機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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連邦軍高官達の回、今回ジェシーくん達の出番はなしです。


第09話 ジャブローの穴の中で

 『General order Project』

 ゴップ将軍により立案された試作MS開発計画。

 これらの開発計画は連邦軍の正式なMS開発としては扱わず、あくまでV作戦への支援を目的とした運用データ収集の為の試験用を兼ねた試作機とする。

 

 

「モグラめ!勝手な事を!!!」

 

 将校の一人が怒鳴りながら机を叩く、だが彼の憤る理由も分かる本来なら我々が手綱を取り今後の開発を主導していく筈が反対派であったゴップ将軍が自分達より先駆けて試作機を作り上げたのだ。

 鹵獲した新型MSというデータありきの開発だったがそもそもジオンの新型MSをテスト部隊が鹵獲としたと言う事実ですら彼らにとっては憤るものだろう。挙句に「これらは全てV作戦の為に秘匿にしておきます。」と我々に向けてお膳立てしているのだ。はっきり言ってバカにされている。

 

「ゴップめ……一体どんな腹積りなのかは知らんが油断は出来んな。RX-78の開発状況はどうなっているテム・レイ技術大尉。」

 

 レビル将軍がテム・レイと呼ばれるRX-78の開発担当である技術者に声をかける。

 

「ハッ。現在1号機の設計が最終段階に入った所であります。御安心ください将軍、ガンダムさえ完成すれば既存のMSなど相手になりません。」

 

「完成までは後どのくらいになるのだ?」

 

「皮肉な話ですが運用データがゴップ閥の部隊のおかげで充分に集まってますのでOSの面は問題ありません、学習型コンピュータも搭載予定なのでそれ以上の進化も可能です。後は設計図の完成次第で即座に組み立て準備を行いたい所ですが……。」

 

「その設計図がまだ完成せんか……。」

 

 こればかりはどうしようもない、中途半端に切り上げて妥協したMSでは意味が無いのだ。連邦軍の科学技術の枠を集めた集大成のMSで無ければ。

 

「それでも一、二ヶ月の辛抱です将軍。それにゴップ閥がMS開発に理解を示しているからこそ柔軟に動けている面は素直に感謝すべきでしょう。」

 

 そうなのだ、本来不要論派の最大勢力であったゴップ将軍がMS開発に理解を示したという情報はレビル派以外の連邦派閥にも影響を与えている。そのおかげで兵器転換への理解も増えレビル将軍も現存戦力である戦闘機や戦車を在庫処分と言わんばかりに惜しみもなく投入出来ているのだ。

 

「まさかゴップがここまで積極的に動くとはな、君はどう思うかなコーウェン技術少将。」

 

 レビル将軍が私に目を向け発言する。そう、私は前回の御前会議でゴップ将軍らの推薦でMS開発に理解のある将官であると後押しされ技術少将に昇進していた。

 

「ゴップ将軍の部隊ははっきり言って優秀です、ジャンク同然のMSや鹵獲ザクでの新型機の確保に多くの戦闘データの確保と言った点は他の部隊と比べてバカにできないレベルでありますからな。」

 

 現在他の部隊などでも実験的にザニーなどを使って同じような事を試しているのだが思ったほどの成果は挙げられていない、鹵獲ザクなども敵に擬装して敵の集積所を襲ったりなどの奇襲攻撃で成果は挙げているが運用データ的にはそこまで重要な物は少ない。

 だからこそ彼らの活躍は技術者からしたら称賛に値するが他の派閥の軍人からしたら面白くないものだった。

 

「何か対策はないかねコーウェン技術少将。」

 

「既にV作戦は完成を待つだけの状態でありますから、今我々にゴップ閥に対抗する為に必要なのは別の視点からのアクションでしょう。ガンダムの量産化を目指したジム開発計画と彼らが鹵獲したMSのデータを使用した陸戦汎用機の開発計画を私は提案します。」

 

 以前から考えられていたガンダムの設計を流用しコスト削減を目指したMSジムの開発と並行し、早期開発計画として地球上のジオンMSに対抗した量産機の開発。これが私の提案した開発計画だ。

 

「この陸戦汎用機は以前君が言っていたどの戦局にも対応可能を目指した機体だったかな。」

 

「はい。ショートレンジ、ミドルレンジ、アウトレンジと言った距離に対応した装備。そして山岳地帯、砂漠地帯、寒冷地帯と言った局地対応装備などを一機のMSに拡張性を持たせて装備させる事でどの場面でも敵に有効的な打撃を与えると言ったコンセプトのものです。」

 

「成る程な、それならゴップ達の鼻を明かす事ができるかもしれん。」

 

 そのレビル将軍の言葉に内心苦笑してしまった。そもそもコンセプトはアンダーセン少尉が、計画の後押しをしたのはゴップ将軍なのだから。

 

「よし、テム・レイ技術大尉。ガンダムの開発は現状維持。だが早く出来るのなら早く動けるに越したことはない、出来るだけ急ぎたまえ。」

 

「了解しましたレビル将軍!」

 

「コーウェン技術少将、君も早急に量産型MSの開発に取り掛かってくれ。地球降下作戦からかなりの日数が経った、敵も宇宙からではなく占領下にある基地からMSの生産を始めていてもおかしくはない。急がなければな。」

 

「了解しました、急ぎ開発に取り掛かります。」

 

 こうやってレビル閥による会議は終わりを告げた。

 

 

ーーー ーーー

 

「そうか、コーウェン君は量産機開発に動いたか。」

 

 側近からの情報を聞き、事が思い通りに動きすぎて内心笑いが止まらなかった。

 コーウェン少将は素直に私の意見を受け止めたようだがやはり軍人気質の強い人間は駆け引きが苦手なのだろう、相手の意図を読み相手の思考を逆手に取るといった事には不向きであるどころか自分の思考が誘導されていることも疑わずにいるのだから。

 

「しかし将軍。宜しかったのですか、第774独立機械化混成部隊が鹵獲した機体をそのまま譲ってしまって。」

 

「構わんよ、データも取り終わった代物だし何よりあれから日数も経っている、ジオンの方もあれを量産しているか或いは既に後継機の開発を行なっていてもおかしくはない。だったらそんな物を後生大事に秘匿しておいても得はしないからね。」

 

 切り札は取っておくに越したことはないが出さずに終わってしまっては意味がない。有効的な場面で最大限の成果が見込める時に叩きつけることが重要なのだ。

 

「それに私が見据えているのはこの戦争での自身の保身ではない。」

 

「はぁ……?」

 

 理解に及ばないのか頭を傾げる側近に心の中で呆れてしまう、何年私の側近をしてきたのだと。

 

「まぁ良い、下がってくれ。一人で考えたい事があるのでな。」

 

「ハッ!」

 

 部屋から去ったのを確認した後、ふぅと溜息を吐く。レビルもコーウェンも、この戦争の行く末だけを考えていれば良いのだから楽な物だ。

 

「戦後。ジオンと言う敵のいなくなった連邦軍がどうなるか、誰も分からぬと言うのにな。」

 

 懸念すべきはジオンとの戦いではない、ジオンが幾ら初戦で勝利を収めたとは言え電撃戦での勝利は一時的な物だ、国力も物資も人材も遥かにこちらが優っているのだから最終的にはこちらが勝つのは目に見えている、問題はそれが早いか遅いかの違いなだけだ。

 ジオンという敵が無くなり、戦後に確実な平和が訪れるだろうか?答えは否だ。既にアースノイドとスペースノイドに生じた確執は決定的なものとなっている、連邦軍の信用もこの戦争での犠牲者の数だけで地に堕ちたのは明白だ。

 

「だからこそ、戦後に待っているのは確実に内部抗争だな。」

 

 地球生まれの連邦兵と宇宙生まれの連邦兵、極端な話になるがこれだけでも内部抗争に至るには充分な要素だ。ジオン憎しがそのままスペースノイド憎しと変わるのは簡単だし、傲慢な地球生まれのせいでジオンの凶行を許してしまったと思う兵士も増えるだろう。

 それが小さな火種から大きなものに変わるのは簡単だ、いつの世も人は争わずにはいられぬのだから。

 だからこそ未来を見据え、今の内に手を打っておくことは重要だ。味方を増やせるに越したことはないが今までの私のやってきた事を省みても今から味方を増やすのは難しい。だが敵は増やせるし敵の敵は増やせる、それらが勝手に食い潰しあってくれればこれからの事もやり易くなると言うものだ。

 

「せめて可愛い娘くらいは幸せな未来を歩んで欲しいからな、そうだろうエルデヴァッサーよ。」

 

 今は亡き盟友を想い彼の為にグラスを注ぐ、私と同じようにこの戦争よりもその先を見据えたものは他の誰でもない小さな少女なのだから。

 

「せめてあの子の為に何か残してやるくらいはしてやろうじゃないか、それが友だったお前への手向けだ。」

 

 ワインを飲み干し、ジャブローのモグラは暗い穴の中で少女が歩む明るい未来を夢見るのだった。


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