色々ありましたがモチベの回復と供養を兼ねて再投稿です。
「うさぎさんチーム、右方向の偵察をお願いします。アヒルさんチームは左方向を」
『了解しました』『こちらも了解!』
試合開始直後。大洗鉄華団はサンダースといきなりぶつかり合う事なく、森林地帯に身を潜めていた。
「かばさんと我々あんこうは、カメさんを守りつつ前進します。モビルワーカー隊は、各車両についてください!」
『分かった!ミカと昭弘は、敵モビルスーツが出てくるまで待機していてくれ。警戒は怠るな!』
『分かった』『了解』
「それでは………パンツァー・フォー!」
みほの号令とともに、鉄華団は行動を開始した。
彼ら彼女らが、わざわざ視界が悪く、地形の起伏に富んだ、戦車戦に不利な地形を選んだのには理由がある。
今は双方がお互いの出方を伺っている状況。こと戦車戦で重要な、相手より先に見つかることなく、相手を先に見つけるのに、この森林地帯は言うようなのだ。そもそも戦力的にこちらが大きく劣っている以上、序盤からぶつかるのはただの自殺行為である。
そしてもう一つは、サンダースが得意とする、圧倒的な物量差に物を言わせた包囲戦術への対策だ。準備もままならない状態で一気に囲まれるのは、非常にまずい。特に拓けた場所では囲まれやすく、各個撃破されやすい。
それに比べるとこの森林地帯は視界は悪いものの、全員が囲まれる危険性は低く、多少なりとも抵抗できる。
アヒルさんチームの八九式と、ウサギさんチームのM3が偵察に出ている間、他チームはフラッグ車であるカメさんチームの38(t)を護衛しながら、少しずつ前進を開始した。
『こちら、B085S地点。シャーマン三輌発見。これから誘き出します』
ウサギチームからの通信も入り、作戦を開始するまでに各々が準備をしていた、その時。
_____ドゴォォォォッッッ!!!
『っ!シャーマン六輌に包囲されちゃいましたッ!!』
重い砲撃音と共に、ウサギチームから再び通信が入ってきた。
その通信を聞くや、みほは急いで通信機に手を当て指示を飛ばす。
「ウサギさんチーム、南西から援軍を送ります!」
『動け!足止めたらやられるぞ!!』
随伴機としてウサギチームと共に偵察に出ていたシノが叫び、M3が応えるようにその場から全力で逃げていく。
「オルガ達モビルワーカー隊は、先行して援護に向かってください!アヒルさんチーム、私たちに付いてきてください!」
『はい!』
『了解だ!ウサギチーム、もう少し耐えてくれ!ユージン移動だ、M3を援護するぞ!』
「お、おう!」
戦車よりも足の速いモビルワーカー隊が先行し、M3の援護へと向かっていく。
「ちょっと付いてこないでよーっ!」「えっち!」「ストーカー!」「これでも喰らえ!」
「お前らは先に逃げろ!俺が相手する!」
シノのTK-53がM3の前に行き、車体両側の主砲を斉射する。
だが、急に方向を転換した為か、弾はシャーマンに当たることなく、全く的外れな方向へと飛んでいった。
「ハハハ!全然当たんないよー!」
シャーマンのキューポラから上半身を出したケイが、両手を振って挑発する。
そして相手に撃ったのなら、撃ち返されるのもまた戦車道の道理。
先に撃たれたシャーマン三輌はM3とTK目掛けて、一斉に75ミリ砲を放ってきたのである。
『きゃーっ!!』
「くっそ、舐めやがって!」
ウサギチームが悲鳴を、シノが悔しさを滲ませる。
今ここに、交戦が始まった。
◆
「流石サンダース。数に物を言わせた戦い方をしますね」
「ふん、あれだけの物量差。一体大洗がどこまで粘るか見物だな」
観客席から少し離れた高台で、聖グロリアーナの戦車道チームは自前の椅子とティーセットを伴って、試合の行方を見守っていた。
隊長車のチャーチルに一年生でありながら乗り込む優等生、オレンジペコが率直な感想を言い、機動隊のエースの一角であるMS乗り、
恐らく前回の練習試合で、大洗のMSにやられたのを根に持っているのだろう。それを知ってか知らずか、隣で優雅に紅茶を飲んでいた
「そう見放した物でもないさ。数の差は確かに重要な要素だが、全ての局面での戦力の決定的な違いと言うわけではない。現に前回、我々は頭数で劣るはずの相手に苦戦させられたからな。いや、アレは寧ろ機体性能と言うよりは、乗り手の問題かもしれんが」
「むっ……」
シッキムの当て付けるような物言いに、ドアーズはしかめっ面になる。その
「ことMS戦車道では、選手や機体の個々の能力。作戦、指揮の取り方次第で、如何様にも立ち回れる。まだ分からないぞ」
「……随分と奴らの事を買っているんだな」
ドアーズはやはり面白くなさそうな表情になりながらも、優雅に紅茶を飲み、目の前の巨大な観戦用モニターへと目線を向ける。
そこでドアーズは、先ほどから気になっていた疑問を口にした。
「‥‥それにしてもサンダースの動き、妙に速くないか?あの様子だと、大洗はサンダースはおびき寄せるつもりだったのだろうが、逆に向こうが先に包囲しているではないか」
「……確かに、そうですね」
ドアーズの言葉に、オレンジペコが同意を示す。
確かに、森林地帯に大洗が尽敬意を敷き、偵察車輌を出した瞬間、サンダース側が示し合わせたようにシャーマンを出してきたのだ。ただの偶然かもしれないが、あまりにもタイミングが良すぎる。
これでは、まるで____
「___こんなジョークを知ってる?」
と、そこで。
オレンジペコの隣に座り、優雅に紅茶を飲んでいた聖グロリアーナ戦車隊隊長、ダージリンが口を開いた。そのセリフを聞いた瞬間、オレンジペコは心の中で「またか」と、半ばうんざりしたように呟いた。
会話の度に格言やことわざを引用したがる____この余計な一言がなければ理想の隊長なのにな、と、オレンジペコは小さくため息をついた。
「アメリカの大統領が自慢したそうよ。我が国には何でもあるって。そしたら、外国の記者が質問したんですって。_____
_____違った。全然格言でも何でもなかった。
しかしそれを言った瞬間、ダージリンの表情はいつも格言を言うときよりもどこか楽しげな物へと変わる。そして続くように____
「フフッ…………フハハハハハハッ!!フハハハハハハハハッ!!!ハハハハハッ!!」
ペコの隣に座っていたシッキムの口から、高笑いが聞こえてくる。
普段の冷静沈着な姿からは想像もつかない、シッキムの高笑い。そしてもう一度ダージリンの方を見ると、彼女もまた口元に手を当て目を瞑りながら、くつくつと笑いを堪えていた。
今度はその様子を見たドアーズが、やれやれといった風に頭を振り、ダージリンに言ってきた。
「……おいダージリン。あまりうちの隊長を揶揄ってくれるな。こっちが見てられん」
「ふふっ、ふふふ……ごめんなさい。何度やっても面白くて」
とはいえこれもまた、いつも通りといえばいつも通りの光景だ。
彼女はシッキムが居るときに限り、こうしてどこかの格言やことわざを、シッキムが尊敬してやまない存在であるバエルやアグニカ・カイエルに絡めたギャグ(?)に変えて言ってくる。
殆どの人間はスルーするか、困惑するだけなのだが____シッキム一人だけは、まるで気が狂ったかのように笑うのだ。紅茶を飲んでいようが、MSに乗っていようが関係なく、余程の事でもなければあらゆる状況で笑い始める。
普段は人を見透かしたような態度のシッキムがその言葉で一目も憚らずに笑う姿が、どうやらダージリンのツボに入ったらしい。こうして事あるごとにギャグを言っては、シッキムを笑わせてくるのだ。
「まぁ、それは置いといて。……本当のところは?」
「そうね......ひとつだけ言えるのは」
ダージリンはそう一言置くと、前方の空の、どこか遠いところを見るような目で、呟いた。
「___この地獄のホットラインを乗り越えなければ、大洗に勝ち目はないわ」
◆
「頑張って!」
「やれば出来る子だよ桂里奈ちゃん!シノ先輩との特訓を思い出して!」
「あいぃ~ッ!!」
依然としてシャーマンの追跡から逃れられずにいる大洗は、いまだに森林地帯での一方的なパンツァーチェイスを繰り広げていた。追う側はまだしも、追われる側にいる大洗にしてみれば、冗談じゃないと言いたくなる展開だ。
隊長車のⅣ号を筆頭に懸命に逃げ切ろうと、木々の隙間を駆け抜けていく。
しかしその時。
____ドッゴォォォォォォォッッ!!!
戦車のそれよりも一際大きな重砲の着弾音が、森中に鳴り響いた。
弾丸は戦車隊に命中することは無かったものの、
「ッ!モビルスーツ、出てきたぞ!!漏影が二機!」
『任せて』『行くぞ!』
TK53から身を乗り出しているオルガが叫ぶ。見上げた視線の先には、二機の漏影が80mm口径ハンドガンを構えてこちらを狙っていた。
しかしオルガの通信が入ったと同時に、待機中だった三日月と昭弘が駆る機体、バルバトスとグレイズ改が浮上し、漏影二機の攻撃を遮った。
「いきなりモビルスーツを出してくるなんて……。ッ!?」
みほがサンダースの速攻に肝を冷やした、その次の瞬間。
「___三輌!?囲まれた!」
みほの眼前に、さらに三輌の車両が迫ってきた。みほの声を聞いた優花里が、現在のこの森のサンダース戦力を数える。
「北東から六輌、南南西から三輌、そして漏影が二機……。凄い!全戦車とMS併せて、十一機この森に投入ですか!」
「随分大胆な戦術ですね……」
砲手の華が、静かながらも驚きを隠しきれない様子で呟いた。つまり今のサンダースは、凡そ全ての戦力をこの森に集中させている。残っているのは戦車一輌に、モビルスーツ___試合前に見た機体から判断するに、グレイズ___が一機のみということだ。
大胆、どころか下手をすれば自爆特攻にもなりかねないようなサンダースの超攻撃的な姿勢。大洗の戦力ならいけると高を括っているのか、それともやはり、強豪校ゆえの策あってのことか。
どちらにせよ試合前に立てた作戦は、既に瓦解しつつあった。みほはすぐさま通信を出し、指示を伝える。
「うさぎさん!そのまま進むと危険です!停止できますか!?」
『無理でーすっ!!!』
「ッ、六輌に集中砲火浴びてるって!」
沙織が通信内容をみほに伝える。
試合開始からまだ僅か。早くも混迷の戦場が形成されつつあった。
◆
三日月の駆るバルバトスが、バックパックから展開した滑腔砲を打ち出す。サンダース機動隊のエース、ラフタ・フランクランドが操る漏影がその砲弾を素早く避けると、舞い上がった土煙を払いながらハンドガンで応戦した。
「こいつ、速い……っ!」
「はははっ!機動力が違うっての!」
漏影の銃弾を装甲で受けながら、バルバトスは尚も食らいつこうとする。しかしすぐに背後に回られ、弾丸を背面からもろに食らってしまった。
「ぐぅ……っ!」
「ビンゴっ!」
厄災戦時代。モビルスーツの主戦場が宇宙だった三百年前に製造されたガンダム・バルバトス。当然その装備も、本来は宇宙戦を想定した仕様になっている。
対しての漏影は地上戦を想定した仕様。当然、機体そのものの動きは、漏影に分がある。二機の動きの違いは、そのセッティングの違いにあった。
すぐさま立て直したバルバトスだったが、急速転回した漏影が再び銃口を向け、バルバトスに弾丸の雨を浴びせた。
「遅い遅い遅い遅い!」
ラフタの漏影のスピードに翻弄される三日月。
お返しにと再び滑腔砲を撃つが、その砲弾が漏影を捉える事は無い。阿頼耶識による補助があるとはいえ、その実力差は歴然だった。
「三日月ッ!」
「余所見!」
一方の昭弘もまた、隊長であるアジー・グルミンの駆る漏影の前に苦戦を強いられていた。こちらはMSの操縦経験も浅いうえに、阿頼耶識によるバックアップもない。
攻撃を凌ぐことで手一杯であり、反撃も悉く裁かれてしまう。
「くそっ、このままじゃ埒が明かねえ……っ!」
『ミカ、昭弘!もうすぐ戦車隊が森を抜ける!お前たちも合流してくれ!』
「っ、了解!」
その最中に響いたオルガからの通信がなければ、もうすぐこの攻防も崩されていただろう。
追撃の一太刀をアックスで押し返すと、グレイズ改はスラスターを蒸かせて戦線を離脱した。
「三日月、聞こえたか!」
『分かってる』
三日月に通信を取ると程なくして、背後からバルバトスのスラスターの音が聞こえてきた。
こちらを追撃する弾丸を避けながら、大洗鉄華団はどうにか混迷した森林を抜けだしたのであった。
『あーんもうっ!逃げられた!』
『ドンマイ!深追いNGよ!』
◆
「危なかったですね…」
『ああ。にしてもビビったぜ、俺たちが進んでた方向にドンピシャでいたんだからよぉ』
どうにか危機的状況から脱した大洗。
一息ついたものの、サンダースの不可解なまでに鋭い読みに、皆が肝を冷やしていた。森の中での合流も、何度も回り込まれてギリギリのところをどうにか脱け出してきたところだったのだ。
「……妙だな」
あんこうチームのⅣ号と並走していたTK-53から、オルガは訝しんだ。
「オルガ?」
「
「!」
オルガのその一言に、みほが心の奥で感じていた、僅かな違和感の正体が明らかになった。
「練度の差があるとはいえ、俺の知ってる限りじゃ、サンダースはこうも相手の策を読んで、それを封殺する戦い方のチームじゃあ、無かったはずだ。そう思わねぇか?みほ」
「……うん。まるで
そこでみほはハッ、となるや、上空を凝視した。
木立の隙間から流れる空の中に一つ、雲とは明らかに違う白い何かがあった。小さい
その何かの正体と、そしてそれによってこれまでのサンダースの読みの鋭さのカラクリを理解したみほは、キューポラから車内に身を潜めた。
「みほさん、どうしたんですか?」
疑問符を浮かべる華の耳元に、みほが小声で伝えた。
「通信傍受機が打ち上げてある」
「えぇっ!?そんなの反そん…っ!」
「しーっ」
思わず大声を上げそうになった華を静止して、一度戦車を停止させる。
全員が上半身を戦車から乗り出すと、優花里が『戦車道るーるぶっく』と厳つい文字で書かれた本をぱらぱらと捲りだした。そして半分ほどのところでページを止め、凝視する。
「……確かに、ルールブックには『傍受機を打ち上げちゃいけない』、なんて書いてないですね」
優花里が納得しがたい表情をしながら伝える。
確かに、ルールには記載されていない。だがそれでも暗黙の了解、不文律というものも、戦車道には存在する。ルールとして禁じられてないだけで、仲間内の指示が飛び交う戦車道でそんなことをしようものなら、試合としての公平性が揺らぐことになる。
最も、通信傍受機___特にエイハブ・ウェーブ発生下で使用可能な代物など、並みの学校が手に入れるのは難しいため、ルールとして定められていないのだろうが、それでも手触りの悪さは隠せない。
「ひどぉーい!いくらお金があるからって!」
「ミカか昭弘に撃ち落させるか?MSの射程だったら……」
「待ってオルガ。それなら…」
通信を切って、みほが皆に作戦を伝える。
それを聞いたオルガは目を見開き、そして妹のたった一つの冴えたやり方に、にやりと笑った。
◆
『全車、0985の道路を南進。ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくるはずなので、通り過ぎた所を左右から狙って!』
『了解です!』『こっちも了解!』『おうよ!』
「……目標はジャンクション。左右に伏せてるわ。囮を北上させて、本体はその左右から包囲!」
通信機を片耳に、ニヤリと笑いながらアリサは自信たっぷりに指示を出した。
「OK, オーケー!でも何でそんな事まで分かっちゃうワケー?」
指示を受けた隊長のケイが、快活ながらも僅かな疑問符を浮かべて質問する。
竹を割ったように明朗快活で、明るく高潔な性格の隊長を欺いている___その事実に多少なりとも後ろめたさのあったアリサは、僅かに間を置いて誤魔化すように告げた。
『……女のカンです』
「アッハッハッハ!それは頼もしい!」
ケイはそう笑い飛ばすと、戦車隊にアリサの指示を伝えた。
◆
オルガ、ユージンの乗るTK-53は、フィールドを一望できる丘の上に停車していた。
オルガは双眼鏡を片手に周囲を確認し、連隊を組んで北上するシャーマンの姿を見る。これ見よがしにやってくるカーキの戦車たちを前に___オルガはニヤリと笑った。
『囲まれちまってる。……一旦引くぞ!!』
『見つかった……!みんなバラバラになって退避!38(t)は、C
「38(t)……!敵のフラッグ車じゃない!貰った!」
傍受機からの通信を受け取ったアリサの顔色は、勝利を確信した喜色に溢れていた。
『チャーリー、ドッグ!C
「はい!」
チャーリーチーム、ドッグチームのシャーマンが指定されたポイントへ急行する。疑いは無かった。指示を飛ばすアリサの声が、これ以上ないほどの確信と自信に満ちていたからだ。
「アリサ大胆だねぇ~。んぐっ、んぐっ……プハッ!これで決着ついちゃったら、昭弘とヤり合えないじゃーん」
漏影のコクピットで、キンキンに冷えた瓶コーラにありついていたラフタが、アリサの判断に少し驚きながら不服を漏らす。折角戦車道を始めた恋人と公式戦で戦えるチャンスだというのに、その機会を逃しそうとあっては、勝つとしても不完全燃焼に終わってしまう。
『試合終わった後で乳繰り合えばいいでしょ。メリー?大丈夫だとは思うけど、念のためチャーリー、ドッグに付いて行ってあげて』
『YES,マム!』
対して苦笑しながらもクールなアジ―が、試合開始時点から潜んでいたグレイズ乗りのチームメイト、メリーに指示を飛ばす。
革製のヘルメットを被りこんだメリーが操縦桿を握り、自機のスラスターを噴かせた。戦車を遥かに超えるスピードで先行したグレイズが、一足先に土煙を上げながら、C
頭部装甲に包まれた球体センサーを展開し、フラッグ車たる38(t)の所在を確認し始めた。エイハブ・ウェーブを発するMSと異なり、こればかりは目視で確認せねばならない。基本的に視点が高いMSは、通常なら戦車の位置を見つけやすいが、林や障害物が多い場所ではそうとも限らない。場合によっては、同じ視点の戦車側の方が見つけやすい場合もある。そして逆の場合では、MSはエイハブ・ウェーブの反応により先に見つけられてしまう。破壊されなくとも、位置を知られることは戦術的によろしくないことだ。
個の戦力としては圧倒的なMSであっても、戦車道では決して万能の超兵器足りえない理由の一つである。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「戦車もこんな風に
___有り得ない筈の音が、コクピットに鳴り響いた。
「____今だ、ミカァッ!!」
オルガの一声と共に、白い閃光が大地を走り抜ける。
グレイズのそれとは比較にならない出力が大地に砂塵を巻き上げ、大上段に振りかぶった鈍色のメイスが、グレイズの頭上に影を作った。
ガンダム・バルバトス。
大洗が誇る最強のMSが、敵の白旗を挙げさせるために、全速力でやってきたのだ。
『
メリーの悲鳴と共に、一寸の躊躇いなくバルバトスがメイスを振り下ろした。土くれを砕くように、容易くグレイズの装甲が叩き割れ、その胸元から戦闘不能の白旗が挙げられる。
一つ目玉が飛び出したような半壊のグレイズが、無様に地べたに倒れ伏した瞬間、隙を逃さずオルガが叫んだ。
「___戦車隊、主砲斉射ァッ!!」
『撃てェいッ!!』
隠れ潜んでいたⅢ突、カバチームの車長たるエルヴィンがともに号令を上げるや、共に潜んでいた大洗の戦車、MWの砲門が一斉に火を噴く。
肉に釣られた
『撤退しろ撤退!!』
ドッグチームのシャーマンが白旗を挙げたのを見るや、チャーリーチームは撤退の動きに入った。
「逃げちゃうよぉ!?」
「撃て撃てぇー!」
ウサギチームが追撃を試みるも、全速力で撤退するシャーマンには当たらず、惜しくも取り逃してしまう。
「惜しーい!」
『俺がやる』
グレイズを仕留めたバルバトス___三日月が、再びメイスを構えたその時。
『____いや、もういいミカ!一先ずは十分だ』
「オルガ?……いいの、あいつら逃がして」
『……不意打ちで一機ずつ減らせただけでも上出来だ。深追いすれば、向こうも全力でこっちを潰しに来るだろう。今はまだ早ぇ』
どこか含みのある言い方で、追撃を制す。
「……分かった」
オルガのその命令に一瞬どこか違和感を覚えながらも、すぐにその真意を理解した三日月は、バルバトスを一度停止させた。
一方逃げ果せたドッグチームは、這う這うの体で本隊へ連絡を告げた。
『___ドッグチーム、メリー機、共に行動不能!』
「えぇッ!?」
「何!?」
「マジで!?」
「大丈夫じゃなかったのね…!」
「ホワァーイッ!?」
サンダースの中に、動揺が広がる。
まさか最初に撃破され、あまつさえ奇襲に失敗するとは思ってもみなかったのだ。戦車のみならず、MSまで失ったとなれば、その動揺もひとしおであった。
そしてそれはサンダースのみならず、この試合を見ていた観客も同様。
「大洗が先に撃破…!?MSまで!」
「そのようね」
「……」
試合を見ていた、黒森峰学園の面々___逸見エリカは驚き、西住まほはほんの僅かに目を見開いて、ジュリエッタ・ジュリスはグッと口元を噤んだ。
「やりましたわね」
「ええ」
オレンジペコとダージリンが、紅茶を手に澄ました顔で口を開く。
「フン、まさか先に撃破するとは。運の良い奴らだ」
「いや___それはどうかな」
ドアーズは相も変わらず不機嫌そうな顔を作り、シッキムはそんな彼の顔を見やりながらも、不敵な笑みを浮かべた。まるで彼らがどのようにして撃破したのか、その答えに見当がついたかのように。
「___無線じゃなくて、
Ⅳ号の車内で、沙織が自分の携帯端末を振りながら、悪戯が成功した子供のように無邪気な声で笑った。
そう、通信傍受機はあくまでも、戦車やMW、MSに搭載された無線通信を聞くことしかできない。中に乗っている人間が私用で使う端末のメールまでは、読み取ることはできない。
戦車道の試合においては、MSのエイハブ・ウェーブが伴う通信妨害を防ぐため、通信中継装置がステージの各所に取り付けられている。これにより個人用携帯端末の通信も、弱冠のタイムラグがあるものの、使用することができるのだ。
「やった!作戦成功です!」
「上手くみほの作戦が嵌まったな。……えーと、何作戦だったか?」
「じわじわ作戦!」
「おー、悪ぃ悪ぃ」
並走するⅣ号とTKのキューポラ上で、オルガとみほが軽口を言い合う。
「思ってないときの返事でしょ、それ……でも、MSまで撃破できたのは、想定以上。大成功だ」
珍しく確信を持てた表情で、みほが真っすぐ前を見据えた。
戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
メリーはグレイズのパイロットです。名無しのジーザスちゃん。ジーザス&メリーチェイン