全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
「あうあううああああああ……あんまりだああああああ……」
花園家主催のパーティーから帰宅し、ドレスを脱いだ眞妃。
虚ろな表情を浮かべながら何とか湯浴みをこなし、部屋着に着替えた彼女が次にとった行動は。
自室のベッドに突っ伏し、ただ嗚咽を垂れ流すことであった。
「なんで。どうして。私ばっかりいっつも。羽香里も、渚も、翼くんも。御行も、優も、かぐやおば様も。……恋太郎さんも。みんなみんな、大切な人を手に入れて幸せそうにしているのに。どうして私だけ」
つい数時間前に出会ったばかりの、気になる男の名前をあえて口にし、少しだけ浮いた気分を味わいながら。
その何百倍もの絶望感に押し潰されそうになって、眞妃は涙を流し続ける。
正確に言うと、似たような感情に苛まれながら日々を過ごしている少女は彼女だけではなく。どこぞの生徒会室の中においても、一人きりになった瞬間に悲壮感をだだ漏れにさせている女が、意外と身近にいたりするのだが。
そんなのは今の眞妃の知ったことではないし、例えそこに思い至ったとしても、彼女の悲哀を軽減させてくれるものではないのだ。
「ううううううう……」
ひとしきり呻いて少しだけ落ち着いた眞妃は、枕元に投げ捨てたスマホを手に取り、連絡用のアプリを起動する。
愛城恋太郎。まさに恋をするために生まれてきたかのような名前が記されたトークルームには、”よろしくお願いします”と”こちらこそ”、短い挨拶のスタンプが並び。小さく添えられた、既読の文字が1つだけ。
今すぐにだって、メッセージを送ってしまいたい。そんな衝動に眞妃はかられる。
今何をして、何を考えているのか。興味のあるものは何で、何に感動して、何を好ましいと思うのか。
……今日出会った自分のことを、どんな風に思ったか。
知らないことも聞きたいこともいくらでもあって、そこで彼女はふと我に返る。
自分はまだ、恋太郎のことを何も知らない。それなのに、どうしてこうも心を奪われてしまっているのか。
容姿があまりにも好みだったのか。答えは否だ。そもそも自分は、容姿だけを見て一目惚れするような性格はしていないと思う。
かと言って、中身に惚れたわけでもない。本当に、今日出会ったばかりの男なのだ。好きになるポイントなんて、あるわけが――
そこまで考えて、眞妃の思考は止まる。
今、『好き』と。『心を奪われてしまった』と。確かにそう思った。
それはあの翼に対してさえ、長い間はっきりと認めることはできなかった感情。
まぁ、そうやって認めずにいた間に、彼は手の届かないところに行ってしまったわけではあるが。
「どうしよう……」
生まれて初めて襲われるジェットコースターのような感情の変化に、ただただ眞妃は振り回される。
どこが好きなのかは全くわからない。にも関わらず、好き。そんなことは今までの眞妃の人生には存在しなかった概念で。
(私ひょっとして、ネトラレ趣味があるのかしら)
正確にはネトラレでも何でもない。眞妃のそれは横恋慕であり、むしろ明確に立場は逆だ。
そんなことにも気づかないぐらい、眞妃の頭は混乱し、オーバーヒート寸前となっていた。
(聞いたことがあるわ。一目惚れは遺伝子レベルで相性がいいことの証左。容姿に惹かれているわけでも中身に惹かれているわけでもないのに、こんなにも頭から離れないのは、つまり……)
自分の遺伝子が、彼の遺伝子を本能的に求めている。
そんな考えに辿り着いてしまい、彼女の身体はさらなる羞恥に熱く染まる。
「馬鹿馬鹿馬鹿!私ったら何考えてるのよ」
こんなのはきっと、渚たちのせいだ。こんな年齢で、子供なんて作るから。
その熱にアテられて、自分の思考もおかしくなってしまっているんだ。そう眞妃は自分に言い聞かせる。
「……好きな人の子供を身籠もるって、どんな気分なんだろう」
自らの腹部を軽く撫でながら、親友の気持ちをトレースしてみようと試みるが。
好きな人と結ばれた経験すらまだない彼女にとって、その遙か先にある気持ちなどわかるはずもなく。
「あうあうう……ああああああ……」
考えていたら、また悲しくなってきた。
どんなに想いを募らせたところで、彼には既に恋人がいるのだ。しかもその相手は、またもや、眞妃にとって大事な友人の一人。
こんなに辛いのなら、悲しいのなら。いっそのことこんな恋心、千切って捨ててしまいたい。
そんな文言を脳裏に並べるも、やっぱり本心は正反対で。
ベッドの上で無限に百面相を繰り返しながら、四条眞妃の出会いの夜は更けていく。
――――――
一方、愛城恋太郎。
彼もまた、自室のベッドに横たわり。
もう幾度目かのことではあるが、全く慣れることはない、全身に衝撃が走った今日の瞬間のことを思い起こしながら、スマホの画面に目を向ける。
四条眞妃。彼にとっては7人目となる、運命の相手。
まだ彼女について、多くは知らない。わかっているのは、偏差値77を誇る名門校、秀知院学園高等部に通う3年生であるこ
ティロン。
スマホの通知音が響く。思考を中断し、ちょっとだけ、眞妃からのメッセージかと期待しながら画面を見ると。
(花園羽々里)”恋太郎ちゃん、今日はお祝いに来てくれてありがとうね。スーツ姿、とっても似合ってたわよ。いずれは恋太郎ちゃんのお披露目会を開くから、パーティーのマナー、ちゃんと勉強しておいてちょうだいね。”
6人目の運命の相手である、花園家当主からのメッセージだった。
恋太郎は少し微笑んで、羽々里への返信を考える。
眞妃との出会いに心を奪われてはいるものの、それはそれ。彼は今まで出会ってきた運命の相手を、全員心から愛している。
返信を打ち終わり、また眞妃のことに思いを馳せる。
そう、わかっているのは秀知院学園に通う3年生であること。それから、学年3位の秀才
ティロン。
また通知音。
(ハカリ)”恋太郎君、今日はありがとうございました。夢中になって料理を食べている姿、可愛かったです。今日並んでいた料理に負けないぐらいの品を毎日食べてもらえるように、私も頑張りますね。”
メッセージの主は、彼の1人目の運命の相手。
プロポーズに近いとも思える文面に頬を緩めながら、恋太郎は返信を終える。
それから、学年3位の秀才であること。軽く前髪を編み込んだツインテール
ティロン。
(AI)”好き。”
4人目の運命の相手、
そんな彼女の愛情確認に応えてから、恋太郎は思案に戻る。
軽く前髪を編み込んだツインテールが可愛いこと。羽香里とは
ティロン。
(化学部ぶちょー)”恋太郎!恋太郎!新しい薬ができたのだ!『思っていることが全部口から垂れ流しになる薬』なのだ!早速明日唐音に飲ませるのだー♪”
5人目の運命の相手、
そんな薬を飲ませなくても、2人目の運命の相手、
羽香里とは小学生の頃からの
ティロン。
(Karane)”べ、別に今から布団に入るわけじゃないんだからね!!”
「いやこれ真面目に考えるの無理だな!?!?」
そう叫んで恋太郎は、ひとまず今日のところは、新しく出会った聡明な少女のことを、頭の片隅に仕舞っておくことにした。
なお3人目の運命の相手、
思ったより早く第2話が書けました。
原作のキャラが立ちすぎているため勝手に話ができあがっていく。
なお(ストックさんは)無いです。