モビルスーツですが、流石に原作通りのサイズで競技をすると無理がある気がしたので、10m未満の全高にサイズダウンしています。あと、特殊カーボンの設定もガル鉄仕様のちょろっと弄りました。
それでは、どうぞ!
遂に始まった聖グロと大洗の試合。
殲滅戦が適応されるこの試合は、どちらかが全滅した時点で負けになる。
現在はAチームのⅣ号と、FチームのTK-53オルガ機が偵察に向かい、他チームはスタート地点から100mほど離れたポイントに待機している。
作戦名は、みほ命名『こそこそ作戦』。………名称に少し突っ込みたい気持ちを、オルガは抑えた。
聖グロの戦車の動きを、山岳地帯からみほとオルガが見つめていた。向こうの戦車隊、モビルワーカー隊は隊列を崩さず、優雅さすら感じる並びで前進している。
「戦車隊、マチルダⅡ四両、チャーチル一両。前進中…。モビルワーカー隊は、NK-17五両が戦車隊の前を横列で前進」
「流石聖グロ。統率の取れた動きだな」
聖グロの綺麗な行軍に、オルガが感心したように言う。全機のスピードを合わせて、隊列を乱さずに動くというのはかなり難しい。テクニックもそうだが、チーム間の連携や距離の測り方など、細かな要素をクリアしなければ、あそこまでの隊列を維持するのは不可能に近い。それを目の前でやってのけている聖グロの技量の高さに、二人は思わず舌を巻いた。
「うん。あれだけ速度を合わせて、隊列を乱さないで動くなんて凄い」
「どうする?あの固い守りは、正面からじゃ抜けねえだろ」
「……そこは戦術と腕かな」
みほの少し頼りない、しかし確信が持てるその言葉に、オルガは不敵に笑った。通信機を取り出し、各車に伝達する。
「まあな。……お前ら、準備しろ!」
『了解!』
◆
敵の誘い込みに成功したみほ達は、敵からの追撃をかわしながら合流ポイントへと走行していた。
「なるべくジグザグに走行してください。こっちは装甲が遅いから、まともに喰らったら終わりです」
「……了解」
「ユージン、無理はすんなよ!向こうの方が火力は上だ」
「んなの、言われなくったって!」
敵のチャーチルやマチルダ、NK-17の砲撃を躱し、土煙を立てながら二機が山岳の間を走り抜けていく。時々機体のバランスが崩れそうになるが、そこは技量でカバーだ。特にTK-53はモビルワーカーの強みである機動性能に物を言わせて、砲撃を避けていた。
「……思ったよりやるわね。速度を上げて。追うわよ」
『こちらの手助けは、必要かな?』
「いいえ、まだ待機していて頂戴。我が校の戦車は、どんな走りをしようとも、一滴たりとも紅茶を零したりしないわ」
『……それが聞けたなら安心だ。健闘を祈る』
「みほっ!!」
「……っ!」
チャーチルから放たれた砲弾が、Ⅳ号の側面スレスレに着弾する。もし一秒反応が遅れていたら、確実に今ので葬られていただろう。みほは安堵の吐息を一つ漏らす。
「みぽりんにイツカくん、危ないって!」
「へ?」
「あん?」
すると、Ⅳ号から沙織が顔を出して、二人に注意をした。
「ああ、戦車やモビルワーカーの車内は、カーボンやナノラミネート装甲材でコーティングがされてるから大丈夫だよ」
戦車道で使用される戦車やモビルワーカー、そしてモビルスーツには原則として、乗組員が乗る内部に、高硬度レアアロイ等を混ぜ込んだ特殊カーボンや、ナノラミネート装甲材を用いた特殊なコーティングを施すことが義務付けられている。そうしなければ、操縦者達の命と安全が保障されないからだ。今や競技用になったとは言え、戦車やモビルワーカー、モビルスーツは元は完全なる兵器。競技者の安全を保障しなければ、そもそも競技として成り立たない。
だが沙織の心配は、別のところにあるようだった。
「そうじゃなくて!そんなに身を乗り出して当たったらどうするの!?」
そう。みほとオルガは試合開始から、ずっとキューポラやハッチから身を乗り出して指示を出している。どうやら沙織はそれがとても危険なものに思えたのだろう。
「まあ、滅多に当たるものじゃないし」
「それにこうしてた方が、状況も分かりやすいからな」
「でも二人にもしものことがあったら大変でしょ!もっと中に入って!」
あくまでも友人を気遣うその心遣いに、二人は苦笑しつつも感謝した。こういう風に心配してくれるのは、随分と久しぶりな気がした。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
みほがそう言うと、二人はほんの少し、身体を中に入れた。
◆
オルガ達を待っていた他チームの面々は、合流ポイントの高台で敵を迎え撃つ準備をしていた。
しかし、メンバーの殆どはトランプに興じていたり、バレーをしていたりと気が緩んでおり、とても試合の雰囲気ではなかった。
そんな中で、男子勢のモビルワーカー隊はハッチから、退屈げに身を乗り出していた。
「オルガ達遅っせぇなぁ〜」
「待つのも作戦だ」
「いつ敵が来るかも分からないから、ちゃんと待ってないと」
「分かってるけどよ〜」
シノはぼやき、昭弘は静かに腕を組んで待っている。三日月は火星ヤシを口にしながら、前方を静かに見据えていた。
その時、モビルワーカーに備え付けられたLCS通信機から、通信が入る。
『全員聞こえるか!今Aチームと一緒に、敵を引きつけつつ待機地点に前進中!あと三分で到着する!』
「……来た」
「Aチーム達が戻って来たぞ!全員乗り込めぇっ!」
耳元の通信機からも通信を受け取っていた河嶋が、全員に指示を出す。
三日月は操縦桿を握り込むと、いつでも撃てるように構えた。
『あと600メートルで、敵車両射程内です!』
みほからのLCS通信に、全員の緊張が高まる。
そして、Ⅳ号とTK-53が戻り、あとは敵車両を______
「撃て撃てェッ!!」
_____撃つ前に、Ⅳ号とTK-53を敵と誤認したのか、河島の指示で味方からの砲撃が飛んできた。
「あ、待ってください!」
「おいお前ら!何やってんだ!!」
「味方を撃ってどうすんのよーっ!」
彼らからの非難で味方と確認したのか、砲撃が鳴り止む。
みほ達が味方と合流し、改めて聖グロを迎え撃つ準備をする。
「こんな安直な囮作戦、私達には通用しませんわ」
「撃てッ!」
改めて、大洗チームの砲撃が聖グロ戦車へと降り注ぐ。
が、それらはどれも的外れな方向へとバラバラに飛んでいき、当たる事がなかった。そしてお返しとばかりに、敵からも砲撃が飛んでくる。
「撃て撃て撃てぇっ!」
「そんなバラバラに攻撃しては……履帯を狙ってください!」
「Cチーム、もう少し耐えてくれ!Dチーム突っ込み甘い!当たり負けるぞ!ユージン、こっちも撃ち返せ!」
「それはいいけどよ、このままじゃジリ貧だぜ……!」
ユージンの言う通り、当初立てた囮作戦は最早意味が無くなっている。弾道は的外れな方向に飛び、今やこちらが追い詰められている状態だ。作戦から技能まで、全てあちらの方が有能であったが故の状況だった。
「もっと撃てぇ!次々撃てぇっ!見えるものは全て撃てぇっ!!」
「くっそあいつら、容赦無しかよ、ボカスカ撃ちやがって!」
敵の止むことのない報復に、三日月と共に応戦していたシノが毒づく。事実、戦車やモビルワーカーと性能に、搭乗者の技量もあちらの方が上だ。こちらが一発撃てば、向こうからは二、三発飛んでくるような状態と化していた。
「どういうつもりか知らねえが、このまま俺らを塩漬けってか!?」
「いや………来る」
シノの隣で応戦していた三日月が、直感から呟く。
「_____全車両、前進」
ダージリンが出した号令とともに、敵戦車やモビルワーカーが一斉に行軍を開始する。
「_____攻撃」
次いで向こうから、更なる砲撃の雨が降り注ぐ。先ほどまでのが前座だと言わんばかりの猛攻に、大洗チームは逃げ回る他なかった。
「凄いアタック!」
「ありえない!」
『落ち着いてください!砲撃やめないで!』
逃げ回る車両に、みほからの指示が飛ぶ。
「無理です!」
「もういやぁ〜!」
「来るぞ!着弾集めて………あん?コラ!何やってるお前らっ!」
すると応戦していたシノが、戦車から降りて逃げ出す一年のDチームの姿を見た。すぐに怒鳴るが、もう遅い。敵戦車の放った砲弾が、M3の車体に直撃。大洗チームから、試合始まって最初の白旗が上がってしまった。
さらに地面に直撃した砲弾の衝撃で、生徒会チームの38(t)の履帯が外れてバランスを崩し、後方へと滑り落ちていった。
「武部さん、各車状況を確認してください」
「あ、うん!」
みほ達Aチームは、LCS通信から各車の状況を確認する。既に作戦は失敗し、被害も少なくない。さらには立地の悪い岩場ときた。ここから立て直すのはかなり困難な事だ。
戦車隊Bチーム、Cチーム、モビルワーカーF隊は全機が健在。
Dチームからは応答無し、Eチームは履帯が外れ継続戦闘が困難。
最早この場で応戦したところで、全滅するのも時間の問題なのは誰の目から見ても明らかだった。
『おいおいどうすんだよ!俺らこのままじゃ犬死かよぉっ!!』
オルガ達が乗り込むモビルワーカーの操縦席から、ユージンの弱々しい声が聞こえる。だがそれを、オルガは否定した。
「いいや違うな。それじゃあ筋が通らねえ。………なあ?みほ」
オルガの問いかけに、みほが頷く。既にみほの頭には、この状況を打開できるかもしれない作戦が浮かびつつあった。
「B、C、Fチーム全機、私たちの後について来てください!移動します!」
『わかりました!』『心得た!』『分かった』『了解した!』『了解!』
『何ぃ?許さんぞぉっ!』
Eチームの河嶋から抗議の声が上がるが、全員無視した。今この状況で信頼できるのは、みほだ。
「『もっとこそこそ作戦』を開始します!」
「さぁ_____反撃開始と行こうかぁっ!」
◆
あの岩山から抜けたみほ達は、敵の追撃を躱しつつ、市街地方面へと向かっていた。
「これより市街地に入ります!地形を最大限に活かしてください!」
『Why not!』『大洗は庭です!任せてください!』
「モビルワーカー隊Fチームは俺たちに続け!敵のモビルワーカー隊を引き付けるぞ!」
『『『おう!(分かった)』』』
みほとオルガの指示に倣い、戦車隊とモビルワーカー隊が分かれる。やがて各車もバラけると、みほの言う『地形を活かす』為に、各々行動を開始した。
「……消えた?」
先程までの轟音とは打って変わった静かな市街地の光景に、聖グロ隊が警戒しつつ前進する。市街地に入ると、全機がバラけて行軍を続けていく。
その内の戦車隊の一機は、のぼり旗が立ち並ぶ一帯をゆっくりと行軍していた。周囲を警戒し、『誠』という字と、六文銭が印刷された赤青の旗が立った辺りを通過したところで______
_______ズドォォォォォッ!!
轟音が、鳴り響いた。
のぼり旗の奥には、ド派手な赤色に染まった、大洗のⅢ突が砲口から硝煙を上げて、待ち構えていた。
「___そーれッ!」
『そーれっ!』
一方でBチームの89式も、タワーパーキングを使った待ち伏せ戦法で以って、マチルダを一両撃破に成功していた。
地形を活かす______それはこの大洗の地に慣れていた、大洗学園生徒だからこそ取れた戦法であった。向こうの聖グロはこちらの地形を把握できていない。故にこういった奇襲戦法は、地の利があるこちらが優位に建つことができるのだ。
「こちらCチーム、一両撃破!」
「Bチーム、一両撃破っ!」
そしてそれは、モビルワーカー隊にとっても同じ事だった。
◆
『くそっ、なんなんだよこいつらっ!』
三機に固まって行動していたモビルワーカー隊の一部は、市街地の中でも比較的開けた場所へと進軍していた。三方向を固めた状態なら、戦車でも相手にできると思っていたのだ。同じモビルワーカーでも、こちらは優秀な性能を誇るNK-17。対して向こうは、型落ちも良いところの旧型期、TK-53である。基本性能は勿論、火力も機動性も、本来は聖グロが優位に立てるはずであった。
だが_____
『やっとこの阿頼耶識ってOSに慣れて来た。昭弘、そっち大丈夫?』
『へっ、お前にばっかり、いいカッコさせるかよっ!』
『おのれ!こんな筈では……っ!』
『なんなんだあのTK!出鱈目な動き過ぎるっ!』
『っ、後ろっ!!」
結果は、大洗のモビルワーカー二機が優位に立っていた。まるで滑り込むように聖グロ側の死角を付いては、すかさず連射を叩き込んでくる。今も背後を取られた一機が、白旗判定のダメージを食らっていた。
「よし!ミカと昭弘が食い付いた!混戦ならあいつらに勝てるのはそうはいねえ。阿頼耶識使いの本領発揮ってとこだ」
その様子を見たオルガが、したり顔で言う。
阿頼耶識のOS搭載機は、今のような混戦でその真価を発揮する。パイロットの意思によって動かすことのできる阿頼耶識は、AI補助の回避パターンに依存している現行のシステムにこの点で優位を取っているのだ。現に数日前、同じような状況下での戦闘訓練を行った際、最も戦績が良かったのはあの二人だ。
『オルガ。こっちは片付けたよ』
『隊長!こっちも一機仕留めたぜ!』
三日月とシノからの通信が入ってくる。どうやら別行動をしていたシノも、敵モビルワーカーを一機仕留めたようだった。
先ほどまでの防戦からは一転。今や大洗が、聖グロを追い詰めつつあった。
『攻撃受け、走行不能!』
『こちら被弾につき現在確認中!』
『モビルワーカー隊、ルクリリ機を残して壊滅!』
「な………っ!?」
報告を受けたダージリンは、その衝撃に手から紅茶を滑らせた。チャーチルの車内に、カップの割れる音が響く。
格下と侮っていた大洗の予想外の反撃に、モビルワーカー隊の壊滅という報告。
一瞬優雅さを忘れてしまうほどに、ダージリンは驚きを隠しきれなかった。何とか冷静さを取り戻し、通信機へと手をかける。
「……おやりになるわね。でもここまでよ。…………出番よ、
◆
「………その意味が分からぬほど、子供ではあるまい」
ダージリンからの通信を受け取った
するとその真意を見透かしたように、ダージリンが変わらぬ声音で続けた。
『___こんな格言を知ってる?イギリス人は恋愛と戦争では………手段を選ばない』
「君は日本人だろうに。全く………困った女だ」
セリフとは裏腹に、困ったような、それでいてどこか楽しげな表情を浮かばせながら、操縦桿を握りしめる。
モニターには何かの紋章と、【GUNDAM FRAME TYPE BAEL ASW-G-01】という番号が映し出されていた。
◆
「「はっはっはっは!!」」
敵戦車を一機撃破したCチームのカエサルとエルヴィンは、高笑いをあげながら戦車から身を乗り出し、走行していた。
「入り組んだ道に入れ。Ⅲ突は車高が低いから、道に入れば………」
と、エルヴィンが指示を出したその時。
______ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
「ん?なんぜよ、この警報」
車内に、聞いたことのない警報が鳴り響く。そして彼女らは、気づいていなかった。
______ドッッッゴォォォォォォォォォォォォオッ!!
「うおわぁっ!?な、なんだぁっ!?」
「せ、戦車の砲撃にしては、デカすぎる気が………ッ!?」
「ん?どうし…………た…………ッ!?」
______向こうから自分たちを見据える、巨人が立っていたことに。
全高は8〜9m程だろうか。両手にライフルとアックスを持ち、緑色の装甲に身を包んでいる。
そしてその巨人は顔の向きを変えると、頭部を開き、一つ目のようなセンサーを剥き出しにした。
狙った先は______
「…………へ?」
「…………な、なに、アレ……………」
______Bチームの、89式だった。
◆
『Cチーム、走行不能!』
『Bチーム、走行不能!すいません!』
「っ!」
B、Cチームから聞こえて来た報告に、みほが表情を厳しくする。
_____ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
そして、さらに聞こえて来た音に、みほはいよいよ警戒を強めた。
「み、みほ!この警報って何!?」
「………まさか、エイハブ・ウェーブ……っ!?」
「えいは……何それっ!?」
「エイハブ・リアクターから発せられる磁力波です!これが鳴ったってことは………」
「うん……オルガっ!!」
みほは急いでLCS通信機を取り出すと、オルガの元へと連絡を繋いだ。
エイハブ・ウェーブ。
これの発生を知らせる警報が鳴ったということは、近くに稼働中のエイハブ・リアクターがあるという事であり、そしてそれは、ある存在____今の大洗にとって、絶望としか言いようのない存在が現れたことの証明でもあった。
◆
そしてオルガ達もまた、危機に立たされていた。
先の巨大な砲撃音は、オルガ達の耳にも届いていたのである。
『今のって、重砲………っ!?どっから……!?』
ユージンの戸惑いの声とともに、地面に衝撃が走る。それは戦車の自走の衝撃や、砲弾の衝撃などとは物が違う、凄まじい衝撃だった。
「こいつは…………っ!」
オルガが前方を見上げると、そこに
緑の装甲に身を包んだ、鉄の巨人。
戦車道に於いて最大戦力とされる、最強の兵器。
「モビルスーツだとぉッ!?」
人型戦車
「み、みほっ!?あれってもしかして、モビルスーツってやつ!?」
「まさか、本当に来るなんて……っ!!」
大洗戦車隊で唯一残った、みほ達Aチームも混乱に包まれていた。
突如戦局を、まるでちゃぶ台返しのようにひっくり返した目の前の存在に、一同が戸惑いを隠しきれなかったからだ。
人型戦車、モビルスーツ。
それはその名が示す通り、人の形を模した機動兵器である。人類史の果てなき戦争の歴史の中で開発されたと言われ、今では戦車道を構成する要素の一つである。先程発生したエイハブ・ウェーブは、このモビルスーツの動力炉たるエイハブ・リアクターから発せられたものであったのだ。
しかし今の大洗にとって、その登場はあまりにも部が悪すぎた。
「『騎士道精神で頑張りましょう』、か……あの隊長さん、とんだ二枚舌じゃねえか」
試合開始前に言われたセリフを思い出し、オルガが毒づく。
モビルスーツは、全高が最低でも7mを超える大型だ。人型戦車という名称も、戦車道へと吸収された際に半ば強引に付けられた名に過ぎない。
そう。戦車やモビルワーカーとモビルスーツでは、戦力があまりにも違いすぎる。性能や火力、機動性は言うに及ばず、防御性や全ての性能が戦車とは根本的に違う。端的に言ってしまえば、
戦車の主砲も、モビルスーツの装甲材である特殊装甲、【ナノラミネートアーマー】によって殆ど意味をなさない。よしんばウィークポイントを突いて攻撃できたとしても、かすり傷程度しか与えることができないのだ。
そしてそんな物を見せられて、彼らの間に絶望が伝わるには一瞬で十分だった。
「嘘だろ………モビルスーツなんて勝てる訳ねえ」
「どうすんだよあんなの……!」
「逃げよ逃げよ!あんなの無理だって!」
「どこに!?」
仲間に混乱が伝播していく。無理もない。ここまで追い詰めたというのに、モビルスーツが一機登場しただけで、全ての戦局がひっくり返されんとしているのだから。
「………そうだ」
しかしそれを破るように、オルガが立ち上がって声を出した。
「どこにも逃げ場なんて無えぞ。ハナっからな…………なぁ?ミカ」
そうして顔を向けた先には、待っていたかのように三日月の姿があった。頷き、オルガの方を見る。
「うん。……で、次はどうすればいい?オルガ」
三日月からの問いかけ。
_____脳裏に浮かぶのは、学園館の地下に眠っていた________
「……へっ」
それを思い浮かべると、オルガはこの状況下で、不敵な笑みを浮かべたのだった。
◆
『無理はするな!ミカが戻るまで少し時間が稼げりゃいいんだ!』
オルガから通信が入る。しかし、それでもなお全員の不安の色は隠せなかった。
「そんな事言ったってぇ!?」
「に、西住殿!どうすれば……」
「……とにかく、敵の視界から振り切りましょう。麻子さん、お願いします」
「……ん」
麻子はみほに軽く返事すると、すっかり慣れた操作で車体を動かした。後方を確認すると、まだグレイズはこちらを認識できていないようだ。
続けて、オルガからの通信が飛んでくる。
『____そしたらよ、このクソッタレな状況に、一発かましてやれるんだ!だからそれまで………!』
しかしその通信を遮るように、グレイズからの重砲は止まない。85mmの銃弾が、街の建物の一つに被弾した。
「うちの店がぁ!!………これで新築出来るぅっ!!」
「縁起いいなぁ」
「うちにも当たんねえかなぁ」
防戦は続く。グレイズからの絶え間ない攻撃は、着実に大洗の行動範囲を狭めて来ていた。そもそも上から攻撃できる時点で、向こうにアドバンテージがある。それに痺れを切らしたのか、ピンク色のモビルワーカー______シノの流星号が、グレイズに飛び出していった。
「……くそがぁっ!無抵抗でやられっかよぉっ!!」
「っ、おいシノ!待て!」
オルガが制止するも、手遅れだった。機銃を乱射しながら突撃するが、グレイズは傷一つない様子で、シノ機を軽く蹴飛ばした。たったそれだけの攻撃で、シノのモビルワーカーから白旗が上がった。
「シノォッ!!」
『チックショウ!どうすりゃいいんだよ!』
シノの撃破により、こちらの残存車輌は三機。いつまで持ちこたえられるか。
「!落ち着いて!落ち着いて攻撃を続けてください!ミカさんが来るまで………!」
だが。
「 っ、み、みほ!なんかこっち見てるっ!」
向こうを見た沙織が、グレイズの方を指差した。するとグレイズの顔はこちらに向いており、センサーを剥き出しにしてこちらへ狙いを見定めていた。
『___貴様が、指揮をしているのか?』
オープン回線でグレイズのパイロットが口を開く。次の瞬間に、グレイズがスラスターを吹かして迫って来た。
「っ、麻子さん!」
「……分かってる………っ!」
流石の麻子も焦った様子で、アクセルを踏み込み全力で逃げる。
しかし、相手とのスピード差は歴然。さらには銃撃を放ち、こちらの逃げる範囲を狭めてくる。どうしたって、このままではやられてしまう。
「っ、無理無理無理ぃっ!!」
「このまま、終わってしまうのでしょうか………っ?」
『終わらねえッ!!』
____だがその横を、オルガのモビルワーカーが駆け抜ける。
そして通信から、オルガの激励が聞こえて来た。
『終わってたまるか!そうだろ、みほっ!』
「…っ!……そう、だね……このままじゃ…………!」
オルガの言葉に続くように、みほが力強く言う。
そうだ。まだ、終われない。
『こんなところじゃ______』
「_____終われませんッ!!」
だが、二機ともこれ以上は進めない。ここから先は行き止まりだ。
だからこそ、グレイズへと向かい合うように停止する。
誰がどう見ようとも、絶対的危機だ。
だが二人には、強い確信があった。
『__ハッハハァッ!!』
「だろ……?」「お願い……!」
______
「ミカァッ!!」「ミカさんッ!!」
_______瞬間。
爆音とともに、土煙をまとって
二本の角に、力強い佇まい。巨大なメイスを両手に持って、大きく振りかぶる。
そして大地に力強く踏み出すと、グレイズ目掛けて手にしたメイスを、渾身の力で叩きつけた。
さながら、大地から蘇った悪魔のように。
「…………ッ!!」
_______オル、ガ………
______俺、達で……………
_______鉄華団、を…………
思い出すのは、かつての記憶。
今も胸の中にある、消えず褪せない忌まわしい記憶。
だが今、目の前に立ったその悪魔は、相棒は。そんな不安をかき消すかのような、無敵の頼もしさがあった。
「………こいつと、一緒なら」
メイスを白旗が上がったグレイズから引き抜き、再び大地へと立つ。
その中で、少年______三日月・オーガスは、静かに微笑んだ。
「______行こう。俺たち、みんなで」
______ASW-G-08 ガンダム・バルバトス。
かつて厄災を終わらせた機械仕掛けの悪魔が、降臨した瞬間であった。
……眠い。眠すぎる。眠すぎてネームプレートになる。……忘れてくれ。
……なぜ朝は来るのだろう。ずっと地球が夜ならば、世界はもっと平和になるのに。
……人々はずっと寝て、朝起こされることのない、平和な世界に………
……ぐぅ、ぐぅ………次回予告?………じゃあ、まあ。
……次回、ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ
……第陸話『バルバトス、行きます!』………すやぁ………
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