとした顔を見せるが、次第に自覚してきたのか表情を苦笑いに変えていく。

 

 

「まぁ、大丈夫じゃないか? なんたってシオ先輩だし」

 

「全然論理的じゃないじゃん……気持ちは分かるけどね。“シオ先輩だから”って気持ちは」

 

 

 頭の後ろで手を組み、歩き出す祐騎も洸の意見には同意的に言う。そこでふと振り返り、今度は美月に意見を求める。

 

 

「ミツキ先輩はどう思います?」

 

「私ですか?」

 

「付き合いは1番長いし、僕らの意見に流されないでしょ」

 

 

 祐騎の指摘はもっともなものだと言えた。しかし美月は苦笑いを浮かべ、首を振る。

 

 

「ふふっ、私も2人の言うように、彼なら大丈夫……そう思っています」

 

「だってよ」

 

「ふーん。なら、心配なさそうだね」

 

「心配、ね」

 

「……“周りが”心配する必要はないって意味だよ」

 

 

 洸が意地悪をすると、祐騎はそう付け加えて話を切り上げる。その様子に微笑みながら、美月は祐騎が言っていた言葉を反芻する。

 

 高幡志緒と言う男性は、確かに自分よりも誰かのために動く人だ。それだけ見れば褒められたことなのだろうが、自分のために誰かを頼る姿はあまり見受けられない。自分が、自分で、自分だけで──そんな危うさを抱えていると思ったことはある。それでも美月は彼に求められない限り、手を貸すことはしない方がいいと思っていた。無闇に手助けすれば、却って彼を傷つけてしまうのではないかと感じていたからだ。

 

 この考えは、これからも変わらない──美月は、そう信じて疑わなかった。これから起こる事態に直面するまでは。

 

 

「そろそろ柊たちと合流するか」

 

「だね」

 

 

 大した怪異は見受けられなかったため、異界から出ていく3人。すると、現実世界に戻った途端、洸のサイフォンが着信音を響かせた。

 

 

「柊?」

 

「なんかあったの?」

 

 

 祐騎の言葉に首を傾げつつ、待たせてはいけないと思った洸はすぐに出た。

 

 

「どうした?」

 

《時坂くん、今すぐ合流して欲しいのだけど、動けるかしら?》

 

「……何があったんだ?」

 

 

 明日香らしからぬ焦りを滲ませた声色を敏感に察知した洸。そんな彼の表情からただ事ではないと判断したのか、祐騎と美月も表情を固くする。

 

 

《“高幡先輩が行方をくらませたわ”》

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「柊、ソラ!」

 

 

 明日香に言われた場所まで急ぐと、すぐに2人の姿を見つけることができた。明日香はともかく、後輩の郁島空の顔は心なしか翳っているように見える。

 

 

「……郁島、大丈夫?」

 

「えっ? あ……うん、平気」

 

「……無理してんのバレバレだから」

 

 

 祐騎は溜め息まじりに言うが、決して彼女を責めようとはしなかった。それを横目に、洸と美月が明日香から話を聞く。

 

 

「何があったんですか?」

 

「探索していた異界で、エルダー・グリードと出くわしたんです。途中まで追い詰めたんですが、逃げられてしまって……」

 

「高幡くんが、単独で追いかけたんですね」

 

「はい。私達もすぐに追ったんですが、最奥に行ってもエルダー・グリードと高幡先輩の姿がなくて」

 

「途中、分かれ道もなかったから、最奥にいるはずだと思ったんですが……」

 

「探索した異界は、まだ?」

 

「健在です」

 

 

 明日香が指差す方を見ると、赤い色の入口が見えた。

 

 

「本来、怪異がいなくなれば異界の出入口は閉じてしまいます」

 

「じゃあ、それがまだあるってことは……」

 

「ソイツがまだ居座っている……ってことか」

 

 

 顔を見合わせ、頷き合う5人。相手は脅威的かもしれないが、ここで足踏みをする時間はない。

 

 洸が。明日香が。空が。祐騎が。そして美月が。全員が躊躇うことなく異界へと通ずる入口へと飛び込んだ。

 

 

「暑いな……」

 

「不愉快な暑さだね」

 

 

 内部は熱気が籠っているようで、嫌な汗が身体を伝う。しかしそんな状況に、明日香と空は驚きを隠せずにいた。

 

 

「これは、いったい……?」

 

「どうした?」

 

「コウ先輩、私達が最初に探索した時はこんな暑さはありませんでした」

 

「え?」

 

「そんな短時間で異界の内部って変わるものなの?」

 

「いえ、聞いたことがないわ」

 

 

 思案する4人。しかし美月だけは、嫌な可能性が浮かんでいた。

 

 

(まさか、高幡くんが……!)

 

 

 可能性を口にして混乱を招くよりも、自分の目でしっかりと確かめたい。洸達に「時間が惜しいから分かれて探そう」と提案すると、美月は急いで奥へと駆け出した。

 

 

(短時間で異界が様変わりするなんて、普通はありえませんが……)

 

 

 美月が思い浮かべた可能性は、【もう1体の怪異が現れた】と言うもの。怪異にも縄張り意識と言ったものは存在する。と言っても、実力差が明白ならば無闇に相手の縄張りに踏み込むはずがない。だが、この場が様変わりしたとすればそれは、怪異同士の実力が拮抗していると言うことになる。そしてこの熱気と志緒が姿を見せない点を考慮すると、答えは自ずと見えてくる。それも、最悪な答えが。

 

 

「高幡、くん……?」

 

 

 熱気が増したと思うと、奥から1つの影が現れた。人の姿をしながら、どこか怪異を感じさせる不気味さを兼ね備えているそれは、間違いなく志緒だ。しかし双眸は紅蓮の炎を彷彿とさせるように真っ赤で、理性があるようには思えない。

 

 美月が駆け寄るのを躊躇っていると、志緒は見向きもせずに踵を返した。

 

 

(やっぱり、怪異に呑まれてしまったんですね)

 

 

 この暑さは怪異化した志緒が放っているものだと考えたのだが、不幸なことにその考えは当たってしまった。

 

 美月は敵意を感じさせないよう追いかけつつ、志緒をまじまじと見る。ソウルデヴァイスはところどころ赤黒い線が入り、禍々しい。それを軽々と振るう腕も怪異化の影響からなのか大きくなっており、指先は鋭い爪を備えていた。いつもなら頼れる焔も、今はただ暑苦しく感じてしまう程に歪だ。

 

 やがて1つの部屋に入ると、志緒は天井を睨む。

 

 

「オ前、ガッ……!」

 

 

 そこにいたのは、明日香達が対峙したと言うエルダー・グリードだった。

 

 

(あの怪異は確か、寄生型の……!)

 

 

 志緒が相対しているエルダー・グリードに見覚えのあった美月は、目を見張る。自身よりも強い相手に寄生し、自分の意のままに操ることのできる危険なグリードだ。恐らく今自分が取りついている怪異と志緒のどちらに取り付けば強いかどうか見るために、両方に取り付いて戦わせるつもりだろう。

 

 

(でも、高幡くんはまだ意識がある……ここは、加勢してから高幡くんを取り戻した方がいいかもしれませんね)

 

 

 美月は志緒に加勢しようと物陰から走り出すが、その動きを敏感に察知した志緒が真っ赤に染まった瞳を向けてきた。すると何を思ったのか、彼はヴォーパルウェポンをなんの躊躇いもなく一閃し、炎の衝撃波を美月に対して解き放った。

 

 

「えっ!?」

 

 

 驚き、慌てて柱に身を隠す美月。幸いにして美月が隠れた柱は壊れることなく彼女を守ったものの、左右を衝撃波に籠められた熱気が駆け抜けていく。

 

 

「た、高幡くん? いったい何を……!?」

 

「黙レッ! オ前ハ邪魔、ダ!」

 

「高幡くん?」

 

 

 彼らしからぬ、荒々しい声色。美月を危険に巻き込まないようにすると言うよりも、本当に邪魔だと感じている様子に、思わず足が竦んでしまう。

 

 その間に志緒はエルダー・グリードに向き直り、ヴォーパルウェポンを振るう。そこから放たれる熱気が徐々に追い込んでいるようだが、美月の目にはその焔が不気味に見えてしまう。普段ならば、猛々しくも頼もしさを感じていた紅蓮の焔なのに、今はその欠片も感じられない。

 

 このままではいけない──そう直感した美月は、柱から身を躍らせながら自身の周囲に刃を展開してすかさず解き放つ。しかしそれらは志緒に到達する直前、彼の足元から噴き出した焔の壁によって妨げられてしまう。それでも美月は歩みを止めず、焔の壁が消えた瞬間に自身のソウルデヴァイスでヴォーパルウェポンを押さえつけ、志緒を睨む。

 

 

「高幡くん、正気に戻ってください!」

 

「オ前モ……!」

 

「高幡くん!」

 

「俺ノ、邪魔ヲスルノカァッ!」

 

 

 膂力で言えば、当然だが志緒の方が美月を大きく勝る。ソウルデヴァイスを振り上げ、美月を下がらせる。咄嗟にハーミットシェルを展開して、追撃を防ぐ美月。それでも、彼が攻撃をしてきたと言う事実はあまりに衝撃的で、美月の心を揺さぶるには充分だった。

 

 

「俺ガッ……ヤルンダッ! 俺ガ、俺ダケデッ!」

 

「そんな……」

 

 

 助力を拒む志緒。美月は呆然と彼を見詰め、やがて視線を落としてしまう。彼をここまで追い詰めてしまった一端は、きっと自分にもあるはずだ。志緒はそれを頑なに認めないだろうが、それは美月とて同じだ。自分にも責があること──この事実を、誰にも否定させない。

 

 

(だって、私は……私達は、仲間なんですから)

 

 

 俯かせていた顔を上げ、深呼吸。そしてキッと志緒を見ると、美月は自分を奮い立たせるように声を張った。

 

 

「高幡くん、貴方は間違っています!

 人が1人でできることは限られている……私にそう教えてくれたのは、誰であろう貴方です。そんな貴方が、たった1人で何ができると言うんですか?」

 

「ウル、サイッ!」

 

「そうやって拒むのは、私の言葉が真実だと気づいている証です。

 高幡くん……正気に戻ってください! いつものように、私の隣に立ってください!」

 

 

 言うが早いか、美月は志緒に向かって駆け出した。言いたいことは言い尽くした。ならば、後はもう“簡単”だ。志緒を取り戻し、連れ帰る──たった、それだけだ。

 

 立ちはだかる紅蓮の焔を掻き消すように、美月の言の葉が木霊する。

 

 一緒に帰りましょう───と。

 

 

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