個性使ってヒーローのラブドール作ってみた   作:ロンゴミ星人

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今回ちょっと原作再現が難しい人が出てきますがご容赦ください。


第14話 三人目のヤバいヤツ

 雄英体育祭は特に事故が起きる事もなく無事に終了した。

 最後まで死柄木が暴走する事はなく、全てを見届けた彼は不気味なほど静かに帰途へついていた。

 

「いやー、それにしても最後はすごかったね! でも1位を取ったのになんであんなに怒ってたんだろ?」

「そりゃ舐めプされたからだろ。単に不調だったかもしれんが」

「え? そうなの?」

 

 雄英高校から離れ、周囲の人数がまばらになったあたりで庵がそう言った。

 体育祭一年の部で優勝したのは結局爆豪という生徒になったわけだが、決勝戦の相手である轟焦凍が個性による炎を使わなかった、要するに舐めプをされたという事に不満があるようで、表彰式でメダルを授与される時になっても暴れるのを止めなかったのだ。

 死柄木と作間はもちろんそれには気付いていたが、どうやら庵には気付けなかったらしい。

 しかしそのことで死柄木に呆れた目で見られても気にならないらしく、彼女は続けて表彰式の様子を口にしていく。

 

「それにあの子、暴れっぷりがもうヒーローってよりヴィランって感じだったよね! がっしゃんがっしゃんって鎖揺らして、目つきもこーんな感じで吊り上げて! 二人はどう思います?」

「そうだな……」

 

 自分の目元を指で斜め上に引っ張りながらそう言う庵に、作間は少し考える。

 表彰式の様子だけ見れば、確かにヴィランに見えなくもない。

 あの形相で、あの凶暴性で、仮に周囲の状況を町中に置き換えて考えると、速攻でヒーローを呼ばれるのは間違いないだろう。

 しかし。

 

「それは……」

「簡単には無理だろ。やるんなら徹底的に折ってからじゃないとな」

 

 庵の問いに応えようとした作間に代わり、割り込むようにそう言ったのは死柄木だった。

 

「え~! だってあんなに面白い顔してたのに? 死柄木さんだけじゃなくて店長もそう思うんですか?」

「……そうだな。俺も死柄木に同感だよ」

 

 作間には体育祭でヒーローを目指す生徒たちを見てわかった事がある。

 それは、本気の顔を見せた生徒たちに共通する意志の強さだ。

 一度ヒーローを目指すと決めた彼らの心はちょっとやそっとでは折れることはないのだと、彼がたかが体育祭と馬鹿にした催しの中で見せつけられたのだ。

 そしてオールマイトと直接対面した事のある死柄木の場合は、その意志がどれだけ厄介なものなのかをより深く理解することができたのだろう。

 まぁ庵は駄目みたいだが。

 

「ところで徹底的に折るって具体的にはどうやるんです?」

「……それ、お前が言うのか?」

「え?」

「待て待て首を傾げるな。死柄木まで呆れてるぞ」

「いや、もう慣れたよ」

 

 そう言いながら呆れた様子を隠しもしない死柄木は、何かを思い出したかのように首元に手を伸ばした。

 そしてガリガリと首元を引っかきながら、不満そうに顔を歪める。

 

「やっぱり肌の上に被さってる感覚が気持ち悪いな」

「それは仕方ないだろ。せっかくバレずに済んだんだからあとちょっとくらい我慢してくれよ」

「わかってる。言っただけだ」

 

 今更になって変装方法に文句を言い出した死柄木に合わせて足を早め、それからすぐに彼らは黒霧との待ち合わせ場所である路地裏へと到着した。

 そこには既にいつものスーツ姿の黒霧が待っていた。

 

「お疲れ様でした、死柄木(しがらき)(とむら)。それに作間(さくま)(すぐる)憑城(つきしろ)(いおり)も」

「御託はいい。さっさとゲートを開け黒霧」

「おっとわかりました。それでは……」

 

 黒霧が身じろぎをすると同時に、その横に人間が軽々通れる大きさの黒いゲートが出現する。

 死柄木は急ぐようにそのゲートへ入っていき、作間と庵もまたその後に続いてゲートへと入っていった。

 そして黒霧の姿もまたゲートへと消え、路地裏は静けさを取り戻すのだった。

 

 

 

 翌日。

 ようやく店へと戻ってきた作間は、今回の依頼で貰った報酬をしまい込むと、さっそく今後の商売についての企画をパソコンに纏めていた。

 体育祭への潜入で得た生徒たちのラブドール、そのラブドールを用いた裏ビデオ、そして()で売り出しているアダルトビデオが一定の認知度を得た頃に発売しようと思っていた次の商売についての企画だ。

 一気に商品の幅が増える事に喜びながらキーボードに指を走らせていた作間だったが、そんな時に誰かが店のドアを開ける音がした。

 いったい誰だと思ってパソコンから顔をあげてみれば、そこにはあの義爛の姿があった。

 

「久しぶりですね。でも見ての通り、今忙しいんですけど?」

「まぁそう言うなよ。いい話があるんだ」

「なんです?」

「お前、新しい従業員欲しくないか?」

「は?」

 

 突然の申し出に驚きの声をあげる作間に、義爛は店内とぶらつきながら話し出す。

 

「最近随分と稼いでるだろ? あと一人くらい面倒見れるんじゃないかと思ってな」

「俺は別に慈善事業で女子高生の面倒見てるわけじゃないですよ。あいつはアレで有用な個性持ってて、俺の仕事に積極的に取り組んでくれるからこそであって……」

「安心しろよ。俺がそんなお荷物を紹介すると思うか?」

「……わかった。わかりました。それじゃあ紹介だけ聞かせてもらいますよ」

 

 作間が肩をすくめながらそう言うなり、義爛は入り口のドアを二回ノックした。

 おそらくはそれが合図だったのだろう。

 頭にすっぽりと紙袋を被った男が、ドアを開けて店内へと入ってきた。

 店内に入ってすぐに周りに立ち並ぶヒーロー人形に驚いた彼だが、すぐに立ち直って作間の方へと足を進めてくる。

 

「こりゃまた随分と変わった格好の奴を連れてきたな。なんでまたそんなもん被ってるんだ?」

「こうしてねぇと裂けちまうからだ。 裂けやしねェよ

「……そうか。そりゃ大変だな」

 

 なんとも不思議な事を言う紙袋の男を相手にスルースキルを発揮した作間は、目で義爛へと合図を送る。

 その視線に促され、義爛は男の紹介を始めた。

 

「こいつは分倍河原(ぶばいがわら)(じん)。個性は『二倍』だ」

「二倍?」

「一つを二つに増やせる便利な個性だ。そうだよな?」

「あぁ、そうだ。 ちげェよ

「ふむ……まぁ個性の内容については正しいんだろうが、その話し方はなんなんだ?」

「そいつについては後で本人から聞いてくれ。ともかく紹介を進めよう」

 

 義爛は煙草に火をつけながらそう言うと、分倍河原に確認を取りながら彼の紹介を進めていく。

 彼は全国各地で窃盗やら強盗やらを重ねまくったヴィランであり、今では全国で指名手配されているのだという。

 今回作間に紹介した理由は、()()()()()から精神の均衡を失った彼が役に立てる職場だと思ったからなのだとか。

 

「つまりあんた、こいつが気に入ってるんだな? 放っておけない、と」

「あぁ。いつかのお前と同じさ」

「……そうか」

 

 過去、同じように義爛の世話になった事のある作間は、義爛がむやみに誰彼構わず世話を焼くような人間ではないと知っている。

 逆を言えば、分倍河原という男はそんな義爛が世話を焼きたくなる人間であるという事だ。

 その境遇に作間が共感を覚えても仕方がないと言えるだろう。

 ただ、もちろんそれだけで作間が分倍河原を雇う理由になることは無い。

 無いが、個性について聞いた時点で結論を出していた作間にとっては、分倍河原を採用する理由の一つになるのは確かであった。

 

「俺としては非常に有用な個性だからぜひ雇いたい……んだが、分倍河原はどうなんだ?」

「俺? 誰の事だ?

「分倍河原は何故ここで働きたいんだ? 義爛のとこに来たってことは、元々何か理由があったわけだろ?」

 

 作間が聞いたのは、あくまで義爛が作間へ紹介しようと思った理由だ。

 分倍河原が何故義爛に紹介を頼んだのか。その理由はまだ聞いていない。

 作間にそう言われた分倍河原は少しだけ硬直したが、次の瞬間頭に被っていた紙袋を脱ぎ捨てて一息に話し始めた。

 作間が初めて見た分倍河原の顔は、額の中央に大きく縦のツギハギが入った、金髪の男性だった。

 

「義爛はよくしてくれた。信用できる奴だ。 信じちゃいねぇけどな! その義爛が、あんたなら俺を必要としてくれると言ったんだ。だったら俺はあんたの役に立ってやりてぇ。 サボりはするぜ

 

 キメ顔でそれを言い切るなり、分倍河原は再び紙袋を頭に被った。

 ところどころツッコミどころはあるが、間違いなく誠意を示したつもりなのだろう事は作間にも伝わっていた。

 故に作間は、どこか不安そうにしている分倍河原へと笑顔で手を差し出した。

 

「安心しろ。無事採用だ。これからよろしく頼むよ」

「お、おぉぉ! 俺に任せとけよ店長! 絶対に任せんなよ!

 

 本当に嬉しそうな声でチグハグな事を言う分倍河原に苦笑しながら、作間はすぐ側で煙草を吸っている義爛へと目をやった。

 彼も表情には出していないが、長い付き合いの作間には結構機嫌がいいのが見て取れる。

 そんな義爛へと、作間は頼みごとをすることにした。

 分倍河原が頭に被っている、見てくれの悪い紙袋のことについてだ。

 

「とりあえずこの紙袋を別のものに変えてほしいんだが、義爛に頼んでも?」

「ん? あぁ、そうだな……いつものおっちゃんに手配してやるよ」

「頼みます」

「流石にそこまでされると悪いぜ店長! よろしく!

「……まぁ、そういうことなんで」

「任せとけよ。金は後で請求するからな」

 

 そう言ってスマホを操作しながら、義爛は店から出ていった。

 その後、作間は分倍河原へと商売の事について説明する事にした。

 そのために一度立ち上がって周囲に立ち並ぶドールたちについて説明しようとし……そこでふと立ち止まって分倍河原の方を向く。

 

「さて、確か指名手配されてるんだったよな」

「やっぱり駄目とか言わないよな? 言ってもいいぜ

「いや、流石にそんな事しないよ。ただ、呼び方が困るだろ? 仮に顔を隠してたとしても、外で大っぴらに名前呼ぶわけにもいかない。何か適当につけていいか?」

 

 作間が思い至ったのは分倍河原を雇う事に対するリスクについてだった。

 紙袋を被り、後に別の何かを被って顔を隠すのなら、そこに関するリスクは薄い。

 だが、呼び名ばかりは変えないとまずいだろうというわけである。

 

「構わねぇよ。どうとでも呼んでくれ。 変なのはやめろよな!

「そうだな……ま、わかりやすいのでいいだろ?」

 

 そこで作間は深く考える事もせず、分倍河原の個性である『二倍』から連想できる簡単な単語を呼び名にすることに決めた。

 元々表で大々的に仕事をさせる予定などないのだから、きっと適当でも問題ないだろうと考えて。

 

「これからよろしくな。トゥワイス」

 

 




というわけで体育祭はやる事もないのであっさり終わり、色んな意味でヤバい人が店員になりました。
バリエーションが無限に広がります。
話し方についてはこれで大丈夫でしょうか? ちゃんと再現できていればいいんですが。

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