全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜   作:讃岐うどん屋さん

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【第3話】四条眞妃は踏み出したい

「ツンデレ先輩。浮かない顔してどうしたんですか」

 

秀知院学園高等部2年、生徒会会計、石上優(いしがみゆう)

いつものように生徒会室を訪れた彼は、そう来客に声をかける。

 

「うっさいわね。私は別にツンデレじゃないんだからね!」

「それ、酔っ払いが『俺は酔ってない』って言うのと同じぐらい説得力無いですよ。あと先輩の語尾そんなんでしたっけ」

「これには大いなる力が働いているのよ」

「わけがわかりません」

 

定位置に荷物を置きながら部屋を見渡す。応接用のソファには、眞妃が一人。そして正面に陣取る豪奢な机の向こうに座るは、生徒会会長、白銀御行(しろがねみゆき)

石上を含めて、室内には男2人と女1人。もはやお馴染みとなってきた感のある、恋愛相談の布陣であった。

 

「とりあえず、ハーブティーを淹れますね。ちょうど新しい茶葉が入ったところです」

「おねがーい。今日はどんな種類のを淹れてくれるの?」

「カモミールです。気分を落ち着かせる効果があって、不眠にも良く効きますよ」

「寝ちゃいそうだから別のにして」

 

そう返す眞妃の下まぶたには、くっきりと隈が刻まれている。目は赤く腫れており、彼女が鬱々とした夜を過ごしたことは想像に難くなかった。

 

 

「それで、どうしたんだ四条。最近元気がないとは思っていたが、今日の顔は一段と酷いぞ」

「二人揃って、女の顔を浮かないだの酷いだのと。もう少し優しく接したらどうなの」

「事情を聞かないことには優しくしようがないだろう」

 

ソファの対面に腰かけながら、白銀は会話の糸口を開く。

 

去年度に引き続き、眞妃と同じクラスになった白銀。学年が上がってすぐの頃から、彼女が目に見えて落ち込んでいることには気づいていた。

声をかけようかとも思ったのだが、プライドの高い眞妃のこと。他人から手を差し伸べられて、素直に事情を吐き出すとは思えない。

 

待っていればそのうち、自分から相談に来るだろう。そう踏んでいた白銀にとって、目の前の光景は予想していた通りのものであった。

 

「また神の人々絡みで辛いことがあったんじゃないですか」

「本当に優はズバズバと切り込んでくるわね。もし違っていたらどうするつもりなのよ」

 

石上の指摘は半分当たりで、半分ハズレ。

 

「違うんですか」

「ええ、違うわ。私がいつまでも同じことで悩んでると思ったら大間違いよ」

 

真妃の返答も半分真実で、半分は嘘。

 

渚が妊娠を打ち明けたのは、友人の中では今のところ眞妃だけだ。いくら自分が辛いからといって、親友の秘密を言いふらすなんてもっての外。

その話題をここで出すつもりは、眞妃には毛頭ない。誰にも話せないからこそ、余計に辛さが増したこの1ヵ月であった。

 

 

「じゃあ、一体何に悩んでいるんだ」

「……友情なんて、人を苦しめるだけの物じゃない?」

「半年前と同じセリフじゃないですか」

「同じセリフで違う悩みを抱えているとしたら、これほど気の毒なこともないが」

「察しがいいわね。その通りよ」

 

思いの外素直な眞妃の言葉に、固まりながらも頭脳を回転させる男子二人。

 

「まず聞こう。田沼以外に、好きな奴ができたのか?」

「そうよ」

「それはいいことだと思いますけど。ただ、その」

「ご想像の通りよ。好きな人には既に彼女がいるの」

「そして、その彼女というのが」

「私の友達」

「うわあ……」

 

白銀と石上は頭を抱える。

目の前にいる少女は、いったいどんな星の巡り合わせの下に生まれたのだろうか。

神はいないのか。

 

「相手は秀知院の生徒なのか?」

「いいえ。他校生よ。昨日パーティーで知り合ったの」

「昨日?昨日知り合ってもう好きなんですか?」

「うっさいわね、この不調法者。私だってわかってるわよ。わかってるけど、頭から離れないんだからしょうがないじゃない」

 

白銀は驚いていた。四条眞妃とは、こんなに自分の感情を率直に認める奴だったか。

 

白銀自身も関与するところのあった彼女の前の恋の顛末は、あらかた聞いている。素直な一歩を踏み出せずに足踏みしていたことが、彼女の敗因。

今回こんなにも素直なのは、その失敗を反省したゆえか。それとも単純に、素直にならざるをえないぐらい大きな感情を抱えているためか。

 

この話だと1ヵ月前からの眞妃の落ち込みには説明がつかないが、そこは触れないでおくことにして、白銀は話を先に進める。

 

「その彼女という友達と四条は、どの程度親しいんだ」

「小学生の頃から知ってる仲よ。ただ、普段から遊んだりしているわけではないわね。たまに連絡を取り合ったり、パーティーで顔を合わせるのが主よ」

「毎日目の前でイチャイチャしているところを見せつけられるよりはだいぶマシですね」

「優は黙ってて。ハーブティーおかわり」

 

ポットを傾ける石上を横目に、白銀は核心へと触れる。

 

「それで、四条はどうしたいんだ。聞いた限りでは、そんなに接点の多い相手ではないのだろう。忘れることにするという選択肢も十分ありそうだが」

「…………」

 

白銀の質問に眞妃は、すぐには答えない。少し俯いて、息を大きく吐いて。吸って。

まるで自らの心にポンプで空気を送り込んでいるかのように、何度か深呼吸を繰り返して。

それから顔を上げて、こう宣言した。

 

 

「……私、今度は我慢しないかもしれない」

「!と、いうことは」

「私、努力する。彼に私を見てもらえるように。そしていつか、彼に想いを伝えてみせる」

「略奪愛も辞さないということか」

「えぇ、もし成功すればそうなるわね。そうなれば、友達との仲は壊れてしまうかもしれない。でも、それを恐れて自分の気持ちを押し殺すなんて、もうできそうにないの」

 

友情のために、恋心を押し殺す。それは眞妃が、つい昨日までずっと続けてきたことだ。

昨日までできていたことが、今日からはできない。

それは今まで我慢を続けてきた、反動のせいなのか。それとも、眞妃自身の性格に変化が起きたのか。

 

過程がどちらであれ、結論は同じこと。

 

「私が翼くんにアタックできなかったのは、渚との距離が近すぎたせいもあるわ。友情が壊れれば、その後の日常生活まで壊れてしまうのは明白だった」

「でも、今回はそれとは違う。仮に略奪に成功したとしても、その友達とは毎日顔を合わせるわけじゃない。失うものが無いわけではないけど、十分に取り返しのつく範囲だと思うわ」

 

「その口ぶりだと、あまり本気で奪い取りたいとは思っていなさそうだな」

「そう聞こえる?彼が欲しいという感情は本物よ。……でも、そうね。できれば、私は負けた方がいいかな。友達を失わないで済むなら、その方がいい」

「結果的に、つきあえないとしても。気持ちを全部封じ込めて、手も足も出せないまま身を引くよりは、感情のままに突っ込んで玉砕した方が、ずっと気が楽ですもんね」

「いちいち癇に触る言い方をするわね。でもまぁ、その通り。勝っても負けても、失うものはあるわ。でも、何もできずにただ耐えているよりはずっとマシだと思う」

 

眞妃の瞳に、静かな闘志が宿る。

 

「だが、本当にいいのか?何せ昨日出会ったばかりの男だろう。もう少し時間をかけて、自分の気持ちを確かめてみてからでも遅くはないんじゃないか」

「今のところはぐっと堪えておいて、その男がフリーになった瞬間を狙うというプランもありますね」

 

「流石、彼女持ちは二人とも余裕があるわね。もちろん、今日明日にでも告白しようってわけじゃないわ。まずは足場固めから。お互いのことを教え合って、彼に私のことを意識してもらう」

「ひょっとしたらその過程で、恋が冷めることがあるかもしれない。時間をかけている間に、彼が友達と別れるかもしれない。そっちの方が、私としては失うものが減って助かるわ。……でも」

「でも?」

「予感があるの。きっと私、我慢しきれない。知れば知るほど、欲しくなってしまう。周りの状況なんて、考えられなくなってしまう。知り合った翌日で既にこうなんだから、いつこの気持ちが爆発するかと思うと怖くなるわ」

 

 

恋は人を変えるとは、よく言ったものだ。

白銀も石上も、はるか高い所にいる想い人に手を伸ばすために、自分の殻を破った。どんなに背伸びしても届かないかと思われたそれに向かって、一つずつ石を積み上げていき、ついには掴み取った。

 

今度は、眞妃の番なのかもしれない。

 

「そこまで本気で想っているなら、俺たちは止めない。ただ、あまり無茶はするなよ。何の気兼ねもなくできる恋ではないだろう。なるべく傷を浅くできるように、立ち回り方はよく考えた方がいい」

「そうね。ありがと。考えが回らなくなったら、また相談に来るわ」

「もしダメだったとしても、骨ぐらいは拾ってやる」

「アンタに拾われるような安い骨は一本も持ってないわよ」

 

最後は、いつも通りの軽口で返し。

いつまでも一歩を踏み出せずに不幸を抱えてきた少女は、覚悟を決めた。

表が出るか、裏が出るかはわからないが。とにかく、コインを投げてみることに決めたのだ。

 

まさか表でも裏でもない結末が待っているとは、この時は夢にも思っていなかった。

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