個性使ってヒーローのラブドール作ってみた 作:マイティP
トゥワイスの二倍によって増えた三人目の庵は、一人寂しく『理想郷』に残って留守番をしていた。
お客はお昼ごろに一人だけ来たがそれだけ。
あとは漫画を読んだりゲームをしたりして時間を潰していた。
そして夕暮れが近づいてきた頃、理想郷の店内にあるスマホに死柄木からの電話がかかってきたのである。
『作間はいるか?』
「いませーん。店長はトゥワイスさんと私を連れてお出かけ中でーす」
『……お前はそこにいるんじゃないのか?』
「そうですよ。私は増えた方の私ですから」
『は?』
事情を知らない死柄木にとっては意味不明な説明をする庵だが、言っている事は特に間違っていない。
とはいえそのまま説明しないと理解をしてもらえないだろうと思った庵は、死柄木にトゥワイスの事と今日のイベントについての事を説明する事にした。
ぶっちゃけ愚痴を吐く相手が欲しかっただけである。
「いくら私が
『………』
「あれ? ちょっと聞いてます死柄木さん!」
『聞いてるよ。ひでぇ話だ』
「ですよね!」
『あぁ。そんなお前にいい話があるんだ。留守番なんて放ってちょっとこっちに来てくれよ』
「イくイくすぐ行きまーす!」
うんざりしていた庵は死柄木の誘いにすぐさま頷いた。
そして店の扉に鍵をかけると、店内の中央に現れた黒い霧の中に飛び込んだのである。
一応鍵をかける時には留守番を投げ出したことを怒るだろう作間の顔を思い浮かべたのだが、『どうせ怒られるのは私じゃなくて本体だし別にいいよね!』とそれすらも彼女は完全に無視した。
数時間後に本当に怒られることになった本体の庵にとっては迷惑な話である。
「うわっ、右肩どうしたんです!?」
そうしていつものバーについた庵が見たのは、右肩に怪我を負った死柄木と、いつも通りの黒霧の姿だった。
思わず怪我の様子を心配する庵だったが、死柄木はそんな彼女の疑問に答えながらも黒霧へと指示を出した。
「今から会いにいく奴にやられた。お前も来い。黒霧、行くぞ」
「いいのですか死柄木弔、ジェスターも一緒に?」
「そうだ。こいつは
「え? え?」
「わかりました。ではすぐに」
話にさっぱりついていけない庵だが、黒霧がゲートを開いて死柄木がそこを通ってどこかに行ってしまった以上、彼女もついていくしかない。
それでもなんとか状況を把握しようと頭を働かせた彼女は、大きく息を吸い込むと目の前に広がる霧に向かって声を張り上げた。
「黒霧さーん! 私全然話ついていけてないんですけどー! 簡単にでいいから説明してくださーい!」
とりあえずゲートがあるんだからまだいるだろうと思っての救援要請である。
果たしてその声はちゃんと黒霧に聞こえていたようで、ゲート状になっている霧の上部に彼の顔らしい霧が浮かび上がった。
「ヒーロー殺しとの交渉の際に一騒動あったのです。今死柄木弔が会っているのがそのヒーロー殺しですよ」
「黒霧さんマジありがとー! でも私あんまりヒーロー殺し好きじゃないんですけど……」
「ジェスター、とりあえず死柄木弔も待っていますので、移動してもらえますか?」
「そこまで言われたら仕方ないかなー」
わかりやすく説明してくれた黒霧にお礼を言った庵は、少々の不満を述べながらもすぐにゲートへと飛び込んだ。
一瞬の完全な暗闇の後に庵が見たものは、夕日が街並みに沈んでいく光景と、不機嫌そうに腕組みをしている死柄木弔。
そして、そんな街並みを眺める異様な風体の男性である。
きっとこの男がヒーロー殺しなんだろうと思った庵が彼の事をじろじろ見ていると、男は彼女に視線を向けてきた。
「なんだそいつは?」
「おい、自分の事は自分で紹介しろよ」
「あ、はい。そうですね!」
腕組みをした死柄木に促され、庵は元気よくその男に話しかける事にした。
「私は庵です。憑城庵。あなたのお名前はヒーロー殺しですよね?」
「………」
「あ、もしかして
「ハァ……子供の遊びに付き合っている暇などない。他所でやれ」
「は?」
呆れ果てた目で庵を見た男はすぐさま彼女を視界から外すと、その横で愉快そうに笑みを浮かべている死柄木へと目を向けた。
鋭い目つきで死柄木を見据える男は、どこか哀れみすら感じる口調で死柄木に話しかける。
「何も考えていない遊び感覚の子供を連れて……お前は何がしたいんだ?」
「おいおい、こいつの個性はそう捨てたもんじゃない。俺はこいつを買ってるんだ。あんたと違ってな」
「……勝手にしろ。俺はこの町を正す。邪魔はするな」
男は死柄木と二言三言の言葉を交わすと、最早言う事など何もないとばかりに貯水タンクの上から飛び降りる。
そのままビルからビルへと飛び移り、男はあっという間に姿を消してしまった。
それを黙って見送った庵は、その姿が見えなくなるや死柄木に言った。
「私あの人めちゃ嫌いになったんですけど。元からお客さん殺してたから嫌いなんですけど、もっと嫌いになりました」
「気が合うな。俺もあいつにはムカついてる。何より俺の肩を刺しやがったしな……」
元から悪かった評価が僅かな触れ合いで更に悪化したらしく、珍しく本気で嫌そうな顔をする庵。
そんな庵の隣に立つ死柄木も同様に苛立った顔でステインがいた方向を睨んでいて、そのまま彼女へと話しかけてきた。
「だからちょっと嫌がらせをしようと思ってるんだ。お前もやるだろ?」
「いいですね! やりましょう!」
苛立たし気に首元を掻きむしりながら行われた死柄木の提案に、彼女は全く躊躇うことなく飛びついた。
ヒーロー殺しに対して行う嫌がらせに単純に興味が引かれたのもあるのだが、そもそも留守番をしていた彼女が死柄木の誘いに乗ったのは『いい話』があると言われたからなのだ。
しかし現状は、嫌な奴に会わされて侮辱されただけ。
これでは話が違うというものである。
「それで嫌がらせっていったい何するの?」
「そうだな……まずはお前にも準備してもらわないとな」
「準備?」
「そのまんまじゃ暴れられないだろ? お前」
そう言って庵を指さす死柄木。
現在の彼女の体はトゥワイスの個性で作り出された二体目のコピーであり、ほんの僅かな負傷で消え去る脆いものだ。
それを抜きにしても素の庵には普通の女子高生以上の戦闘能力は持ちえない。このままでの活躍は期待できないだろう。
「黒霧と一緒に店に戻って
「店長が地下で色々弄ってたヤツの事かな……あれ? 持ってくるんですか? 憑依してくるんじゃなくて?」
「そうだ。早く行ってこい」
頭に疑問符を浮かべながらゲートの向こうに消えていく庵を見送った死柄木は、まだその場に残っている黒霧へと話しかける。
「黒霧、脳無出せ。あいつの出番はヒーローが集まってきてからだ。その前にちょっと暴れさせとこう」
「……わかりました。ジェスターはなるべく早く連れて戻ります」
そう言ってゲートの向こうに消えていった黒霧と入れ替わりに、死柄木の背後に広がったゲートから三体の脳無が現れる。
背に翼の生えた個体、長い手足を持つ四ツ目の個体、筋骨隆々で顔のない個体。
どれもUSJで暴れた個体と同じように脳が剥き出しの異様な姿だ。
死柄木は三体の脳無に町で好きに暴れるよう指示を出すと、ビルを飛び降りていく彼らを見ながらほくそ笑む。
「さぁ大先輩、あんたの面子も矜持も全部台無しにして地獄に送ってやるよ」
保須市の中心市街地にある大きな広場。
そこは夕暮れ時であっても多くの買い物客や会社帰りのサラリーマンや学生たちで賑わっていて、保須市の中でも特に人が集まる場所として知られている。
三体の
「なっ、なんだこいつぐぁぁっ!」
「ひっ! うわああああっ!?」
「ヴィランだああああああ!」
突然現れて襲い掛かってきた脳無たちから悲鳴を上げて逃げ惑う大勢の市民。
脳無たちはそんな市民たちへ更なる攻撃を行い、逃げ遅れた何人もの人々が容赦ない攻撃で宙を舞い、重傷を負って倒れることになった。
更には周囲の車やビルにまで破壊活動を行おうとする脳無たちだが、ここまで大きな騒動を起こして周辺にいるヒーローたちがやってこないはずがなかった。
「やめろお前ら! 市民に手を出すな!」
「既に重傷を負っている市民多数! 急ぎ応援を!」
「警察は市民の避難誘導を頼む! 俺たちはこのヴィランどもを!」
悲鳴や爆発音を聞きつけて、ヒーローたちが次々と広場に姿を現した。
先日のステインによるヒーロー襲撃事件の影響で巡回しているヒーローの数も増えていた事もあり、突然の襲撃にも拘わらずかなりの人数だ。
彼らは暴れる脳無達から市民を救うため、話すのも手短にして脳無たちに挑みかかっていく。
そこからは流石に経験を積んだプロヒーローが十人以上もいるだけの事はあるというべきか。
彼らは凶悪な戦闘能力を保持する脳無たちをなんとか広場内に押し留め、それ以上の被害の拡大を防ぐことに成功していた。
しかしその場に
「逃げ遅れていた市民を警察に預けてきた! 状況は!?」
「……もう一体増えた! 今度はピンクのヤツだ! 気を付けろ」
ヒーローたちが目にしたのは、またも空から降ってきた全身ピンク色の脳無だった。
全身に走るツギハギが特徴のそのピンク脳無は、
「アハハハハハ! イイネ! ターゲットイッパイカクニン!」
「喋った!?」
「他の奴らと違って知性があるのか?」
「なら……おい! お前らなんでこんなことをした! 目的は何――」
「サァ! ゲームヲハジメマショウカ!」
話す姿を見て対話ができるのではと思ったクレイドルという名の男性ヒーローの言葉をぶった切り、ピンク脳無は一番最初に目についた彼へと飛び掛かっていく。
驚愕したのは狙われたクレイドルの方である。
先ほどまでの脳無たちは市民もヒーローも関係なく、ただ無作為に暴れまわるだけであり、知性が無いようなその行動は対処も楽だった。
しかしこのピンク脳無は違うのだと、改めて気付いたのだ。
「俺を狙ってるのか!?」
「ソノトーリィ!」
「おいクレイドルがヤバいぞ! 助けに……ぐぁっ!?」
「クッソこいつら! 邪魔するな!」
一直線に標的と定めたクレイドルへと突き進み、その命を奪おうとするピンク脳無。
周りのヒーローたちはなんとか標的となったクレイドルを守ろうとするのだが、ここにきて他の脳無が邪魔をする。
ピンク脳無の元へ向かおうとするヒーローを横から殴りつけ、何かを飛ばそうとする女性ヒーローに空中から襲い掛かり、再度近づこうとするヒーローたちに車やガードレールを投げつけて吹き飛ばす。
それによってヒーローたちが失ったのはほんの十数秒に過ぎないが、しかしその間にピンク脳無は標的とした男性ヒーローを捕まえてしまっていた。
「ツーカマーエター!」
「クソッ! 離せ! この、喰らいやが……!? 個性が――」
「イタダキマース!」
「は? ぎっ、あ゛あ゛あ゛ァッ!?」
助けに入ることができなかったヒーローたちが見たのは、ピンク脳無がその巨大な口でクレイドルの頭にかぶりつく瞬間だった。
頭部を丸ごと口の中に収めたピンク色脳無は鋭い歯でブチブチと首を噛み切ると、頭部を失った肉体から吹き上がる血を浴びながらガリゴリと頭を噛み砕いていく。
あまりにも凄惨な殺害方法を目にしたヒーローたちは、まだ戦闘が終わっていないにもかかわらず顔面蒼白になった。
「あいつ……頭を食いちぎりやがった……」
「…うぐっ! ゲェェェッ……!」
「おいしっかりしろ! まだヴィランは残ってる! 俺たちがなんとかしなきゃならんだろうが!」
「でも……でもあいつ……ヒッ!?」
口の中からボタボタと血と脳漿を吐き出しながら、ピンク脳無は嘔吐していた一人の女性ヒーローに目を向ける。
ニタリと笑みを浮かべたピンク脳無は、その女性ヒーローに聞こえるような声で喋りながら再び動き出した。
「ツギハ……シヌマデツブシテミヨウカナ! キニナルシ!」
「あいつ……私を見た!? 私を狙う気だ!」
「おい! 落ち着け!」
「まずいぞ! ヴィランが一人いない! 広場から消えたぞ!」
「はぁ!?」
標的にされて混乱するヒーロー。
惨劇に乗じて広場から消える脳無。
まだまだ広がりを見せるこの騒動は、まだまだ終わりそうになかった。
「いいぞその調子だジェスター! どんどん殺せ!」
双眼鏡で広場の惨状を眺める死柄木は、ジェスターがヒーローの首を引き千切った様子を見て喝采をあげていた。
彼が今いる場所は広場を一望できる少し離れたビルの屋上。
ジェスターがピンク色の脳無に憑依して戦場に飛び込んでいった後は、現場を目に収めようと場所を移動していたのだ。
ちなみに庵の体も一緒に移動してきていて、すぐ近くのタンクの陰に横になっている。
「あなたは参戦なさらないのですか?」
「馬鹿か怪我してんだよ。それにあんだけ楽しそうなんだ。邪魔しちゃ悪い」
怪我をした右肩を抑えながら死柄木は黒霧に言う。
今回の死柄木の目的はヒーロー殺しを思いっきり虚仮にして、バカにして、可能なら殺してしまう事だ。
黒霧は仲間にした方がいいと何度も言っているが、冗談ではなかった。
「で、黒霧。あいつが暴れてる間にヒーロー殺しは見つけたか?」
「はい。戦闘中でしたので、その路地をマークしてあります」
「戦闘中? まぁいい、そのまま見張っとけよ。とびきり面白い殺り方を考えてあるからな」
「………」
不服そうに黙り込む黒霧を無視し、死柄木は眼下に広がる戦場に双眼鏡を向ける。
広場ではちょうどジェスターが女性ヒーローを抱きしめ、全身の骨が折れて内臓が口や尻から飛び出るまで圧殺するところだった。
これでヒーロー側の被害者は二人目だ。
この調子でいけば更なる被害が期待できるだろう。
「一晩で十人もヒーローを殺せば、世間はもう誰もあんたの事なんざ覚えちゃいないぜ。ヒーロー殺し」
死柄木の考えた作戦の一つがこれだ。
とにかく脳無たちとジェスターでヒーローを殺しまくり、ヒーロー殺しのお株を奪ってやる事である。
そのためにわざわざ人通りの多い場所に脳無を落下させてヒーローを集めたのだ。
既に作戦は半分くらい成功していて、後は可能な限りヒーローを殺し、最後のトドメに入るのみである。
作戦がうまくいっていて上機嫌の死柄木は、いつになく高いテンションで呟いた。
「さぁもっと殺せジェスター! ヒーロー殺しに吠え面をかかせてやろう!」
ちょっとした影響により、徹底的な対応を知った死柄木。
『ジェスターⅡ』
ドクターから受け取った脳無を作間が補修したもの。
とある模造個性を実験的に組み込んだ結果、脳が機能不全に陥った上位個体。
現状、庵が中に入る事でしか動作しないためプレゼントされた。
また作間により、動物系個性を持った人間の爪や牙などが移植されている。