全員まとめて幸せにしたい〜百股男の恋愛無双戦〜 作:讃岐うどん屋さん
いつもの生徒会室コントです。
「ここから恋バナのにおいがします!」
その日、バンッ!と騒々しい音を立てて生徒会室の扉を開けたのは、秀知院学園高等部3年、生徒会書記、
ストライプ柄のハンチング帽にトレードマークの極黒リボンを装着し、頬を上気させながら虫眼鏡を掲げて部屋へと入る。
いつも通りの『ラブ探偵』の姿であった。
「藤原さん。いつも思うのですけど、その衣装の持ち出しは演劇部に許可をとっているのですか?」
呆れ顔を浮かべてそう問いかけるのは、漆黒の長髪を真紅のリボンで折り畳んだ、紅玉の瞳が印象的な美少女。
生徒会副会長を務める四宮財閥の令嬢、
「もちろん、許可なんてとってません!」
「はぁ?」
「バレなきゃ罪じゃないんですよー!」
大きな胸をめいっぱいに張ってふんぞり返る彼女を見て、ため息をつくのは本日の来訪者、四条眞妃。
「四条さん!久しぶりですね!」
「えぇ、久しぶり。アンタはちっとも変わってないわね」
「そう言う四条さんは、何だか雰囲気が柔らかくなりましたか!?もしかして、惚れた腫れたなんですかー!?」
「ッバカ!そんな浮いた話、ありやしないわよ!」
嘘である。この女、まさに恋バナをしにここにやってきたのである。
晴れて恋太郎とつきあうことになり、幸せの絶頂にあった眞妃。
彼とイチャイチャすることに土日を費やし、迎えた平日。
相談に乗ってくれた生徒会の二人に、報告とお礼がしたい。そんな思いを胸に、生徒会室のドアをノックしたものの。
そこには白銀と石上の他に、彼女のよく知る親愛なる再従祖叔母、かぐやも着いていたのであった。
この状況では、まともに恋バナをする気にはなれない。
ハーブティーだけいただいて、また改めて訪れることにしよう。
そう思っていたところに、千花が勢い良く現れたのだった。
「藤原。見当違いだ。俺たちは別に恋バナなんかしていない」
「あれれ~?おっかしいですね~」
「藤原先輩のセンサーはいつもぶっ壊れてるんですよ」
「あはは~石上くん。今日も絶好調ですね~。この虫眼鏡あげますよ」
そう言ってレンズ側を持ち、柄の部分を石上の顔に向かって突き出す千花。
ひょいと避ける石上。
「全く、いつもながらそんな小道具持ち出してきちゃって。そんなんだから出遅れるんですよ」
「藤原先輩、気づいてます?第9話にして自分の名前にルビが振ってあるの。メインキャラとして恥ずべきことですよ」
「それを言うなら、かぐやさんだって!私より後ろでルビ振られてるじゃないですか!」
「四宮先輩の名前は2話で既に出てます。ここまでの描写で影も形も無かったのは藤原先輩だけですよ。藤原先輩だ・け!」
「ムキィィィィィ!!お黙りなさい!!見てください、ここまでに並んだサブタイトルを!!」
そう言って千花はホワイトボードに、『四条眞妃』の文字を列挙する。
「ご覧なさい!8話に渡ってズラリと並んだ四条さんの名前!そしてその後に燦然と輝く、『藤原千花』の4文字を!」
「そう言わば、これは紅白の大トリ!満を持しての絶対的守護神の登板なんですよ!!」
わあわあ。ぎゃあぎゃあ。
言い争う石上と千花を見ながら、白銀とかぐやは完全に置いてけぼり。
「一体何の話をしているんだ?」
「さぁ……」
――――
同時刻。某屋上。
「ねぇ、この作品メタネタ多くない?」
「『かぐ告』キャラはこんなこと言わない」
”お互いの美点を取り入れあってこそ、異文化交流の意味があるってもんだろう”
「ちなみに今回俺たちの出番はこれだけです☆」
――――
再び生徒会室。
「いいでしょう……そこまで言うのなら、ゲームの時間です!」
「負けた人は、ご自身の恋バナについて洗いざらい喋ってもらいます!いいですね!?」
「いやムチャクチャだな!」
「抵抗しようとしてもそうはさせません!いきますよー、『絵を見てものを当てちゃおうゲーム』!!」
ルール説明!!!
千花が鞄から取り出したカードの束には、お絵かきのお題が書いてある。
『出題者』はその中から好きなものを選び、ホワイトボードに絵を描いて伝える。文字を使うのは禁止。
『回答者』はわかった時点で早押しボタンを押し、何が描かれているかを当てる。
答えが当たっていればプラス1ポイント。間違えた場合は、マイナス1ポイント。
10問の合計得点で勝敗を競う、シンプルなゲームである!!
「『出題者』は、かぐやさんにお願いします!」
「『回答者』は、私、会長、石上くん、そして四条さん!」
「はぁぁ!?何で私まで!嫌よそんなの!」
「拒否権は与えません!さぁ、席についてください!」
長机に早押しボタンを4つ並べながら、手招きする千花。
その勢いに押され、残りの面々が着席する。
「
「何なら魂が宿ったチョコレートも置いてあるからな」
「その話題には深入りしないでおくわ」
そんな会話を横目に、いそいそと準備を進める千花。
お題の束をかぐやに渡すが……。
「ちょっと待て、藤原。お前が持ってきたお題を四宮に描かせたら、お前だけ有利になるんじゃないか?」
「ムムッ!いいところに気がつきましたね!」
「そこは大丈夫です!こっちの束が、私が考えたお題!そしてこっちは、マッキーちゃんが考えたお題!」
「こっちを使えば不公平にはなりません!はい、かぐやさん」
カードの束を2つに分け、かぐやに渡そうとする千花だが。
それを避けてかぐやが手にしたのは、千花が『自分が考えた』と言って脇によけた、もう一つの束だった。
「かぐやさん!どうしたんですか!」
「藤原さんのことです。どうせ渡そうとしているそっちの方が、自分で考えた束なんでしょう」
「酷い、かぐやさん!私そんなセコいことしません!」
「それじゃあ、後で槇原さんに確認してみるわね。もし嘘だった場合、ハラを切る覚悟はできているかしら」
「うぅ……あうう……うううううううう」
赤面し、ポロポロと涙を流す千花。
それを見て、白銀は大きなため息をつく。
「全く、藤原は何回やっても姑息だな」
「え、あの娘いつもああなの?」
「いつもああです」
そんなこんなで、ゲームスタート。
第一問。
かぐやの手によって描き出されるのは、まずオートバイのヘルメットのような、丸っこい曲線。
そこから側面に、溶接工がつけているような、顔を保護するための長方形のゴーグルが付け足される。
ピンポーン!
「はい、石上くん」
「スペツナズヘルメット」
正解!
「一問目から随分とマニアックな……」
「四宮先輩、よく知ってましたね」
「私は実物を見たことがありますから」
「やっぱり戦闘訓練極めてらっしゃる!?」
第二問。
「藤原さん。カラーペンも使って構いませんか?」
「ええ、どうぞどうぞ!」
描かれるのは、くちばしを持ち、流線型のまっすぐとした体を二本足で支える、黒い背中の鳥類。
かぐやが赤ペンに手を伸ばしたその時、眞妃が早押しボタンを押す。
ピンポーン!
「はい、眞妃さん」
「ペンギン!」
自信を持って答えた、眞妃であったが。
「残念、不正解です」
「えーっ!どこからどう見てもペンギンじゃない!何でよ!」
「確かに、ペンギンはペンギンなのですが。種類が指定されているんです」
「これで不正解とするのも可哀想ですから、もう一度回答のチャンスをあげましょう。どの種類のペンギンですか?」
「っ!それは……」
「コ、コウテイペンギン!」
「ぶー。ハズレです。眞妃さん、マイナス1ポイント」
「そんなあああ!」
頭を抱える眞妃を尻目に、お絵かきを続けるかぐや。
ひれとくちばしに、赤の差し色が描き込まれる。
ピンポーン!
「ジェンツーペンギン」
「正解!流石会長」
そして、ゲームは進んでいく。
「天樹院フレデリカ!」
「正解。石上くん1ポイント」
「伏見稲荷大社!」
「正解。会長に1ポイント」
「怪盗ルパン!」
「正解。また会長に1ポイント」
眞妃はペンギンで減点されたのが響き、なかなか思い切ってボタンを押すことができない。
得点を重ねていく白銀と石上。これはかぐやの計略でもあった。
(御行さんが恋バナを洗いざらい喋るなんて、とんでもない。それだけは阻止しないと)
(それに石上くんの恋バナも、私は聞き飽きてるわ。狙うなら、眞妃さんか藤原さん)
『出題者』であるかぐやだけは、お題の傾向を選ぶことによって、このゲームの行く末をある程度コントロールできる。
その結果として、9問目終了時点での得点は。
白銀、5ポイント。石上、3ポイント。眞妃、0ポイント。千花、0ポイント。
そして最終問題!!
「これはちょっと難しいですね。ホワイトボードに描くのは限界がありそうです」
「ちょうどスケッチブックを持っていますから、そっちに描くことにしましょう。いきますよ」
そしてかぐやが描くのは、金色の被り物をし、豊かな黒髪を携えて柔和に微笑む、蓮の花の上に座っている女性と。
馬に乗り、恐ろしげな顔で髪を逆立てている、青みがかった肌の四本腕の女性。
ピンポーン!
「はい、眞妃さん」
「
「眞妃さん、大正解!!」
「えー、何ですかそれ!?難しすぎます!何で知ってるんですか!?」
「仏教における守護神で、人の幸運と不運を司ると言われている姉妹の神様よ。この前倫理の授業で習ったわ」
「そんなのわかりませんー!あーもう、何で私が最下位なんですか!」
地団駄を踏む千花に、周囲の視線が襲いかかる。
「さぁ、藤原。負けた奴は、恋バナを洗いざらい喋るんだったよな?」
「言い出しっぺの法則です。包み隠さず話してもらいますよ」
「……しかたないですねー。私の恋バナ、とくと聞きなさい!!」
そう言って、沈黙すること16秒。
「……私の恋バナ……何一つ、ありませんでした」
涙を浮かべてそう語る千花。
「藤原!ここまできておいてそれはないだろう!」
「私だって好きでハブられてるわけじゃないんですー!!」
「
「現実逃避してないで今世に目を向けろ!あとその言及は危なすぎる!」
その後も何か無いかと、根掘り葉掘り質問をしてみる一同だが。
この世界線の千花に、浮いた話などは一つも存在していないのだった。
「こうなったら、しょうがない。四条。お前の番だ」
「何でそうなるのよ!」
「ここで諦めたら、今日ゲームに費やした時間が無駄になってしまう。虚無感を抱えて家に帰るぐらいなら、お前の恋バナを聞かせてくれ」
「ツンデレ先輩、話したいことありそうな顔してますし。ちょうどいいんじゃないですか?」
「な、な、な……そんなこと……そんなことあるわけ……」
あるけど。
眞妃は眞妃で、初めて成就した恋の顛末を、誰かに話したい気持ちで満々であった。
半年前までなら、かぐやの前でそれを開陳するなど土下座されてもごめんであったが。
ここ最近のコミュニケーションにより、二人の仲もやや軟化してきている。
しばしの逡巡の後一度口を開けば、喋りたい気持ちに戸を立てることはできず。
立て板に水とばかりに、恋バナを垂れ流し続ける眞妃の姿があった。
「それで……名前は愛城恋太郎って言って……」
「歳は2つ下で……○○高等学校に通ってて……」
「どこが好きなんですか?」
「そもそも一目会った瞬間から、好きだったんだけどぉ……」
「気遣いができるところとか……自分を鍛えるのに一生懸命なところとか……一度言い出したことは、絶対に貫き通す意志の強さとかぁ……」
完全に雌の顔をして語る眞妃。
「素敵な人なんですね!写真とか見せて下さいよ!」
「もう、しょうがないわねぇ」
そう言って、スマホを取り出す眞妃。
映された画面には、恋太郎とのツーショットが写っている。
「わぁ、思ったよりフツメンさんですね!でも確かに、意志の強そうな顔をしています!」
そう言って、何気なく画面をスワイプする千花。
そして、表示されたのは。
「ひゃああ!眞妃さん!この写真はどういうことですか!」
そこには我先にと恋太郎に抱きつく、7人の彼女達の姿が映し出されていた。
「ちょっと千花!勝手にスクロールしないでよ!」
「ごめんなさいー!でもこの写真、おかしいですよね!?皆さんどういう関係なんですか!?」
慌ててスマホを取り返す眞妃だが、時既に遅し。
「……四条。この前相談に来た時、『一筋縄でいく恋ではない』と言っていたな?」
相談の内容を暴露する気は、白銀にはないが。この写真を見過ごしておく気もまたなかった。
「結局、どういう関係に落ち着いたんだ」
「それは……」
悩んだ眞妃だが、結局洗いざらい吐くことにした。
いずれはバレることだと判断したためだ。
恋太郎とは両想いだったが、羽香里と別れることもできないと言われたこと。
それどころか、恋太郎には愛する6人の女性達がいたこと。
そして自分が、『7人目』としてそこに加わるのを受け入れたこと。
その話を聞き。
かぐやと千花は、ショートした。
石上は、激昂した。
そしてじっと考え込む、白銀であった。
「死ね死ねビーーーム!死ね死ねビーーーーーム!」
「ちょっと優!人の彼氏に向かって『死ね』なんて言わないでちょうだい!」
「私ちょっと、お花をつんできますねぇ~」
プスプスと頭から煙を出しながら、生徒会室を後にする千花。
かぐやは床に突っ伏して動かない。
「四条。お前は本当に、それでいいのか?」
真摯に問いかけるのは、白銀。
「……この関係がおかしいことぐらいは、わかってるわよ」
答える眞妃。
「それでも、私は。この輪の中に、飛び込みたいと思ってしまった」
「こうすることで、幸せにたどり着けるって。この人たちと一緒に、幸せになりたいって」
「心からそう思ったから、こうすることにしたの」
「外野からどうこう言われて、この気持ちが揺らぐことはないわ」
「……そうか。四条がそう言うなら、俺は何も言わないが」
扇子を開き、白銀はため息を一つ。
「さしずめ現代の光源氏といったところか。その男に、俺も一度会ってみたいものだ」
「ツンデレ先輩。傷つけられたりしたら、言ってくださいね。僕、何が何でも止めますので」
「二人とも」
「ありがとう。いつか、彼を紹介するわ」
嬉し涙をかすかに浮かべながら、冷めたハーブティーをすする眞妃であった。
本日の勝敗:藤原の完全敗北。
それでは今度こそ、第二章開幕までしばしお待ち下さい!