今回はダイジェストな割にとあるキャラのおかげでめちゃくちゃ難産でした・・・この後は更新速度上がるはずです。
『さァ上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今! 狼煙を上げる!!』
実況席に座るプレゼント・マイクの声と共に第二種目の騎馬戦が始まり、スタジアム内は再び熱狂に包まれていた。
四人一組となった生徒たちが己の個性を活かして連携しながら派手に戦いあう姿は、観客たちのボルテージも自然と上げていく。
そんな中、死柄木弔は最前列でそれを見ているにも関わらず、まるで興奮することもなく生徒たちを見下ろしていた。
「シガさんはつまらなそうですねぇ」
「実際つまらねぇよ」
そもそも死柄木にとってヒーロー目指して頑張っている子供たちというのは、不快に感じて仕方がない存在だ。
そんな奴らが競い合う姿を見たところでいい気分になるはずがない。
もちろん先生に言われた通り、生徒たちが活躍する場面を見る事でその力量はきちんと認めている。
おかげで先日の襲撃の際に自分が集めてきたチンピラ連中が負けた事に納得はできたが、それはそれだ。
隣で他の観客のように喜ぶ庵のようにはとても振舞えない。
そうして不機嫌そうな顔を隠そうともしない死柄木だったが、そんな彼の眼は先ほどから一人の少年を捉えていた。
「……あのガキ、また目立ってるな」
死柄木の視線の先にいるのは、もじゃもじゃ頭の男子生徒。
名前は憶えていないが、死柄木の脳にはちゃんと記憶されている。
USJ襲撃の際に死柄木の目の前で脳無を殴り飛ばした、オールマイトによく似た超パワーの個性を持っているガキだ。
「あの子ですか? えーっと、緑谷出久でしたっけ」
「覚えてるのか?」
「えぇもちろん。それより彼、確かに目立ってますよね。さっきも一位でしたし」
庵の言う通り、緑谷出久は先ほどからスタジアム中の注目を一身に集めていた。
第一種目の障害物競争で一位を取り、それによって第二種目では多数の生徒から狙われる羽目になったためだ。
今もチームを組んだ生徒の個性を活用してうまく立ち回っているし、死柄木たちの近くに座る観客たちも緑谷について話している。
彼は今、前評判を覆して最も注目される生徒となっていた。
「ハァ……」
死柄木はそれが気に食わない。
ただでさえムカついて仕方がない対象がやたら生き生きと活躍を続ける姿を見るたびに、観客たちがそんな子供たちの姿に一喜一憂して歓声を上げるたびに、体中が痒くて痒くて仕方なくなってくる。
そんな死柄木が我慢できずに自身の首を掻きむしろうとした時、競技を行う生徒たちに大きな動きがあったのを見て作間が声をあげた。
「見ろよシガ君。例の子のチームがエンデヴァーのガキのチームとやりあうみたいだぞ」
作間がそう言って指をさした先では、もじゃもじゃ頭の緑谷出久を担いだ騎馬と、紅白の髪をしたエンデヴァーの息子である轟焦凍を担いだ騎馬が向かい合っていた。
先ほどまでは標的にされた状態から上手くかわし続けていた緑谷たちは、残り時間が半分を切ったところで遂に轟たちに捕捉されたのだ。
もちろん周りの騎馬もそれを黙ってみているわけがなかったが、轟たちの騎馬が打った次の一手によって動きを封じられることになった。
「電気で動きを止めて一気に凍らせる。連携も上手いが、それを考えて実行する個人の実力も大したもんだ。なぁ?」
「あぁ……面倒な力を持った糞餓鬼どもでイラつくぜ。本当に」
憎々しげに生徒たちを睨みながら死柄木は言う。
もはや取り繕う気など全くないと言わんばかりのその顔を見た作間は、溜め息を吐きながら死柄木の顔に売店で買っておいたお面を取り付けた。
それは死柄木に有無を言わさぬ早業で、その行動を阻止できなかった死柄木は半ば呆然とした様子で声を発した。
「何のつもりだよ」
「お前の顔が危険レベルに入ったから隠しただけだ。気にするな」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてねぇよ。そんな凶悪な面でじっと生徒を見つめたらヤバいってわかんだろ?」
そう言われた死柄木は少しだけ考える素振りを見せる。
彼にも一応負の感情が剥き出しになっていた自覚はあるらしい。
作間は競技場へと目を向け、轟の騎馬から必死にハチマキを守り続ける緑谷の騎馬を指さした。
「あれが気に入らないのか? あのやたら必死こいて頑張ってる子供が」
「見ててうざいんだよ。ああいうクソガキは」
「まぁ、気持ちはわかる。俺だってヒーロー目指して必死になってるガキどもも、それをチヤホヤしてる観客だって嫌いだよ。でも、ちょっとくらいは表情を誤魔化してくれると助かるね」
死柄木を爆発させないように細心の注意を払いながらの言葉だったが、その言葉に嘘はない。
作間だってヒーローは好きではないのだ。
もちろん商品として見た場合のヒーローは別だが、単純にその存在が好き嫌いかで言えば嫌いな方だし、それを目指す子供ももちろん嫌いなのである。
それを聞いた死柄木はしばらくじっと動かなくなったかと思うと、身に纏っていた剣呑とした雰囲気を霧散させた。
「そうだったな。悪い悪い」
「……こいつ絶対反省してねぇな」
死柄木はしらじらしく謝罪の言葉を口にすると、お面を外して作間に押し付け、すました顔で再び騎馬戦の様子を見始めた。
今度こそ、生徒たちを見ても表情を取り繕えているようだ。
目は負の感情を宿したままだが、死柄木がそこを完璧に隠せるほど大人ではない事くらい作間だって察している。
故に作間はとりあえずこれで大丈夫だろうと考え、自分も騎馬戦の様子を見る事にした。
『さァ残り時間は約一分! お前ら最後まで気合入れて行けよ!』
マイクがそう告げると同時に、生徒たちの戦いはより激しさを増していく。
それぞれの騎馬が最後の頑張りを見せようとする中、突如として猛烈な速度でダッシュした轟の騎馬が、緑谷の騎馬に急接近してハチマキを奪い取った。
「ハッ」
同時に横から鼻で笑うような声が聞こえ、作間はそちらに目を向ける。
案の定というか、そこにはご機嫌そうに笑みを浮かべる死柄木の姿があった。
「あのもじゃ頭がハチマキ取られてそんなに嬉しいのか? よっぽどあのガキが嫌いなんだな」
「あぁ、嫌いだね。ガキは全部嫌いだが、あいつには特にムカついてる」
「一体全体何がそうムカつくんだ? 俺は
「あのガキに色々と邪魔された。あと個性がアイツを思い出させてムカつく。それだけだな」
「おいおい、そりゃ流石に……」
『TIME UP! 競技終了だお前ら! 早速上位4チーム発表してくぞ!』
作間が更に質問をしようとしたところだったが、スタジアム内に騎馬戦の終了を告げるマイクの声が響き渡ったために断念する事になった。
競技の結果はほとんど作間の予想していた通り。
実力の高さは明らかである轟の騎馬が一位を取ったが、それ以外の順位では少し予想外な事もあった。
仲間の機転に救われる形で死柄木が目の敵にしているらしい緑谷出久の騎馬が4位入りして、最終種目に出場することが決まってしまったのだ。
「チッ」
「どんまいシガさん。そういう事もあるよ」
「お前は何様だよ」
「私? 私は女子高生様だよ? いや、元だっけかな?」
「いやそうじゃ……もういい。疲れる」
死柄木でさえ呆れる意味不明加減で場の空気を白けさせた庵。
そんな彼女が一見可愛らしげにこてんと首をかしげている間に、死柄木は腕を組んだまま目を瞑ってしまう。
どうやら昼休憩が終わって午後の部が始まるまでの一時間、何もせずに眠って過ごすつもりらしい。
「一時間庵と話さなきゃいけないのが嫌になったなこいつ……」
「え? なんですか店長」
「いやなんでもない……お前も寝ていいんだぞ?」
「嫌ですよ! さっき見た女の子たちの性格分析とか、私が考えたシチュエーションとか、色々と話したい事があるんですからね」
「んなもんここで話す気なの? 馬鹿なのかお前?」
現在は昼休憩。未だ熱気が残っているとはいえ、既にスタジアム内はそこまで騒がしくない状況だ。
そんな場所で『雄英の女子生徒たちをAVに出すとしたら~』なんて話題をしたら一発でアウトである。
結局、作間に怒られてしょんぼりした庵はスタジアムの外の屋台へと向かい、作間はその場から動かずに観客席のヒーローたちの姿を記憶したりなどをして時間を過ごすことになった。
それから一時間が経ち、午後の部が開始された。
まずは全員参加のレクリエーション種目があり、それから第三種目を勝ち上がった16人による最終種目が行われるのだ。
そしてその一回戦は、
「またかよ……頼むからキレるなよ?」
「キレねぇよ」
『レディィィィイ、START!!』
作間が死柄木の様子に冷や冷やしている中、試合は始まった。
緑谷の対戦相手である心操という生徒は洗脳の個性を持っているらしく、開幕直後にそれに嵌った緑谷が動きを止める展開になった。
しかし、突如として緑谷の左手の指が
死柄木はそれを見てまた不満顔だ。
しかし作間の方は別のものに興味を持っていた。
「洗脳……どこかの誰かの個性みたいに、他人の体を意識を奪って操れるわけだな」
「エロい個性ですよね!」
「……そうだな。何か思う事はあるか?」
「う~ん。やっぱ、せっかく操れても自分がそれを体感できないなら意味ないんじゃないですか?
『洗脳』は庵の持つ『憑依』という個性とは似て非なる個性。
条件が緩く対象も複数だが解除もされやすいのが『洗脳』で、条件は厳しいし対象も一名だが
しかし、自身が体験できる事が一番重要だと思っている庵にとっては比べるようなものではないのだろう。
「ま、どっちにも利点はあるが、マトモな受け答えができなくなるのは俺としてはNGだな」
「なるほど。セックスで喘いでくれませんからね」
「違うけど、まぁそれでいいよ」
それからもトーナメントはどんどん進んでいく。
強力な個性による一方的な展開の試合、意味のよくわからないセールストークが続いた試合、ただの殴り合いになった試合。
その全てで生徒たちが懸命に実力を出し切ろうとしていた。
そうして一回戦が全て終わり、二回戦の第一試合。
そこで再び、緑谷出久の出番がやってきた。
対戦相手はエンデヴァーの息子の轟焦凍。一回戦では巨大な氷塊を出して相手を瞬殺した生徒である。
「………」
実力が一番高いだろう存在と、最も苛立たせる存在。
どちらにしても、今後間違いなく死柄木の邪魔になるだろう存在たち。
死柄木はそんな二人が対峙する様子を、静かに見つめる事ができていた。
『さぁ二回戦第一試合、レディィィィイ、START!!』
マイクがそう告げると同時に、轟は一回戦と同様の氷結攻撃を放った。
そして緑谷は、デコピンをするかのようなポーズを取って指を弾き、発生させた衝撃波によってその氷結攻撃を防いで見せる。
そのやり取りが何度も続くうちに、緑谷の右手は個性の反動を受けたのかぐちゃぐちゃに潰れたかのように真っ赤に染まっていく。
「指って折れたら結構痛いのにすごい! しかもめっちゃ痛そう!」
「お前の場合……普通に自分から折ってそうだな」
「当たり前じゃん。ハンマー使ってぐちゃっぐちゃって感じだったよ。でも、私でも結構痛かったのに、あの子はよくそんな状態で動き回れるよねぇ」
「確かになぁ」
実体験を交えてその異常さを語る庵の言葉を証明するかのように、接近してきた轟に左腕を振って両腕共に血塗れになる緑谷。
彼は常に凄まじい激痛を感じ続けている事を証明するかのように顔を歪めていて、それでもなお個性を発動して戦い続ける。
そんな異常な姿に、死柄木の口からも思わず言葉がこぼれた。
「なんだ、あいつ……なんだ?」
理解不能な、気持ち悪い何かを見るような目でそう言う死柄木。
作間にも、そこまで痛い思いをして頑張る理由は理解できない。
しかし、対戦相手である轟は何かを感じたのだろう。何やら怒鳴り返しながら、氷結攻撃を繰り返していく。
言葉の内容も戦いの内容もヒートアップしていくのを確認しながら、作間は隣に座る死柄木に目を向けた。
「こいつら、あの時の……」
作間の意見は最初、『そんなに見たいならテレビで見ればいいんじゃないか?』だった。
『直接見たところで何か違うところがあるのか?』と。
しかしどうやらそれは誤りだったらしい。
少なくとも死柄木は、そして作間もまた、ただの子供同士のぶつかり合いに
特に、突如として轟が左半身から発した炎には、作間にそう感じさせるだけの何かがあった。
「嫌な事を思い出させてくれるよ、本当に……」
鬼気迫る表情で腕を振った緑谷の衝撃波と、どこか吹っ切れたかのような轟が発した炎がぶつかり合う。
その瞬間の二人の子供の顔を、最前列に座っていた死柄木と作間は目にすることになった。
そして、スタジアムを揺るがすほどの大爆発が起こり――
緑谷と轟のぶつかり合いに何かを感じたのは三人中二人です。
次回以降、とある人気キャラが出る予定なのでテンション上がります。