全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜   作:讃岐うどん屋さん

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初投稿です。


【第1話】四条眞妃と運命の出会い

5月。都内某所。

 

きらびやかな調度品に、所狭しと並んだご馳走の数々。華やかな喧騒に囲まれながら、イエローのパーティードレスに身を包んだツインテールの少女、四条眞妃(しじょうまき)は深い溜息をついていた。

 

 

(帰りたい……)

 

 

遠くはフランスの地にて、哀れなガチョウたちの喉に飼料を流し込んで生産された美味なる臓物の塊を無感情に口元へ運び、咀嚼もそこそこに飲み下していく。

もともと好物の一つであったはずのそれを味わう余裕もないほどに、彼女は疲れ、憔悴していた。

 

 

憂鬱の原因はこのパーティー自体にはない。

 

日本を代表する名家の一つ、四条家の長女として生を受けた彼女。幼少の頃より社交の場には慣らされており、性格的にも人づき合いを苦にするタイプではなかった。

 

そんな彼女が、ここまで落ち込む原因は何か。

 

思いを馳せるのは、今日この場に招待されながらも姿を見せることのなかった親友と。その恋人であり、自身が密かに恋心を寄せていた、一人の少年について。

 

(体調不良。あまり考えたくはないけれど。このタイミングでソレってことは、普通に考えて、アレってことよね)

 

 

 

 

――マキちゃん。私、デキちゃったみたい。

 

 

そんな報告兼相談を少女が親友から受けたのは、今から1ヵ月ほど前のこと。

 

それは客観的に見れば、親友とその恋人の、『ごく普通の高校生活』の終わりを告げる言葉であり。

 

そして主観的に見れば、不運と苦悩をその身いっぱいに抱えながら、一縷の望みを信じて耐え続けてきた少女の夢見た未来が、永遠に失われたことを知らせる、最後通牒の言葉であった。

 

 

 

(流石に事ここに至って破局を期待するなんてのは、人でなしの所業よね)

 

 

17歳という身空で天からの贈り物を授かってしまった二人には、この先多くの困難が待ち受けているだろう。

しかしながら、彼らは天下の秀知院学園生。未来を自らの手で力強く切り開くに足る学力を有しており、実家の太さも並大抵のものではない。

 

既にお互いの両親への報告と謝罪は済まされ、手厳しい叱咤を受けはしたものの、懐妊の事実そのものは受け入れられ。

『生涯に渡って責任を背負い続ける』ことを条件に、彼らの愛の結晶は無事この世に生を受けることが許された、と聞いている。

 

 

そんな重大事を聞かされ、全ての精神力を振り絞って表面上の励ましと祝福の言葉を送った少女は、部屋に籠って一人荒れた。

 

『生涯に渡って責任を背負い続ける』。禁断を踏み越えておきながら、なんと甘美な、幸せに満ちた罰であろうことか。

 

 

予想外に早く決着がついて良かった。これで私も、諦めて次の恋を探すことができる。

 

そんな文言を脳裏に並べながら、まるで正反対の叫びを上げ続ける本心との折り合いをつけるために、丸々費やされた1ヵ月間。

 

 

いい加減に前を向かないといけない。もしかして、新しい出会いなんかが転がっているかもしれない。

 

そう自分に言い聞かせて、久しぶりに繰り出してきた社交の場ではあったが。

 

きらめく照明も、華やかな出し物も、ずらりと並べられたもてなしの品も。

 

沈む彼女の心を慰めるには些かの役にも立たず、むしろ自らの惨めさを際立たせる残酷な舞台背景にしかならなかった。

 

 

 

「眞妃さん。顔色が優れないように見えますが、大丈夫ですか?」

 

「……羽香里。しばらくぶりね」

 

そんな眞妃に声をかけてきたのは、肩口まで伸びるミディアムショートの髪に、やや幼さを感じさせる美貌とそれには不釣り合いな豊かな双丘を携えた、可憐な少女。

今日のパーティーの主催者であり、四大財閥の一つに数えられる花園家。その一人娘、花園羽香里(はなぞのはかり)だった。

 

「別に、全然平気よ。ただちょっと最近寝不足で、疲れが溜まってるだけ。アンタに心配されるようなことなんて一つもないわ」

 

「その強気な語り口。相変わらずですね、眞妃さん」

 

ふふっ、と屈託のない笑顔を浮かべながら、羽香里は恭しく礼をする。

 

「本日は母のお祝いに出席してくださり、ありがとうございます」

 

そう頭を下げた彼女の向こうに見える垂れ幕には、『花園羽々里(はなぞのははり)○○高等学校理事長就任記念パーティー』と銘打たれている。

 

「そういうアンタこそ、相変わらず大袈裟ね。今更そうかしこまらないでよ。アンタの母親のパーティー好きは今に始まったことじゃないでしょう」

 

四条眞妃は、お互い日本の将来を背負って立つことになるであろう旧知の仲の少女に向かって、そう軽口を飛ばす。

 

ビジネス上の親密な関係を保つためには、まずプライベートでの交流が大事。

そうした思想に基づいて子の世代も積極的に招かれる社交の場において、二人が出会ったのは眞妃が小学3年生、羽香里が1年生の時のことであった。

 

「そうは言いますが、眞妃さんは今年受験の年でしょう。一刻の時も惜しいであろう中、時間を作って出席してくださったことに感謝しています」

 

「私を誰だと思ってるの?秀知院学園で3位の成績を誇る天才、四条眞妃よ。大学受験のために必死こいて勉強する必要なんかどこにも無いわ」

 

「本当に、相変わらず。成績の方もしっかりキープされているんですね。眞妃さんのそういうところ、すごく格好いいと思います」

 

そう言って羽香里は、右手を口元に当てながら朗らかに笑う。

 

 

花園家は、芸能、催事、観光など、日本のエンターテイメント産業を一手に支配する名家だ。

29歳にしてその当主を務める女丈夫、花園羽々里は自らの生業を誇示するかのごとく、何かと理由をつけては自宅でパーティーを開く癖があった。

 

毎年一度行われる創始者の生誕記念日パーティーは、他の四大財閥の関係者も招いて盛大に行われるのだが。

今日はその最も重要な集まりではなく、当主の理事長就任を祝して開かれた臨時のもの。招かれているのは、花園家と特に友好的な関係を築いている限られた家の人々であった。

 

 

「それにしても、花園家が教育界に手を伸ばすなんてどういう風の吹き回しかしら。多角経営は企業成長の基本とは言え、あまりに唐突な印象を受けるわ」

 

「えっと……あはは、お母様ってば急にどうしたんでしょうね。私には全然わかりません」

 

そう言って笑う羽香里の言葉の裏に潜む含みを、眞妃は敏感に感じ取る。

 

「そういえば、アンタもこの春から高校生よね。どこの高校に進学したの?」

 

「……どうしても答えないとだめですか?」

 

「何よ、隠すようなことでもないじゃない」

 

「……○○高等学校です」

 

「アンタの母親が理事長になった高校じゃない!え、何、そういうこと!?羽々里さんってば、いくら娘が心配だからって」

 

「そういうことじゃないです!お母様がうちの理事長になったのは……そう、突然のことで、私にも何が何だかわからないんですけど!きっと、お母様にとっては大事な理由があったんです!」

 

 

嘘である。この娘、母親の行動の理由がわからないどころの騒ぎではない。

 

高校入学初日に出会った、大切な大切な恋人。実の母親によって引き裂かれそうになっていた彼との仲を、強引に繋ぎ止めてくれた仲間達のあの大立ち回り。

そしてその結果として、母親のハートまでもが彼によって射止められてしまったこと。

 

全てが羽香里にとっては記憶に新しい事件であった。

 

だが、言えるはずがない!まさか自身の母親が、14歳年下の恋人に会いたい一心で、娘の通う学校の理事長の座を買収したなどと!

 

「大事な理由、ねえ。アンタが心配だっていうことぐらいしか、私には思いつかないけど。アンタって昔っからポヤポヤしてて、危なっかしいし。悪い男にすぐ騙されそうだわ」

 

「悪い男って……。眞妃さん、その言い草は酷いです」

 

見るからに不機嫌になる羽香里の反応に、眞妃はさらに思案する。

 

その反応は、ただ単に自らの未熟さを咎められたことに対する立腹には見えず。もっと何か、例えばそう、自分の大切なものを貶められた時に見せるような……。

 

 

「羽香里。アンタもしかして、彼氏できた?」

 

「!!なんで急にそうなるんですか!!どうしてそう思うんですか!?」

 

そう言い返す彼女の頬と耳は、傍目にもはっきりわかるほど紅潮していて。

 

 

(なんてわかりやすいこと)

 

そう結論に達しながら、眞妃は自分の心がさらなる暗闇に落ちていくのを自覚する。

羽香里に恋人。人が失恋にもがき苦しんでいる最中にもたらされた、旧友の吉報。シアワセマンカイ。

 

(やっぱり今日来なければ良かった)

 

などと思いながらも、それを表面にはおくびにも出さず、ニヤリと笑ってみせながら問答を続ける眞妃。

彼女は本当に強く、気高く、優しい人間なのである。

 

「恥ずかしがることないじゃない。高校生にもなれば恋人の一人や二人できたって不思議じゃないわ。私にも紹介しなさいよ。今日このパーティーには来ていないの?」

 

(まぁそういう私には恋人の一人もいた試しはないんだけど)

 

(恋人の、一人や二人……どころの話ではないんですけど……)

 

両者それぞれに微妙にダメージを受けながら、羽香里は慌てて返答を返す。

 

「話を勝手に進めないでください!私に恋人なんて!恋人なんて……、その……いないわけでは、ないんですけど」

 

「やっぱりそうじゃない。誤魔化そうとしてもバレバレよ。で、ここにいるの?その愛しの彼は」

 

「……来ています。今向こうでフォアグラを頬張ってます」

 

「あら、ダメ元で聞いてみたんだけど意外ね。ということは、その子もそこそこの良家の息子さんなのね。ちょうどいいわ。紹介しなさい」

 

(今日ここにいるのは、恋太郎君が良家の子だからというわけではないんですけど……)

 

彼の出席の真の理由は話せないまま、羽香里は言われるままに彼を呼びに行く。

複雑な事情はあるにせよ、羽香里にとって彼は自慢の恋人。友人にその仲を紹介できることに、喜びこそあれど抵抗はなかった。

 

 

「あ、羽香里。このパーティー最高だね、こんな美味しいもの俺生まれて初めて食べたかもしれない。あぁいや、羽香里の作ってくれた卵焼きの方がもっと美味しかったけれど」

 

「ありがとう恋太郎君。紹介したい人がいるんですけど、ちょっと来てもらえますか?」

 

「紹介したい人?」

 

「私の旧友で、歳は2つ上のお姉さんです。ちょっと口が悪いところがあるけど、とても優しいいい人なんです」

 

 

どれどれ、と歩き出す恋太郎。

そんな彼らが近づいてくるのを待つ、四条眞妃。

 

3人の距離は近づき、そして。

 

恋太郎と眞妃の、目と目が合わさった。

 

 

 

>>>ビビ―――――――――――ン!!<<<

 

 

 

そして眞妃は、自身の身体に走る電流を自覚した。

 

(えっ?何?この感覚……)

 

 

それはかつて彼女が、翼に対して覚えた甘い感覚に近く。

違ったのは、それとは比べものにならないほどの、全身を貫く激しい熱の量。

 

かつての想い人の温かい優しさに徐々に惹かれていった、緩やかな恋の軌跡ではなく。

まるで神に導かれたかのような、奇跡の相性を予感させる情熱の奔流。

 

 

俗に言う、『一目惚れ』――――

 

 

そんな単語が頭をよぎった瞬間であった。

 

 

「眞妃さん。紹介します。私の恋人の、愛城恋太郎(あいじょうれんたろう)君です」

 

 

羽香里の口から出た言葉に、眞妃の心の闇が極限まで濃度を増す。

そんな。私、また。

 

「初めまして。愛城恋太郎です」

 

「…………」

 

「眞妃さん?」

 

「……わ、私の名前は四条眞妃!」

 

「正当な四宮の血筋を引く者にして、秀知院学園学年3位の成績を誇る天才よ!覚えておきなさい!」

 

 

困惑からどうにか立ち直り、高らかに名乗りを上げた彼女であったが。

心中はまるで吹き荒ぶハリケーンの如く。

 

 

(もしかして……私、また、このパターン(横恋慕)なの――――!?)

 

 

絶望とともに、自らの運命を呪う眞妃。

 

 

 

これが、四条眞妃と愛城恋太郎の出会いであり。

 

 

引いては秀知院学園の女生徒達とこの希代の百股男を繋ぐ、物語の始まりの時であった。




思いついた話を完全に見切り発車で投稿しました。

構想はあるけどストックは無いので、次話の投稿は遅くなるかと思います。
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