斎賀百は若干チョロインの気が強い   作:社畜怪人

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歪みも穢れもない真っ当(な気がする)花嫁候補


Ifルート:隠岐紅音の新婚生活

◆ ◆ ◆

午前七時。

 

「おはようございます楽郎さん!朝ですよ!」

 

「…………後八時間……」

 

「それは寝過ぎですよ!起きてくれないと悪戯しますからね!」

 

「悪戯はやめろ!」

 

「起きてくれましたね!」

 

カーテン越しの陽光に目を細めながら半身を起こすと、傍らには明るい笑顔の愛妻の姿があった。

毎日変わらぬやりとり。

 

「………昨夜カッツォのやつの調整に付き合わされたんだよ…」

 

「そういえばオイカッツォさんはもうすぐ大会でしたね!タッグでシルヴィアさんに挑戦するって言ってました!」

 

「俺がゲーム関連の道を選んだからって酷使しやがって……」

 

「でも、断らなかったんですよね」

 

「さっさとシルヴィアに勝って、プロポーズを決めたいってよ」

 

「そうなんですか」

 

「カッツォなりにケジメってやつらしいけどな。このままじゃ全米一とカッツォ、ナツメグ氏がアラフォーになっても結婚できないだろうしな、しょうがねぇさ」

 

「………オイカッツォさん、あんなに頑張ってるのに届かないんですね?」

 

「そうだ。追われる者は、いつでも高みに駆け続けないといけない。自分だけが見られる風景を失いたくないからな。全米一も多分そうだろうよ。カッツォのことは好きだろうが、愛と戦いは別だ」

 

ゴロゴロと甘えてくる愛妻に、したり顔で分かったようなことを語ってみるが。

追われる者の立場は、楽郎よりもむしろ愛妻のほうが熟知しているだろう。

陸上競技で期待の星と呼ばれた彼女は、一時期酷く病んだから。

 

◆ ◆ ◆

『サンラクさん、本当に私は走ってもいいんですか?』

 

『私が走ることで、辛い思いをする人がいる』

 

『私が走ることで、夢を諦める人がいる』

 

『私が走ることで、未来を閉ざされる人がいる』

 

『私がいることを、他人が本当は迷惑に思っている』

 

『私一人が諦めれば、みんな救われるに違いないって』

 

あの日、ラビッツで二人きりになった時の隠岐紅音──秋津茜は、脆く、儚く、ありもしない幻想に怯えていた。

便秘で出会い、シャンフロでそれなりに長い付き合いをしていたサンラクでさえ見たことがなかったような姿。

そんな少女に、サンラクは呆れを通り越したような顔をしていた。

 

『そんなことで悩んでるのか……いや、ディプスロか。あいつ口先で他人を洗脳しようとするしな……』

 

『あのな、秋津茜。人は誰だって、他人を疎ましく思うもんだ。どうしても勝てない相手。自分がどんなに夢見ても届かない場所を、一足飛びで駆け抜けていく先駆者。何をしても勝てない王者。そんな奴らに折られるやつだってごまんといる』

 

『お前が生きていく間は、ずっとそうだ。人は他人を羨むものだからな?』

 

『今お前がそんなつまらない理由で諦めてみろ。お前が今まで勝ってきた相手にも、未来を夢見た過去の自分にも、お前を目指す現在の宿敵にも────何より未来の自分への冒涜だろ』

 

『お前は誰だ?お前は誰の為に走ったりするんだ?』

 

『お前の人生は一度限りなんだ。人間らしく、もっと自分勝手で傲慢に生きてもいいんだ』

 

『少なくとも、俺達──旅狼の連中はそうだ。他人を顧みて後悔するなんてあり得ないメンツばっかだからな』

 

言うだけ言って、眼前で泣きそうになっている茜を見て、サンラクは深くため息をついた。

涙目で、自分に縋るような顔で。

こんなシチュなんざ、どれだけのゲームで体験したか数えるのも馬鹿らしい。

最適解はもう分かっているから。

 

『サンラクさん………』

 

『他の奴らは知らないけどな。辛いときは愚痴とか聞くぐらいならしてやれるからさ』

 

『………少しだけ、泣かせてください』

 

『好きなだけ泣けよ、俺は受け止めてやるからさ』

 

『………うわぁぁぁぁぁっ……ひっく、ひっく……』

 

◆ ◆ ◆

隠岐紅音は、あの日、あの瞬間、サンラクという人物に恋をした。

優しい声で、甘えたくなるような言葉を投げてはくれなかったけど。

厳しく、真摯に自分のことを思ってくれた人。

あの後もずっとずっと辛いときに泣かせてくれた人。

泣くことを恥じる必要はないと教えてくれた人。

そうだ、過去の自分に恥じないように、今まで競ってきた人たちに恥じないように、何より自分に恥じないようにいよう、そう思えたから。

 

きっと、サンラクさんのことを好きな人はたくさんいる。

でも、だからって諦めたくない。

真っ直ぐな恋心は、やがて真っ直ぐな愛情に昇華され。

その愛情は、見事に叶うことになる。

 

その影で涙を流した令嬢がいたことは、彼女の知ることではなかったのは幸いなのか。

 

◆ ◆ ◆

「楽郎さん、次のお仕事はいつですか?」

 

「んー……明後日からデバッグ作業と、再来週に実況があるな」

 

「それまではお休みなんですね!だったらデートしたいです!」

 

「リアルとシャンフロ、どっちでだ?」

 

「現実でですよ!」

 

ベッドに寝転がり続ける楽郎と、それに犬の如く甘える紅音の朝は、余程忙しくならない限りは穏やかで緩やかで。

 

「紅音は?」

 

「しばらくは調整です。ずっと走っているだけだと、身体のバランスが悪くなりますから!」

 

「なら、しばらくは二人でゆっくり出来るな」

 

「はいっ!」

 

相変わらず明朗な紅音を愛おしく思いながら、楽郎は起き上がるのだった。

 

 

 

 

 




ディプスロによる闇堕ち→サンラクによる説教で浄化→依存気味な恋愛に昇華ルート
ゲーマー以外にもゲームに関わる仕事とかは出来そうなサンラク…
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