全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
「れ、恋太郎くん?どうしたのかな、急に」
「こんなところで、いきなりなんて。私にだって心の準備とかあるし、こういうことはちゃんとベッドの上で……」
「こばちさん。もう、演技しなくて、いいんですよ」
おどけてみせるこばちに向かって、真摯に語りかける恋太郎。
「こばちさんの過去に何があったのか、よくわかりました」
「眼鏡で素顔を隠す理由も、笑顔で本音を隠す理由も、時に大袈裟な冗談で、俺を振り回してみせた理由も、全部わかりました」
言葉を切って、視線を合わせる。
彼の目から、静かに一筋の涙が零れ、それはすぐに二筋の流れとなる。
「トラウマって言うほど、辛くないわけ、ないじゃないですか」
「人生で一番楽しくて、一番力を込めていた、一番輝こうとしていた時に。突然全てを奪われたんですね」
「自分には落ち度のないことで。しかも、他人ならともかく、一番大切な肉親のせいで」
「ご両親のこと、大好きだったんでしょう。大好きなお母さんの過ちのせいで、こばちさんも、お父さんも、そんなことになってしまったわけでしょう」
「両親揃って普通の家庭を築いてくれている俺には、想像もつきません。こばちさんが、ご家族への愛と失望の間で、どれだけ苦しんだのか」
そう言って恋太郎は、こばちの眼鏡をそっと外し。
既に潤み始めている彼女の瞳を自らの胸にもう一度埋め、柔らかく頭を撫でる。
「演技しなくて、いいんです」
「辛いって言ってくれて、いいんですよ」
「こばちさんには、もっと、ずっと幸せな未来があった」
「嘆いても、何も変わらなかったとしても。嘆いて当然のことなんです」
「その気持ちを、俺の前では隠さないでください」
恋太郎の言葉が、絶望を経て乾ききったこばちの心の砂地に、ゆっくりと染み渡っていく。
ハートの隅まで染み渡った水が、その下端から微かに絞り出され、ぽたり、ぽたりと滴り始め、やがて雨となって流れ出す。
「恋太郎くん!私!私……!」
「辛かった。悔しかった!死んじゃいたいぐらい悲しかった!」
「センターとして、踊り続けていたかった。『神代美耶子』を、演じさせて欲しかった!」
「私が努力して作り上げたものを、ファンの皆にちゃんと伝えたかった」
「ママに、帰ってきて欲しかった。パパに、ずっと傍にいて欲しかった!」
「こんな風になりたくなんかなかった!」
「グループの同期がテレビに出てるのを見るたびに、心の奥がぎゅっと痛んだ」
「私も。私も!夢を見続けていたかったよぉ……!!」
恋太郎の胸に顔を埋めたまま、一気に言葉を出し切るこばち。
それは、彼女の人生が暗転して以来4年間、誰にも吐き出すことのなかった思いだった。
親友であるミコにも、尊敬できるつばめにも、話したことはなかった。
聞かれれば答えたかもしれないが、深くは聞かれなかった以上、酷すぎる境遇に起因した弱音は、内に封印したままだった。
駄々をこねる子供のように、恋太郎の胸を叩き、嗚咽を漏らし続ける。
素顔を隠すレンズと、本音を隠す演技に紛れ、彼女自身も気づかないまま、心の奥底に沈めていた、積もり積もった泥の塊。
その汚泥を綺麗に洗い流すかのように、恋太郎の慰めと、こばちの涙が、夢の国の夜を流れ続けた。
――――
”皆様、東京ディズニーランドは、まもなく閉園時間となります”
”楽しい一日をお過ごしいただけましたでしょうか”
”またお越しいただける日を心よりお待ち申し上げます”
流れるアナウンスを聞きながら、ベンチに座る男女が、そっと体を離す。
男は頭に、ミッキーのカチューシャをつけている。浮き世離れした美しい女は、目を真っ赤に腫らしている。
「結局、閉園時間まで居座っちゃったね」
「そうですね。流石に、もう帰らないといけませんね」
立ち上がる二人。女は男のカチューシャを取り、バッグにしまって、悪戯っぽく数歩駆け出し、振り返る。
「帰る前に。最後にもう一つだけ、伝えさせて欲しいことがあるの」
そう言うと、大きく息を吸い込んで、胸の高鳴りを全身に感じて、大切な言葉を紡ぐ。
人は、どんな時に告白するのだろうか。
用意周到に計画を練り、成功の可能性を極限まで高めた上で、プラン通りに想いを伝える者もいる。
普段の何気ない生活の中で、ぽろっと本音が零れるように、素直な想いを伝える者もいる。
そして、今日この時の、彼女のように。
感極まって溢れた思いの丈を、我慢せずに、恐れずに、相手に向かって、ありのまま届ける者もいるのだ。
「恋太郎くん。私は、君が好き」
「意思の強いまなざしも。凜々しい眉毛も。勇気を持って立ち上がる強さも、私を受け止めてくれた優しさも、全部ひっくるめて、君のことが大好き」
「まだ出会ってから、全然時間は経ってなくて。君の周りには、女の子が多すぎて」
「正直、自信を無くしそうだけど」
「私は、君と恋人になりたい。君の全てが欲しいし、私の全てを君にあげたい」
「お願い。私とつきあってください」
そして彼女は、彼の返答を待つ。
学園では『難題女子』と呼ばれ、恋愛強者であることを何の遠慮もなく自覚する彼女が見せる、どこまでも無防備な心の中核。
それを贈られた、恋太郎の答えは。
「俺も。あなたのことが好きです。こばちさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
シンプルな、肯定の言葉。
何よりも欲しかったそれを受け取ったこばちは、恋太郎に向かって駆け寄っていき。
そのままの勢いで、深い深い口づけを交わす。
ここに誕生した確かな愛を、緋色の月明かりが祝福した。
――――
「……という次第でございまして……。大仏こばちさんを9人目の彼女として迎え入れさせていただいてよろしいでしょうか」
滝のような汗を流しながら、ハーレム構成員へ向かい合って報告をする恋太郎。
時は日曜日。場所は花園邸。何度やっても、この儀式には慣れない。
「あんた!一昨日一人増えたばっかでしょーが!どんだけ食いしん坊なのよ!」
「食いしん坊という意味では『彼女』の右に出る者はいない」
「こ、こばちさん!?本当にこばちさんが彼女に加入するんですか!?」
「あらあら、元アイドルまで陥落させるなんて。流石私たちの恋太郎ちゃんね」
「綺麗な人なのだー!楠莉は大歓迎なのだ!」
”こうしてパーティーに、スーパースターが加入したのであった”
「まさかアンタまで、『こっち側』だとは思ってなかったわ」
「私もびっくりですよ。四条先輩にこんなイメージ全然なかったんですけど」
「本当にね。どうしてこうなっちゃったのか……」
口々に所感を述べながらも、こばちを迎えること自体には異論はなさそうな面々。
「恋太郎くん。正直この展開も、1%ぐらいは予想してた」
「『全員まとめて幸せにしたい』なんて、まるで漫画のタイトルね」
「私的には、悪くないシチュだけど。一つだけ、確認させて欲しいことがあるの」
そう言って、言葉をまとめるこばち。
今日は伊達眼鏡はしておらず、女性も見とれるその美貌を恋太郎に向ける。
人生がひっくり返って以来、ぶ厚い眼鏡を常にかけ、脇役としての役割に徹して生きてきた彼女。
恋太郎に全てを受け止めてもらい、新しい一歩を踏み出した彼女に、憂いはもうない。
彼女自身の人生の主役として、スポットライトを浴びるポジションを取り戻すのだ。その一環としての、様相の変化であった。
「私、君に私以外にも彼女がいることについては、文句無い」
「君の魅力なら、惹かれるのは無理もないことだと思うし。正直、好きな人みんなとつきあいたいって気持ち、わからなくはないし」
彼女もまた、MEARIの娘。
家族の人生を転落させた母の所業を忌み嫌ってはいるものの、その体に流れる血に嘘はつけない。
世の中には二種類の人間がいて、絶対に浮気を許せない人種と、そうではない人種が存在する。
自分が後者であることを、こばちは元々自覚していた。
「でもね。子供が生まれたら、どうするの?」
「子供の人生は、親に否応無しに左右される」
「この日本では、一夫多妻は認められてない。嫡出子として認められるのは、正式に婚姻を結んだ夫婦の子供だけ」
「非嫡出子として育てるにしても、9人もの女を侍らせた父親なんて、周りから後ろ指を指されるに決まってる」
「そうなった時に苦しむのは、私たちの子供なんだよ?」
「この問題を君は、どうやって解決するつもりなの?」
「……解決する方法は、考えています」
「でも。今はまだ、言えません」
「またそれ。アンタって、随分秘密の多い男ねぇ」
「すみません、眞妃さん。でも今回言えない理由は、前の時とは違っています」
「解決方法は、ありそうなのですが。まだそれを、俺が実現できるかどうかがわからないんです」
「ちゃんと実現できる見通しが立ってから、皆に伝えたい。それが、まだ言えない理由です」
そう答える恋太郎の目はどこまでも真剣で、この場を誤魔化そうとしているようには見えない。
こばちは、一つため息をつき。
「まぁ、いっか。とりあえず、信じてついていってみるわ」
「高校生の恋愛なんて、そんなに肩肘張ってするものでもないし」
「試しに一夫多妻の一人になってみるっていうのも、人生経験かもしれないし」
「あ、この人ダメだと思ったら、即刻見限るからね。女の恨みは怖いから、覚悟しててよね」
恋太郎と別れれば、彼女の人生はそこで終わる。
そんな事実を伝えることはせずに、ただ恋太郎は首を縦に振ってみせる。
「約束します。こばちさん、あなたを絶対に幸せにしてみせます」
「はいはい、センキュ。頑張って私たちを幸せにしてね」
「それで。私が『9人目』って話だけど、今この場には、私を含めて8人しかいないわね」
「もう一人は、いったいどこにいるの?」
「それがですね」
「今、大食い大会に参加してます」
「……えっ?」
次章へ続く!!
時系列説明!
5月31日(日):シルバーマンジムにてこばちと出会う
6月2日(火):ヒップホップダンス受講
6月4日(木):社交ダンス受講
6月5日(金):昼休みに『8人目』加入、放課後に皆へ紹介
6月6日(土):こばちとディズニーデート、告白
6月7日(日):今ここ
首相もびっくりのハードスケジュールだね!
100カノ原作第25話では、『新彼女』加入の次の日曜日に8人でフードファイトフェスティバルに参加していますが。
この作品ではそこを改変して、恋太郎と、眞妃までの7人の彼女は花園邸でこばちを迎え入れており、残る一人の『彼女』だけが大食い大会に参加していることにさせてください。
――――
というわけで、第二章『大仏こばち』篇、完結です!
第一章に比べるとかなり難産で、途中他作品に浮気しすぎてとっちらかってしまった印象もありますが、処女作であり色々と試した結果ですし、畳み方には自分では満足しています。
このままシームレスに第三章へ移行しますが、ここで皆さんにアンケートです。
このアンケートは、第四章開始前にとろうと思っている重要なアンケートの予行演習です。アンケート機能を使うのが初なもので。
特にこのアンケートの結果によって何かが変わるわけではなく、ただの気軽なお楽しみです。気楽に票を入れてください。
第三章はそれなりに書き溜めてから投稿開始するので、しばらく間が空きます。
これまでは2日に1話を目標にハイペースで投稿してきましたが、今後は投稿ペースを下げて、「完結まで最低でも1週間に1話ペースで更新」をルールとして続けていこうと思います。
このルールが守れなさそうな時には、活動報告でお知らせします。お知らせがない場合は、私が死んだか、入院したか、エタったかのどれかだと思ってください。
それでは、また第三章の開幕でお会いしましょう!
第二章まで完結し、四条眞妃と大仏こばちを彼女に加えた本作品。さて、第三章のヒロインは次のうち誰でしょうか?
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四宮かぐや
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藤原千花
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伊井野ミコ
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早坂愛
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子安つばめ