東亰ザナドゥ SSオリジナルカップリング集   作:雷電丸

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ジューンブライド

 ジューンブライド───。

 

 女性、そして結婚生活の守護神とされるジュノーの月たる6月に結婚をすると幸福になれると言われている。それにあやかろうとする女性はいるのだろうが、日本では6月と言えば梅雨の時期だ。海外で挙式を上げるのならまだしも、雨の日が多いこの時期を避ける人も少なからずいるのが現状だ。ともすれば、日本の大企業と謳われる北都グループが経営するブライダル企業もいくらか収益に影響が見られるわけで───。

 

「実は、皆さんにブライダルフェアに向けてのモデルをしてもらいたいんです」

 

 杜宮学園の生徒会長であり、前述した北都グループの会長の孫である北都美月は苦笑い気味に部活仲間に話を持ちかけていた。

 

「モデル、ですか」

 

 彼女の言葉を反芻するように返した少女、柊明日香はちらりと同級生の玖我山璃音を一瞥する。璃音は学園の2年生でありながら、大人気アイドルグループ、SPiKAに所属している。色々と手続きが必要な上に必ずしも引き受けてもらえる訳ではないにしろ、部員よりも彼女に直接話した方がいいのではないかと考えているようだ。

 

「私が彼女と知り合いにあることは社に伏せてあります。話せば彼女を起用しようとして他の方に迷惑がかかりますから」

「あたしは事務所からOKが出たらモデルやるよ。やっぱりドレスって女の子の憧れだし」

「って言うか、ドレスのモデルなら僕ら男には関係ないんじゃないの?」

 

 頬杖をついてぼーっと外を眺めていた四宮祐騎は視線を外さないまま問う。

 

「それが、ドレスだけでなくタキシードのモデルも探しているんです」

「……じゃあ、洸先輩か高幡先輩しか選択肢ないね」

「いやいや、お前も選択肢に入るだろ」

 

 自分を選択肢から勝手に外す祐騎に、時坂洸は呆れてしまう。しかし彼はただ単に面倒だから自身を外した訳ではなく───

 

「自分で言うのもおかしいけど……タキシードなんて大層なものが僕に似合う訳ないじゃん」

 

 ───と言うことらしい。

 

「それを言ったら俺も似合わねぇって」

 

 洸も想像してみたのか、溜め息を零す。そうなるとタキシードを着る役目はおのずと1人に絞られてくる。部員の視線が自然とその人物、高幡志緒に集まる。彼は勉強中なのか、持っていたシャーペンを置いてから口を開いた。

 

「俺も着る気はない。北都、そのモデルはツーショットはあるのか?」

「え? えぇ。寧ろなくてはならないと思います」

「だよな。玖我山がドレスのモデルをやる以上、ファンの怒りを買わない必要がある」

「つまり、男性は起用しない方がいいと?」

「そうなるな」

 

 志緒の意見は尤もだ。SPiKAはその人気さ故に熱狂的なファンもいるだろう。ならば男性と並んで撮るのはあまりよくないのかもしれない。

 

「んー、SPiKAそのもので引き受けるって言うのも最悪ありだけど……明日香、タキシード着てみない?」

「……え、私?」

 

 思わぬ言葉に明日香はぽかんとしてしまう。璃音の発言につられて、その場にいた誰もが彼女のタキシード姿を想像してみる。

 

「……いいですね!」

 

 開口一番同意した少女、郁島空は明日香の戸惑いを払拭するように強く言う。それに合わせて祐騎も「男の僕らより似合うかもね」と頷いた。

 

「ま、待ってちょうだい。私は女子よ? タキシードのモデルなんて……」

「別にモデルは男性に限ってはいないので、問題はありません」

「それだったら、私じゃなくても……」

「私じゃあ流石に似合わないですし、美月先輩は当日もお仕事らしいですから」

「……四宮くん、我儘はどうかと思うわ」

「それを言ったら先輩のは我儘じゃないの?」

「時坂くん!」

「いや、俺はもうファンに追いかけ回されるのは御免なんで」

「……高幡先輩」

「当日は北都とバックアップする予定だから無理だ」

 

 全員が明日香にタキシードのモデルをやってもらおうといつの間にか団結していた。

 

「では明日香さん、当日はよろしくお願いしますね」

 

 最後に美月がにこやかな笑みを浮かべて締め括った。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 写真撮影の当日───。

 明日香は見るからに気落ちしていたが、璃音と空がなんとか元気付けようと声をかけているお陰で、投げ出そうとせずにいるようだ。

 

「祐騎くんもカメラ持ってきたの?」

「まぁね……って、いい加減その呼び方は止めてよね」

 

 祐騎は不満な顔をするが、空は気にすることもなくしげしげと彼の手にあるカメラを見詰める。

 

「た、高そうだね」

「実際高いからね」

 

 カメラを持ってきた理由は、面白いものが撮れるのではないかと思ったかららしい。本職のカメラマンが撮るよりは出来も構図も悪いだろうが、自分が楽しめるなら充分だ。

 

「私も撮ってみたいなぁ」

「……壊さない?」

「壊さないよ!」

 

 空手を学ぶ空に持たせたら壊れてしまう可能性があると危惧する祐騎に、空は憤慨する。

 

「はぁ……じゃあ、簡単に機能の説明するから」

「ありがとう」

 

 カメラを机に置いてから機能について語る祐騎と、熱心に耳を傾ける空。そんな2人を横目に、洸は未だに気乗りしていない明日香に声をかける。

 

「中々似合っているな」

 

 洸の評価に、明日香は彼を睨んだ。

 

「貴方は異性の服を着て『似合っている』と言われたら喜ぶの?」

「いや、そりゃあ嬉しくはないな」

「でしょう?」

「けど、柊はかっこよくもあるんだからいいじゃねぇか」

「はぁ……だから、嬉しくないと何度言えば分かるの?」

「まぁまぁ、それくらいにしたら?」

 

 璃音が仲裁の声をかけると、2人は揃って息を呑んだ。なにせ彼女は今、純白のウェディングドレスを纏っているのだから。とても似合っているうえに、少しばかり恥ずかしそうに赤らむ頬がさらに可愛さを引き立てている。

 

「ちょっとちょっと、無言だと流石に傷つくよ」

「あ……おう、悪い」

「ごめんなさい。とても、綺麗だったから」

「そうそう。馬子にも衣装って感じで……」

「時坂くん、それは褒めてないよ」

「えっ……」

 

 じーっと睨む璃音に、洸は頬を掻いて誤魔化した。

 

「ふふっ、どうやらスタッフも頑張ってくれたようですね」

「相手が玖我山だろうとなかろうと、手を抜くとは思えないけどな」

 

 書類を片手に璃音のドレス姿を一瞥する美月と、その傍らで同じ書類に目を通していく志緒。2人は順調に進んでいることに安堵し、撮影の準備を手伝うべく動き出す。

 

「そうなんですが、今回のモデル起用に反対する声も少なからずあったんです」

「例えば?」

「主に知名度の問題ですね。まったくの素人を使うのはコストに見合わないと」

「確かに、素人よりも玖我山の方が一般人の食い付きは得やすいか」

「えぇ。ですが、玖我山さんではなくSPiKAと言ったアイドルグループとなると、1度にかける費用もかさんでしまいますから」

「どちらにせよ得られる収益よりもコストが高くなるって訳だ」

 

 そうなると、ここで収益に繋げなくては企画を通した美月の面子にも影響してくることになる。計算高い彼女だが、こと会社に関しては自分の思うような舵取りができなくとも新たな機会に繋がればいいと考える節がある。私物化したくないと思ってのことだろうが、それで自分の立場が危うくなっては元も子もない。

 

「まぁ、なんとかなるだろう」

 

 ぽんっと美月の頭を撫で、それとなく励ます。そのまま祐騎と空に撮影を始めると伝えるべく離れる志緒。残された美月はその背を見詰めながら、撫でてもらった場所に自分の手を重ねた。不思議と、撫でられたそこが熱を帯びているように思えてならなかった。

 

(もう、彼はどうして……)

 

 美月自身、今回のデメリットは充分理解している。そこにまったく不安がないのかと聞かれれば、もちろん答えは否。だから志緒がそれに気がついて励ましてくれたのは素直に嬉しい。

 しかしそれ以上に、どうしていつも気がついてしまうのかが不思議だった。会社の経営などしたことがないはずの彼がデメリットを理解し、その不安を見抜くのは意外でしかない。

 

(でも、今回ばかりは彼も心配の方が上回っているようですね)

 

 珍しく【なんとかなる】と言った時、違和感があった。いつもなら【なんとかする】と力強く言っていた彼らしくない。きっと、自分にできる範囲を超えてしまっているからだろう。だが、不思議とその言葉で不安が増すようなことはなかった。なにせ彼が【なんとかなる】と言ってくれたあの瞬間から、本当になんとかなるのではないかと思えるようになったのだ。

 

「北都」

「あ、はい」

「撮影の準備ができたぞ」

「今行きます」

 

 志緒の声で思慮から我に返り、ぱたぱたと彼に駆け寄る。

 

(高幡くんは本当に、不思議な人ですね)

 

 こんなことを言ったら、彼は意味が分からないと言う顔をするだろう。その表情を容易に想像できた美月は、小さな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「はぁ……やっと終わったぁ」

「意外と時間かかったね」

 

 数時間後───。

 洸たちX.R.C.の面々は撮影から解放されて各々帰路に就いていた。

 

「空ちゃんも中々似合っていたわよ」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 当初は璃音だけがドレスを着る予定だったのだが、カメラマンから他の子にも着て欲しいと言われ、明日香と空もドレスを着用したのだ。

 

「そうそう、馬子にも衣装だったよ」

「祐騎、それ褒め言葉じゃねぇぞ」

「知ってるよ? 僕は洸先輩と違ってきちんと意味を理解して使ったんだよ」

「お前なぁ……って、何で俺が間違えたことを知っているんだよ」

「そりゃあ、ね」

 

 洸が間違えてしまったことを知っているのは、明日香と璃音の2人だけ。この内告げ口しそうなのはどちらかと言えば、当然───。

 

「玖我山、お前だろ」

「な、なんのことかなー?」

「ところで、高幡先輩と北都先輩は?」

「2人なら、まだ残って作業するそうよ」

 残っているであろう志緒と美月を想ってか、明日香は振り返りながら答えた。

 そして件の2人はと言うと、美月の手腕あってかてきぱきと仕事をこなしていた。志緒は会社から見れば部外者のため、できることはかなり限定されてしまう。それでも残ると決めたからには小さなことでも嫌な顔せず手伝った。

 

「そういえば……高幡くんは、誰のドレス姿がお好みでしたか?」

「なんだ、藪から棒に」

「いえ、単に気になったので」

 

 そんな彼女の顔を見ると、面白そうな笑みを浮かべている。あれは人を弄ろうと言う顔だ。なにせ先程の問いも【誰が印象に残ったか】ではなく、【誰が好みか】と中々に意地の悪いものだったのだから。

 

「さぁな」

 

 故に志緒にははぐらかす以外に道はない。さらにそこで「お前がいないと平等とは言えないし」と言って美月を強引に割り込ませる。

 

「それは、私のドレス姿を見たかった……と言う意味ですか?」

 

 美月もそれを分かっている故に新たな質問で答えを探ろうとする。またも意地悪な質問だ。『いいえ』と答えれば機嫌を損ねるだろうが、『はい』と言えば誤解を招きかねない。そのため───

 

「好きに判断しろ」

 

 ───彼女の考え方に一任した。食えない性格だが、人を悪く捉える考え方はしないので任せても構わないはずだ。

 

「そもそも、お前も着てみたかったんじゃないのか?」

「えっ!?」

 

 志緒の問いかけに、美月は驚きの声を上げる。そこには明らかに動揺の色が滲み出ており、図星を点かれて戸惑っていることが窺えた。志緒は弄ろうとは思わず、寧ろ不思議そうな顔で彼女を見詰める。

 

「お前、隠していたつもりだったのか?」

「み、皆さん気付いていたのでしょうか?」

「全員かどうかは分からねぇが……少なくとも、俺は薄々って程度には」

 

 かぁっと顔が赤くなっていく美月。その光景は中々に珍しいものなので、志緒はまじまじと彼女を見てしまう。

 

「今からでも遅くはねぇんだから、着させてもらったらどうだ?」

「そんな恥ずかしいこと、言えません!」

「どこに恥ずかしい要素があるのか分からん」

「そ、それは……!」

「女性なら、1度は着てみたいと思うものなんだろ?

 だったら別に、お前が着たいと思ったところで恥ずかしいことなんて1つもないだろ」

「ま、まぁ……そうですけど」

 

 否定してしまっては他の女性に対して悪いと思ったのか、美月は素直に肯定した。それでもやはり自分がドレスを試着してみるのは抵抗があるのかそれ以上は黙ってしまう。

 

「なら、俺が着させてやるよ」

「……へ?」

 

 予想外の一言に間の抜けた返事しかできなかった美月は、呆然としてしまう。

 

「そ、それって……プロポー───」

「俺からスタッフにそれとなく伝えれば大丈夫だろう」

 

 こんなムードもない時に、志緒がプロポーズなどするはずがない。そんなことは少し考えれば分かりそうなものだが、美月は何故か早とちりしてしまった。幸いにして彼は発言を聞いていなかったようでほっと胸をなでおろす。

 

(どうして彼といると、こうも乱されるのでしょう……)

 

 美月はぼんやりとそんなことを考え始めたが、志緒は彼女が黙っているのを肯定と取り、部屋を出ていこうとする。それに気が付いて慌てて引き止める。

 

「ま、待ってください。まだ着ると言っては……」

「まだ言ってんのかよ。別に誰も変に思ったりしねぇだろ」

「だったら、高幡くんも一緒に撮りましょう!」

「……は?」

「私だけと言うのは、やはり恥ずかしいです。

 それに、タキシードを着てくれる人がいないと、写真として栄えません」

「いや、だからって俺である必要は……」

「いいから。ほら、行きますよ」

「お、おい!?」

 

 言い出したのは自分だが、それでも恥ずかしくないわけがない。美月は真っ赤になった顔を見られたくないがために、志緒を引っ張るようにして撮影へ向かうのだった。

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