今私が出している小説と並行して書くので、投稿頻度はあまり保証できませんが、本家様と合わせて、楽しんでいただけると幸いです。
それとみほのオルガへの呼び方ですが、義兄弟でさん付けは不自然だと思ったので、呼び捨てになっています。他にも違和感などがありましたら感想欄にお書きください。
それでは、どうぞ!
_______オル、ガ………
_______俺、達で…………
_______鉄華団、を……………
◆
「……ルガ、オルガ」
「くっ………ぅん?」
微睡みの中から、誰かの声とともに目が醒める。
視線を上へ上げると、そこには見知った顔があった。
「___おぉ、ミカ」
「おぉ、じゃないよ。またこんな所で寝て。………もうすぐ、
「分かってるよ……」
固い鉄床の上で寝ていたからか、所々痛む身体を動かす。ポキポキと、骨の鳴る音が小気味良い。
「ミカさーん、いましたー?」
「うん」
と、薄暗い倉庫に響くような、女性の高い声が聞こえてくる。その声を聞くと、ミカと呼ばれた少年は間延びした返事を返した。
そしてその声もまた、オルガにとって聞き慣れた声だった。
「どーしたー?みほー?」
「どーしたじゃないよ!あとちょっとで試合始まっちゃうよ!」
「分かったー……ミカ、行くぞー」
「うん」
そう言って立ち上がると、青年_______オルガ・イツカは、自分を呼んだ少女の方へと向かっていった。
そして少年は、オルガの後に付くように歩みだして_____一度足を止め、後ろを振り返った。
「…………」
_________そこには、白い装甲に身を包んだ、鉄の悪魔が鎮座していた。
______大洗学園艦。旧称、突撃艦【
その学園艦の居住区の一角にあるマンションの一室で、ベッドの上で気持ち良さげな寝息を立てて、平和な寝言を呟く少女がいた。
「……やっぱり、ケーキは苺ショートだぁ……」
______ピピッ!ピピッ!ピピピピピ________!
「_____うわわっ!?」
突如鳴り響いた目覚まし時計の甲高い音で目が醒めると、ベッドから転がるように起き上がり、隣の机に置かれた目覚まし時計のアラームを止めた。
そして条件反射的に、大急ぎで布団を畳み寝間着を脱ぐ。
「…………はっ!」
と、そこで今自分がいる部屋が家では無く、現在通っている学校の寄宿舎だと気付いた。
そしてすぐに、コンコン、と戸を叩く音と共に、誰かの呼ぶ声が聞こえる。
『おーいみほ、どーした?』
聞き慣れた声。_______十年以上共に過ごしてきた、兄の声だった。
その声と共にようやく今の自分の状況を再確認し、そしてふと、笑みが零れた。
「そっか………もう家じゃないんだ!」
◆
みほが支度を終えると、テーブルの上には目玉焼きとトーストが置かれていた。
簡易的に備え付けられたキッチンには、身長が2mはあろうかという男子が立ち、フライパンを洗っている。普通であれば驚くところだが、みほにとってその姿はもう見慣れたものだった。
「ほら、簡単なもんだけど、朝飯作っといたから、座って食っててくれ」
「ごめんオルガ……でも、別に毎朝来なくてもいいのに」
「良いんだよ。早起きするのは苦じゃねえしな。それに、妹の世話見んのも、家族の仕事だ」
「………年は同じなのに」
そう言って少し頰を膨らませたみほに、彼は少しの笑みを浮かべる。
男の名前は、オルガ・イツカ。
みほと同じく、大洗学園に通う生徒であり………彼女の、義理の兄であった。
彼も後片付けを終えるとみほと同じテーブルに座り、いただきますと一言言うと、トーストにかじりついた。
その後朝食を終えると、学生鞄を持って家を後にする。一度戻って鍵を確認すると、今度こそ外に出た。
今年からこの学園艦に移ってきたが、その街並みにももう慣れたものだ。通学路にあるパン屋から漂う、焼きたてのパンの香りにいつも心くすぐられる。
ふと上を見ると、そこには空か
しばらくそうして歩いていると、みほが横にあったコンビニに視線を向けながら歩き出した。みほの悪い癖だ。
「おいおい、前見て歩けよ」
オルガが注意したが、もう遅い。
「うちの方には無いなぁ……サンクスふぐっ!?」
案の定前の見えていなかったみほは、電柱に立て掛けられた看板に思い切り頭をぶつけてしまった。なんとも間抜けな声と共に、ガツンという痛そうな音が響く。
「痛てて………」
「言わんこっちゃねえ………大丈夫か?みほ」
「う、うん………ありがと………」
額のあたりをさすりながら、返答する。
その後は特に何事もなく、自分達の通う学校である、大洗学園に辿り着いた。昔は女子校だったという話だが、 今ではすっかり共学化しており、男子生徒の姿も当然見受けられる。
そこで校門前に、オルガとみほがよく知る人物がいた。
「よっ、ミカ」
「あ、オルガ、みほ」
「ミカさん、おはよう」
「おはよ」
オルガ達が挨拶したのは、昔からの友人であり、オルガにとっては唯一無二の相棒と言える存在_____大洗学園一年生徒、三日月・オーガスであった。
無表情でクールな雰囲気を纏い、制服の袖には、【風紀委員】と書かれた腕章を付けている。
「今日も風紀委員の仕事か?精が出るな」
「これが仕事だからね。オルガ達も早く教室行かないと。もうすぐHR始まるよ」
「っと、そうだな。んじゃ、また後でな」
「じゃあね、ミカさん」
「うん」
オルガ達に手を振ると、三日月は再び風紀委員の仕事に戻った。彼が所属する風紀委員は毎朝の遅刻の取り締まりや、校則に違反している生徒がいないかチェックする仕事があるのだ。
その後教室に着いてからはこれといって変わった事もなく、授業を受けて午前の部が終わった。昼休みも、
_______問題は、そこからだった。
「へ〜、じゃあイツカくんって、火星生まれなんだー。道理でこの日本人離れした………」
「まあな。そんでそこの孤児院で育って、みほの家に引き取られてな」
「あ〜その……なんか、話題にしちゃいけない感じだった?」
「いや、気にしなくていいさ」
「火星ですか……一度行ってみたいものです。私の知らない花が咲いているかもしれません」
「地球じゃ見られないものもあるからねー」
昼食を食べ終わったみほ達は、教室の机を囲んで談笑していた。
オルガとみほの他にいるのは、今日友達になったクラスメイトの武部沙織と、五十鈴華だ。
二人ともみほとオルガともすぐに打ち解け、今もこうして楽しく話していた。
「_____そうなのー?私なんか頼りない、って前の学校じゃいつも叱られてばっかりだったの。どうすれば五十鈴さんみたいになれるんだろう……?」
「華道をずっとやってたから、その所為かしら」
「へー凄い!私もずっとやってみたかったの!女らしくて華やかで良いよね〜」
「みほが華道、か………いいんじゃねえの?なぁ、沙織さん」
「うんうん、イツカくんの言う通り!やっぱり女は華やかさがないとねー!」
オルガが調子良さげに聞くと、沙織も同意してうんうんと頷いた。
三人にそう言われた華は、嬉しさと気恥ずかしさが混ざったように、少し頰を赤らめた。
するとみほが身体を直し、沙織と華の方に向いた。
「二人とも友達になってくれて、ありがとう!」
みほの言葉に、二人は一瞬呆けたかと思うと、すぐに笑みを浮かべた。
「うん!」
「こちらこそ」
そうやって三人が笑いあっているのを、オルガは静かな笑みを浮かべて眺めていた。
「(……ようやく、出来たんだな。………みほの………)」
と、そんなオルガの思考を遮るかのように、教室の扉から三人の女生徒が入ってきた。
一人は片眼鏡を掛けた、ツリ目が特徴的な生徒。
もう一人は、同じくらいの身長で、スタイルの良さげな生徒。
そしてその二人に挟まれるように、一際小さな身長のツインテールの生徒がいた。何故か、干し芋を食べながら。
「………ん?おい、誰だアイツは」
オルガが疑問の声を上げる。
すると、片眼鏡の女子が指差した方に目を向け、手を振った。
「やあ!西住ちゃん、オルガちゃん」
「へっ!?は、はい、あの………」
「……だから、誰なんだよあのちびっこい奴ら」
「………うちの生徒会長。それに副会長と広報の人」
二人の疑問に沙織が答える。
三人はみほとオルガに近付くと、見下ろす様な(ただしオルガに対しては見上げる)姿勢で話しかけた。
「……少々話がある」
「………はい?」
「…………」
突如現れた三人の生徒会。
その登場に、オルガはどこか嫌な予感を感じ取っていた。
◆
三人に廊下に連れ出されたみほとオルガは、突如会長(と呼ばれた一番小さな女生徒)に告げられた。
「必修選択科目なんだけどさぁ………二人とも、戦車道取ってね。よろしく」
「へっ?」
「は?」
いきなり言われたその言葉に、二人は一瞬言葉を失った。
「あ、あの!この学校は、戦車道の授業は無かったはずじゃ………」
「今年から復活することになった」
「……生徒会長さん、だったか。俺たちはこの学校に戦車道が無いと聞いて、態々転校してきたんだ。それに、必修選択科目をどれにするかは、生徒の自由裁量に委ねられてたはずだ。それをこんな風に強請るとは………どういうつもりだ?」
「いやー、運命だねぇ。んじゃとにかくよろしくー」
オルガの言葉を煙に巻くようにそう言い残すと、三人の生徒会役員達は去っていった。廊下にポツンと、みほとオルガの二人だけが残される。
「……………」
「………ホント上から目線だな、あの生徒会長さん」
目のハイライトを失い、全ての希望を見失ったかのようなみほと、先の三人の対応に苛立ちを隠せないオルガ。
義兄妹でも、その反応はそれぞれ異なっていた。
◆
結局その後は授業も身に入らず、午後の授業は保健室で過ごした。一緒に付き添ってくれた沙織と華には、感謝している。
そしてその後は、復活した戦車道に関するガイダンスが行われ、沙織と華も戦車道を受講する事にしたという。二人には戦車道を取るよう勧められたが、みほはどうしても戦車道を選ぶ気になれなかった。
______戦車道。正式名称、MS戦車道。
元は乙女の嗜みと呼ばれていたが、元より使われていた戦車と、百年程前に大昔の戦争で使われた人型戦車【
みほの実家である西住家はその戦車道の古くから続く家元であり、当然みほも、そしてオルガも戦車道をやっていた。
だが________
「…………ッ!」
______ある出来事がフラッシュバックし、思わず身が強張る。抱きしめたぬいぐるみに込めた力が、大きくなった。
その夜、渡された必須選択科目の用紙に大きく記された【戦車道】の欄に、丸をつけることは無かった。
◆
「…………」
翌日、教室の机には選択科目の用紙が置かれ、それを囲うようにみほ、オルガ、沙織、華が座っていた。
沙織と華は戦車道を選んでおり、そしてみほは香道を、オルガは合気道を選んでいた。
「……みほ、やっぱり」
「……うん。………ごめんね。私、やっぱり……。どうしても戦車道がやりたくなくて、ここまで来たの!だから……!」
みほは二人に対して申し訳なさそうに、堪えていた思いを吐き出すかのように告げた。
折角一緒に受講しようと勧めてくれた、この学園で初めて出来た友達に嫌われてしまうかもしれない。
そんな恐怖を抱えながらも、みほはその言葉を口にした。しかし_____
「___分かった!」
「ごめんなさいね、悩ませて」
二人は笑ってそう言うと筆記用具を取り出し、事も無げに【戦車道】の欄につけた丸印を消し、みほと同じく【香道】の欄に丸を付け直した。
「えっ!?」
「私たちもみほのと一緒にする」
「お前ら……!」
そんな反応が返ってくるとは思わず、みほとオルガは一時呆然となる。が、すぐに反対した。
「そんな!二人は戦車道を選んだんじゃ……!」
「そうだ。俺たちに合わせる必要は……」
「良いよ!だって一緒がいいじゃん!イツカくんとは別になっちゃうけど……」
「それに、私達が戦車道を選んだら、西住さんとイツカさん、思い出したく無い事を、思い出してしまうかもしれないでしょ」
あくまでもそう言って、二人を気遣う沙織と華。
「わ、私達は平気だから!」
「いいえ。お友達に辛い思いは、させたくないです」
「私、好きになった彼氏の趣味に合わせるタイプだから大丈ー夫!」
「………お前ら。俺たちの、みほの為に……」
ピースサインを作り笑う沙織と、優しげな笑みを浮かべる華。
その二人の優しさが、少し辛くて、でもとても嬉しくて。
みほは、少し顔を赤くして、笑った。
「……すまねえ。でも………サンキューな」
オルガはそんな二人に………みほに出来た
◆
午前の授業が終わり、昼休みの時間になった。
選択科目の用紙は提出し終え、今は四人で食堂に向かっている。
「ん……?よぉ、ミカ!」
「あれ、オルガ。それにみほも」
「あ、ミカさん」
その道中、オルガ達は三日月とばったり出会した。
同じく食堂に向かうつもりだったのか、手には財布が握られている。
三日月はオルガと、そしてみほに手を振ると、次に隣にいた沙織と華を訝しげに見詰めた。
「その二人、誰?」
「うちのクラスメイトだ。……二人にも紹介しとく。こいつは三日月・オーガス。俺の昔からの親友で、相棒だ。仲良くしてやってくれ」
「あ、うん。私、武部沙織。よろしく!」
「五十鈴華です。よろしくお願いします」
「ん。えーっと……一年の三日月・オーガス。よろしく」
自己紹介を済ませると、三日月は手を差し出す。二人はその意図を理解すると、順に三日月と握手を交わした。それが終わると満足したように、三日月は制服のポケットから好物である火星ヤシを取り出し口にした。
オルガはその様子を見ると、何かを思いついたような表情になり、提案した。
「そうだ折角だ。今日は五人で昼食うか。ミカ、大丈夫か?」
「うん。俺は大丈夫」
他の三人も「いいよ!」と言ったので、今日はそのまま五人で食堂に向かう事となった。
◆
食堂の席は幸い空いていたので、五人で向かい合うように座った。この時間はいつも混んでいるので、席を取れたのは僥倖である。
オルガはカツ丼定食、ミカはミートソースパスタのセットなど、それぞれ好きなものを頼み、取っておいた席に座った。
「んじゃ、いただきます、と」
「「「「いただきます」」」」
人が多い食堂だと、色々と会話も聞こえてくる。特に今日聞こえるのは、必修選択科目についてだった。
「_____ねえねえ。選択科目、どーした?」
「迷ったんだけどー、私戦車にしちゃったー」
「うっそ私もー!」
「どーなんだろーねー、戦車!」
「今日も飯がうめーッ!」
「シノさん、お行儀悪いですよ」
「ん?ああ悪い悪い!で、お前ら選択科目どーしたよ!俺戦車選んだぜ!」
「俺は自動車部あるから整備担当だけど、一応戦車道選んだよ」
「あ、俺も戦車道です!でも俺も自動車部なんで、整備とか裏方ですかね」
「戦車道って、昔は乙女の嗜みって言われてたんだってー」
「今じゃ男子もやってるけどねー」
「でもでも、男子が乗るのって戦車じゃなくて、あの三つ足の戦車と、それからモビルスーツでしょ?」
「だよねー。やっぱ男子と普通の戦車ってミスマッチなのかなー」
「……………」
「タカキとヤマギは知ってたけど、やっぱシノも戦車にしたんだ………ん?どうしたの、オルガ」
「………いや、何でもねえ」
ここの話に耳を向けると、いやでも戦車道のことが頭にチラついてしまう。
聞こえてくる話に意識を向けないよう、丼を持ち上げてかき込んだその時。
「_____早く大砲っぽいやつ撃ってみたーい」
「ちゅどーんっ!!」
「ッ!!ゲホッ、ゴホッ………」
「っ、オルガ大丈夫?はい、水」
「あ、ああ……悪いな」
後ろから聞こえてきた声に、思わずむせてしまった。三日月が差し出してくれた水を飲んで、ひとまず落ち着く。
隣を見ると、動揺していたのはみほも同じだったようで、箸を動かしていた手が止まっていた。
「………あっ。帰り、さつまいもアイス食べてく?」
「大洗は、さつまいもが名産なんですよ」
「そうなのか?」
そんな二人の様子を気遣ってか、沙織と華が話題を持ち出す。
「あ、知ってる。干し芋とか有名だよね」
「うん、一部では乾燥芋って言うらしいよ」
「そーなんだー」
「いいね、みんなで行こう。……火星ヤシのアイスとか、あるのかな?」
「いや、流石に無えだろ。少なくとも地球じゃ」
五人で話すと、何とか周囲の話に意識を向けずに済んだ。
心の中でホッと一息付き、再び昼飯にありつこうとした、その時。
『普通一科、二年A組西住みほ、並びにオルガ・イツカ。至急生徒会室に来ること。繰り返す。普通一科、二年A組西住みほ、並びにオルガ・イツカ。至急生徒会室に来ること。以上』
あの片眼鏡の生徒会員の声が、スピーカー越しに聞こえてくる。
その声を聞くと、みほの顔に薄っすらと冷や汗が浮かび、身体が震え出してきた。
「………ど、どうしよう………!?」
「大丈夫、私達も一緒に行くから!」
「落ち着いてくださいね」
怯えるみほを落ち着けようと、沙織と華がみほの手を握る。
その様子を不思議に思った三日月が、オルガに尋ねる。
「………三人とも、どうしたの?それにオルガ、広報の人に呼び出されてたけど」
「……まあ、色々あってな。ミカは______」
「俺も付いてく」
待っていてくれと言う間も無く、三日月が言い紡いだ。
「みほのこともだけど、オルガの身に何かあったら心配だし」
「何もねえよ。……まあでも、サンキューな」
三日月の心遣いに感謝すると、オルガは残っていたカツ丼を一気にかき込み、水で流し込んだ。
口元を拭き、立ち上がる。
「さて………行くか」
◆
「これは一体どういうことだ?」
「なんで選択しないかなぁ……?」
「我が校、他に戦車経験者は皆無です」
「終了です………我が校は終了です!」
生徒会室に入るなり、あの片眼鏡の広報が、みほとオルガの選択用紙を取り出し、問い詰めた。
二人の選択用紙にはそれぞれ、香道と合気道の欄に丸が付けられている。一番上に一際大きく設けられた戦車道の欄には、当然ながら丸は付けられていない。
「勝手な事言わないでよ!」
「そうです!やりたく無いと言っているのに、無理にやらせる気なのですか?」
沙織と華がみほ達を庇うように、抗議の声をあげる。
そしてオルガは前に出ると、毅然とした態度で言い放った。
「生徒会長さん、あんたの要求は呑めない。一方的に命令して、やりたくもねえ事をやらせようなんざ………そんな筋の通らねえ話、俺達が受ける道理は無えな」
まるで狼のような鋭い視線で、生徒会長を睨みつける。
しかし眼前の小さな生徒会長は、そんな視線を意に解することもなく、その高圧的な態度を隠さずに言った。
「そんなこと言ってるとあんた達………この学校にいられなくしちゃうよ?」
「………脅す気か?それが、生徒会のやり方って奴なのか?」
「………脅すなんて卑怯です」
「脅しじゃない。会長はいつだって本気だ」
「そーそー」
「今のうちに謝った方が良いと思うわよ?ね?」
三人がオルガ達にあくまでも言い詰める。
一方の三日月は口を挟むことはなく、ただし視線は彼らに向けたまま立っていた。ポケットから再び、火星ヤシを取り出して摘む。
「そのつもりはねぇ。そんなチンケな横暴に屈するほど、俺たちはヤワじゃねえ」
「横暴は生徒会に与えられた特権だ」
互いに一歩も引くことなく、話し合いは激化する。
その渦中にいるみほは、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
「(武部さんと五十鈴さん、本当は戦車道やりたいのに………。それに、オルガだって…………)」
生徒会にあくまでも毅然とした態度で反論する、オルガの背中を見る。
いつも自分は、誰かに庇ってばっかりだ。
自分からは何も出来ずに、結局足を引っ張ってしまう。
そのどうしようもない自己嫌悪感に、心が押し潰されそうになる。
思わず顔を俯け、目を閉ざす。
そうして自己嫌悪から逃げようとしても、寧ろそれは一層強まるばかりだった。
「(私の、為に…………)」
その時。
先程まで沈黙を決めていた三日月が、口を開いた。
「これは………みほが決める事だよ」
「っ……!」
その言葉を聞き、思わず三日月の方を見る。
三日月はみほを真剣な眼差しで見据えて、続ける。
「これはきっと、みほの、これからの全部を決めるような決断だ。だからこれはオルガや、みほの仲間に頼っちゃいけない。みほが自分で決めて、自分の口で言わなきゃいけないんだ」
「…………!」
その言葉を聞き、みほの中に一つの決心が生まれた。
それは今、オルガ達に庇われている事だけじゃない。
きっと今ここでみほが決心しなければ、これから先ずっと、何か大事な決断を、他人に押し付けるのみになってしまうだろう。
根拠は無い。でも今のみほには、そう思えた。強い確信があった。
だからこそみほは、言う。
ほんの少しの迷いを振り切って、後ろではなく前を見て。
「あの、私!」
『!?』
みほの声に、全員の視線が集まる。
それでもみほは臆せずに、言い切った。
「戦車道、やりますっ!!」
『えええーーっ!!』
「え………っ?」
「よかったぁぁ〜……!」
「にひっ」
「ふっ……」
生徒会とオルガ達。
その反応はそれぞれだった。
結局その日はそこで終わりになり、オルガの件については保留となった。
◆
その日の夜。
「……オルガ」
「ミカ……眠れねえのか?」
「オルガこそ。こんな時間に外に出て」
「そうだな………昼の事、考えちまって」
男子寮の屋上にいたオルガに、ミカが声を掛けた。
並んで鉄柵の前に立ち、夜空を眺める。
「………あいつが、あそこまで言うなんてな」
「うん。でもあれは、みほが言わなきゃ駄目だと思ったから」
「……やっぱ、ミカか」
「うん。………悪いこと、したかな」
「いや、そうじゃねえ。でも………そうだな」
夜空を眺めながら、オルガは一年前の記憶を思い出す。
『(イツカ……)』
「…………」
かつて自分を慕ってくれていた仲間を置き去りにして、自分は大洗に来た。
二度とあんな思いをしたくない。その一心で、三日月を頼りにわざわざここまでやって来た。
でもそれは、ただの______
「…………いつまでも、後ろ向いてるわけにいかねぇ。………逃げんのは、もう終わりだ」
「オルガ?」
「いや、何でもねえ。………なぁミカ。やってもらいてえ事がある」
「……うん、分かってる。俺の学年の仲間に、声掛けとくから、オルガも他の奴に伝えといて」
三日月はオルガの意図を察して、そう言う。
「やっとみほの居場所が出来たんだ。………守ってやらねえとな」
「そうだね」
「………変わらねえな、お前は。孤児院にいたときから、ミカはミカのままだ」
「……オルガは?」
「俺か?」
互いに顔を合わせて、三日月の掌に拳を突き出す。
その時の表情は、自分が西住家に引き取られる前______三日月やその仲間と共にいた、孤児院にいた時の、少年の顔にそっくりだった。
「_____俺は俺だ!」
「だね_____」
◆
翌日。オルガは学校に着いて早々、生徒会室へと赴いた。
「……何の用?」
「生徒会長。………あんたの話に乗ることにした」
「っ、という事は、つまり!」
副会長の人が、目を輝かせたように期待の眼差しを向ける。
オルガは生徒会長を見据えると、堂々と言い放った。
「戦車道……やるよ!!」
「……おっけ」
「やった!」
「……計算通りだな」
生徒会の三人が、それぞれ喜ぶ。
オルガは不敵な笑みを浮かべると、もう一度前を見上げた。
自分の進むべき道を、見出したかのように。
◆
それから数時間後。
ついに、戦車道の授業が始まる時がきた。全員に校庭に出て、奥に建っている倉庫の前へと集まっている。
「ん?よぉ、オルガじゃねえか!お前も戦車道取ったのか!」
「おおシノ。まあな」
授業の開始前。
真っ先にオルガに声をかけたのは、オルガ達と同学年の生徒であり、昔馴染みの仲間、ノルバ・シノだった。そして続くように、隣から声をかけられる。
「俺もいるぜ!それに、こいつもな!」
「久しぶりだな、オルガ」
「ユージン!それに昭弘!」
次いで来たのは同じく二年のユージン・セブンスタークと、昭弘・アルトランドだった。彼らもまたオルガの少年時代の仲間であり、同じ孤児院で育ったもう一つの家族である。無論、ここに入学してから話したり会ったりもしているのだが、クラスが違うということもあり、以前ほど話す機会が無かったのだ。
「昭弘、最近どうだって?弟達の様子は」
「ぼちぼちだな。アストンの方も、元気にやってるってよ」
「そういや、あいつは知波単にいるんだったか」
仲間同士でいると、話す話題も沢山ある。
そうしてしばらく話していると、前に生徒会の面々が出てきた。
「これより、戦車道の授業を開始する」
片眼鏡の広報_____河嶋桃が開始の合図をする。
すると、後ろにいた天然パーマの女生徒が声を出した。
「あ、あの!戦車は?ティーガーですか?それとも……」
「えーっと、なんだったっけな」
生徒会に案内され、倉庫の内部へと入る面々。
倉庫の中は薄暗く、様々な部品が転がっている。その最奥に、既に使われなくなったサビだらけの戦車と、モビルワーカーが置かれていた。
「……なにこれぇ」
「ボロボロー」
「ありえな〜い……」
「侘び寂びでよろしいんじゃ……」
「これはただの鉄錆」
次々と不満の声が出る。
他の面々もリアクションは似たり寄ったりで、目の前の戦車とモビルワーカーに、あまり好印象は抱いていないようだった。
そんな面々とは裏腹に、みほとオルガは前に出ると、戦車とモビルワーカーに触れ、そして全体を見た。
確かに年季は入っているが_____
「_____装甲も転輪も大丈夫そう。………これで行けるかも」
「ちと古い機体だが、ちゃんと修復すりゃ、十分使えるな。………へっ、何だよ。良いのがあんじゃねえか」
戦車とモビルワーカーのコンディションを確認し、笑みを浮かべる。
_______ここから、始まるのだ。
そんな希望を抱いた少年少女達を乗せた
転入してきたこの学校で、再びやることになった戦車道。
私、上手くできるかなぁ……。また、前の学校みたいに失敗しちゃったらどうしよう。
うぅ〜、なんだか凄い心配になってきちゃったよ……。
って、ダメダメ!やるって決めたんだから、私がちゃんとしないと!いつまでもオルガに頼りっきりじゃ駄目だし!
………うぅ、でも不安だよぉ〜………
次回、ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ。
第弐話『戦車、乗ります!』
後書きは鉄オル本編のように、キャラクターによる次回予告をしようと思います。とりあえず第一回はみほで。
よければ高評価や感想、お気に入り登録をよろしくお願いします。
それでは次回、お楽しみに。