個性使ってヒーローのラブドール作ってみた 作:マイティP
R18版と同時投稿になります。
『――とまぁそういうわけだ。まさかお前も保須に来てるとは思わなかったけどな!』
「ヒーロー殺し一人にこの騒動とは随分と派手にやったな」
『あぁ! せっかくだから楽しまないともったいないだろ? ジェスターも随分楽しんでるみたいだぜ?』
「あいつは留守番をさせてたはずなんだがなぁ」
死柄木からの電話を受けた作間は、保須市の騒動についての話を聞かされていた。
ヒーロー殺しとの接触、その際の
留守番を任せていたはずの庵の分身が勝手に店を閉めた事も含め、作間にとっては驚くべき内容の話だった。
とはいえ、今更作間ができる事は何もない。
作間はとりあえず後で庵を叱る事を決めた。
『さて、そろそろトドメを刺してやるか。じゃあな』
「わかった。色々と教えてくれて感謝する。頑張れよ」
随分機嫌が良いらしい死柄木との電話を切り、作間はスマホをポケットへとしまった。
そうしてすぐにため息を吐いた作間に、トゥワイスは不安そうに話しかける。
「それで店長、庵ちゃんの事は大丈夫なのか? もう手遅れだろ?」
「いや……どうやら庵の顔バレは心配ないらしい」
「おぉ! 死柄木ってのも結構気が利くんだな!」
「俺も割と驚いてる。そういうわけで庵、今後も普通に買い物行っていいからな」
死柄木との電話においてヒーロー殺しとのやり取りや、現在起きている騒動についての説明を色々と聞いた作間だが、彼が一番に気にしたのは庵の顔が世間にバレる可能性についてだった。
今後の事を考えれば、庵が
しかし死柄木もそこは考えていてくれたらしく、体の方はちゃんと貯水タンクの陰に隠してこの後も人目に晒すつもりはないという答えが返ってきていた。
庵が死柄木にとってちゃんとした仲間として意識されている事が判明し、作間としては二重の意味で一安心である。
庵もスマホで保須の状況を調べながらも内心では自分の顔バレの事を心配していたのか、それを聞いてすぐに作間の方を向いて安堵の息を吐いた。
「本当ですか!?これでお買い物とかに困らなそうですね! あとは私もあっちに参加できれば最高だと思うんですけど」
「今日はもうずいぶん楽しんだだろ。ほら、車に乗れよ。店も閉店してるし移動するぞ」
「ちぇー」
不満げに唇を尖らせる庵はブツブツ文句を言いながらも車へと乗り込んだ。
実は脳無たちの襲撃による影響で周囲の避難が始まり、作間たちが向かおうとしていた焼き肉屋も急遽閉店してしまったのだ。
おかげで別の市に移動するまで焼き肉がお預けとなり、加えてもう一人の自分が楽しそうな事をやっていると聞いて、庵のテンションはガタ落ちだった。
そんな彼女を無視して、作間もトゥワイスと共に車へと乗り込む。
「さて。それじゃあさっさと保須市を出るか。腹も減ってるしな」
作間はそう言ってエンジンをかけると、急ぎ保須市から離れるために車を発車させようとした。
するともう関われない保須市の騒動はどうでもよくなったらしく、後部座席では庵とトゥワイスの二人が焼き肉で盛り上がり始めた。
「よし! それじゃあ今度こそいいお店見つけないとね!」
「そうだな! 俺も手伝うぜ庵ちゃん!どこでもいいから連れてってくれ!」
「お前ら、警察に目を付けられない程度には静かにやってくれよ」
駐車場周辺では、既に警察による避難誘導が行われているのだ。
その中を走らなければいけない作間は騒ぐ二人に厳しく注意すると、今度こそ車を発車させるのだった。
脳無たちが降り立った保須市の中心市街地。
そこではジェスター率いる脳無たちと、市内から集まってきたヒーローたちの戦いが繰り広げられていた。
「カズガソロウトサスガニコワイカナ? デモヒトリヒトリハソウデモナイネ!」
「何を……っ!? ごがっ!」
ピンク色の巨体で縦横無尽に走り回るジェスターは、嘲笑いながらまた一人のヒーローを手にかける。
そのヒーローは全身の肌を岩のように変化させることができたヒーローだったが、ジェスターが接近した途端にそれが解除され、あっという間に胴体を左右から叩き潰されていた。
ぺしゃんこになった胴体からは折れた肋骨や臓物まみれの血が溢れ、一瞬のうちに目から光が消えていく。
これでジェスターの手にかかったヒーローの数は、既に七人に達していた。
「ロックレイジがやられた!」
「気を付けろ! あいつには絶対に近づくな!」
「わかってる! でも個性が使えなくなるなんてまるで……!」
「それより遠距離攻撃できる奴は飛んでる奴を対処しろ! すぐにだ!」
「地上の顔のないデカブツはこっちに任せろ!」
抜群の危険性を見せつけるジェスターを名乗るピンク脳無を警戒するヒーローたちだが、当然それだけを警戒すればいいわけではない。
付かず離れずの位置にいる二体の脳無にも、既にジェスターを警戒していたヒーローを一人ずつ殺されている。
合計九名の犠牲者が出ている惨状だが、逆を言えばそれでもなお殺されずに抗っているヒーローたちの実力はかなり高いと言えるだろう。
既にジェスターの持つ個性もバレてしまっており、彼女からしてもなかなか殺す機会が見いだせない状況になっていた。
「よくもやってくれたな、ヴィラン!」
広場から離れてしまった脳無の一体を仕留めたエンデヴァーが姿を現したのは、ちょうどそのタイミングだった。
「っ! エンデヴァーさん!」
「な、№2! 助かった!」
「ピンクのヤツは俺が何とかする。他の対処は任せるぞ!」
広場の惨状を見て激昂する彼の姿に、ヒーローたちは助かったとばかりに顔を明るくして喜んでいる。
エンデヴァーはそんなヒーローたちに下がる様に指示を出すと、すぐさまジェスターの方を睨みつけた。
「エンデヴァー? ワタシデモシッテルユウメイジンジャン!」
「貴様のようなものに知られていても嬉しくもない! ふん!」
エンデヴァーの登場に興奮するジェスターは駆け出そうとしたが、エンデヴァーはうまく距離を取りながらジェスターに膨大な量の炎を浴びせていく。
この広場での戦闘でヒーローたちが得られた情報は、この広場に向かっている途中だったエンデヴァーにも既に与えられていたのだ。
『ピンクのヴィランに約10メートルほどまで近づくと個性が使えなくなる』という事を事前に知っている以上、彼がその範囲に入ることは決してない。
いくらジェスターが追いかけても決して近づかせずに炎で押し戻し、しかし離れすぎて炎の威力が弱まらない程度の距離を保って燃やし続けていた。
「アアアアアッモウ! コンナノツマンナイ!」
「それは結構。このまま力尽きるまで焙らせてもらおう」
「ムガアアアアアッ! ムカツクッ! コウイウトキハ……ン?」
子供の癇癪のようにぎゃあぎゃあと喚くジェスターに、油断することなく炎の放射を続けるエンデヴァー。
しかし、左右に飛び跳ねたりジャンプしたりして炎から逃れようとしていたジェスターが、急にその動きを止めた。
そして唐突にその場で小さく蹲ると、炎の中で小さく何かを呟いた。
「ワカッタ。コッチハモウツマンナイカラ、コンティニュースルネ」
「……なんだ?」
自身の放つ炎の勢いに遮られてジェスターが何を言ったのかまではわからなかったエンデヴァーだが、明らかに異様なその変容ぶりに警戒を高める。
だが、蹲っていたジェスターが足に力を込めている事には気付けなかった。
「サヨーナラエンデヴァー! モウアイタクナイネ!」
「何っ!?」
驚愕するエンデヴァーの前で、ジェスターはそのまま垂直に跳び上がった。
弾丸のような勢いで炎の中から飛び出し、速度が衰えないまま上空へとすっ飛んでいく。
そしてちょうどそこには、不自然なほど大量の
「何の個性だか知らんが逃がすわけには……くっ! 邪魔だどけ!」
気付いたエンデヴァーが追いかけようとした途端、他のヒーローを振り切った筋骨隆々な脳無が掴みかかる。
明らかに足止めのためだけに掴みかかってきたその脳無の頭を高温の炎で焼き切ったエンデヴァーは、上空を見て舌打ちを漏らした。
「逃がしたか」
上空にはジェスターどころか、漂っていたはずの黒い霧すら残っていない。
何人ものヒーローを殺した犯人を逃がしてしまったと理解したエンデヴァーは、その顔を酷く歪ませるのだった。
黒霧にジェスターを回収するように指示を出した死柄木は、ある路地裏を一望できるビルの上に立っていた。
彼はその路地裏で起きていた戦闘の様子を双眼鏡で覗き見ながら、庵を呼び戻すタイミングを見計らっていたのだ。
そんな死柄木の隣に、憑依を解除して元の体に戻った庵と、ジェスターとしての体を回収した黒霧がやってくる。
黒霧に渡されたコートのフードを目深に被っている庵は先ほどの戦闘の事を思い出しているのか、かなり不満げな様子で死柄木に愚痴をぶちまけた。
「あのおっさん強すぎ! 全っ然近づけないしさぁ! あんなにいっぱい炎出すとかズルじゃん!」
「あの体で勝てないならまた別ので試せばいいだろ? 気にするなよ」
「ていうかこの体に戻ってもまだ暑い気がする……これ脱いでいい?」
「駄目だ。作間にお前の顔は晒すなって言われてる。 それより……見えてるよな? アレ」
死柄木はそう言って顎をしゃくり、先ほどまで自分が見ていた路地裏を見る様に庵に促す。
庵はその言葉と共に受け取った双眼鏡をのぞき込み、一気に上機嫌になった。
そこには、見覚えのある雄英高校の生徒たちによって縛り上げられるヒーロー殺しの姿があった。
傍に座り込むプロヒーローや周囲の荒れ具合からいって戦闘があったのは確実であり、状況から見てもヒーロー殺しが敗北したのは間違いないと言えるだろう。
つまり、ヒーロー殺しはヒーローでもない子供に負けたという事になる。
「ぷぷーっ。子供に負けるとか超ウケるんですけど!」
「だよな! えらっそうにしやがってまさかあんなガキどもに負けるとは!」
USJで起きたことはさっぱり忘れ、二人はゲラゲラと笑いあう。
その横に佇む黒霧は流れについていけていないのか、どこか困惑したような様子で二人を眺めていた。
そのまま涙が出るほど面白がっていた死柄木と庵だが、黒霧から路地裏で動きがあった事を教えられて笑うのを止める。
どうやらヒーロー殺しの拘束を終えた生徒たちが、路地裏を出て通りに出ようとしているようだ。
「さて、あいつには随分笑わせてもらったが、せっかくだからこのまま殺っちまおう」
「いぇっさー! でもどうやって殺すの? 確か、本当だったらあのピンクちゃんに憑依して不意打ちとかする予定だったよね?」
「別にそれでもいいんだけどな。せっかくガキどもにボコられてくれたんだ。もっと酷い死に方をさせてやろう」
死柄木はそう言ってニヤリと笑うと、さっきからずっとすぐ近くの床に転がっていた一人の警察官を指し示した。
庵もそれを見て死柄木のやりたい事を理解したのか、ぱぁっと顔を輝かせる。
「あいつが負けそうになってるのを見て黒霧に用意させた。それなら簡単に近づけるだろ?」
「きゃーっ! 死柄木さん天才! さっすがぁ!」
「わかったらさっさと行けよ、黒霧に送らせる」
「りょーかいでーす!」
元気よく返事をして警察官の体に憑依した庵は、すぐさま黒霧が作り出したゲートに飛び込んで姿を消した。
死柄木も一応庵の演技に関しては一定の評価を置いている。
きちんと警察官としての演技を行い、ヒーロー殺しを捕らえた生徒たちに近づき、隙を見てヒーロー殺しを仕留めるだろう事を疑ってはいなかった。
だからこそ死柄木はこのまま観客に徹することを決め、路地裏から出た先の様子がもっとわかる場所に移動しようと決め、黒霧に作らせたゲートをくぐろうとした。
そんな時である。
死柄木は、遠くからだんだんと羽ばたく音が近づいてくることに気付くのだった。
警察官に憑依した庵は困惑していた。
最初、庵にとって拘束したヒーロー殺しと一緒にいる生徒に近づくのは、彼女にとってとても簡単な事だった。
彼らは警察官の姿をしている庵をすんなり信じ込み、まるで疑わなかったからだ。
その場にエンデヴァーに指示を受けたヒーローたちが救援にやってきた時もちゃんと誤魔化せたし、そのせいでヒーロー殺しを殺す隙がさっぱり無くなったとはいえ、時間を掛ければ近づく瞬間くらいはできるはずだった。
しかし庵が困惑する事になるのはここからである。
突然に空から脳無が降ってきて、優先目標であるはずのヒーロー殺しではなく何故か生徒の一人を攫った事。
いつの間にか意識を取り戻したヒーロー殺しが拘束から抜け出し、どうやってかその脳無を空から落として殺した事。
そしてその場に空を飛べる脳無を追いかけてきたエンデヴァーが姿を現した事。
どれもこれも庵にとってはスピード展開過ぎてわけがわからない事なのだが、中でも特に理解ができないのは、脳無を殺してこちらを振り返ったヒーロー殺しを前にして、その場にいる全員が動きを止めてしまった事だ。
「贋物……正さねば……誰かが血に染まらねば……
(なんでエンデヴァーまで止まってるんだろう。あんなに強いのに)
ヒーロー殺しの持つ気迫、異常なほどの殺意をぶつけられて、その場にいる全員が顔色を変えて動きを止める。
そんな中、庵は一人だけ呑気に首を傾げていた。
安全圏から憑依を行っている庵には、ヒーロー殺しの気迫も殺意は伝わらなかった。
せいぜい「なんかすごい顔でよくわからない事を言ってるな」くらいで、それを受けた周りの人間が動けない理由がさっぱりわからなかったのだ。
とはいえ周りが動きを止め、ヒーロー殺しに注目している状況は庵にとっては都合が良い。
おかげで誰にも気付かない内に、彼女は拳銃を取り出して狙いを定めていた。
「俺を殺していいのは、
そう吠えるステインの気迫の前に未だ動けないヒーローたち。
ヒーロー殺しから放たれる異常なまでの威圧によって場が支配され、誰も警察官に扮した庵を気に留めない。
そんな中で複数回の銃声が響き渡り、胸に弾丸を受けたヒーロー殺しが仰向けに倒れていく。
ヒーローたちの視線が一気に集まるのを感じながら、庵は借り物の顔でいつもの笑顔を浮かべていた。
「あんなこと言うからフリだと思って」
そう言った途端に何かを理解したらしい小柄な老人が突進してくるのを最後に見ながら、庵はその場で憑依を解除するのだった。
そんなわけでステインさんサヨナラ。出番あんまなくてごめんよ。
活動報告も幾つか更新してますのでよければ見てってくださいな。