全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
第15話および第16話には、『かぐや様』単行本に未収録の範囲の、こばちちゃんについての重大なネタバレ要素を含みます。
まぁしょっぱなから羽々里の名前が出てたりかぐや様19巻発売前にホワイトおじさんが登場してる時点でめちゃくちゃ今更な話ではあるんですが、単行本派の方はご理解いただいた上で読むか、最新のエピソードをチェックしていただくようお願いいたします。
それでは、第15話をどうぞ。
「大仏さーん!ハッピーバースデー!」
くるくると回るティーカップの外縁にしがみついてはしゃいでいた女の子に届けられた、サプライズメッセージ。
小さな頭にはミニーのカチューシャがつけられ、左耳には”MY HAPPY BIRTHDAY!"のシール。
周りのカップからは拍手が送られ、次々に祝福の声が上がる。
見知らぬ人々から温かい言葉をもらい、歓喜の表情を見せる少女。
キャストにとって、それは見慣れた光景だが。この日は少し、いつもとは様子が違っていた。
「大仏?大仏ってもしかしてあの、
「ちょっと!あれ、
「こ、こばちゃんだあああ!!ヤバいヤバい、握手してもらわないと!!」
伊達眼鏡やサングラスを装着し、髪型も変えて一般人を装っていた大仏一家だが、わかる人にはわかってしまった。
「やれやれ。今日は一家団欒のつもりだったんだけどな」
「まぁまぁ、これもタレントの宿命。全く気づかれないよりかはマシじゃない?」
「パパ、ママ!あのおじさん、いつもイベントに来てくれる人!後で握手してきていい?」
「こーら、今日はパパとママから離れちゃダメ。迷惑にならない所に皆で移動してから、ファンサービス会といきましょうね」
「わかった!じゃあパパ、もっと速く、回して回して!」
「うおおおお!!今こそ長年の芸能活動で鍛えた上腕二頭筋の力を見せる時!」
大仏こばち、10歳の誕生日。
訪れる苦難も、悲しみも、何一つ想像していなかった天真爛漫な頃。
いずれは大輪の花を咲かせると期待された、はち切れそうに膨らんだつぼみが、吹き寄せる熱風に押されて、微かに揺れた。
――――
時は再び、現在に戻る。
~ミッキーのレインボー・ルアウ~
「恋太郎くん。わざわざ予約してくれて、ありがとう」
「前日だったので流石に無理かと思ってたんですけど、こっちのレストランだけは空きがあったんですよね。予約をキャンセルした人がいたのかもしれません。ラッキーでした」
ステージに近いテーブル席についた二人の前には、黄色と赤のグラデーションが綺麗な南国風のドリンク、ポリネシアンパンチ。
フルーティーな味わいを楽しんでいる間に、ディナーショーが始まる。
「皆さん、このディナーレストランに、ようこそお越しくださいました」
「私は本日、ポリネシアの魅力をご案内させていただきます、倉見と申します」
「どうぞ、よろしくお願いいたします!」
ハワイでの女性の正装とされているドレス、ムームーを着用した倉見の前口上が終わり、虹をモチーフにした幕が上がる。
けたたましい動物たちの鳴き声をバックにウクレレの音が鳴り響き、アロハシャツとムームーを着た数名の男女が舞台上へと踊り出る。
「アロ~ハ~!」
軽快な足取りでユラユラと腕を振り、時にカヌーのオールを力強く振り回しながら、ダンスを披露するキャストたち。
「ハワイでは宴のことをルアウと言って、新しいカヌーの完成や子供の1歳の誕生日、結婚などの記念にルアウをします」
「今日は皆さんの記念日を、一緒にお祝いさせてもらいたく思います。それでは、皆の友達を呼んでみましょう!カモ~ン!」
一際明るくなる照明と同時に登場したのは、ミッキー&ミニーマウス、チップとデール、そしてクラリス。
特徴のある甲高い声で口々に喋りながら、カラフルなオールを順番に手に取っていく。
「僕たちは、赤いオール!出会いをお祝いする係だね!」
「私は、紫のオール!記念日のお祝いよ!」
「私は、黄色いオール!誕生日のお祝いだわ!」
「そして僕は……虹色のオール!?」
「ミッキーには、全てのお祝いに参加してもらいま~す」
「それでは皆さん!お待ちかねの、ディナータイムです」
「美味しいお料理をお楽しみください。途中、私たちがテーブルを回っていきますので、どうかお相手をお願いしますね」
皿に乗って運ばれてくるのは、アボカドのサラダや、サーモン、シュリンプなどのシーフードを中心としたポリネシア料理。
見慣れないそれらを口に運びつつ、やってくるキャラクターたちと握手やハグを交わす。
「ゲストさん、ハッピーバースデー!ステージ上でお名前を呼びますから、教えていただけますか?」
「神代です。かじろ、みやこ」
「みやこさん!今日は本当に、おめでとうございます!この花飾りは、『クペエ』といいます。手首につけておいてくださいね」
ここでも本名を名乗らず、素性を隠すこばちだった。
「は~い、皆さ~ん!お腹はいっぱいになりましたか?」
「それじゃあ早速、記念日のお祝いを始めましょう!クラリス、出番よ!」
再び陽気な音楽が流れ出し、最初より露出の増えた華やかな衣装を纏った女性を従えて、クラリスが激しくダンスを踊る。
左右になまめかしく腰を振る、ポリネシアンダンサー達。その艶やかな雰囲気に、先日のこばちのダンスを思い出しながら観覧する恋太郎。
「上半身ビキニに、フレアスカートかぁ。かなりセクシーな衣装だね」
「それを言うなら、こばちさんだって。その……太ももの、辺りとか。初めに見た時は目のやり場に困りましたよ」
少し躊躇いながらも、感じたことを正直に述べる恋太郎。
「あら、そうなの?……見せてるのよ」
「そっかぁ、私で興奮してくれたんだ~。なら、こんなのはどう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、4人掛けのテーブルの対面から、恋太郎の隣へと移る。
「ほら、あのお姉さんとお揃い。きっちり絞れてるでしょ?」
そう言ってこばちは、左手で軽く恋太郎の顎を押さえ、顔を斜め下に向けさせながら、右手でブラウスをたくし上げる。
ステージ上のダンサーと同じ、へそ出しルック。
よほど体に自信がないとできないムーブだが、なるほど確かに、うっすらと筋の入った腹直筋と、女性らしい腰のくびれ、真っ白な肌が眩しい……
って、そうではなくて。
「こ、こばちさん!?こんな所で!誰かに見られたらどうするんですか!」
「別に見られても減るもんじゃないし、何ならお姉さんは全員からお腹を見つめられてるわけだし~?」
「あっ!それとも、二人きりの所で見たかった?もう、恋太郎くんのえっち」
「からかわないでください!ほら、しまってしまって!自分の体は大事にしないとダメですよ」
まるでお父さんみたいな注意をしながら、こばちを制止し、元の席へと戻らせる恋太郎であった。
「シンジくん、ユウくん、ケイマくん、アサミちゃん、イクミちゃん、キョウスケさん、ツキタケくん、モエカさん、ユウタロウくん、ショウスケくん、ミヤコちゃん、シノブさん、お誕生日おめでとうございま~す!」
ステージは進み、今度はミニーが担当する誕生日祝いの番。ダンスが一段落したところで、倉見がメモを見ながらアナウンスを行う。
予想以上に多くのゲストが誕生日記念にここを訪れていることを知るが、その中に恋太郎にとっての本日の主役、こばちの名前は含まれない。
1年に1度しか巡ってこないチャンスをフイにしながら、一向に構わないというように笑顔で拍手を送る彼女。
ティーカップの時の曇り顔はどこへ行ったのかと思うような、一片の闇も含まない完全無欠の表情。
朝合流した時とは、何かが異なっている。
こばちのごく僅かな、本当に微細な変化を、鋭敏に察知する恋太郎。
「こばちさん」
「何?恋太郎くん」
ポリネシアンパンチのストローを口に含みながら、明るい顔をこちらに向ける姫。
目尻の緩みも、眉の傾きも、頬の膨らみも、口角の上がりも、少し傾げてみせる首の角度も、その全てが計算され尽くしたような、完璧な演出を備えていて。
スパークリングレモンゼリードリンクのストローを咥えていた時の自然な笑顔とは、よく見ると全然違う。
ぴったり重なるはずの2つの写像が、全く重ならないことに改めて気づいた恋太郎は、彼女の深淵を探るべく、かける言葉を組み立てるが。
それが組み上がる前に、アナウンスの声に思考を遮られる。
「ねぇミッキー、見て。ポリネシアで私たちが見た、虹のように輝いているわ!」
客席の照明が落とされ、テーブルに置かれた色とりどりのアートグラスが淡い闇の中に浮かぶ。
ショーは最終盤を迎え、ダンサーとキャラクターたちがステージ上に集結する。
「今日はとっても素晴らしいレインボー・ルアウになりました!皆、どうもありがとう!アロ~ハ~!」
愛くるしいポーズを決め、お辞儀をするミッキー。
舞台の幕が下り、音楽のボリュームが一瞬上がった後、散会を迎える。
「楽しかったね!お腹もいっぱいになったし、この後はいよいよパレードだね!」
残るはパークの目玉とも言える、きらびやかな電子の宴。
場所取りに向かって席を立つこばちについていきながら、踏み込むタイミングを逸する恋太郎であった。
~エレクトリカルパレード・ドリームライツ~
夢のような一日も、いよいよクライマックス。
沿道を埋め尽くし、期待に目を輝かせて、隊列がやってくるのを待つゲストたち。
その群衆に紛れて、お揃いの黒耳をぴょこんと覗かせながら、身を寄せ合って座るこばちと恋太郎。
ルアウの後急いで移動したおかげで、パレードの進行ルートの中でもスタート地点に近い位置を確保することができた。
「パレードを見るのも、5年ぶりだなぁ。男の子と二人きりで見るのは、もちろん初めて」
「一生に一度の経験になるわ。目に焼き付けておかなくっちゃね」
やがて、臓腑に響き渡るような重低音が空間を満たし、続けて流れ星を想起させる効果音が降り注ぐ。
”Ladies and gentlemen, boys and girls”
”Tokyo Disneyland proudly presents”
”Our most spectacular pageant of night time dreams and fantasy”
”In millions of sparkling lights and brilliant musical sound”
”Tokyo Disneyland's electrical parade dreamlights”
電子音のナレーションとともに、誰もが知るファンファーレが鳴り響き、漆黒の闇をバックにまず現れたのは、青く輝く4枚の翅をたなびかせ、ティアラをかぶった金髪の妖精。
物言わぬ操り人形に仮初めの生命を与えた、ブルーフェアリー。彼女が手にする、光るタクトに誘われて、ゲスト達は45分間の魔法にかけられる。
続いて登場するのは、お調子者のグーフィーが操縦する汽車に乗って愛想を振りまくミッキーとミニー。
パークの主人公はアロハシャツを着ていたルアウの時とは違い、燕尾服でビシッとキメている。
ゲストの中には、感極まって涙を浮かべる者も。
陽気なミュージックとシャッター音に囲まれながら、百万個の電飾に彩られた夢の行進は続いていく。
「恋太郎くんは、ディズニーのことはどれぐらい知ってる?」
「正直言って、あんまり。メインキャラクターぐらいは知っていますが、実際に作品を見たことは多くありません」
「やっぱり、そうなんだね。じゃあ、流れてくるキャラクターたちを紹介するね!その方が、百倍パレードを楽しめると思うから」
「あれは、チェシャ猫。上に乗っているのは、不思議の国のアリス」
「チェシャ猫は、自由に現れたり消えたりする能力を持つ、神出鬼没なネコなんだよ」
「アリスは夢見がちな女の子。白ウサギを追って色々な動物やトランプ兵たちが活躍する不思議な世界に迷い込むんだけど、結局夢オチだったのは私的には不満かな」
「次は、白雪姫。継母に騙されて毒リンゴを食べて眠りについたお姫様が、王子様のキスで目覚めるシーンはあまりにも有名だよね」
「実はディズニーの長編映画第1作目で、世界でも初の長編アニメーションなんだよ。この作品のヒットが無ければ、今私たちがこうしてパレードを見ることもなかったかもしれないね」
「次は、トイストーリー。おもちゃ達の冒険を描いた作品で、フルCGで作られてるのが特徴的ね」
「その次が、アラジン。ストーリーは知らなくても、”ホール・ニュー・ワールド”は聞いたことがあるんじゃないかな」
「あっ、塔の上のラプンツェル!前来た時には無かった!18年間塔の中だけで暮らしていたお姫様が、大泥棒に連れられて外の世界を経験するお話だね」
「お次は、シンデレラ。継母や義姉にいじめられていた可哀想な召使いの女の子が、魔法にかけられて王子様と出会い、ガラスの靴を通じて結婚までするお話」
「今でも逆境をはねのけて幸運を掴む物語をシンデレラ・ストーリーっていうし、これは恋太郎くんも知ってるんじゃないかな?」
「次が、美女と野獣。読書好きな女の子と、傲慢さが過ぎて野獣に変えられてしまった王子様が出会って、外見に囚われない『真実の愛』で結ばれるの」
「それから今度は、アナと雪の女王ね。一昨日流れた”Let It Go”の原曲は、知ってるよね?この作品も『真実の愛』がテーマになっているわ」
「残りは、ドナルドやプルート、チップとデールなんかの、いつものメンバーが来て終わりだね!」
パレードも終盤にさしかかり、好きな作品を説明しきった満足感を浮かべるこばち。
「こばちさんは、本当にディズニーが好きなんですね。親御さんの影響が大きいんですね」
「うん、そうだよ!……アイドルを目指してたのも、ディズニープリンセスみたいに輝きたいって思ったのが、最初のきっかけ」
そう語るこばちの顔は、完璧な笑顔。
そう、またあの、完璧な笑顔。
「ちなみにこばちさんは、さっき通ったディズニー作品の中ではどれが一番好きなんですか?」
「うーん。やっぱり、シンデレラかなぁ」
「家庭の温かさに恵まれず、日々の辛さに耐えながら暮らしている、冴えない女の子が、魔法で変身して王子様に幸せにしてもらう」
「女の子なら誰でも憧れるストーリーだと思うよ」
「私にも、そんな王子様が現れないかなぁ」
意味深なセリフを吐きながら、チラリと恋太郎の顔を見る。
彼は何か、考え事をしているようだ。
気になることでもあるのかもしれないけれど、私を見てくれると嬉しいのにな。
「さてと、恋太郎くん!パレードも見終わったし、帰ろうか!」
「今日は本当に、いい一日だった――」
伸びをしながら立ち上がりかけたこばちの手を、強く掴む恋太郎。
「れ、恋太郎くん?いきなりどうしたの?」
「こばちさん。俺はまだ、聞いてないことが。聞いておかないといけないことが、あります」
そう言って、強いまなざしでこばちを引っ張り、群衆から抜け出す。
そのまましばらく歩いて辿りついたのは、シンデレラ城裏の、一脚のベンチ。
パレードコースからは外れている上に出口と反対方向であるため、辺りは閑散としている。
「もう……どういうこと?こんな人気のない場所に連れてきちゃって」
「まさか私、襲われちゃう?それはそれで熱いシチュだけど」
頬を染めて軽口を飛ばすこばちに向き合うのは、どこまでも真剣な表情の恋太郎。
「俺の、思い過ごしだったらいいんです」
「今日は、本当に楽しい一日でした。こばちさんの、色々な表情を見せてもらいました」
「その中で、気づいたんです。心から笑ってくれているこばちさんと、笑顔で何かを覆い隠しているこばちさんがいたことに」
「ティーカップの時、4年前のことを聞いた時、ルアウでの誕生日祝いの時、そしてさっき。こばちさんの表情に違和感が生じるのは、家族と誕生日に関わる話題になった時でした」
そこまで述べて、いったん区切る。
見つめるこばちの瞳からは、何を考えているのか読み取ることができない。表情を武器として自在に操る者の、何も発信しない人形のような面持ち。
「……内心を、無理に話せとは言いません」
「ただ。パレードはまだ、ゴールに向かって進行中。閉園までは、少しの時間があります」
「助けてくれって、言ってるような気がしたんです」
「こばちさんなら、本気で隠そうと思えば、何も悟られずに一日を終えることもできたはず」
「
「そう思ったから、ここに連れて来ました」
長い長い、沈黙が走る。
赤みを帯びた満月の光に照らされ、隣り合って座る二人。
「……今日言うつもりは、あんまり無かったんだけどなぁ」
そう呟いてカチューシャをしまい、代わりに伊達眼鏡を取り出し、顔にかけるこばち。
「今日はね。私の記憶を、上書きしてもらいたかったの」
「毎年この夢の国に私を連れて来てくれていた、大好きだったパパとママはね」
「離婚してるの。それが、4年前のできごと」
「……聞いててあまり気持ちのいいものじゃ、ないかもしれないけど。それでも良ければ、聞いてくれる?」
重い口を開いたこばちに対し、一度だけ首を縦に振る恋太郎。
恋を叶えると言い伝えられるストロベリームーンの輝く下で、少女の独白が始まった。
レインボー・ルアウで名前を呼ばれた人たちは、ミヤコを除いて全員6月6日生まれのキャラクターです。まぁ必ずしも本人が来ていたわけではないですが。暇な方は検索してみてください。
ディズニーシリーズについては私は『美女と野獣』と『ズートピア』ぐらいしか見たことがなかったので、文字数の割に元ネタを調べるのにずいぶんと時間がかかりました。
ジブリもほとんど見たことがないし、興味の対象がメジャーな作品から少しズレている傾向があるんですよね。
小説書きという趣味を契機にして、古典的な名作の知識は増えそうです。
そして文字数も6000字を超えた所で何の気なしに2020年6月6日の月齢を調べてみたところ、ドンピシャで満月。恋を叶えるストロベリームーンなんて記述があるじゃないですか。
どんだけこばちゃんは持ってやがるんですか。主人公体質なんですか。
最初に絶対運命の人にする3人を決めた後、こばちゃんが構想に加入したのは4人目を経て5人目なわけですが、彼女を咥え入れて本当に良かったと思っています。ちなみに最初の3人は眞妃ちゃんと○○と○○です。
次回、山場です。