ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ   作:砂糖多呂鵜

8 / 8
一ヶ月以上遅れてすいませんでした………。
待っていてくれた方、ほんとうにお待たせしました。あの世で詫びてきます(パンパンパン!!

あと変更点ですが、バルバトスの姿は第四形態、昭弘はグレイズ改に乗らせてます。

それでは、どうぞ!


第捌話 大洗鉄華団、初陣です!

低く重い地鳴りが、大洗学園の練習場に響く。

音の発生源である一角には、二体のモビルスーツが互いに得物を構えて戦っていた。

片や巨大なメイスを持ち、片や片手持ちのアックスを持っている。

 

『ふっ______!』

 

白いモビルスーツ、バルバトスが、大振りにメイスを振るうと、相対している、アックスを持ったモビルスーツが防御の姿勢を取り、防ごうとする。

が、一瞬反応が遅かった。大きく叩き込まれた一撃が機体を揺らし、大きく後退することになった。

 

『のわぁぁぁあっ!?』

 

『昭弘。防御のタイミング、もう少し早く』

 

『ちょっと待てよ!俺はまだこいつに慣れてねえんだぞ……!』

 

緑のモビルスーツから、抗議の声が飛んでくる。日頃鍛え上げられた筋肉が特徴的な、三日月と同じ戦車道の同士、昭弘・アルトランドの声だ。

そして彼が今乗っていた機体は、一見すると聖グロの面々や、多くの学園で導入されている、戦車道での使用導入率ナンバーワンの実績を誇る優秀機、グレイズに見える。

だが、足りない部分を補ったと思われる肩や頭部の白い装甲や、背面に取り付けられた大型バーニアのバックパックが、普通のグレイズとは異なる事を如実に物語っていた。

 

EB-06/tc グレイズ改

 

先日の戦車探索により、パーツごとに大きく分解された状態で発見されたグレイズを修復したこの機体は、便宜上このような名称で呼ばれていた。

 

「おーいおやっさん、どうだ、あのグレイズは」

 

「あん?オルガか。予備の装甲材で補強しただけにしちゃあ、中々悪くねえ性能だな。問題はパイロットだが………」

 

「昭弘なら大丈夫だろう。ミカもモビルスーツ同士で訓練できて、練度も上がって来てるからな」

 

オルガ達の目の前で模擬戦を繰り広げているバルバトスの動きは、聖グロ戦の時のそれと比べて幾ばくも良くなっているように見える。そしてそれは動きだけではなく、バルバトス本体にも変化が見られた。

 

前は剥き出しだった両肩のフレームには、ツチヤ曰く「電源ボタンみたい」な模様が付けられた白い装甲が取り付けられ、ガントレットを装備していた左腕部も、右腕と左右対象の装甲に換装されている。またバックパックには何やら鉄の板棒のような武器と、大口径の重砲が装備されている。

さしずめ、ガンダムバルバトス 第二形態と言うべきそれは、雪之丞がかつての大洗で整備していた当時の姿に似せるよう整備を指揮し、自動車部員達の高い技術力によって、ガンダムフレームの高い性能を十全に発揮できる、いわば本来の姿の形態なのであった。

 

『____そろそろ休憩にしようか』

 

『あ、ああ』

 

やがて模擬戦が終わり、二体のモビルスーツが地に膝をついて伏す。

コクピットハッチが開くと、中から三日月と昭弘がそれぞれ出てくる。その様子を見ると、オルガは二人の元へと駆け寄った。

 

「ミカー!どうだー調子はー!?」

 

「うーん、いいんじゃないのー?多分」

 

「多分って………」

 

相変わらず火星ヤシを摘みながら、マイペースにそう答える三日月。

だがそれを咀嚼し終えると、再び口を開いた。

 

「少なくとも、前の時よりはこいつも機嫌良いし、大丈夫だと思うー」

 

「……そっかー!」

 

取り敢えず、動かしている彼が大丈夫だと感じるのなら、大丈夫なのだろう。それに先の動きや今の三日月の様子を見ても、無理をしているという様子も無い。少なくとも、問題無いのは確かなようだ。

 

「昭弘の方はどうだー!?」

 

「ああ……一応、どうにかなりそうだ。操作性が良いんだろうな」

 

昭弘がグレイズ改のパイロットに選ばれたのは、彼が三日月に次ぐポテンシャルのモビルワーカー乗りだったからである。鍛え上げた肉体によるフィジカルは、コクピット内部が激しく揺れるモビルスーツ戦で大きく有利になる。操縦技術があっても、体力が伴わなければこと戦車道では致命的になりかねない。

そしてその予想通り、昭弘も練習を重ねるうちに、段々と操縦方法を掴んできたようだった。慣れてない、と本人は言っていたが、グレイズの最大の長所である操作性の良さにより、三日月のバルバトスにもある程度付いていけていた。

阿頼耶識こそ搭載されてない、というよりかはその短期間で出来なかったものの、一つでも多くの戦力が欲しい大洗にとっては僥倖である。

 

戦車隊や機動隊の面々もそれから練習を積み重ね、前よりも格段に動きが良くなって来ている。

来たるサンダースとの試合でも、 きっと活躍してくれるだろう。

 

夕暮れ時。練習でヘトヘトになった面々が、生徒会と、そしてオルガの前に整列した。

 

「それでは、本日の練習を終了する。解散!」

 

「の前に、オルガちゃんから話があるんだってー」

 

「え?」

 

河嶋の号令で解散しようとした時、杏が補足するように付け加えた。

そしてその説明通りに、オルガが皆の前に出てくる。一度深呼吸をすると、皆に聞こえる声で話し始めた。

 

「_____いよいよ、全国大会が始まる。相手はサンダース大学付属高校。言うまでもなく、強豪校だ。……いや、違えな。俺たちにとっては、これから戦う相手全てが強豪校だ!」

 

オルガの大きな、そしてハッキリと伝わるその声は、皆の胸に電撃のように伝わっていった。

その大柄な体格で皆を見渡しながら、オルガは続ける。

 

「今の俺たちには立派な後ろ盾も、他に頼れる味方もいねえ、完全にアウェイな状態だ。でもだからこそ、俺たちは一丸となって立ち向かっていける。今日まで短い間だが、お前らとはそういう絆を作ることが出来たと、俺は思っている」

 

その場の誰もが、オルガの言葉を聞いていた。

まるで彼の姿が、自分達の進むべき道標なのだと、そう思えて仕方なかった。

 

「立ち塞がるのはとてつもなく高い壁だ。それでも、俺たちが一つになることができれば、超えられない壁じゃねえ。俺たち_____大洗鉄華団の力を!」

 

『!!』

 

オルガの力強い言葉に、全員がにわかに湧き出した。

だがそこで、疑問符の浮かぶ言葉が出て来た。そしてそれを代弁するように、一年生の澤梓が手を挙げて質問した。

 

「あの!()()()()()って、何ですかっ?」

 

その質問に、オルガは堂々と答える。

 

「______俺たち全員の新しいチーム名だ。ちょっと前に決めてた」

 

「私たちの………」

 

「チーム名………!」

 

「すごーい!なんかカッコイイ!」

 

オルガのその言葉に、段々とその場の勢いが増していく。

 

 

「なっ!お、おい何を勝手に……」

 

「いーんじゃない?可愛くて」

 

「なっ、会長ぉ!?」

 

「可愛い、のかなぁ?」

 

 

「うぉマジか、超カッケェ!!」

 

「ちょ、オルガ!何一人で決めてんだよ!こーいうのはもっとみんなで……」

 

「細けえ事気にすんなよユージン!ハゲるぞ」

 

「なっ……!?」

 

「なっ、いいよなぁ?三日月!」

 

「……うん、良いね」

 

 

「うむ、中々勇ましい名前だ。正しく、ロンメル将軍の第七装甲師団のような……」

 

「いやいや、一年戦争のジオン公国軍のリビングデッド師団のような……」

 

「一年戦争で言うなら、どちらかと言うとムーア同胞団だろう」

 

「グリプス戦役のエゥーゴ」

 

「「「それだぁっ!!」」」

 

 

「鉄火団?鉄の火ってこと?」

 

「鉄火丼の事だったりして!」

 

「流石にそれはないと思うよ……」

 

「どっちでもいいじゃない!要は根性のあるチーム名よ!」

 

 

続々と、皆の興奮した声が飛んでくる。

 

「うーん、なんだか可愛げが無いけど……でもいっか!新しい名前ってのは良いよね!」

 

「大洗鉄華団………なんだか華のある名前ですね」

 

「……どっちでも良い」

 

沙織や華、麻子も感想を漏らす。

すると、みほの隣にいた優花里が、複雑そうな顔をして効いてきた。

 

「西住殿。その……イツカ殿は、大丈夫なのでしょうか」

 

「え?」

 

「だって、あの名前は………」

 

優花里が気遣うような様子で、みほに尋ねる。彼女はあの名前が、オルガにとってどんな意味を持つものなのかを、ある程度知っていたからだ。

だがみほはそんな優花里の心遣いを嬉しく思いつつも、その憂いを否定した。

 

「ううん、大丈夫だよ。だって_______」

 

_______オルガ、笑ってる。

 

壇上に立って皆を鼓舞するオルガの姿に、みほはかつての記憶を思い出していた。

 

 

 

 

『………鉄華団?』

 

『そ。俺たち機動隊の新しい名前だ。中々カッケェだろ?』

 

『鉄の火、ってこと?』

 

『違う。鉄の華だ。絶対に散らない、鉄の華。な?いいと思うだろ?』

 

『うーん………ネズミさんチームは、やっぱり嫌だった?』

 

『勘弁してくれ。お前のそのズレたネーミングセンスよりかはマシだ』

 

『ちょ、それどーいう事!?』

 

『どーもこーもあるか。昔っからその辺のセンスどっかズレてるだろお前』

 

『その辺ってどの辺!?絶対ネズミさんチームの方が良いよ!可愛いし!カッコいいし!ジュリエッタさんだって良いって言ってくれる筈だよ絶対!』

 

『いーやジュリエッタなら絶対こっちの方を選ぶね!』

 

『何よ!ネズミさんの方が可愛いよ!』

 

『そんなネーミングで良いって言うのは姉ちゃんくらいだ!』

 

『ネズミさん!』

 

『鉄華団!!』

 

『『ぐぬぬ…………!!』』

 

『『……………』』

 

 

『………ぷっ』

 

『………くっ』

 

『………ふふっ……ははははは!』

 

『くっ………はははははッ!!』

 

 

 

 

______そうだった。昔どっちがいいかで揉めて、その後何だかんだで鉄華団って名前になったんだった。

 

 

あの時はあんな事言ったけど、オルガ。

 

その名前、きっと今の私たちにとって、何よりも似合ってる名前だと思うよ。

 

 

 

 

かくして、サンダース戦に向けての大洗学園、もとい大洗鉄華団の練習は、より過密さを増していった。

戦車のフォーメーションや作戦での動き。モビルワーカーと戦車の連携戦術。更には切り札たるモビルスーツの運用や訓練など。

 

立ちはだかる壁はとてつもなく高い。ならばこそ、彼ら彼女らに妥協すべき道は無かった。短期間でやれる事は全てやり、少しでも作戦通りに迅速に動けるようにする必要があったのだ。

何しろみほとオルガ以外は殆どが素人である。二人に遅れを取るまいと、皆が気合を入れて特訓に励んでいた。戦車の整備や点検も怠ることなく、万全の状態で動けるようにしていく。僅かな動きの乱れが命取りになるなど、戦車道ではよくある話だ。

 

モビルスーツの方も経年劣化で使い物にならないパーツは殆どが新品に換装され、三日月と昭弘も模擬戦を繰り返すことで、互いに動きが精錬されていった。阿頼耶識システムにもかなり適応していったようで、時折モビルスーツとは思えないような動きも繰り広げていたのが記憶に新しい。

 

更に、そんな彼ら大洗鉄華団の始まりを祝うように、皆にある物が支給された。戦車道で使用する、新品のジャケットである。

女子は紺色で、男子はカーキ色のジャケットだった。背中には、それぞれのチームのマークが刺繍されている。男子の方は全員が、背中に赤い華のようなマークを施してあった。

 

「皆さん、とってもお似合いです」

 

「いーじゃん!気に入っちゃった!」

 

 

「どーだお前ら!これが俺たちのジャケットだ!」

 

「かっけえなァこのマーク!魚か?」

 

「はぁっ?花だよ花!オルガさ……じゃなくて、団長に頼まれて俺がデザインしたんだよ!」

 

「へぇ。凄いね、ライド。俺も気に入ったよ」

 

「やっぱこういうのがあると、身も引き締まるよな!」

 

各々が新たな装いに歓喜の声を上げる中、一人静かに物思いにふけっている男がいた。

 

「………」

 

昭弘である。新品のジャケットを着込んで腕を組みながら、どこか上の空になって何かを考えていた。

 

「おい昭弘?どうしたんだよ。ジャケット気に入らなかったのか?」

 

「ん?ああいや、少しな。ジャケットなら気に入ったよ」

 

ユージンの問いに軽く答えると、昭弘も皆のところへ向かおうとして_____一瞬立ち止まって呟いた。

 

 

「………サンダース、か。……あいつに直接会うのも、久しぶりだな」

 

 

その声は、感情を表に出すことの少ない昭弘にしては珍しい、どこか喜色の混じった声音だった。

 

 

 

 

そして遂に、大洗学園対サンダース大付属高校との試合。全国大会の第一試合の日がやってきた。

会場には多くの人が集まり、皆思い思いに試合が始まるのを待っていた。特に、サンダース側の観客席には大勢の人が詰め寄り、応援団のような人達まで来ていた。

一方の大洗には、数える程の人しか見受けられない。やはりポッと出の弱小チームと、大会常連の強豪校。応援一つ取っても、やはり大洗はこの場でアウェイだった。

 

選手である生徒達に、長い休息は許されない。会場について少し経ったら、皆それぞれの機体の整備に取り掛かった。試合に備え、最後の点検を怠ることは出来ない。バルバトスとグレイズ改も、何人かの自動車部員達が随伴で付いてきて、一緒に整備をしていた。戦車やモビルワーカーと違って、大型であるモビルスーツを一人で整備するのは難しいからである。

 

「よーし!では試合が始まるまで待機だ!」

 

河嶋が全ての機体の整備が完了したのを確認すると、全員に待機命令を出す。皆が思い思いに休息を取っていると、そこに近づく人影が見えた。

 

「呑気なものね。それでよくノコノコと全国大会に出てきたものね」

 

灰色を基調とした学生服に身を包んだ、二人の女生徒である。恐らく、サンダースの生徒だろう。何故か二人の姿を捉えた瞬間、優花里が麻子の後ろに慌てて隠れていた。

 

「貴様ら何しに来た!?」

 

河嶋が威嚇するように語気を強めて_____普段から割と強いが_______二人組に問う。

その中の身長が高い生徒が、余裕の声音で答えた。

 

「試合前の交流も兼ねて、食事でもどうかと思いまして」

 

「………ああ、いいねぇ」

 

生徒会長と高身長の生徒との間で、バチバチと火花が散る。明らかなこちらへの挑発に、杏もまた不敵な笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 

「凄っ………」

 

「救護車にシャワー車、ヘアサロン車まで……」

 

「ほんとにリッチな学校なんですね……」

 

「すっげえなぁ……ここだけ祭り開いてるみてえだ」

 

「お、おいシノ。あんま呆然としてんな、舐められんぞ」

 

「そう言ってるユージン君も、冷や汗流れてるけど……」

 

案内された場所に着いた途端、面々の口から出たのは感嘆を通り越して、呆れすら含んだ声だった。

ハンバーガーやホットドッグ、ポテトなどの、如何にもアメリカの校風であるサンダースらしい食べ物屋台は勿論、優花里が言ったように救護車やシャワー車やヘアサロン車など、余程特殊な状況でも無い限り一生お目にかかることも無いだろうワゴン車が大量に設置されていた。

 

「噂で聞くくらいだったが……本当に何でもあるのな」

 

オルガもそれらのワゴン車を見て、深い溜息を吐く。これらを見てまず思ったのが、これを毎年やってて本当に金とかは大丈夫なんだろうか、という変な心配事だった。

そこでふと隣を見ると、先ほどまでいたはずの三日月がいないことに気付く。が、すぐに見つかった。_____右手に食べかけのチョコレートアイス、左手にドーナツの詰め合わせを持って、隣に同じくアイスを頬張っている麻子を伴って。

 

「オルガー、ここの食べ物結構美味いよ。一緒に食べるー?」

 

「……甘い。やはりアイスはいいものだ」

 

「いやお前ら馴染むの早すぎだろ!?」

 

「麻子、いないと思ったら!」

 

二人のあまりに自然体な、というか普段はあまり見られない少し浮かれた様子に、沙織と揃ってツッコむ。しかし三日月は二人の様子に首を傾げるばかりで、左手に持ったドーナツのパックを差し出した。

 

ほは、いっほおまへひへもはっははら(ほら、一個おまけしてもらったから)……んぐっ、みんなで食べようよ」

 

「……お前なぁ………」

 

そのフリーダムな様子に盛大に溜息をついたオルガは、これ以上突っ込むのも野暮と察して、黙って差し出されたドーナツを一個持っていく。なおよく見ずに適当に取ったからか、取ったものは水色の何かに黄緑色のソースのような物がかかった、一目見てカロリーの化け物だと分かる代物だった。よくアメリカのスーパーとかで売ってる、あの色だ。

 

「……それ、食べるのか?」

 

「……まあ食えねえもんじゃねえだろ」

 

普通のホワイトチョコドーナツを食べていた麻子に心配されながら、ドーナツを恐る恐る口に運ぶ。

 

「……どうだ?」

 

「……普通だな。食った後胃もたれしそうだが」

 

なんだか肩透かしを食らったような気分で、それはそれで残念に思いながらも、残っていた分を咀嚼する。食べ終わってから口内の水分がスポンジで吸われるかのように急速に失われるのを感じ、今度は猛烈に水が欲しくなった。

すると。

 

「Hey、アンジー!」

 

向こうから金髪の生徒が、生徒会長の方へ見て手を振ってきた。ウェーブのかかった髪型に快活な声音の、一目見てポジティブだと分かる人である。周囲には仲間と思われる女生徒が四人おり、共に歩み寄ってくる。

 

「『角谷杏』、だからアンジー?」

 

「馴れ馴れしい……」

 

「やあやあケイ!お招きどーもー」

 

会長の方は顔馴染みだったのか、ケイと呼んだ金髪の生徒に手を振り返す。

 

「何でも好きなもの食べてって!OK?」

 

「オーケーオーケー!お()()、だけに」

 

「アハハッ!!ナイスジョーク!!」

 

やり取りを見ただけでも、かなりノリの良い人だということが分かる。自分の名前を駄洒落に使われても起こらないどころか、腹を抱えて笑っている。周りの苦笑いの女生徒たちとの温度差が激しい。

オルガ達が思わず半眼を作っていると、雰囲気を察してか、彼女の仲間内で最も背の高い、銀髪のクールそうな雰囲気の生徒が話しかけてきた。

 

「すまないね。騒がしいだろう?うちの戦車隊長」

 

「へっ?ああいえ、そんな事は………」

 

思わず優花里が応対すると、向こうの生徒がどこかハッとした様子で優花里の顔をマジマジと見つめた。

 

「ん?………あんたもしかして、()()()()()()()()()()?」

 

「……ハッ!?し、しまった!」

 

その名前を告げられると、優花里がハッとした様子で固まる。

実は戦車喫茶での一件があった数日後、優花里はこの一回戦のため、コンビニ船からサンダースに潜入していたのである。態々制服まで用意して臨んだこの任務で、大洗側はサンダースの使用戦車やモビルスーツなどの情報を知り得たものの、優花里も正体がバレて危うしという状況になってしまっていたのだ。

その際咄嗟に名乗った偽名が、ある戦争映画に登場するキャラクターの『オッドボール三等軍曹』という名前だったのだが……どうやらその名前と共に覚えられていたらしい。

 

「あの後、大丈夫だったかい?」

 

「へ?あ、はい……」

 

だが向こうは優花里に敵意を見せるどころか、優花里が無事な様子を見て、少し表情を緩めた。

 

「うちは毎日馬鹿みたいに賑やかだから、いつでも遊びに来なよ。……ああ、申し遅れたね。サンダース機動隊隊長の、アジー・グルミンだ。今日の試合、よろしく」

 

「あっ……よ、よろしくお願いしますぅっ!」

 

握手を求められ、上ずりながらも応じる。その様子を見ると、アジーと名乗った生徒は皆に手を振り、ケイ達の元へ戻っていった。

 

「良かった……」

 

「隊長は優しそうだね……」

 

「……クールだな」

 

「んぐっ………俺、今日あの人と戦うのか」

 

アジーが去った後、口々に感想を述べるあんこうチームの面々と三日月。

オルガがその様子を見ていると、ふと視界の端で、何やら忙しない様子でいる昭弘の姿を捉えた。いや、表面上はあまり変わってないように見えるが、長い付き合いであるオルガには、何やら誰かを探しているように見えた。

 

「昭弘。どうしたんだよ、さっきから落ち着きねえぞ?」

 

「っ、ああ、団長か………いや、ちょっとな」

 

オルガに一瞬驚くも、すぐに冷静に返す昭弘。だが、やはり様子がおかしい。

オルガが質問を続けようとした、その時。

 

 

「_____あーきーひーろーっ!」

 

 

「………ん?」

 

昭弘の背後から、声がしたかと思うと。

 

「んぐっ!?」

 

「ぎゅーっ!」

 

昭弘の大きな背中に飛びかかるように、誰かが背後から昭弘を抱き締めた。咄嗟に反応できず、昭弘の口から一瞬苦しげな声が漏れる。

そして飛びかかってきた存在を確認すると、ほんのかすかに表情を緩めながら、冷や汗をかいて挨拶した。

 

「ら、ラフタか………直接会うのは久しぶりだな」

 

「ホントだよ!リモートでしか話せないから寂しかったー!てか昭弘、前より背中カッチリした?」

 

「…………は?」

 

金髪のツインテールが特徴的な、快活そうな人である。制服から見るに、恐らくはサンダースの生徒だろう。そこまでは良い。

オルガが傍目から見てもとてつもなく間抜けな顔で突っ立っている最大の理由は、その女生徒が昭弘にいきなり抱きついてきたこと、昭弘と何やら親しそうなこと、そもそもいきなりすぎて頭が追いつかないこと、などである。

 

 

「まあ、鍛えてるからな。そういうお前こそ、前より背ぇ伸びたんじゃないか?」

 

「そうかなぁ〜……って、そういえば昭弘、ホントに戦車道始めたんだね」

 

「あ、ああ……まあ、成り行きでな。モビルスーツで……」

 

「モビルスーツ乗ってるの!?てことは、今日昭弘と戦えるんだ!!」

 

「今日……ああそういや、前に大会で出るって言ってたか。言っとくが、こっちは初心者だからな?」

 

「分かってるって。でも、やるからには本気だからね。覚悟しなさいよ!」

 

「………ああ。お手柔らかに頼むぜ」

 

 

このようなやり取りの後、ラフタは手を振って、自分のチームの元へと戻っていった。

しかしオルガは未だに呆然としており、口が半開きになっている。

 

「久しぶりに会っても、変わらないな、アイツは_____って、どうした団長。今までに見たことない面になってるが………あっ」

 

そんなオルガを見て、昭弘が一瞬呆けた様子で問いかける。が、すぐに自分の置かれた状況に気づくと、慌てた様子で 「うぉっほんっ」、と咳払いをして、居住まいを正した。

 

「………すまねえ。見苦しいとこ見せちまったな」

 

「……いや、それは別にいいんだが………その、さっきまで話してた女子は、どういう……」

 

「ああ。さっきの奴……ラフタとは、俺が孤児院出て、養子として引き取られてからの馴染みでな。よく弟達の面倒も見てもらってたんだ。学園艦で暮らし始めてからは会える機会も減っちまったが、定期的に連絡し合っててな。今はまあ……大体お前の想像してる関係で間違いねえ」

 

「………そ、そうか」

 

直接言うのは気恥ずかしいのか、普段より硬い表情で言う昭弘。オルガはどう反応すべきかわからず、ほんの僅かに頰を赤らめて、視線を明後日の方向に向けて、ポリポリと頭を掻いた。

口下手で遠回しな言い方だが、要するにそういう事だろう。まさか大洗の戦車道メンバーの中で誰よりも先に、競いようもなく最速で昭弘に、そういう関係の女子がいたとは。恋愛経験ゼロのオルガにとっては、縁遠い話だと思っていたため、心の中で密かに昭弘を尊敬する事にした。

これをシノやユージンが聞いてたら黙ってないだろうな_____と、オルガが呑気に考えていた、その時。

 

 

「_____はぁ〜んなぁるほど。まぁさか昭弘にあんな別嬪な女がいたなんてなぁ?ユージン」

 

「昭弘………お前……お前……っ!」

 

 

そんなオルガの考えを神様が見通したように、昭弘の背後から物凄く見覚えのある人影が二つほど現れた。

間違いない、シノとユージンである。

 

「お、お前ら、いつから……」

 

「昭弘とあの可愛い女子が、そりゃあもう熱ぅーくハグしたとこからな!」

 

それはつまり、ほぼ最初から最後まで聞いてたという事だろう。

困惑している昭弘を他所に、明らかに楽しんで悪戯じみた邪悪な笑みを浮かべるシノと、心底羨ましく、切実そうな顔をしたユージンが囃し立てる。

 

「んだよ昭弘!あんなきれーな女いたなら一言言ってくれたっていーじゃんかよ!お前も隅に置けねーなぁ!」

 

「お、俺は別に羨ましくなんてねーからなぁっ!!俺だってなぁ!俺だってなぁ!」

 

「お、おい落ち着けお前ら!」

 

先ほどから引き続き、困った様子の昭弘だったが、シノとユージンの攻勢はしばらく止まる様子がなかった。

 

「ったくお前ら………」

 

「………何があったの?」

 

思わず同情的な視線で昭弘の修羅場を眺めるオルガ。隣には、新しくチュロスを持った三日月が、首を傾げてやって来ていた。

 

 

 

 

一方その頃、その修羅場を作った原因である、ラフタ・フランクランド本人はというと。

 

「(ああああああーーっ!!ヤバイヤバイヤバイ!久しぶりに会ったから思わず抱きついちゃったけど、今思い返したらとんでもないことしちゃったよね私ぃっ!?い、いや待って。私はそもそも昭弘の幼馴染だし、ていうか彼女だし、親も公認してるし、特に問題はないはず。ていうかウチの学校の校風的にも、大丈夫なはず。うん、問題はない。全く問題無い。あれ?でも待って。確か隣に同じジャケット着た人いたよね?あれ多分昭弘の友達だよね?そうでなくても同じチームのメンバーだよね!?あああああああッ!!どうしようどうしようどうしよう!私のせいで、昭弘がその人から弄られたりしたらどうしよう!?ていうかそれ以上に………うあああああ!!恥ずい!超恥ずい!!超超超恥ずかしいぃーっ!!でも昭弘の背中、前会った時よりガッチリしてて、大きくて………フヘヘへへ、じゃなくて!!あーんもぉーッ!!)」

 

「………何やってんの?ラフタ」

 

ハンバーガーのワゴン車の陰で、ケチャップのように顔を赤くしながら、しゃがんで顔を覆って悶えていた。その様子を見に来たアジーが泣き付かれ、慰めるのに一定の労力を割いたのは、また別の話である。

 

 

 

 

それでは、サンダース大学付属高校と、大洗学園の試合を開始する!

 

そんな一幕もあった交流も終わり、いよいよ大洗学園こと大洗鉄華団と、サンダース大学付属高校との試合の時がやってきた。

会場に集まった観客も、試合の開始を今か今かと待ちわびている。

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

前に出てきたケイと杏が、試合前の握手を交わす。

各校とも機体が出揃い、それぞれの陣地で待機していた。大洗は戦車が五両に、モビルワーカーが二両。そしてモビルスーツが二機という編成。

 

対するサンダースはモビルワーカーがない代わりに、戦車、モビルスーツ共に最大投入可能数である十両と三機を投入してきていた。サンダースの戦車は多少の装備の違いがあれど、殆どがアメリカ製の戦車である【シャーマン】による編隊を成している。

そしてモビルスーツはと言うと、一機は最も戦車道で導入されている名機グレイズだが、他二機は異なっていた。

 

アメリカンなサンダースの校風とは少し異なる、まるで日本の鎧武者のような、鈍色に光る装甲に身を包み、四つ目の頭部と背面の大型ブースターが特徴的な機体。

 

STH-05R 漏影

 

サンダースのスポンサーであるテイワズから提供されている、優秀な高機動モビルスーツであった。

 

 

「____説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです。サンダース付属の戦車は、攻守ともに私たちより上ですが、落ち着いて戦いましょう」

 

そんな中大洗は、戦車の内部で最後のブリーフィングを行なっていた。

 

「機動性を生かして常に動き続け、敵を分散させて、Ⅲ突の前に引きずり込んでください」

 

『敵のモビルスーツは、ミカと昭弘が相手をする。数は向こうの方が上だが、勝てない相手じゃねえ。だがそれも絶対とは言い切れねえ。モビルスーツの攻撃に当たろうものなら、一発で白旗だ。皆気をつけろよ。………これが俺たち、大洗鉄華団の初陣だ!気ぃ引き締めて行くぞォッ!!』

 

『はいッ!!』『応ッ!!』

 

オルガの激励に、全員が力強く応える。

 

 

試合、開始!

 

 

そして今まさに、戦いの火蓋が切って下されたのであった。

 

 

 

 

 




三百三十三………ッ!三百三十四…………ッ!

……あぁっ?なんでこんなに鍛えてんのかだって?

決まってんだろ。いざって時頼りになんのは、結局自分の身体だからな。だからこうして鍛えねえと、守りたいもんも守れなくなっちまう。

……俺には大事な弟達がいる。弟達をいつまでも守ってやれる、そんな兄貴でいてえんだよ、俺は。それに、今は他にも大事なもんがあるからな。あとはまぁ………好きな女の前じゃ、いつでも元気な姿でいてえからな。

って、らしくもねえ事言っちまったな。忘れてくれ。

次回、ガールズ&パンツァー 鉄血のオルフェンズ。

第玖話『強豪、シャーマン軍団です』


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