異界の盾の三重奏   作:漂流参謀

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なんとなくアズレン熱が再発したのと
ジパングを読み直したのが運の尽き

飽きるまではダラダラ書くので飽きるまでは読んでってください

ヒロインは、まあ、そのうち決まるんじゃない?

それはそうとシャングリラカワイイヤッター!


航跡1 未来と猛牛と鉄の爪

 無意識の波間に揺蕩っていた自我に最初に触れたのは、頬を撫でる海風だった。次に、耳へと波が砕ける音が伝わり、僅かな時を置いて潮の香りとでもいうべき懐かしい匂いが鼻を抜けていく。

 

 ────馬鹿な

 

 あり得るはずがない。と混乱が脳を満たした瞬間、さらなる情報を求めたためか瞼を開いてしまう。

 途端に飛び込んでくるのは、何処までも続く海と雲一つない青空。波は穏やかで、艦体に打ち寄せては砕け、白い泡となって青い海へと溶けていく。視線をわずかに下に下げれば、灰色の甲板(大地)と、それを踏みしめている紺色のズボンと作業靴。メタルリムの眼鏡をはずせば、ぼやけた視界に角ばったレンズの眼鏡を持つ人間の手。

 まいったな。と頭に手をやれば識別帽まで被っているようだ。

 いつの間にか記憶領域に蓄積されていた記録と、これまでの記憶。それらを参照して現在の状況から脳内でくみ上げられていく予想に、笑えばいいのだろうか? 

 

 帽子の鍔に手をやり一息に脱ぎながら後ろを振り返る。

 

 視界がくるりと周った後、目の前に突き出されたのはOTOメララ127mm54口径単装速射砲の砲口。その向こうには各種の電子の眼を備え付けた巨大な艦橋構造物が聳え立ち、主の帰還を待ち望んでいるようにも見える。自分の顔だ、見間違えるはずもない。ふと視線を落とし、帽子に刺繍されている名を現状の再認識の意思も込めて読み上げる。

 

「DDH-182、みらい」

 

 日本国海上自衛隊第1護衛隊群所属、ゆきなみ型護衛艦3番艦。当時最新鋭のイージス艦として生を受け、数奇と呼ぶほかない運命をたどった戦闘艦。ありえざる歴史をたどり、遂には遥かな”過去”でその航海に終止符を打った幻の艦。

 

 しばらく呆然とするかのように、または再び踏みしめた海の感触を確かめるように前部甲板に立ち尽くしていた青年は、一つ深呼吸をしてから艦橋へ向けて歩き出す。

 

「生きているということは、知ること……か。全く、アンタの言葉が身に染みる時が来るなんてな」

 

 

 

 

 

 中天にまで登った太陽が傾きかけたころ、ようやく艦内の捜索を一通り終えた青年は薄暗くエアコンの効きすぎたCICへと足を踏み入れる。

 最低限の照明以外が落とされた、神の盾の心臓部にももちろん誰もいない。

 

 恐怖によって、自ら銛を解き放った一等海尉も。

 

 蚊の一匹をも殺した感覚が無いと苦悩した三等海佐も。

 

 電子の眼を奪われ、それでも椅子に座っていた一等海曹も。

 

 誰も、居ない。

 

 あの奇妙な戦いに巻き込まれながらも、それでも己の信念を貫き戦い続けた戦友は、誰一人として存在しなかった。

 そのことに一抹の寂寥を感じはするが、これ以上トンチキな展開に叩きこまれないだけよかったと思ってしまう自分も確かに存在した。小栗航海長や角松副長ならまだしも、菊池砲雷長は”どうしてこうなった”と頭を抱えるだろう。いや、むしろ表面上は冷静に取り繕いながら、後で一人になった時に盛大に溜息をつくだろうか。

 今は無き3人の幹部を思い出しながら、科員が据わるシートを撫で、スリープ状態のレーダー画面へと目をやった。今は何も映していない画面だが、やろうと思えば即座に起動し、周囲数百キロの航空目標を映し出すだろう。何なら、後部格納庫に収められている2機の艦載機を飛ばせる。

 自分がどうして、こんな状況に置かれているのか。どうして、誰も載っていないのか。どうして、人間の青年なんぞをモデルにしたKAN-SENなどと言う存在になっているのか疑問は尽きないが、考えてばかりもいられない。

 

SPY-1D(対空レーダー)OPS-28(対水上レーダー)

 

 青年が呟くごとに、それまで沈黙を保っていたモニターが輝き始め、電子の眼が外界へと向けられる。電子装置が息を吹き返し、俄かにさざめくCICの空調は目を覚まそうとする魔獣の息吹の様にも聞こえる。

 

OQS-4(艦首バウ・ソナー)OQS-21(サイド・ソナー)

 

 対空、対水上目標探知のレーダー群が起動状態に入るのを確認しつつ、海面下に耳を澄ませる。条件が悪く、周囲の海水温、潮流、密度などのデータは無いに等しいが、だからと言って完全に耳が聞こえなくなるわけではない。あの時は上手く避けることができたが、今の自分に同じことができるという確信は持てないのだ。

 

「電気・油圧・電算機能正常。全系統異常なし(システム・オール・グリーン)。なれど、通信衛星(フリーサット)との通信は不可か」

 

 あの時の焼き直しだな、と独り言ちながらデスクの一つに腰かけようとし、ふとレーダーに小さな反射波が映りこんでいることに気が付いた。

 規模としては魚雷艇よりもはるかに小さい。ともすれば対空ミサイルよりも微弱な輝点が、まっすぐこちらへと突っ込んでくる。一瞬、レーダー・ゴーストかとも思ったが、その目標が30kt以上の速度で接近を続けているのだから首をかしげる他ない。距離は凡そ10㎞に入ろうかと言う間合い、艦外カメラの望遠映像ならば捉えられるか、と考え起動しようとした瞬間だった。

 敵味方識別装置が接近する輝点を”友軍”と認識し、緊急回線が開かれ同年代の青年のものらしい怒声がCICに木霊した。

 

『馬鹿野郎! 魚雷だ! 回避しろ!』

 

 それと同時に、パッシブ・ソナーが突発音を捉える。

 

 ──感2、左舷後方210、魚雷2、接近感知。雷速44kt、距離3300、接触まで2分20秒

 

「っ! 機関始動! 両舷前進一杯! 取り舵一杯!」

 

 背筋を走った悪寒に従い、機関を叩き起こして全速を絞り出す。艦体に司令を送り込んだ直後、4基のガスタービンが吠え、2軸の可変ピッチプロペラが狂ったように回りだす。

 21世紀の技術の粋を集めて建造された1万トンに達しようかという灰色の戦闘艦の後部が白く泡立ち、その図体にしては驚異的な加速によって鋭い艦首が白波を切り裂き始める。真正面から押し寄せる外洋のうねりを切り裂き、急転舵によって艦体そのものを右舷側に軽く振りながら蒼海に白いエッジを刻み付けていく。後方から接近する2条の銛に対し横腹を向けるような操艦だが、左舷後方から接近する魚雷を交わすのであれば間違いではない。

 

 ──対空レーダーに感、友軍より飛翔体2、射出。針路010

 

 ──雷撃地点特定、左舷後方、方位1-9-2、水深約10m、距離3300、5ktで本艦を追尾中

 

 ──音紋解析、照合、何? 

 

『なんでそのまま突っ走るんだ間抜け! まだ寝ぼけてんのか!?』

 

 かろうじて探知できたスクリュー音をデータベースに照合し、得られた結果に眉を顰めそうになった時、再び聞き覚えの無い青年の怒声がCICに響き渡った。いい加減誰だコイツと思いながらも、レーダー画面上を滑るように移動した2つの輝点からは意識をそらさない。空を貫いた2本の槍はその役目を終え、パラシュートを開きながら猟犬を解き放った。

 

 ──着水音2、探信音確認。RUM-139(アスロック)航走中

 

 海中へと落ちた2本の短魚雷は、それぞれが探信音を打ちながら旋回し、潜航しようとする潜水艦を捉えると向きを変えて突入を開始する。

 艦尾方向から接近する2発の魚雷を躱そうと、鈍重な艦体に鞭打って針路を変えようとするが、所詮は第二次大戦レベルの可潜艦。真の潜水艦を血祭りにあげるために開発された魚雷の前には無力だった。

 

 ──接触まで、3、2、……命中。爆発音2。圧壊音確認

 

 ふと、脳裏に自分の後方で巨大な水柱が上がる光景が映し出される。記憶ではなく、いまこの瞬間に起こっている出来事だ。アングルからして、艦外カメラの一基から見える光景だろう。考えてみれば当然のことで、今の自分が本当に”艦”そのものであるならば。その感覚器官を通して得た情報を直接知ることは造作もない。

 だからこそ、この光景も現実のものとしてそろそろ受け入れねばならないだろう。

 

「Kinetic Artifactual Navy - Self-regulative En-lore Node、略してKAN-SENね、神の企てか、それとも悪魔の意思か。どちらにせよ……」

 

 ──接近する友軍を確認。水上を滑走する男性が2名、両名が背部に艦船状の装備を背負う

 

「この航海も、楽な海じゃなさそうだ」

 

 フン、と気合を入れるように鼻を鳴らし、帽子をかぶりなおした。

 

 

 

 

 

 

 海面から甲板へと、人間離れした跳躍力で飛び上がってきたのは2人の白人男性だった。それと同時に、彼らが身に着けていた”艤装”とも呼ぶべき装備は無数のキューブ上になったかと思うと、手の届きそうなほどの近くに見覚えのある姿として実体化する。それと同時に、目の前の人物たちも自分と似た様な境遇なのだと理解した。

 一人は、落ち着いた印象を与える長身痩躯の海軍士官。米海軍の軍服に身を包み、大佐の階級章を付けた男。金髪に鷹の眼の様に鋭い眼光が特徴的だった。

 もう一人は、正反対と言って良い。背は高いというほどではないが、体系はがっしりとしており身長以上の威圧感を覚える。見るからに短気そうな雰囲気で、今にも突進しそうな黒毛の猛牛と形容するのが適当そうだった。肩章を見る限り、こちらも大佐らしい。

 彼らの背後に出現した2隻の艦船のハルナンバーをさっと確認しつつ、敬礼を送る。長身の青年は完璧な答礼を、もう片方の青年はラフに答礼を返す。

 

「日本国海上自衛隊第1護衛群所属、ゆきなみ型護衛艦3番艦、みらいです。先ほどの救援、感謝いたします」

「アメリカ海軍第3艦隊所属、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦26番艦、ヴェラ・ガルフだ」

「同じく、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦47番艦、ハルゼーだが……てめぇ、何者だ?」

 

 ヴェラ・ガルフと名乗った青年は幾分か友好的だが、こちらを値踏みするような眼。対してハルゼーと名乗った青年は不信感を隠そうともしない。

 と、ここで妙な点に気が付く。

 ヴェラ・ガルフは自分が就役した平成13年にはすでに就役済み。ハルゼーの方は覚えが無いが、アーレイバーク級の47番艦と言うあたり自分が時空の果てへと消え去った後、それも数年以内に建造された艦の可能性が高い。だとするならば、仮にも友軍の最新鋭護衛艦の名を知らないわけは無いだろう。

 

「何者と言われましても。護衛艦みらいとしか言いようがありません。正直、僕もまだ何が何やら」

「ハンッ、成程。ヴェラと同じで、並行世界(パラレル・ワールド)の海自艦ってわけか」

 

 いきなりSFでなじみのなる言葉が飛び出し、「並行世界?」と思わずオウム返しに聞き返してしまう。自分にはまだ状況が見えてこないが、隣のヴェラ・ガルフは納得いったように──そして、僅かに落胆したように首を数度振るった。

 

「君が混乱するのも無理はない。CIC……は拙いな、ラウンジを貸してもらえるか?」

 

 とりあえずは、幾分かは冷静そうな巡洋艦の提案に乗ることにする。どうやら、一応の旗艦は彼が務めているらしかった。

 

 

 

 それぞれが持つ情報を出し合い整理を終えるころには、すでに太陽は西へと傾き始めてしまっていた。

 その時までに出そろった話をまとめると以下のようになる。

 

 一つ、みらい、ヴェラ・ガルフ、ハルゼーの艦歴を照らし合わせる限りそれぞれが微妙に異なる世界の記憶を有していること。

 

 一つ、KAN-SENとしてこの海で覚醒したのはみらいよりも1日早く、その間に合流し臨時の艦隊として行動をしていること。

 

 一つ、これまでに接触した艦は全て第二次世界大戦型の帝国海軍艦船であり、通信を取る前に問答無用で攻撃を受けていること。

 

 一つ、艤装を身に着けた、いわゆる水上スキー状態でも艦の武装は問題なく扱える、データリンクも可能であると言うこと。

 

 一つ、当面の目標としてハワイの真珠湾を目指し航行を続けていること。

 

「ったく、それにしても。ヴェラの言うモンスターも大概だが、お前の艦歴にはかなわねぇよな、みらい」

 

 当分補給の一環として提供したアイスクリームを救っていたスプーンを皿に戻しつつ、呆れたようなハルゼーの視線が突き刺さる。

 

「さては信じてないな?」

「はっ、人間の姿の艦だなんて特大の理不尽が仕上がってんだ。今なら宇宙人が殴り込んできても信じるさ」

 

 会話を続けるうちに、それなりに彼の性質を理解できたように思える。

 ウィリアム・ハルゼー海軍元帥から名をとられたアーレイバーク級の最新鋭。フライトⅡAに分類されるイージス駆逐艦は、その名のもとになった人物の様に好戦的で、快活な人柄と言える。史実で有名な日本嫌いは、ありがたいことに日米同盟が締結された後の艦だからか、鳴りを潜めている。とはいえ、猪突猛進や直情型ともとれる言動には、節々に海自艦である自分へのライバル意識が感じ取れた。

 

「ならば、サンダーチャイルドよろしく突撃する訓練でもしておくか、私は御免だが」

「こちとらミサイル駆逐艦だ。んな馬鹿なことやらなくても、トマホークぶつけてやるよ。それはともかく、みらい、お前はこれからどうする?」

 

 一息ついた際に生じた雑談もそこそこに、ハルゼーが今後の方針と言う確信とでもいうべき部分へと切り込んだ。

 

「故国に行くも良いだろうが、腹の立つことに俺もお前もKAN-SENとしては小僧さ。さっきも、身に染みただろう? あの時のイ号潜も、自衛隊旗を掲げてるお前に容赦なく魚雷をぶち込んだ」

 

 そうだ。と内心で一つ頷く。

 あの時採取できた”敵潜”の情報は紛れもなく伊号潜水艦のモノだった。あれほどまでに騒々しい潜水艦だ、いくら急加速するまでの一瞬だからとはいえ聞き間違えるはずもない。そして、艦尾から魚雷を放ったと言う個とは、聴音雷撃でもない限り艦尾にはためく自衛艦旗を目にしているはず。帝国海軍時代の旗を継承したソレを目にしつつ、誤射はあり得ないだろう。

 

「僕に、貴方方についていけ、と?」

「ああ、端的に言えばそうだ。もっと言えば、とりあえずはウチのヴェラ・ガルフの指揮下に入れと言うことになる。日米同盟として合同作戦をやると思えばいい」

 

 指揮下に入るという発言に、微かに眉が上がる。

 確かに、タイコンデロガ級はプラットフォームが大きく指揮通信設備も充実している。その上、彼は自分が沈んだ戦いにおいて2隻の僚艦を伴っていたそうだ。もっぱら単艦での行動がメインだった自分とは年季が違うだろう。

 しかし、だからと言ってそうホイホイと指揮下に入ってしまってもいいものだろうか。2人は保有していない航空戦力を、2機とは言え持つ自分を捨て駒にするとは考えにくいが、万が一と言うこともありうる。もしそうなって敵対した場合、相手は2隻のイージス艦だ。簡単に負けるつもりはさらさらないが、勝率は限りなく低いだろう。

 

「おい、何だ。まさかお前」

「まあ待てよ、ハルゼー。誰もがお前さんみたいに即断即決できる艦じゃないんだ」

 

 考え込む自分に対し眉をひそめたハルゼーを宥めながら、ヴェラ・ガルフが口を開いた。

 

「みらい。お前さんが危惧しているのは俺たちがお前さんを捨て駒にするかもしれないということだろう? ま、その懸念は尤もだな。同盟国の軍艦と自国の友軍艦、どちらか1隻を取れと言われれば、アメリカ国民の血税で作られた身としては、自国の艦を守らなきゃいけない。ここまではいいな?」

「ああ。むしろ、安心したよ。アンタの価値観は国家の武装として全うだ」

 

「それはどうも」と相貌を崩すが、その顔は即座に真剣な表情に上書きされていた。

 

「けどな。だからと言って、同盟国の犠牲を前提に作戦を立てはしない。誇りあるアメリカ海軍(U.S.Navy)の一隻として、そこだけは超えてはならない一線だと考えている」

 

 その声色に嘘は感じられず、鷹の様に鋭い目はまっすぐ自分を射抜いている。一見、矛盾しているようにも思えるが、軍人としての本意が後者であることはなんとなく察しがついた。こちらが自分の発言に納得がいったのを理解したのか、フッと眼光から力を抜いた彼は、自分が待ち望んでいた対案を口にする。

 

「そこでだ、貴艦には我々と行動を共にしてもらいたい。名目上の旗艦は私が担うことになるだろうが、貴艦への指示は全て”要請”と言う形になるだろう。こちらの要請に不服であれば、容赦なく却下してもらってかまわない。もっとも、対案は出してもらうがね」

 

「どうだ?」と片手が差し出される。拒否する理由を見つけることに、もはや意味は無いだろう。微笑みを返しつつ、差し出された手を握った。

 

「了解した。これより本艦は貴艦隊と行動を共にする。微力を尽くさせてもらうよ」

「何、実戦経験ではお前さんの方が上だ。特に、戦中の艦相手の戦いはな。シーバット並みの活躍を期待する」

「ったく、ようやく話がまとまったか。お前ら少々慎重過ぎんだよ。男なら即断即決しやがれ」

「お前さんは少々果断に過ぎると思うがね」

「石橋に核ミサイル叩き込んでも渡らねぇ奴には言われたくねぇよ!」

 

 途端に言い争いを始める米軍艦二人に、乾いた笑いが自然と漏れた。艦の性能としては申し分なし、少々騒々しいが、まあ旅は道連れと言うやつだと思うことにした。

 

 

 

 

 

『新針路0-3-0、艦隊速力20kt』

 

 両名が艦へと戻ると、さっそく艦隊を組んで真珠湾を目指すことになった。幸運にも、両艦が出現した海域は海底地形図にデータがある場所だったため、真珠湾への航路は逆算できる。現海域からならば1日程度で到達できる距離だ。

 陣形としてはハルゼーを先頭に、ヴェラ・ガルフ、みらいと続く単縦陣。水上スキー方式は小回りは効くが、外洋の波浪の影響をもろに受けてしまう上に疲労も蓄積しやすいため、長距離の航海では慣れ親しんだ艦体に乗って行動した方が無駄がなかった。

 

『みらい、海鳥を飛ばしてくれるか?』

『おっ、例のオスプレイモドキか。発艦にミスったら自分で吊り上げろよ?』

「みらい、了解。これより発艦準備に映る。そっちに流れてったら上手く受け止めてくれよ、ハルゼー」

『おう、ファランクスとスタンダード、どっちが良い?』

 

 軽口を叩きつつ航海艦橋から格納庫へ指示を飛ばす。

 格納庫のシャッターが開いていき、後部飛行甲板へと引き出されたのは異形の航空機。機種部分はどことなくAH-64を彷彿とさせているが、そこから後ろに繋がっているのは高翼配置で取り付けられた2枚の主翼と、2人乗り程度の小型機にしては少々巨大な2基の主ローター、そして垂直双尾翼。

 ある地点にまで引き出された機体の主翼が展開され、主翼自体が機体に対して90度折れ曲がった状態で5枚羽のローターが空を睨む

 MV/SA-32J、通称『海鳥』

 米海軍主力艦上戦闘攻撃機であるF/A-18と同じ電子装備を搭載し、V-22オスプレイを基にベル社と三菱重工業が共同開発を行った、ティルトローター式多目的垂直離着陸機。最大速度は約450㎞/hに達し、機体下部ウェポンベイには電波妨害装置を始め、多種多様な航空爆弾、ミサイルを2トンまで搭載できる。作戦行動半径は400㎞程度だが、護衛艦に搭載された航空機としては破格の性能と言えるだろう。

 

 ──ベアトラップ、リテーニングレール到達確認

 

 ──発着指揮所(LSO)より哨戒機、発動機運転開始せよ

 

 

 1基あたり1800馬力を絞り出すGE T700-IHI-701Cターボシャフトエンジンが金切り声を上げ、直径6.0mに達する翼が大気をかき混ぜ甲板へと叩き付け始める。それまで静かだった後部甲板には俄かに暴風が吹きすさび、艦尾の自衛艦旗がその存在を誇示するかのように翻る。

 

 ──ホールダウンケーブル切り離し。哨戒機発動機、最大回転(レッドブースト)

 

発艦(テイクオフ)」と呟くように最後の指示を出せば、5.1tに達する機体がふわりと浮き上がり、旋風を引き連れて空へと昇っていく。おもむろに艦橋横のウィングへ足を向ければ、手の届きそうなほど近くを、見慣れた双発機の姿になった『海鳥』が轟音を残して前方へとフライパスしていく。

 

『ヒュゥ! こいつはいいな! 自家用機に一機欲しいところだ』

『お前さんの艦体に格納庫は無いだろうが』

『米海軍なら露天繋止は日常茶飯事だろ?』

『残念ながら今のところ一点ものだ。壊れたらどうなるか判らん。みらい、大切に使ってくれよ。もう駄目になっても使い倒すのは自衛隊(お宅)の得意技だろうが』

「好きで魔改造やってるわけじゃねぇよ。万年金欠舐めんな」

『GDPのハイランカーなのに、お前らの軍隊なんでそんなに金欠なんだよ』

「世界中の軍事費足してもお釣りがくるアンタらの基準で考えんな。てか、軍隊じゃない。自衛隊だ、自衛隊」

 

『そこは譲らんのな』とどこか呆れた様な声が通信機から流れ、疲れが噴出して溜息を吐いてしまう。ハルゼーの方はともかく、ヴェラ・ガルフの世界ではなんと米軍と海上自衛隊が一戦交えるまでに行ったらしく、そこでも海自は専守防衛を貫き通していたという話だ。世界が異なってもその信条を貫き通した自衛官たちには頭が下がる思いだが、何をどうやったら米海軍と海自がドンパチやり始めるのか理解できそうにない。真珠湾に着いたら、もう少し深く聞いてみるべきだろうか。

 相変わらず、レーダーシステムに不審な点は見えない。ウィングから航海艦橋に戻り、数回主の変わった艦長席へと腰かける。この世界では、否応なく自分が最後の艦長と言うことになるだろう。あの海で241名の命を預かり、遥かな未来を目指して突き進んだシートは見た目通り、座り心地が良いものではなかった。

 

 

 

『海鳥』が飛び立ってから、そう時が立たないうちにソレらは現れた。

 

「みらいより、ヴェラ・ガルフ。不明艦隊および航空機を確認、詳しくはデータリンクを参照せよ」

『OK、受け取った……これは……』

『んん? ……おい! ヴェラ! 今すぐ増速だ! 援護に向かおう!』

 

『海鳥』から送られたレーダーと望遠カメラの映像には、無数の敵機の前に必死の回避機動を行う数名の乙女が映し出されていた。

 水上スキーの様に華麗に海上を駆ける彼女たちだったが、その表情は一様に険しい。控えめに見ても、戦況は有利には見えなかった。空を舞う無数の航空機が爆弾と魚雷の雨を降らせ、数えるのも馬鹿らしいほどの水柱が林立している。

 

『待て、ハルゼー。まずは通信だ。みらい、『海鳥』で中継してくれないか?』

 

 旗艦の要請を受諾し、全帯域での通信体制を整える。『海鳥』から送られてくるデータを見る限り、少なくともいきなり魚雷をぶち込んで来た伊号潜水艦よりは話ができそうな雰囲気に見えた。

 

『”こちら、アメリカ海軍第3艦隊所属、ヴェラ・ガルフ。貴艦隊の所属を明らかにせよ”』

 

 通信は、思っていたよりも早く帰ってきた。望遠映像を見る限り、艦隊の中心で長弓を構える女性の声らしい、切羽詰まってはいるが凛々しい声がスピーカーから流れてくる。

 

『こちら、アズールレーン所属、空母エンタープライズ! 友軍であるならば支援を、いや、この海域は危険だ! 即座に退避せよ! 繰り返す! 即座に退避せよ! ぐっ!?』

 

 至近弾の水柱の中に銀髪の女性が飲み込まれると同時に、通信装置が故障したのか通信が途切れる。一応、映像で見る限り斃れては居ないだろうが、上空を乱舞する敵機の姿を見る限り、時間の問題であることは明白だ。

 

『エンタープライズ、だと?』

 

 空を舞い、少女たちに爆弾の雨を降らせる無数の戦闘機──零戦をはじめとする帝国海軍の艦上機──を目にし、どうしたものかと腕組みをした瞬間、ハルゼーから絞り出すような声が届く。ああ、そういえば、彼の提督が指揮を振るった艦でもあったか、と何処か他人事のような感想が頭をもたげる。

 そして、『海鳥』へと軽く指示を出した。

 

『ヴェラ、悪いが俺は行くぞ。アズールレーンなんて知ったこっちゃないが、エンタープライズとか名乗った艦の窮地を救わねぇって選択肢は俺には無ぇ』

『……はぁ、ま、そう言うとは思っていた。全力で前進すれば、ほどなくSM2-ER(スタンダード)の射程に入る。IFFは使えないが、データを見る限り直掩は全滅しているようだ。同士討ち(ブルー・オン・ブルー)を考えなくて済む。後は…どうする? みらい。画像を見る限り、敵はジーク。つまり』

「ああ、その心配は要らない。僕も戦闘に参加しよう」

 

『いいのか?』と言葉を濁す律儀な旗艦に、つい先ほど『海鳥』から受け取った画像をデータリンクに乗せる。水平爆撃を終えて退避しようとする九七式艦上攻撃機のコクピット周辺を切り取った画像には、そこに居るべきパイロットが映っていなかった。

 

「何とも不思議なことに、不明機は全て無人機らしい。ま、僕の『海鳥』もそうなのだから、当然と言えば当然だろう。なら、あれらは飛んでくるミサイルも同然だ、容赦する必要はない。むしろ、窮地を救ってくれた借りを返して、ついでに貸しを作るいい機会だ」

 

軽口交じりの返答に『決まりだな』とヴェラ・ガルフが笑い、『わりぃな、突き合わせちまって』と全く気に病む気配のないハルゼーの声が響く。

 

 

 方針は、決まった。

 

 

 彼らの進む先は、儀仗兵が並ぶ式典でもなければ、穏やかな母校でもない。波が沸き立ち、砲弾がかける文字通りの戦闘海域。

 

 それでも。艦隊防空の要であれと生を受けた3隻の戦闘艦は、それぞれの出自は異なれども海を駆ける。目の前に、救うべきであろう対象が居るのであれば、躊躇なくその電子の眼を向け、決して外れぬ弓を弾くために。己の世界では無けれども、その本懐を全うするために。

 

『旗艦、ヴェラ・ガルフより両艦へ達する。これより本艦隊は、敵不明航空機群の迎撃に当たる。艦隊速力30kt! 各艦、艦対空戦闘用意!』

 

 甲高いガスタービンの12重奏(Duo-dectet)を響かせ、戦場へ向けて舵を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、紳士諸君。今こそ神の盾(イージス)の務めを全うしようじゃないか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





エンプラさんしか出てないやん!どうしてくれんのこれ!(憤怒)

アズレンアニメを未だ見てない戦犯作者なので
細かな設定の差異があった時は
粗製乱造産廃二次創作の一つとして見逃してお兄さん(焼き土下座

とりま、みらい君のヒロイン用アンケートでも取りますかねー
匿名投稿で活動報告へ誘導もできないので陣営から
……決まる前にエタるな(確信

みらい君用ヒロインアンケート

  • やっぱり主人公陣営【アズールレーン】
  • 原作だと陣営関係ないし【レッドアクシズ】
  • 作者の独断と偏見で5択やってどうぞ
  • 眼鏡万歳!
  • 全く、駆逐艦は最高だぜ!by AR
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