全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
正確には第14話の途中までは書けているのですが、その後の話との整合性や全体の文章量のバランスを確認するため、すぐには投稿ができない状態です。
何とか明日の朝6時に間に合えば定時投稿を続けますが、投稿がなかった場合はお察しください。
間に合わなかった場合は、投稿できるタイミングで随時投下していきます。
それでは、第12話をお楽しみください。
「いいですか?ヒップホップダンスの基本は、アップとダウンの動きです」
「このように、リズムに合わせて、膝を曲げ伸ばしして、体を上下させる。同時に背中を丸めたり伸ばしたりして、全身を協調させるようにします」
実演して見せながら、アップとダウンについて解説するこばち。
「リズムの表で、体を伸ばすのがアップ。リズムの表で、体を沈ませるのがダウン」
「前者は軽やかなイメージを、後者は重々しいイメージを観客に与えます」
「この基本の動きを、色々なパターンと組み合わせられるように。足を開いた状態、閉じた状態、片足ずつ、前後に歩きながら、左右に歩きながら」
「それぞれ何も意識せずに、スムーズにこなせるようになるのが目標となります」
「結構難しいわね。それに、見た目はかなり地味だわ」
こばちの真似をしながら、感想を述べる唐音。
足腰にまだ残る筋肉痛を感じつつも、体をリズミカルに動かしていく。
今日も恋太郎一行は、放課後を使ってシルバーマンジムを訪れていた。
眞妃はボランティア部の活動のため、羽々里は仕事の都合のため欠席。
それ以外の6人で、こばちが講師を務めるヒップホップダンスのレッスンを体験していたのだ。
「地味な動きですが、基本というのは何より大切なものです」
「それに、初めのうちはこれだけの動きでもなかなか楽しめると思います」
「重心は、つま先にかけるよう意識して。それから足だけではなく、体幹から骨盤を意識して体重移動をするよう心がけます」
「体重は下半身にしっかりと乗せながら、動きは軽やかに。これがヒップホップの重心の基本です」
「それでは次に、アイソレーションを教えますね」
「アイソレーションとは、体の一部分だけを独立させて動かすことです」
「まず、首。次に、肩。それから、胸。そして、腰。リズムをとって、前、左、後ろ、右と、順々に動かしていきます」
そう説明し、カウントを数えながらこばちは実演する。
上から順に、まるで別の生き物のように動く彼女の頭部、胸部、腰部。
「各部位のアイソレーションを極めれば、このように滑らかなボディウェーブが可能になります」
そして全身をうねらせて見せる。
「すごいのだー!まるでエチゼンクラゲみたいなのだ!」
「それはたぶん褒めてない」
「いててて。ちょっと筋を違えかけたかも。それに、滑らかなウェーブにはほど遠いなぁ」
「アイソレーションは、一朝一夕で上達するものではありません。時間をかけて、根気よく可動域を広げていくことが必要です」
「上達したいと思ったら、是非本レッスンの定期受講をお願いいたします」
宣伝を挟みながら、次の話題へと進むこばち。
「次は、ロッキング。静と動の緩急の極致です」
「ワン、ツー、スリーエンド、ロック。このロックの部分を綺麗にキメるのが重要です」
腕をくるくると回しながら、胴体の前でピタッと止めてみせる。
「大仏さんは、本当にすごいなぁ。ちょっとかじってるどころか、プロ級の腕に見えます」
「そんなことはありません。……昔取った杵柄ってやつです」
謙遜するこばちだが、その実自身のダンスのレベルには自信があった。
シルバーマンジムでは、基本的に高校生のアルバイトは雇っていない。
それにも関わらずこばちが働けているのは、ちょっとしたコネと、華々しい経歴と、卓越したダンスの実力あってのことだった。
「解説は一通り終了です。それでは私がカウントをとりますから、教えた動きをどんどんこなしていきましょう」
手拍子をしながら声を上げるこばちを見て、恋太郎は考える。
(それにしても、あの眼鏡はいったいどうなっているんだろう)
こばちの眼鏡は眉毛のすぐ下から頬部までを覆い隠し、その目元は全くうかがい知ることができない。
「あれはきっと、ミラーレンズ」
心を読んだかのように、凪乃が呟く。
「ミラーレンズ?」
「ミラーレンズは、レンズ表面を鏡のように反射加工した、ファッション性の高いレンズである。強い光線を遮る効果も併せ持つ」
「wikiみたいな解説ありがとう」
だから目元が見えないんだな。そう納得し、恋太郎は体を動かし続けた。
「一通り、体験できましたね。それでは、音楽に合わせて実際の振り付けを踊ってみましょう」
「まずは私が見本を見せますから、それを見てできるだけ覚えるようにしてくださいね。そう長い振り付けではないですから」
そう言って、音楽を準備し、眼鏡をケースにしまって、皆の前に立つこばち。
(わぁぁ……!)
(何て綺麗な人)
現れたのは、羽香里の可憐さ、唐音の可愛さ、凪乃の美しさを全て兼ね備えたような、絶世の美女。
ヤン○ジャンプ始まって以来の美少女と評される、大仏こばちの素顔であった。
それを目の当たりにした羽香里は、ハッと気づいた。
(……この美貌。やっぱり)
(4年前、弱冠13歳にしてグループ『プラチナメイデン』のセンターを飾っておきながら、親のスキャンダル発覚に伴いわずか1ヵ月で芸能界から姿を消した、伝説のジュニアアイドル)
(あの、大仏こばちだわ!!)
(お母様の会社からも散々手を尽くして口説いたのに、結局二度と復帰することはなかった)
(私たち、何て幸運なんでしょう!こんな大物から直接ダンスを教われるなんて!)
興奮する羽香里たちの前で、こばちは淡々と振り付けをこなしていく。
アップ、ダウン。スリーエンド、ロック。
四肢を自由自在に操り、ボディウェーブから華麗にターンを決めていき……。
見守る恋太郎と、振り返るこばちの、目と目が、合わさった。
>>>ビビ―――――――――――ン!!<<<
そしてこばちは、全身に迸る情熱を自覚した!
(何!?この感覚……!)
そんな感覚を、彼女は未だ知らなかった。
強いて言えば近いのは、遠い昔、石上に対して抱きかけた甘い感情。
しかし明らかに違ったのは、雨となって激しくその五体を貫く確信の矢!
そうそれはまるで、俗に言う『一目惚れ』――――
そんな衝撃につられて、彼女のダンスには熱が入っていく。
(どうしよう。本来このダンスは、こんなに情熱的な感情を込めるものではないのに)
元来、ヒップホップの意味する概念の幅は広い。
1970年代、アメリカ人のコミュニティの中で行われていたブロック・パーティに起源を辿ることができるこのジャンル。
ストリートギャングの抗争の無血的解決のためにも一役買っていたとされるそれは、滾る感情を全身を使って表現することに使われる。
しかしながら、今こばちの脳内から五体を通って迸る激しい恋情は、ヒップホップのカバーする範囲とは趣を異にしていた。
それはまるで、男女の激しい交歓を表す、パソドブレのような。
振り付けをこなしながら、こばちは自分とシンクロして踊る恋太郎の姿を幻視する。
私を支配して、乗りこなして欲しい。そんな願望を抱きつつ、途中で止めるつもりだった音楽の箇所を大幅に超過して、こばちは踊り続ける。
その目にはもう、彼のことしか映っていない。
自然と、四肢に力が入る。
前後、左右へ髪を振り乱し、意味深に腰を突き出したかと思えば、今度は唇を少し尖らせ、笑みを浮かべて上半身をなぞってみせる。
ゆらりと数周回転しては、顔を隠し、また覗かせ、ウィンクを一つ。目を惹かれて離せない、不思議な男へのシグナルを発する。
彼は私のこの視線に、気づいてくれているかしら。
そんなことを考えて息を切らせる彼女の火照った肢体から汗が飛び散り、
乱れ舞う手が、しなやかな指先が、跳ね上がる脚が、揺れる胸が、弓なりに反る背が、細かく震える腰が、妖しく光る表情が、彼女の持つ”女”の全ての部分を強調し、観る者の劣情を煽っていく。
見て。私を、もっと見て。
音楽が、山場を迎える。
神秘的な異国のライムを口ずさみ、全身全霊の激情と欲情を隠すことなく振りまきつつ、こばちの動きがさらに加速する。
本来の振り付けからは大きく逸れ、多分に織り交ぜたアドリブで心の全てを表現しながら、現世のものとは思えぬ美貌の持ち主は、ハーレムの王に向かって求愛のダンスを贈り続ける。
そんな彼女の見せる熱情に、恋太郎は、その場にいる一同の目は、釘付けとなり――
結局彼女がその動きを止めたのは、4分34秒後のことであった。
――――
「あ、愛城くん!」
ヒップホップレッスンの1コマが終わり、男子更衣室へ向かおうとしていた恋太郎を、こばちが呼び止める。
次のレッスンまでの間の、短い休み時間。この間に、何とかして彼とのコネクションを取りつけなければならない。
そう決意したこばちは、別の日のレッスンに恋太郎を誘う。
「明後日も私、勤務が入ってるんだけど!その日は、社交ダンスを教える予定でね!」
「社交ダンスを教われるジムって、結構貴重だから!もし、愛城くんの都合さえ良ければ、また受けに来て欲しいなって」
恋太郎に残された無料体験の機会は、残り2回。
もしそれを筋トレに費やされてしまえば、こばちと恋太郎との接点は無くなってしまう。
そうなる前に、もう一度ダンスレッスンに来て欲しい。
こばちの願いは、恋太郎にしっかりと届いた。
「わかりました。社交ダンスなんて初めての経験ですし、とてもワクワクします」
「誘ってくださって、ありがとうございます。楽しみにしていますね。それでは、また明後日に」
そう言い残し、更衣室へと消えていく恋太郎のたくましい背中を目で追いつつ、歓喜するこばち。
(やったぁ!)
今後彼の心を、どうやって籠絡してやろうか。
そんな策謀を張り巡らせながら、足取り軽く次のレッスンへと向かうのであった。
こばちのダンスシーンは、今までで一番力を入れて書きました。
何回加筆・修正したかわかりませんが、満足のいく文章を書き上げられたと思っています。
次回、引き続きシルバーマンジムの予定。