全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
翌日。
三者三様に夕食を平らげ、食後の紅茶をすすりながら、眞妃は昨日の続きを始める。
「私と羽香里、両方とつきあいたいって話だったけど」
「二股をかけたいってことで、間違いないわよね」
「正確には少し違うんですけど、まずはその通りということになってしまいます」
何が少し違うのか。それを聞くのはさておいて、眞妃は率直な気持ちを伝える。
「はぁ。アンタ、脳みそ腐ってんじゃないの?」
「……返す言葉もございません」
自覚はあるらしい。
「羽香里も羽香里よ。二股かけられようとしてるのに、何でアンタは何も言わないの」
「私は、恋太郎君にフられることさえ無ければそれでいいです」
エキセントリック。羽香里がこんな恋愛観をしていたとは知らなかった。
「全く」
「私はアンタと、つきあえればそれでいいわけじゃないの。ちゃんと幸せになりたいの」
あ。
言っちゃった。
失言に気づいてチラリと恋太郎を見るが、その表情には特段の変化はない。羽香里がサッと下を向いたのはちょっとムカつく。
内心真っ赤に茹で上がりながらも、努めて平静を保って眞妃は続ける。
「たたた例え話よ!仮につきあったらってことよ!」
訂正。平静は別に保てていない。
「とにかく!そんな無法なことを通したいなら、まずは理由を聞かせなさい」
「一人の女とつきあうのなら、他の女とは別れるのが道理よ」
「どうして当たり前のことができないのか、私が納得するように説明してみなさい」
「……理由は、あります。でも、今は話せません」
――恋太郎と結ばれなければ、眞妃はなんやかんや不幸な目にあった後、死ぬ。
神から教えられた残酷な運命を、伝えることは簡単だ。
だが、それを聞かせて結ばれたところで、一体何になるというのだ。
そんなのは、まるで脅迫だ。そんな関係性に、未来はない。
いよいよとなれば、伝えなければならない。でもそれは、あくまで最終手段。
恋太郎は恋太郎自身の力で、運命の人の愛を勝ち取るのだ。でないと、幸せにすることなんてできない。
命を賭けて茨の道を歩むと決めた男の、覚悟であった。
「話にならないわ。二股はかけたい。理由は言えない。そんな理屈が通るとお思い?」
「簡単に通るとは、思っていません」
「それでも俺は、この想いを絶対に通さなければいけないんです」
「絶対に、あなた達を幸せにしてみせる」
「だから、眞妃さん。俺の恋人になってください」
「……平行線ね」
こんなやりとりをしている隣で、羽香里はメロメロである。
「恋太郎。正直、アンタのことは嫌いじゃないわ」
「ど、どうしても。アンタがどうしても私とつきあいたいって言うのなら、聞いてあげないこともないわよ」
精一杯の虚勢。羽香里が噴き出しそうになるのを抑えているのがわかる。……そろそろ本当にぶん殴ろうか。
「でも。二股を受け入れるなんて、私にはできないわ」
「アンタだって、わかってるでしょう。二人の女を同時に愛するのが、どれだけ無謀なことなのか。欲望に任せて無茶をしていたら、アンタだって幸せになんかなれないわよ」
「二股でも、幸せになれるって。そう確信できる何かを示してくれれば、考えてあげないでもないけれど」
「そんなもの、あるわけが――」
「眞妃さん」
それまでずっと身悶えし、一言も発しなかった羽香里が、口を開く。
「そういうことなら、いい方法があります」
「……?」
「次の土曜日。私の家に来てください」
「面白いものを、見せてあげますよ」
――――
「恋太郎。こんなことしてて、本当に大丈夫なの?」
場所は○○高等学校。
屋上へ向かう階段を二人で上りながら、眞妃はそう尋ねる。
土曜日。約束通り花園邸へ赴いた眞妃を待っていたのは羽香里ではなく、恋太郎一人だけだった。
「羽香里はちょっと準備があって、別の場所にいます」
「一緒に、俺の高校へ来てください。そこに、見せたいものがあります」
そう言われ、不審がりながらもここまでついてきた眞妃。
恋太郎はただ眞妃の手を引くばかりで、答えない。
その表情に少し陰が落ちているのは、気のせいか。
そして屋上へ続く扉は開かれ。眞妃の目に飛び込んで来たのは。
赤、黄、赤、赤、赤、黄色のコスチュームに身を包み、後ろを向いて並んでいる、6人の女達であった。
”パパパパーパパー♪♪♪”
陽気なミュージックが流れ、順番に振り向いていく彼女達。
「私こそは、一番に名乗りを上げた者!宝物は、ピンクの四つ葉のクローバー!脳みその色もピンク色!ハカレンジャイ!」
「わ、私だって同じ日に告ったんだから!宝物は、ピンクの四つ葉のクローバーなんかじゃないんだからね!カラレンジャイ!」
”内に秘めた静かなる想いは、主人への何よりの忠誠の証!弱さこそが明日の強さへ繋がる!”「シズレンジャイ(羽香里の声)!」
「効率重視。ナノレンジャイ」
「ドパミン!オキシトシン!エンドルフィン!今日も今日とておクスリ天国!シャブはまだだよ!クスレンジャイ!」
「若さが何よ!私の色香にひれ伏しなさい!女が一番輝くのは、二十代後半って言われてるんだから!ハハレンジャイ!」
我ら6人揃って――――
ゴレンジャイ!!!!!
ズドバ――――ン!!
ものすごい勢いとともにポーズをとる彼女達を見て、呆気にとられる眞妃。
「……これ、どういうこと?」
眞妃の口から、一切の笑みは零れない。
「ほらー!だから言ったじゃないか、流石に滑り散らかすって!」
「だいたいコレ、私たちが生まれる前のネタじゃない!誰よこんなの持ってきたの!」
「こんなのとは何ですか!私が子供の頃はこれに皆夢中になったのよ!」
”パーティーを組むのならば、役職は分けるのが普通。戦士と武闘家ばかりのその一行は、異様な雰囲気を放っていた”
「どうせなら全部赤にするのが効率的」
「そこで新開発!『目に見えるものを全部赤くしてしまう薬』なのだー!」
わいわい。ぎゃいぎゃい。
仲良く言い争う女たちをよく見ると、それはいつかのウェディングドレスの写真に写っていた、周りの娘たちだと気づく。
「羽香里。これはいったい、何のつもり?そもそもあなた達、どういう関係なの?」
「私たちはですね……」
少し胸を反らして威張りながら、羽香里は告げる。
「恋太郎君の、恋人です!」
それは知っている。一瞬そう思った後、その真の意味に気づく。
そんな、まさか。
そのまさかを、確認する。
「恋人って……まさか、全員?」
「全員です!」
元気よく返ってきた返事に卒倒しそうになりながら、顔を見渡す。
よく見ると、羽々里さんまでいる。明らかな、異常事態。
にも関わらず、全員の顔は晴れやかで、慈愛と幸福に満ちていて。
「眞妃さんに、見せたかったんです」
「私たち、全員、幸せですって。こんな風に協力してばかな事ができるぐらい、仲良くやっているんですよって」
「今更眞妃さん一人増えたところで、恋太郎君は問題なく愛してくれるって。そう伝えたかったんです」
「幸せになれるっていう、確信。感じてもらえましたか?」
全くもって、理解不能。眞妃の理性は、そう告げている。
しかしながら、彼女の本能が囁く。
もしかしたら私は、今日から、幸せになってもいいのかもしれないと。
この男に、幸せにしてもらえる未来が、あるのかもしれないと。
そう実感した瞬間、胸から溢れ出し、脳天を貫く至福の感覚。
今までずっと報われない日々を送ってきた少女に訪れた、天使の福音。
そのファンファーレを聞きながら、眞妃は抱腹絶倒する。
「……あはははは!あははははははははは!」
「あなたたち、面白いわ!どうしてそんなことをしているのかも、何で全員納得しているのかも、全然理解できないけれど」
「一つだけ、確認させて」
「恋太郎とつきあって、幸せ?」
最後の確認に、答える6人。
「幸せです」
「し、幸せなんかじゃないんだからね!」
”それは至高の幸福であった”
「幸せ」
「幸せなのだ!」
「幸せよ」
約一名、
その答えに、眞妃の心が決まる。
「わかったわ。私、アンタにつきあってあげる」
「言っとくけど、アンタが好きかどうかはもうわからないわよ。てゆーか、たぶん、好きじゃない」
嘘よ。大好き。
「けど、私はアンタたちに興味が湧いた」
「アンタのこと、見ててあげる。本当に私たちを幸せにしてくれるのか見極めがつくまで、アンタについていってあげる」
「だから、私を。惚れさせてみせなさい」
それは彼女に残された、最後の虚勢。
それを受けて、恋太郎は。
「眞妃さん」
「約束します。絶対に、あなたを幸せにしてみせる」
最高に、格好いい顔で返し。
そのまなざしを眞妃が忘れることは、きっと生涯ないだろう。
「そんな可愛い顔したからって……」
「私は簡単に落とされたりなんか、しないんだからね!!」
そのセリフを聞いて、目尻の涙を拭う、花園親子。
優しい微笑みを浮かべる、静、凪乃、楠莉。
深刻なキャラ被りにおののく唐音。
そして、幸せ満開の笑顔を見せる眞妃。
晴れ渡る空に、笑い声だけがこだました。
皆様、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第一章、『四条眞妃』篇これにて完結です!
本当にたくさんのUA、お気に入り、感想、評価をいただき、小躍りして喜ぶと同時に創作意欲に燃えております。
この後は箸休め回を1回挟んで新章突入予定ですが、ストックさんが全くないので、ここでいったん書き溜めるフェイズに入ろうと思います。
1週間~2週間後をメドに、次の話を投下できればいいなと思っております。
この物語は、まだ始まったばかり。今後とも、よろしくお願いします!