王様候補の番剣達   作:ケツアゴ

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早めの登校の理由

 急な話だが、俺の登校時間は早い。通っている真桜学園(しんおうがくえん)迄の距離は雫との時間を大切にしながら歩いても十分有れば十分なんだ。だが、それなら朝から雫とイチャイチャしてたいって思うんだが、やらなくちゃいけない事も多くてな。

 

「じゃあな、雫。少しの時間とはいえ会えないのは寂しいぜ」

 

「私もさ。でも、会えない時間が絆を育むし、耐えてみせるよ」

 

「お前達、毎朝毎朝飽きずに同じ事繰り返して……」

 

 校門前で雫と分かれる時、身を引き裂かれる想いを耐えて、最後に手を握りあって別れるんだ。登校時間が結構な割合でかち合う鳥阿(とりあ)先生は昔から何度も向けて来た呆れ顔だが気にしない。同じクラスじゃなかったら悲しみはこの比じゃねぇんだろうな……。

 

 おっと、急がないとな。遅れちまったら、何の為に雫にまで早起きを付き合わせて登校したんだか分からない。身支度が大変だろうってのに俺の分の弁当まで作ってくれるんだからな。よし! 明日は俺の当番だから雫の好物を沢山入れてやろう。

 

「さてと、今朝の予定は……」

 

 手帳を取り出して予定を確認。先ずは写真愛好会か……。

 

 

 

「普通、心霊、心霊、心霊、普通、普通、明らかにヤバい心霊、心霊、普通」

 

 写真を整理しているんだが、大量の写真の殆どが心霊写真ってのは本当にビビるよな。でも、これがこの愛好会の普通なんだ。どうも顧問も所属する生徒もそんな体質の奴を引き寄せやすいのか知らねぇが、こりゃ何時まで経っても人数が足らずに愛好会のままな訳だよ。

 

「毎回有り難うね、迅君」

 

「いやいや、友達の頼みだから気にすんなって。……この写真は気にしろよ?」

 

「大丈夫。何時ものお坊さんに予約の電話入れてあるから」

 

 そう、俺が朝っぱらから写真愛好会の手伝いをしている理由、それは所属する生徒の殆どが友達だからだ。確かに恋人との時間を大切にしたいけどよ、友達を蔑ろにする奴が雫に相応しいのかって話なんだよ。だから俺は合間を縫って友達の為に時間を使い、一緒の時間は雫に最大の愛を注ぐ。

 

 さて、次に行くか……。

 

 

「毎朝悪いね。どうも僕に負けるのが嫌で先輩方は相手をしてくれなくてさ」

 

「数本程度なら構わないって。友達だろ?」

 

 次にエースとして期待されている剣道部員の相手をして……。

 

 

「だから毎回毎回言ってるだろ! 整理整頓は必ずしろって! 幾ら友達でも次は無いからな!」

 

「勘弁でござるよ、迅氏~!」

 

 時に整理整頓が苦手な奴らばかり集まったアニメ研究会で資料の整理を手伝いながら今までで十回以上言っている事を叫ぶ。

 

 

 

「こらこら、喧嘩してるって聞いたから止めに来たぜ。友達だし、俺の顔を立てて引いてくれよ」

 

「ちっ! 迅の頼みなら仕方無ぇか」

 

「迅の顔を立ててだ。テメェを許した訳じゃ無いからな!」

 

 そして時に対立する不良グループのトップのタイマンを止めた。やれやれ、今朝の予定は急に入った喧嘩の仲裁で最後か。未だ授業前に雫と話す時間程度は……。

 

「相変わらず他の奴の世話係か? 友人とはいえ甘やかし過ぎだが、どうせならついでに私の手伝いもして貰おう。美術室まで荷物運びだ」

 

「……了解」

 

 悪い、雫。鳥阿先生に頼まれたら断れねぇ。うん、お前はお前の友人との時間を大切にしてくれれば嬉しい。

 

 

 

 

「ねぇ、剣谷さんの彼氏だけれど、他の奴の世話焼きばっかで彼女を蔑ろにしているし、私が一言言ってあげようか? 一応彼奴とは友達だしさ」

 

「いや、構わないのさ。私はね、友達を大切にする彼が好きなんだ。それに私との時間をとても大切にしてくれるんだし、不満なんか無いさ」

 

 

 

 

 鳥阿紅麗(とりあ くれい)、中分けにした黒髪に不機嫌そうな目、全体的な印象は蛇なこの先生は、嫌いな先生ランキングが有れば上位間違い無しな位に嫌われている。昔から教え方は上手なのに言い方がネチネチと嫌味っぽいんだ。昔から……そう、俺は高校に入学する前、小学生の時に通っていた子供向けのお絵かき教室で当時美大生だったこの人と知り合ったんだ。

 

 いや、最初は俺も嫌な人って思ったけれど、教わった通りにすれば上達したし、話してみれば絵の事ばかり考えているコミュ障なだけで普通に面倒見の良い人って分かったよ。まあ、熱心に教えているけれど大抵の奴には粘っこい嫌味としか感じないけれどな。

 

 まあ、耐え抜いて残っている美術部の部員とか俺はその辺を理解しているし、嫌いな先生ランキングには投票しないけどな。

 

「そう言えば先生、この前のコンクールで賞を取ったんだってな」

 

「……ふん。金賞でも無いのに大袈裟な奴だ。お前は気楽で羨ましい事だ。あの程度の評価で喜べるのが不思議でならん」

 

 これを翻訳して簡単に纏めると、『私は更に上を目指す。今の評価で喜んではいられないだが、素直に喜べるお前は本当に良いな』、だ。

 

「相変わらず口下手だよな」

 

「私がか? お前の基準は理解不能だな。自分と同じく学園の七割以上が友でなければならないとでも?」

 

 いやいや、そこまで多くは無いって精々が半分程度だし、残りは友達の友達程度の顔見知りでしか無いからな。未だ入ったばかりの一年生には二十人位しか友達居ないしよ。そんな風に話をしながら美術室まで向かっていたんだが、美術室の前に立っている二人の姿があった。一年生の女子と守良(かみら)先生だな。

 

「……お早う御座います、守良先生。私に……ではなく成上にですね」

 

 面倒見が良いからって生徒に人気の守良先生だが、どうも鳥阿先生は苦手っぽいんだよな。見ていると避けているのが分かるし、今も抑えている積もりだろうけれど嫌そうな顔だ。だから余計に生徒に嫌われるんだよって言った方が良いんだろうな。

 

 それは兎も角、女子生徒に頼まれて来たんだろうって察知した鳥阿先生は俺の方を見る。まあ、何度も手伝い中に連れて来ているからな。用件だって分かるだろうさ。

 

「ええ、お早う御座います、鳥阿先生。ほら、一年生で貴方に馴れていないんだから怖がってますよ。実はこの子が成上君に話が有るって相談を受けまして」

 

「そうですか。しかし私の顔は生まれ付きなので善処の方法が有りませんね。では、何時も通り終わらせて来い」

 

 何時も通り、そう、俺も鳥阿先生も一年生が何の用なのかは大体理解している。まあ、この子には悪いがさっさと終わらせて来るか。俺は一年生の子に手招きされて廊下の曲がり角に向かう。そうしたら予想通りに真っ赤な顔を更に赤くして手を差し出して来たよ。

 

 

「あ、あの! この間不良に絡まれた時に助けて貰ってから好きになりました! 私とお付き合いして下さい!」

 

 きっとこの子なりに勇気を振り絞ったんだろうな。でも、駄目だ。俺の心は決まっているから。

 

 

「悪い。俺、彼女が居るんだ」

 

「そ、そうですか……」

 

「でもさ、友人だったら構わないぜ? 俺、男女問わずに友達が多いからな。期待させるみたいだけれど、本当に友達で止まるので良いならアドレス交換するか?」

 

「は、はい! でも、私は諦めませんから!」

 

 アドレス交換を終えるなり彼女は走り去って行く。この通り、俺の愛する雫は見る目があるから俺は偶に告白されるんだ。まあ、返事は変わらないけれど、折角好意を持ってくれたんだし、せめて友人として付き合いたい、それが俺の我が儘だ。雫も呆れながらも俺らしいって笑ってくれているよ。

 

 

「さてと、さっさと終わらせて雫と話を……」

 

 だが、非情な事に予鈴の音が鳴り響く。そ、そんな……。授業前に雫と話す事が出来ないなんて絶望だ……。廊下は走ったら駄目だから、もう一言告げるだけしか出来ない。俺は先生達に教室に向かうと伝え、走らない程度に教室に到着する。俺が最後に入ったからか注目が集まっていたぜ。

 

 

「雫、愛しているぜ」

 

「私もさ!」

 

 

 

 

「……今日は愛しているの方か」

 

「ちっ! 好きだぜって言う方に焼きそばパンを賭けてたのによ」

 

「ほら、授業開始する時間よ」

 

 あ~あ、さっさと授業終わらねぇかな。勿論授業は真面目に受ける俺だが、休み時間が待ち遠しい。雫と言葉を交わす時間を一日千秋の想いで待ちわびていたんだ。……あっ、この数式はテストに出そうだな。

 

 

 




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