全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
予定より早いですが、続きを楽しみに待ってくださっている方がいらっしゃったのでできているところまでで更新を再開します。
ストックさんが尽きるまで、毎日朝6時に、1話ずつ投稿していきます。
「シルバーマンジム無料体験入会券?」
ある土曜日。花園邸休憩室にて静と楠莉の頭を膝の上に乗せながら、恋太郎はそう聞き返していた。
「そうなのよ。このご時世で、ジムもだいぶ客足が減っちゃってるらしくって」
「私としては、無料である必要は別に無いのだけれど。ほら、こういうのってつきあいでもあるじゃない?」
そう答えるのは、屋敷の主である羽々里。豪奢な椅子に身を沈ませ、メイドの淹れたコーヒーを優雅に味わいながらチケットを恋太郎に見せる。
「恋太郎ちゃん、体を鍛えようと頑張っていたでしょう?無料体験できるのは4回までみたいだけど、行ってみたら得られるものがあるんじゃないかしら」
「確かに、シルバーマンジムといえば業界最大手のジム。正しいトレーニング方法を教えてもらえれば、今後のプラスに――」
ピピピピッ。ピピピピッ。
タイマーが鳴り響く。
「はい、10分経過!次は私たちの番なんだからねっ!」
「えー、もう10分経ったのだー?」
”楽しい時間ほど早く過ぎ去るというのはまっこと本当のことじゃのう”
「ほら、代わって代わって。私たちだって首を長くして待ってたんだから」
そう言ってポジションを入れ替わるのは、唐音と眞妃。
本日のイチャイチャのお題は膝枕であったが、一度にしてもらうのは二人が限界。
10分交代で愛でてもらうことに決めた彼女達は、お行儀良く列を作っているのだった。羽香里と凪乃は正座でスタンバっている。
(さて、私の番だけど……どうやって右膝をいただこうかしら)
膝枕というのは、ただ膝を貸してもらうだけのイベントではない。
頭をナデナデしてもらうのは必然の流れ。そしてその時は当然、利き腕である右側にいる者の方が有利!
「唐音。好きな方の膝を選んでいいわよ」
(こう言えば、素直じゃない唐音は必ず
「べ、別に私は利き腕側に寝たいわけじゃないんだからね!」
(計画通り……って、はれぇ!?)
そこには、しっかりと恋太郎の右膝に頭を擦りつける唐音の姿があった。
「ちょっと!言行不一致が早すぎるわよ!」
「な、何のことかわからなーい!そう私は、『右も左もわからない』小娘!!」
”一の小さな嘘を隠すためには、百の大きな嘘が必要になるのであった”
「か、唐音?ほら、私は左利きであなたは右利きでしょう?私が右側をもらった方が合理的じゃないかしら」
「なるほど……って、逆!逆!左利きが右に行ったら普通かち合っちゃうでしょ!?」
「ほら、『右も左もわからない』なんて大嘘じゃない!そんな悪い子は私に右側を譲りなさい!」
「お二人とも、もう2分経ちますけどいいんですか~?」
羽香里の指摘に我に返り、結局ジャンケンで左右を決定する二人。
眞妃の勝ち。
「やったぁ!ぐふふふふ……」
「そんなぁ!眞妃!次の番は私が右側なんだからね!」
100点満点の笑顔で頭を撫でてもらう眞妃と、一抹の不満を浮かべながら頬を撫でられる唐音。
二人を優しく愛でながら、恋太郎は話を本筋に戻す。
「そのチケット、ありがたくいただきます。早速明日にでも行ってこようと思います」
「恋太郎が行くなら、楠莉も行きたいのだー!」
「私も」
「私も」
「私も!」
”
「恋太郎は忙しい。できるだけ一緒に時間を過ごした方が効率的」
「みんな、そう言い出すと思ったから」
「安心しなさい。人数分もらっておいたわよ」
「お母様……♡」
「わーいなのだ!」
「私は明日用事があるから、同行はできないけれど。せっかく無料なんだから、めいっぱい楽しんでいらっしゃい!」
――――
翌日。シルバーマンジム。
各々スポーツウェアに着替え、更衣室出口に集合する恋太郎一行。
「皆集まったな。それじゃあ、行こうか。案内係の人が待ってるらしいけど……」
ゾロゾロとトレーニングルームを目指す7人の前に現れたのは、青いジャージを来た爽やかな痩身の青年。
「君たちが、残りの無料体験希望の子だね?」
「初めまして。シルバーマンジムのトレーナーの街雄です」
「わからないことがあったら、何でも聞いてくださいね!」
ニッコリと笑いながら自己紹介を済ませる、
その笑顔と物腰の柔らかさに釣られる若い女性も多いだろう。
そんなことを考えながら、恋太郎は問いかける。
「残りの、ってことは、俺たちの他にも体験希望者がいるんですか?」
「あぁ、今日は千客万来でね。あと2人、高校生の女の子が来ているよ」
そう言って、トレーニングルームの入り口の方向を指さす街雄。
そこには唐音によく似た髪型をした、ややぽっちゃり体型な女子が立っており。
隣では、黒髪ストレートにパッツン前髪の、いかにもお嬢様然とした女子が……喘いでいた。
「はち切れそうな大胸筋……♡」
「山みたいな僧帽筋……♡♡」
「ヨロイみたいな大腿四頭筋……♡♡♡」
「あああぁぁぁ……♡♡♡イイ…………♡♡♡♡♡」
その様子を見て、唐音似の女子高生はドン引きしている。
「紗倉さん、奏流院さん!お待たせしました。今日の体験者が揃ったので、行きましょう」
「は、はーい!ほら奏流院、呼ばれてるよ!」
我に返り、街雄たちの方へ近づいてくる二人。
そんな彼女らが歩いてくるのを待つ、恋太郎一行。
その距離は近づき。そして。
ビビーン!
と、くるかと思ったら、こなかった。
(アレ?)
「今日は、この9人で一緒にトレーニングを体験してもらうよ」
「全員高校生だし、まずは自己紹介をしてもらおうか!」
「初めまして!私は
「私は、
「初めまして。愛城恋太郎です。○○高等学校1年生です」
「花園羽香里です」
「院田唐音よ」
”シズカと呼んでくださいまし”
「栄逢凪乃」
「薬膳楠莉、3年生なのだ!」
「四条眞妃。秀知院学園3年生よ」
(男子1人に、女子が6人。これがハーレムってやつか~。どの娘が本命なんだろう)
「あなた達も、自分を鍛えるためにこのジムの門を叩いたのね。健全な魂は、健全な肉体に宿るもの。健康で文化的な生活のために、お互い頑張りましょう!」
ジト目で見てくるひびきと、目を輝かせ、鼻息を荒くする朱美を見ながら、先ほどの感覚を思い返して考え込む恋太郎。
「それじゃあ、トレーニングマシンを紹介するよ!みんな、こっちに来てください!」
移動を始める一同だが、恋太郎は考え事をして動かない。
「恋太郎?どうしたの?」
「!あぁ、ごめんなさい!ちょっとさっき、不思議な感覚に襲われて」
「不思議な感覚?……まさか、またビビ―――――――――――ンってきたの?」
「いや、それに近いんですけど。ビビーンってきそうになって、キャンセルされるような感覚があったんです」
あれは一体、何だったんだろう。思案する恋太郎に、凪乃が意見する。
「……わかった。これはきっと、作者の狡猾な陰謀」
「どういうことだ、凪乃?」
「せっかく別漫画のヒロインが登場したのだから、運命の人として巻き込みたい気持ちは山々」
「でもこの作品は、作者にとって処女作。風呂敷を広げすぎた時に、まとめきれる自信はない」
「それに、原作が『かぐや様』という主題からもズレてしまう」
「そこで、意味深なビビーンキャンセルでフラグだけ立てておいて、来たるべき100カノアニメ化のタイミングに合わせてリメイクすれば」
「効率的に読者を獲得することができる……!?」
目を見開く恋太郎一行。
「クソッ、何てことだ!悪魔的!まさに鬼畜の所業!よくもそんなことを考えついたな!」
「いやそこまで言われるほどかしら」
「このフェミニズム全盛の時代に、100カノがアニメ化できるかどうかは懐疑的ですが」
”伏線ってのは、適当に蒔いておくだけでいいのさ。拾うかどうかは俺の勝手、ってな”
「……あのー。そろそろ本題を進めていいですか?」
困り顔を浮かべる街雄。
「あっ、ごめんなさい!さぁみんな、行こうか!」
汗をかきながら、小走りにトレーニングルームの入り口をくぐる一同であった。
スポット登場キャラの原作紹介のコーナー。
【ダンベル何キロ持てる?】
2016年8月5日から小学館のコミックアプリ『マンガワン』および漫画配信サイト『裏サンデー』にて連載中。単行本既刊9巻。
食べることが大好きな女子高生・紗倉ひびきは、太り気味であることを友人から指摘され一念発起し、ダイエットのためにシルバーマンジムの扉を叩く。
ボディビルダーやプロ格闘家が集う本格的なトレーニング風景に一度は怖じ気づくが、トレーナーである街雄鳴造の爽やかな風貌に騙され入会。
同級生や教師、留学生も仲間に加わり、彼女たちとともに筋トレの世界にのめり込んでいく。
2019年7月から9月までテレビアニメが放映された。
【紗倉ひびき】
主人公。皇桜女学院2年B組所属の女子高生。
とにかく食事が大好きで、体型はぽっちゃり気味。肌の色は褐色。
運動はあまり得意ではないが、パワーだけは超規格外。ボクシングやアームレスリングでは溢れる才能をいかんなく発揮し、業界人から常に勧誘を受けている。
100カノがアニメ化することがあれば、リメイクで運命の人になるかもしれない。
【奏流院朱美】
皇桜女学院2年A組所属の女子高生。文武両道・才色兼備の優等生で、モデル顔負けのスタイルの持ち主。
学校では生徒会会長を務め、実家は大金持ちという属性の盛りっぷり。
超重度の筋肉フェチであり、原作序盤のエロス担当。筋肉が絡むとマジで人が変わる。
たぶん運命の人としては彼女の方が扱いやすい。
【街雄鳴造】
シルバーマンジムのトレーナー。顔立ちは爽やかイケメンの好青年だが、首から下は筋骨隆々のゴリマッチョという合成写真のような体格が特徴。
何かにつけては服を脱ぎ去り、ポージングをとって筋肉を見せつける癖がある。
『街雄の筋肉講座』では教育テレビさながらの演出で、正しい筋トレのしかたを視聴者に教えてくれる。
存在するだけで笑いがとれるため、作劇上かなり便利だなぁという印象。