全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜   作:讃岐うどん屋さん

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【第16話】大仏こばちは忘れたい

「恋太郎くんは。『大仏たいき』と『MEARI』の、離婚騒動を覚えてる?」

 

ミラーレンズで表情を隠しながら、打ち明け話を始めるこばち。

 

「いいえ。4年前ですよね?」

「芸能人の、不倫騒動みたいなのがあった気はするんですけど、名前までは」

 

「まぁ、恋太郎くんは当時小学生だし、興味ないよね。それに、大衆なんて、そんなもん」

「有名人のプライベートに押し入って、騒ぐだけ騒いで、コンテンツとして散々消費して、後は知らん顔」

「所詮は、他人事。でも私にとっては、大事な家族に関わる重大な事件だったの」

 

一つ、息をつく。心の中に積み重なった澱を、できるだけ解きほぐして、筋道立てる。

 

 

「私のパパとママは、二人ともタレント」

「交際が始まってから、わずか1ヵ月で結婚したって。当時は随分話題になったらしいわ」

 

「その下に生まれた私も、当然のようにアイドルを目指した」

「シンデレラを見終わった私が、『私もあんな風になりたい!』って言ったら、すぐにスタジオに連れて行ってくれて」

 

「あれよあれよという間に話が進んで、気がつけば子役としてドレスを着てテレビに出ることが決まってた」

「私が4歳の時の話よ」

 

普通そんなことにはならないわよね、とこぼし、話を続ける。

 

「私は、すぐにテレビ局で重宝されるようになった」

「自分で言うのもなんだけど、親から受け継いだ容姿と演技力には自信があるし」

芸能界(あっち)側からしても、扱いやすくて話題性のあるいいコマだったんでしょうね」

 

 

「そうだったんですね。俺がこばちさんのことを知らなかったのが、何だか少し申し訳ないような気がします」

「そんなの、全然。子役の名前なんて知らない人は知らないし、今となっては、知られていない方がよっぽど気が楽」

 

「9歳になる頃にはトーク番組やバラエティにも出演するようになって、交友関係が一気に広がった」

「1回だけ誕生日ディズニーに連れて来てもらったのは、10歳の時」

 

「その日はたまたま3人ともオフにできたから、記念ってことだったんだけど」

「ティーカップで名前を呼ばれたら、周囲の人たちにバレちゃって」

「パークの片隅に移動して、即席のサイン会と握手会が始まっちゃった」

 

いい時間だったなぁ。遠くを見つめながら、そう語る。

 

 

「11歳の春に、新生アイドルユニット『プラチナメイデン』のメンバー入りが決まったの」

「歌とダンスは幼い頃から厳しく仕込まれてたから、最初からそれなりにいいポジションがもらえてね」

 

「私もダンスは好きだったから、一生懸命、練習に打ち込んで」

「忘れもしない、あれは中学1年生の時の5月14日」

 

「夏フェスでお披露目する新曲で、私がセンターを任されることに決まったの」

「ヒップホップのテイストを取り入れた楽曲で、その方面は私が一番得意だったから」

 

「当時の気持ちは、嬉しさと、責任感とが半々って感じかな」

「年上のメンバーを押しのけて、私がセンターに選ばれたことを、良く思わない人もたくさんいたと思う」

「それがわかってたから、私はますます練習に励んだ。誰に対しても胸を張ってステージに立てるように、最高のパフォーマンスを目指してた」

 

「新曲は、無事に初公演を迎えることができて。センターとしての私の評価は、可も無く不可も無く」

「特別に賞賛を受けることもなかったけれど。とりあえずは無難に役目を果たして、その後もセンターを続けさせてもらえそうなことに、ほっと胸を撫で下ろしたわ」

 

「その夏には、もう一つ大きな仕事が決まっていて。初めての、主役級での映画出演」

「『かじろみやこ』は、その時演じるはずだった役名。ホラーゲームを元にした作品で、盲目の少女という役柄だったから、リアリティを出すために知恵を絞ったわ」

 

「アイドルとしても、女優としても。ここが一番の頑張りどころ」

「ここでしっかりと結果を出せば、一気に広い世界へ向かって羽ばたけるかもしれない」

 

「そんな夢を見てたの」

 

 

「ママの不倫が週刊誌で大きく報じられたのは、そんな時だった」

 

 

いったん、言葉を区切る。恋太郎は何も言わず、真剣に話に耳を傾けている。

 

「初めて記事を目にした時の気持ちは、よく覚えてない」

「学校が終わって現場に出かけようとしたら、マネージャーさんから、記事を見せられて」

「何だか別世界の出来事のようで、現実感がなかったのだけは確か」

 

「世間では午前中のうちから、騒ぎにはなってたみたいで」

「その日の仕事が終わった瞬間に、私もマスコミから質問攻めにされた」

 

「実感が湧いたのは、その時かな。『今のお気持ちを聞かせてください』なんて言われても、どう答えて良いのか全くわからなかったけど」

 

 

「事務所の人たちに守られながら、家に帰って。目にしたのは、玄関の前でマスコミに囲まれてる、パパの姿だった」

「パパは明らかに落ち込んでたけど、何とか質問に答えようとしていて」

「帰ってきた私を見て、迎え入れてくれた。パパと二人で、フラッシュから逃げるように家に駆け込んだのを覚えてるわ」

 

「少し遅れて、ママが帰ってきて。私は、先に寝てなさいって言われて、しかたなく部屋に戻って」

「翌朝見た時の両親は、予想外に普通の様子だったのが印象に残ってる」

 

「あの日の夜中に、どんな話をしたのかはわからないけれど。パパは、ママを許そうとしていたみたい」

「正直、芸能界では不倫って、よくある話だし」

「私も、ママのことを大嫌いにはなれなかった。何とか戻ってきてもらって、家族関係を構築しなおすことを望んでた」

 

 

「だけど、その望みは叶わなかった」

 

「ほどなくして、記事の第二弾、第三弾が公開されて」

「ママが一人だけじゃなくて、色々な人と不倫していたのが暴かれていった」

 

「いつ、どこで、誰と、どんな風に会っていたのか。知りたくもないことが詳細に報じられて」

「ネット上の誹謗中傷にも、一気に火がついた。ママは、殺されるんじゃないかっていうぐらいに追い詰められて」

「パパの方も、連日の取材攻勢に晒されて、すっかり疲れきってしまってた」

 

「両親の仕事は、めっきり減って。外出することすら避けて、人目を忍んで歩くようになって」

「結局別居することになって、間もなく離婚。私はパパの方に引き取られた」

 

「パパはそれでも頑張って、私を高校にまで入れてくれたんだけど」

「次第にお酒の量が増えていって、今年に入った頃からは家に帰らない日が増えて。噂では、怪しげな人たちとつるむようになってたみたい」

「今は体を壊して、入院中。いつ帰ってこれるかはわからないって、お医者様からは聞いてる」

 

 

「私の方も、グループのセンターからも、映画のヒロインからも、降板を余儀なくされて。そのまま逃げるようにして、芸能界をやめた」

「本当は、もっと頑張りたかったんだけど。周囲からの好奇の目に晒され続けるのに、耐えきれなくなっちゃった」

「『親の七光り』、『アバズレの娘』、『売女』、『カエルの子はカエル』。匿名で寄せられる暴言は、本当にこたえたなぁ」

 

「学校でも、同情の体を装った『ざまぁみろ』の大合唱」

「正直人格が歪んでも、おかしくはなかったと思うんだけど」

 

「私が恵まれてたのは、温かく接してくれる友達が周りにたくさんいたこと」

「一番の親友は、私が陰口を叩かれるたびに怒ってくれたし」

「ふつーに優しい人もいた」

 

「関係ない男が首突っ込んできたり」

「コンプレックスを受け止めてくれる先輩がいたり」

 

「おかげで、トラウマって言うほど辛くはなくて」

 

 

そう言って、頬を緩ませる。

 

「だからね。本当は全部、忘れることにしてるんだ」

 

「辛い境遇を嘆いたって、何かが変わるわけじゃないし」

「大切な人に囲まれて、高校まで通わせてもらって、普通に楽しく過ごせてる時点で、私は十分恵まれてる」

 

「論理的に考えて、全部忘れた方が幸せでしょう?」

 

「バイトが必要になったおかげで、恋太郎くんにも出会えて、今日こうやって一緒に遊びに来て」

「誕生日ディズニーの思い出も、上書きさせてもらえたし」

 

「私のこんな気持ちにも、気づいてもらうことまでできちゃって」

「実はね。ここまで洗いざらい話したのは、君が初めて」

 

「親友にも相談には乗ってもらったんだけど、根掘り葉掘りは聞かれなかったからね」

「今日はついつい、喋りすぎちゃった。君が、本当にいい男だからかな?」

 

「さ、そろそろパレードも終わった頃かしら!帰ろう、恋太郎くん!」

 

努めて快活に言い切り、席を立とうとするこばち。

 

 

その身体を、恋太郎が、優しく抱き締めた。

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