「Fluegel」はティーン向けのファッション雑誌である。
カリスマモデルの天音永遠を擁し、ファッションの最前線を求める少女たちの圧倒的な支持を受けてもいる。
本来のターゲット層となれば、JCやJKになるのだが。
◆ ◆ ◆
「次の号の水着特集だか、私もモデルとして出てほしいとのことだったな」
「………………」
「どうしたトワ、そんなに睨んでも私の胸は縮んだりしないぞ」
「………そりゃねぇ。モモちゃんみたいなクゥゥゥルビューティーがぁ?グンバツのスタイルでぇ?スク水とか着たらぁ?売上も爆発しそうだもんねぇ?」
「スクール水着はないだろう……」
「まぁ、競泳用とかビキニとかでもスゴそうだもんね」
「露出するのはあまり好きじゃないんだが」
「いいよねぇそういうこと言える人」
「トワだって外見は相当なものだろう?」
「でもねぇ……」
「あぁ、サンラク君なら確かにトワの手に負えなさそうだな」
「私が全力で決めた自撮りを見て、鼻で笑うだけの男だよ…」
「………なんというか、規格外だな」
「全くもう!ひっついても抱き着いても顔色一つ変えないしさ!」
「……………ほう?」
「あの、モモちゃん?目が怖いよ?」
◆ ◆ ◆
『お兄ちゃん、トワ様がお兄ちゃんに用事があるんだって』
『俺は特にないな』
『トワ様に呼び出してもらえるんだよ?冠婚葬祭を無視してでも行くのが当たり前でしょ』
『そんな常識知らねぇんだよなぁ……(困惑』
『とにかく!お兄ちゃんはトワ様のところにいくの!』
『行く交通費が自腹な時点でデメリットしかないから』
『トワ様にお会いできるだけで全部のデメリットをひっくり返せるから問題ないね』
『この狂信者め…!』
『まだ狂信者なんかに届かないよ、ただのファン程度だから』
◆ ◆ ◆
天音永遠ことアーサー・ペンシルゴンに呼び出されて向かった場所は、どうにも彼女が一人暮らしをしている生活拠点らしい。
今更鉛筆王朝事件のリベンジなのか!?と考えてみるものの、アーサー・ペンシルゴンは恨みを持続させるような陰湿な人間ではないのだと思い返して。
インターフォンを鳴らすと、軽快な返答がひとつ。
そのまま彼女の部屋に入ると、そこには。
水着姿の天音永遠と斎賀百が、キメ顔で立ちはだかっていて。
「…………………間違えました」
「ああっ!?サンラク君!?なんでドアを閉めるの!?」
「あの、俺はそういう趣味はないから……」
「趣味とはなんだ。私達は顧客からのオファーに応えるべく、次の撮影で着る水着を選んでいるんだ」
「そうそう!それで、サンラク君だとどういうのが良いかなって相談する為に呼んだんだよ!」
「…………えぇ……そんなんで交通費払わされたのかよ…」
「なんでよー、美人二人の水着ショーなんて滅多に見られないよねぇ?」
「え、結構よくあるぞ」
「なんだと!?」
「あーうん、サンラク君のはゲームの話だと思うよ」
ごにょごにょと密談を交わす水着美女二人。
確かに現実で考えると滅多にあるものでもなかったが……
「中身がペンシルゴンって辺りで割と察するんだよなぁ」
「え、ひどくない?」
「まぁ、中身は別として映えてるとは思うわ」
「ちょ」
「斎賀姉は……うん、なんというかヤバいと思う。多分本来のターゲット層以外に受けると思う」
「それは………褒め言葉として受け取っておこう」
天音永遠と斎賀百が頬を染めているのを見て、選択肢を間違わなかった自分に喝采を送り。
役割は果たしたと立ち去ろうとして───腕を掴む、手。手。
「俺はまだ途中のゲームがあるんだよ。やることはやっただろうが!?」
「んっふっふー、ざぁんねん。大魔王たちからは逃げられないのだー!」
「私まで魔王の類にするな。……とはいえ、ここで帰られるのも癪だ。どうせなら最後まで付き合って行くべきだろう?」
「えぇ………」
呆れと、諦めと、絶望と、煩悩が、溜息に乗って一塊になる。
さりとて、ここからの早期逃走は困難──というか、そんなことをしたら後々何を言われるか分かったものでもない。
魔王に挑む村人の気持ちが、少しわかった気がした。
◆ ◆ ◆
「Fluegel」はティーン向けのファッション雑誌である。
カリスマモデルである天音永遠を擁する、ファッションの最前線を目指す少女たちの圧倒的な支持を受けている。
しかし、夏前に出たその号の天音永遠は。
普段の決まった顔やポーズではなく、自然な微笑みや姿で。
その姿は、誰が言ったか、まさしく【恋する乙女】だったという。
なお、このトワ様の変貌について兄を問いただす瑠美の姿が見られます