東亰ザナドゥ SSオリジナルカップリング集   作:雷電丸

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いつか、隣に

「イグニス……ブレイク!」

 

 

 振り上げた大剣の軌道を辿るように巻き起こる紅蓮の焔。その眩しさに目を細めながらも、ミツキは火焔を解き放ったシオの背中を見詰める。

 

 

「ここら辺は片付いたみたいだな」

 

「そのようですね」

 

 

 振り返り、確認するような口振りに、ミツキは即座に頷く。

 

 怪異と呼ばれる人ならざる魔物が巣食うとされる異界。非日常的な世界に2人はいた。ソウルデヴァイスと呼ばれる武器を手に、異界を探査し、脅威を排除する──少し前までこんな信じがたい光景には無縁だったシオも、今や慣れたもので大剣を振るう動きに一切の迷いも戸惑いもなかった。

 

 

「高幡くん、休憩にしましょう」

 

 

 対してミツキはシオよりも早く異界に関わりがあった。以前は単独での探査も行っていたようだが、今は仲間が増えたこともあって必ず2人以上で動いている。

 

 

「こればかりは慣れねぇな」

 

「そうですか?」

 

 

 タイル張りの床に座り、壁に背中を預ける2人はサイフォンにインストールされている異界専用のアプリを起動させ、そこに収納されている食べ物を具現化させる。シオは未だに違和感を拭えないようだが、ミツキに倣うように箸を進める。

 

 

「北都、それだけか?」

 

「え? えぇ、まぁ」

 

 

 ミツキが取り出したのはサンドイッチだが、1つだけだった。大食ではないのは知っているが、明らかに数が少ない。ダイエットしているのかもしれない可能性を考えると根掘り葉掘り聞くのは憚られる。それでもまだ探索が残っていることを考えると、このままスルー訳にもいかなかった。

 

 

「まだ半分来たかどうかも分からねぇんだ。それじゃあ、後半が持たないだろ」

 

「それは、そうなんですが……」

 

 

 歯切れの悪い物言いをするのは珍しい。しかしミツキは何故かサイフォンを手に、ちらちらと画面を見ている。まだ具現化していない食べ物があるようだ。

 

 

「……失敗したのか」

 

「っ!」

 

 

 図星なのだろう。シオの指摘にビクッと身体が反応した。溜め息を零し「ほら」と新たに取り出したサラダをミツキに手渡す。

 

 

「えっと……?」

 

「交換だ」

 

 

 タッパーに入ったサラダとシオの顔を交互に見詰め、意味が分からないと言った表情を見せる彼女から返事を待たずにサイフォンを取り上げる。

 

 

「あっ!」

 

 

 取り戻そうとするミツキをのらりくらりとかわし、失敗と思われる料理を具現化した。パッと見ただけでは酷くはないことから、味付けなどに原因があるのだろう。しかしシオは構うものかと遠慮なしに食べていく。

 

 

「美味しくないですよね」

 

「まぁ、な」

 

 

 隠す意味などないため、はっきりと告げる。味付けが濃いものもあれば、逆に薄いものもある。野菜炒めはまだ固い野菜もあった。

 

 

「今日はその、バタバタしていて……」

 

 

 北都グループと学園の生徒会長と言う激務に身を置く彼女がどれだけ多忙なのかは言うまでもない。シオの頭には最初から、責める言葉などなかった。

 

 

「知ってるよ。お前が忙しいことも、頑張っていることも」

 

 

 そっと頭に置かれた手は、自分のような小さな手と違い、大きく、優しく、温もりに満ちていた。それを甘んじて受け入れるミツキ。

 

 

(今は、こんなにも近いのに……)

 

 

 ミツキにとってはこの温もりはもちろん心地良く、しかしそれでいてどこか寂しさを拭えずにいた。シオが「先に行くぞ」と立ち上がった瞬間、慌てて手を伸ばす。届かない手が空を漂い、ゆっくりと落ちる。急に遠退く温もり。ついさっきまで傍に──隣にあったはずなのに、離れただけで強い不安に襲われるのだ。

 

 先を行くシオに倣うように、ミツキも歩き出す。“前”を歩く背中を見詰める瞳が静かに揺れる。

 

 

(あなたは、いつもそうですね)

 

 

 そっと目を閉じ、1年前の出来事を思い出す。シオが大事な仲間と共に築いたBLAZEと言う居場所。それが一瞬にして失われたと人伝に聞いても、ミツキには何もできなかった。だから、彼も異界に関わることを決めたと知った時は気にかけようと心に決めた。

 

 

(それなのに……)

 

 

 なのに──それなのに、ミツキはシオの隣に並んで歩くことができなかった。あの時もっと適した言葉が、行動が、自分にはできたのではないかと思ってしまう。今更後悔しても仕方がないと頭では分かっていても、自責の念は消えそうにない。

 

 

「北都」

 

「は、はい」

 

 

 呼ばれて我に返ると、すぐ目の前に彼の姿があった。ぼーっとしている間に、近づきてしまっていたようだ。不意に顔が近づき、まじまじと見詰められたせいで鼓動が早まる。顔が赤くなっていないか気がかりだったが、シオはそのことについては何も言わなかった。

 

 

「疲れているのなら、無理すんなよ」

 

「大丈夫です。高幡くんを守り抜く元気はありますから」

 

「ははっ。なら、その時は頼らせてもらうか」

 

 

 前に向き直りながら、シオは時折ミツキのことを横目で一瞥する。彼女の様子から本調子ではないことは薄々と分かっていたため、自然とソウルデヴァイスを握る手に力がこもる。自分が怪異を蹴散らせば、無理させずに済むはずだ。

 

 

(ったく……)

 

 

 自身の弱さに内心毒づくシオ。3年前に知り合った時から、北都ミツキと言う女性は自分にとって常に前を行く女性だった。佇まいが、行動力が、手腕が、何もかもが。

 

 

(だからカズマも……)

 

 

 シオと共にBLAZEを築いた親友も、ミツキを高く評価していた。彼のその目に狂いはなかったし、現にシオだってその評価は間違っていないと何度も感じさせられた。BLAZEを解散させた後も、そして異界に関わるようになってからも、やはりミツキは自分がいる場所よりもずっと前にいた。

 

 だから、せめて追いつきたい。いつも多忙な日々に身を置く彼女に、いつも周りを見てサポートを欠かさない彼女に、いつも誰かを想う優しい彼女に。

 

 追いついて、並んで、そして──守りたい。

 

 そのシオの決意を感じさせる背中を追いかけるミツキもまた、何度も一緒に歩きたいと願った。

 

 何度も隣に並びたいと思った。

 

 何度も。何度も。何度も───。

 

 

(いつか、私が私を赦せた暁には……あなたの隣に、立たせてくださいね)

 

 

 目を閉じ、自身のソウルデヴァイスをぎゅっと握り締める。叶えたい願いを胸に秘めながら。

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