作中出てくるワードの『宇宙紛争時代』は、簡単に言うと鉄華団とマクギリス達抜きの鉄オル本編みたいな事、と思って頂ければ良いです。モンターク氏のアイデアですね。
戦車道レギュレーションで、昔は厄祭戦時代のモビルスーツしか使えなかったけど、今はその時代のモビルスーツも使えるようになった、という設定で行くので、よろしくお願いします。
それでは、どうぞ!
「…………」
オルガは寮の自室で目覚めると、棚に置かれた写真立てに目を止めた。
起き上がり、手に持って写真を眺める。
そこに写っていたのは、オルガと、大洗の仲間ではない、
普段着ている白の制服ではない、黒を基調としたジャケットに身を包み、多くの仲間達に包まれながら笑みを浮かべている。
そして両隣には、一組の男女がいた。
右側の一人は金髪に、どこかツンケンとした顔立ちの女子。オルガに肩を組まれ、煩わしそうに表情を歪めながらも、どこか笑みのようなものを浮かべている。
そして、左にいるもう一人は帽子を被り、優しげな表情をした恰幅のいい男子。帽子のつばに手を掛けて、苦笑しつつもオルガの肩に、返すように手を掛けている。
その後ろには、妹のみほや、他の多くの仲間。そして________
「………はぁ。らしくもねぇ」
そこまで見て、オルガは写真立てを棚に戻した。
寝巻きを脱いで、制服に着替える。今日は全国大会のトーナメントの抽選会がある日だ。万が一遅れるようなことがあれば、一大事だ。
軽く食事を済ませ、居間を後にする。……その前に。
「……今の俺をお前らが見たら、どう思うんだろうな」
最後に写真立てを一瞥すると、オルガは今度こそ家を出た。
自分の中にある、忘れられない、忘れたい事を、振り切るかのように。
◆
「………おやっさーん、ここの配線って、五番のやつでいいんですかー?」
「あー?だからそこは五番じゃなくて七番だっつーの」
「なーなーチャド、ここの駆動系統なんだけど、 もう少し詰められないかなー?」
「ホシノ先輩、そこ直すのもう十回目っすよ」
大洗学園の整備倉庫では、今日も自動車部の面々が忙しなく動いていた。
先の聖グロとの試合で損傷した戦車やモビルワーカーの修理に、ほぼ全ての部員が動員されて、そこかしこから金属音が鳴り響いている。 さらにその部員の多くは、倉庫の一角を占めるように存在している
「いやー、まさかここに来てモビルスーツの整備ができるとは思わなかったねー」
「全くだな。……長いこと放置されてたせいで、OS面も大分やられちまってる。こりゃ直しがいがありそうだぜ」
その一角で佇み、今は全身をアームで固定されたモビルスーツ、【ASW-G-08 ガンダム・バルバトス】のコクピット付近で、自動車部員の二年生であるツチヤと、ダンテ・モグロが修理をしていた。他にも多くの自動車部員達があちこちで修理を進めており、もれなく全員が好奇心に目をギラつかせている。
それもそうだろう。何せこの整備倉庫にモビルスーツが丸々一機来るだなんて、入学してから今まで思っても見なかったのだから。
そしてそんな忙しない部員達の間を縫うように、おやっさんこと雪之丞が葉巻を吹かして腹巻きに手を突っ込みながら、カチャリカチャリ、と義足を鳴らせて歩いて来た。
「よぉ〜、どうだそっちは」
「あー、おやっさん。どうもこうも、こりゃ殆どガタが来ちまってるよ。塗装ハゲなんて数えんのも億劫だし、肩に至っちゃ装甲だって取り付けられてねえんだぜ?」
「まー、こいつも古い機体だからなぁ」
足元で修理していた一年生、ライド・マッスが頭を掻きながら、おやっさんに助けを求めるように言う。ライドの言う通り、バルバトスはほぼ全身の装甲のナノラミネート塗料が剥げかかっており、バエルとの戦いで傷付いた胸部の装甲など目も当てられない程にひしゃげてしまっている。コクピット部が無事だったのは、流石という他無かったが。
「俺がこいつを見てた時にゃ、もうちっと格好付いてたんだがなぁ」
しみじみと感慨にふけるように、雪之丞が呟く。
その様子を見たタカキが、近寄ってバルバトスを見上げながら訊いた。
「このモビルスーツって、大昔に造られたんでしょ?」
「ああ。昔も昔、厄祭戦時代の骨董品だ。ま、昔の戦車道で使われてたのは、大抵がその骨董品だったんだけどな」
「厄祭戦って……歴史の授業でやった、あのでっけぇ戦争のことだよね?」
そのワードを聞いたライドが、振り向いて訊き直す。
「そうだな。今から三百年前に起こった、でっけえ戦争の事だよ」
厄祭戦。
人類史上最悪とも称される、惑星間戦争の名称がそれである。
元は他の惑星の移民者達の独立運動から端を発し、その果てに文明が大きく後退する程の壊滅的被害をもたらした、人のもたらした災厄として今もなお語り継がれている。
モビルスーツとはその厄祭戦を始め、その前後に幾度となく行われた戦争に於いて造られた、人の形を模した機動兵器なのである。
「その遺物が、今じゃスポーツの一種になってるたぁ、因果なものだな」
「おやっさーん!ちょっとこっちの方見て欲しいんだけどー」
「わぁかった!今行く!」
雪之丞は部員の声に応えると、葉巻を足で潰して向かっていった。向かう先には、何やらバラされたモビルスーツらしきパーツが広がっている。
「オルガ達は、今頃抽選会に行ってる頃か。さて、どんな学園とぶつかることになんのやら……」
かつてこの学園に戦車道があった頃。
選手達の戦車やモビルワーカー、モビルスーツを整備していた時を思い出しながら、雪之丞はふと呟いた。
◆
抽選会の帰り。
みほ達は会場の近くにある戦車喫茶で一息ついていた。戦車を象られて作られた色取り取りのケーキをつつきながら、先の抽選会により一回戦で当たることになってしまった相手に溜息をついていた。
「ごめんね、一回戦から強いところに当たっちゃって……」
「気にすんな。全国大会に出る以上、遅かれ早かれぶつかる事になる壁だ」
「サンダース大学付属高校って、そんなに強いんですか?」
「強いっていうか、凄くリッチな学校なんです。巨大複合企業のテイワズがスポンサーになってて、戦車やモビルスーツの保有数が全国一なんです」
サンダース大学付属高校は、長崎県に所在を置く高校だ。厄祭戦後に
そして、そのサンダースの資金源の一役を担っているのが、木星圏に本拠点を置くテイワズという巨大複合企業である。本業は惑星開発などだが、モビルスーツや戦車の流通なども賄っており、サンダースはそれらの恩恵を優先的に受けることができるのだ。
「チーム数も一軍から三軍まであって、現在の公式試合のレギュレーションで使える、宇宙紛争時代のモビルスーツも取り揃えてあるんですよ」
宇宙紛争時代とは、厄祭戦後のいざこざによって、あちこちで戦乱が巻き起こった時代の事だ。火星の独立運動や、コロニーの大規模デモ、経済圏同士の戦争など、決して少なくない被害を齎した混迷の時代である。
その時代に造られたゲイレールやグレイズ、レギンレイズ、獅電などのモビルスーツは、現在は戦車道の公式試合での使用が許されており、厄祭戦時代のモビルスーツよりも、戦闘で比較的優位に立つことができるのだ。
「公式戦の一回戦は、戦車の数は十両、モビルワーカーの数は七両、モビルスーツの数は三機までって限定されてるから。砲弾とかの総数も決まってるし」
「でも戦車十両に、モビルスーツ三機って………うちの倍じゃん!モビルスーツは三倍だし、それって勝てないんじゃ……」
「………」
沙織のその指摘に、みほが黙り込む。すると、端の席でチョコレートケーキを食べていた三日月が答えた。
「まあ、なんとかやるよ。作戦はみほとオルガに任せるし」
「お前なぁ………」
いつも通りのあっけらかんとした調子に、オルガが思わず嘆息する。が、すぐに三日月のフォークを持つ手が止まった。
「ミカ?」
「………それに、それくらいやれなきゃ、あいつには勝てない。あのシッキム……マクギリスに」
「………」
そう言う三日月の目には、確かな闘志が宿っていた。
先日の練習試合で、大敗を喫した因縁の相手。白い羽根付きのモビルスーツに乗り、三日月のバルバトスを全く寄せ付けなかった、越えるべき
あの男に敗北した悔しさ、屈辱が、三日月の中に今もなお燻っていたのだ。そしてその悔しさをぶつけるように、チョコレートケーキにフォークを勢い良く刺し、大口を開けて頬張る。
その鬼気迫る空気を察してか、沙織が話題を変えた。
「……そ、それより!全国大会ってテレビ中継されるんでしょ!ファンレターとか来ちゃったらどうしよう〜」
「生中継は決勝だけですよ」
「じゃあ、決勝行けるように頑張ろー!あとあと、折角なんだし、みんなのチーム名みたいなのも決めたいよね!」
笑顔でそう締めた沙織が、ケーキを一口頬張る。
「……だな。これから頑張らねえと」
「ほら、みほとオルガくんも食べて!」
「あ、うん」
「おう。……おぉ、なんだよ。意外といけんじゃねえか」
ケーキを一口食べて、オルガが思わず呟く。
その様子を見て、みほも肩の力抜いて、ケーキを口にしようとした。
その時、だった。
「……副隊長と、団長?」
声が、聞こえた。聞き慣れた、声だった。
「「……っ!?」」
みほとオルガが揃って、声のした方を振り向く。
「……ああ、
そこには、三人の女生徒が立っていた。
茶色がかった銀髪の、目つきの鋭い女生徒。
逸見エリカ。今さっき、オルガ達を呼んでいた声の主だ。
そしてもう一人は、黒の髪と鋭い目元以外は
「
「………」
西住まほ。
強豪校、黒森峰学園の戦車道を率いる、みほの、そして………オルガの、姉であった。
そしてその側に、もう一人。
金髪の、三人の中では一際背の高い女生徒。
朝、オルガが写真で見た少女_____
「………ジュリエッタ」
「………イツカ」
ジュリエッタ・ジュリス。
オルガにとってその人は、ある種複雑な関係を持つ人であった。
「……二人とも、まだ戦車道を続けていたとはな。特に、オルガ」
「………」
まほの言葉に、みほは思わず身体がすくんでしまう。
一方のオルガも、俯きがちになってしまう。例え
するとその様子を見ていた優花里が、堪らずといった様子で言葉を吐く。
「お言葉ですが、
「部外者は口を出さないで欲しいわね」
優花里から向けられた敵意に、更に熨斗つけて上乗せした敵意を向けて返すエリカ。
そのメスのように鋭い声音に、優花里も黙り込む他なかった。
「イツカ……戻って、いたのですか」
「……まあな」
「………ッ!!」
今度はジュリエッタが、オルガに対し問い掛ける。
その声音はエリカのような鋭さは伴っていなかったが、代わりに困惑と一抹の悲しさ、そしてヒリヒリと伝わる程の、しかし複雑な色の怒気を孕んでいた。
握り込んでいた拳を開くと、オルガの胸ぐらを掴んだ。
「オルガっ!」
「っ……」
「みほ、ミカ!………良いんだ」
「何で………私達を、見捨てておいて………どうして、この道に帰ってこれたのですか!?どうして今のあなたの背中には、鉄華の印が無いのですかッ!?」
「…………っ」
怒りを滲ませた、しかし今にも泣き出しそうな声音で、ジュリエッタが周囲の目もはばかる事なくオルガに怒鳴り付ける。
そのただならぬ雰囲気に、三日月達も言葉を発することが出来なかった。ジュリエッタの口から発せられた言葉を、オルガはただ黙って聞いている。
「どうしてッ………どうしてッ!!」
「ジュリエッタ!……その辺にしておけ。周りの客に迷惑だ」
しかしその剣幕を、まほが制する。
その言葉で冷静になったのか、ジュリエッタはオルガの胸倉を離すと、表情を正した。
「……申し訳ありません。見苦しい姿を」
「いや、いい。……行くぞ、二人とも」
「はい、隊長」
「……はい」
三人が身を翻し、大洗の面々に背を向ける。
だが、そこでまほの後ろを歩いていたエリカが振り向き、笑みを浮かべて言い放った。
「一回戦はサンダース付属と当たるんでしょう?無様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね………て、そういえば元団長は、縁を切ったんでしたっけ」
「………っ」
彼らに向けた盛大な当て擦りの言葉は、みほとオルガに深く突き刺さった。
しかしその言葉を無視できないもの達が、ここにいる。
「何よその言い方!」
「あまりにも失礼です!」
「……あんたがオルガとみほの何なのかは知らないけど。いきなり現れて、知ったような口ぶりで、俺の仲間を馬鹿にしないで」
沙織、華、三日月の三人が、エリカの言葉に敵意を滲ませて言葉を返した。
だがその三人の言葉に、エリカもまた鋭い視線を返して反論する。
「……貴方達こそ戦車道に対して失礼じゃない?無名校の癖に。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は、参加しないのが暗黙のルールよ」
「……イライラするな、あんた」
「強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルールとやらで、負けたら恥ずかしいな」
とそこで、今まで沈黙を貫いていた麻子が口を開いた。エリカの言葉に対して、座って視線も合わせず、静かながらも痛烈な皮肉を返す。その皮肉に対し、エリカは憎々しげな視線を返した。ちなみに、三日月は既に座っており、敵意のこもった視線を向けながら、ヤケのようにケーキを食べていた。
「もし、あんた達と戦ったら、絶対負けないから!」
「やめろ沙織。これ以上んな事で争うな」
「ふっ、頑張ってね」
沙織の言葉に、エリカが嘲笑と共に踵を返す。
ジュリエッタもオルガの方を複雑な視線で見つめながら、まほに付いていくように店を後にした。
「べーっ!」
「嫌な感じですわ」
姿が見えなくなっても、沙織と華が敵意を隠さずに呟く。
するとそんな二人に、優花里が躊躇いがちに進言した。
「あの……今の黒森峰は、去年の準優勝校ですよ。それまでは九連覇してて……」
「えっ!?そうなの!?」
優花里の言葉に、沙織が驚いた表情をする。と同時に、そんな相手に大言を吐いてしまったことに一抹の後悔がよぎった。
「……関係ないよ」
だがその不安を見透かしたように、残っていたケーキを口にした三日月が呟く。
「どんな奴が相手だろうと、立ち塞がるなら全力で戦うだけだ。それがサンダースだろうと、さっきの黒森峰って奴らだろうと」
「ミカ……」
「ミカさん………」
三日月のその言葉に、周囲が呆然となる。
するとそんな空気を察してか、三日月が躊躇いがちに口を開いた。
「……悪いけど」
「ケーキ、もう二つずつ頼んでもいいか?」
続くように、麻子が言う。
二人のケーキの皿は、既に空になっていた。
◆
濃い夕日が射す水面に、徐々に黒い影が増えていく。
艦の上で潮風にあたりながら、みほは夕方の海を物憂げに見詰めていた。
「みほ」
「……オルガ」
そんなみほの様子を見て、オルガが話し掛ける。
みほの隣まで来ると、共に暮れなずむ夕日を見つめた。やがて俯きがちに顔を傾けながら、自嘲するようにオルガが話す。
「……全国大会に、また出る事になるなんてな」
「うん。……この学校に転校して、また戦車道を始めるなんて、少し前の私達に言ったら、びっくりしちゃうかも」
「違いねえ」
みほのその言葉に、小さく笑う。
全てをかなぐり捨てて、振り切ったつもりで。あの道から遠ざかったはずなのに、結局その道は、オルガ達の前に現れた。まるでその道を行くのが宿命だと言わんばかりに、いくら遠ざかっても離れない。
いや、もしかしたら。遠ざかったつもりで、その実は自分から近づいていたのかもしれない。
この学校に来て、その道を選んだ、新しい友の姿がなんだか眩しくて。友から伸ばされた手が、なんだかとても大きく見えて。
そのまま先頭に立って、また仲間が出来た。
だったら。俺は______
「……なぁみほ。俺、決めたよ」
「決めたって……何が?」
「さっき沙織が言ってただろ。俺たちの新しいチーム名だ」
そしてオルガは、真っ直ぐ前を見据えて、ほんの少しの勇気を振り絞って、その名前を告げる。
「______大洗鉄華団」
「…………!」
その名前を聞くと、みほはほんの少しの驚愕を顔に滲ませ、しかしすぐにふっと笑みを零した。
「____もう後ろを振り返るのはやめだ。二度とは繰り返さねぇ。………俺は、もう一度守っていく。最後までな」
「うん。____そうだね」
そして、一度運命から逃げた兄妹は。
今一度、ここに鉄華の誓いを立てたのだった。
もうすぐ全国大会が始まる。
俺がどれくらいやれるかは分からないけど、オルガ達が進む先を、俺は切り拓いていく。どんな奴が相手だろうと、全力で戦って叩き潰す。
だから行こう、バルバトス。
そう言えば、畑の方は大丈夫かな。最近戦車道ばっかりで、他の人に任せきりだし……そろそろ様子を見に行かないと。もうすぐ収穫の時期だったと思うから。
次回、ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ。
第捌話『大洗鉄華団、初陣です!』。
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