───家とかじゃなくて、任侠映画に出てくるような屋敷の一角で。
「玲、件の彼は…………言ってはなんだが、強敵だ」
「はい……はい。百姉さんも、楽郎くんに……」
「そうとも、妹の同級生──妹の想い人に懸想するというのは良くないことだと知ってはいるのだが。それでも、私を奇異の目で見なかった、優しくしてくれた。それだけで、私は心を奪われた」
「それは………」
「玲もそうだろう。アレは熱がある。あの熱に魅せられる者もいる」
私達と同じようにと語る姉に、玲は同意する。
そして魅せられる人が多いのは、シャンフロでも証明済みであり。
「そして何より身近に強敵が多く、私達は恋愛に対して弱いのは事実だ。ならば共闘し、姉妹で娶られることを目指すのも手段だろう」
何を馬鹿な、とは言えなかった。
弱者が共闘して強敵に挑むのは、古今東西の物語に語られる英雄伝説にもあることだ。
今ここに、見目麗しく才にも恵まれた姉妹の同盟が成された───!
◆ ◆ ◆
一週間後。斎賀邸にて。
「アレはなんなんだ」
斎賀百の声が、小さく響く。
デートを申し込んでもスルー、シャンフロではそもそも足取りが全く掴めない。
というか、腐れ縁の天音永遠が強敵過ぎる。
「私の方も……一緒に登校したりが限界で……」
無理を言えば聞いてくれるかもしれないが、下手な手を打って嫌われでもしたら元も子もない。
控え目な妹のことを考えると、百も強くは言えない。
むしろ僅かながらでも想い人と共に過ごしている以上、妹の存在が鍵になるのは言うまでもなく。
「しかし、諦められない………諦めたくもない。さて、どうしたものか…!」
「……そういえば、仙姉さんに以前アドバイスを貰っていました」
「仙姉さんに!なるほど、既婚者のアドバイスは貴重なものだな」
「仙姉さんは……あの時に」
既成事実。
姉がかつて言い出した時は、世迷言と切って捨てたが。
打つ手も寄る辺も無い中では、選ぶしかない。
一択しかないのだ。
幸いにも、百や玲は外面もスタイルも抜群である。
あまり良い策とは言えないが、策を選ぶ余裕はこの姉妹に無く──
「やるぞ、玲!」
「分かりました、姉さん…!」
◆ ◆ ◆
さらに一週間後。
「どうだった、玲?」
「無理でした………」
溺れるものが掴んだ藁は、一本分の強度もなかったらしい。
あっさりポッキリ折れて、そのまま二人は沈んでいった。
どうにもサンラクは【風雲斎賀城事件(サンラク命名)】以降、斎賀家に近づく事に忌避感を感じているのだが、それを知らないのは姉妹の救いなのか否か。
何が悲惨かといえば、既成事実という目標を設定したはいいが、そこに至る道筋が全く舗装されていない獣道だということだ。
「トワに聞いたが、茶を濁されたし……」
当然である。
腐れ縁の友人とはいえ、一応の恋敵を救う理由などない。
天音永遠からすれば騙して自滅するようにしても良かったのだが、そこまでしなかったのは彼女の理性か、未だ永遠自身が恋か友情か計りかねている面もあるからか。
「私は………その………楽郎君、気になる人がいるって」
「……………」
「今日も会いに行くって……」
「大敗確定じゃないか」
がっくりと項垂れる百、声を震わせる玲。
こうして二人の計画は、サンラクの預り知らぬ場所で始まり、そして預り知らぬまま終わりを迎えることになった。
◆ ◆ ◆
「しっかし、モモちゃんも残念だよね……」
失恋報告を聞いた天音永遠は、頬を緩めた。
「サンラク君のことをある程度知ってれば、サンラク君の気になる相手なんてゲームのキャラだってぐらい分かるはずなのにねぇ」
さぁ、しばらくは慰めて、その後盛大にネタバレしてあげようか。
今後のことを考えて、美貌を悪辣に歪めていた。