第1話 新たな戦い
《間も無く敵部隊との交戦が予想される、各機警戒を厳に行動せよ。》
視界の不良な森林地帯を進むMSが4機、空中からの指令を受け取る。
「こちらメガセリオン改フォズ・ロー大尉、指揮管制機『ノーマッド』へ了解した。各機通信は良好か、どうぞ。」
逞しい髭をした中年の男性が、部隊員にそう呼びかける。
「こちらメガセリオン・キャノン、エイジス・ガルド中尉。ミノフスキー粒子の影響はありません、通信良好です大尉。」
金髪の青年がそう返答する、続けて桃色の髪の女性が返答する。
「メガセリオン・ナイトシーカー、ハンナ・エリシュ少尉。こちらも通信状態に異常なし。」
「ジム改、ジェイ・ジャン中尉。こっちも問題ねぇ。」
ガムをクチャクチャと噛み締めながら返答する声が聞こえる、やれやれとフォズ大尉は溜息を吐くと再度通信をする。
「分かっているとは思うが俺達は軍から特務を言い渡され編成された混合部隊だ、チームワークを期待するのは難しいだろうがせめて仲間を死なす様な動きはするな、良いか?」
「こちらエイジス、期待に応えるだけの働きはしてみせます。」
「任務は確実に熟すつもりよ。大尉の指示に従うわ。」
「この任務が終われば特別ボーナスにバカンスなんだろ?やってやるさ!」
癖の強そうな面々だと再認識したフォズ大尉はこの任務を与えた上層部にケチを付けたい気分に駆られながらも意識を切り替える。
そして敵と思われるMSの熱源を探知した。
「エイジス!キャノンのスコープで敵の機体を確認しろ!」
「了解……、敵はドム……これはトローペンタイプか……?それとメガセリオン初期型と思われる機体が数機。」
「やはり敵に呼応した離反者か、ハンナは敵機に接近して攻撃を仕掛けろ。キャノンがそれを援護し俺とジャンで隙を見せた敵を撃破する。」
「任務了解、ハンナ機先行します。」
胸部、そして背部にスラスターを増設したメガセリオン・ナイトシーカーがその機動力を生かし敵に急速接近する。
「当ててくれるなよ……エイジス機、援護を開始する!」
キャノン型のメガセリオンが肩部キャノン砲で敵機に牽制をかける。
敵は炸裂した弾頭を回避するもその回避行動の為に散開する事になった。
「良い援護ね……これなら!」
メガセリオン・ナイトシーカーは隙の出来た初期型のメガセリオンの一機に急速接近してビームサーベルでコクピットを貫く。
「良い動きだ!残りの敵を片付けるぞジャン中尉!」
「あいよぉ!喰らえってんだよ宇宙人ども!」
メガセリオン改とジム改が浮き足だった敵を各個撃破する。
そして場には静寂だけが残った。
「よし、敵の反応は消えた。ご苦労だったみんな。」
ひと段落した事が分かるとフォズ大尉は張り詰めていた気を緩め部隊員に感謝を告げる。
「見事な動きだったぞ三人とも。特にエイジス、援護射撃は痒いところに手が届く絶妙な腕だった。旧型のキャノンタイプで良くやってくれた。」
「ありがとうございます。」
「しかし連邦軍機との戦いは敵と分かっていてもストレスが溜まるな。味方を撃ってる気分になってしまう。」
一年戦争の時より自分の背中を預けていた機体達が刃を向けるのだ、実際にそれをやられてれしまうと想像以上に心理的ダメージは大きい。
「仕方ないんじゃねぇかい?ここ数年で連邦軍の評価なんてのはガタ落ちだし俺らだっておまんま食べる為に職業軍人やってる様な連中ばっかだろ。上手い話が転がってたらそっちに食いついちまうのも分からなくねぇ。」
「……確かにそうかもしれんな。」
一年戦争、そして一年前のデラーズの叛乱。
その後処理の杜撰さやスペースノイドの引き起こしたこれらの戦いでフラストレーションの溜まったアースノイドは不満不平を持つものが増えた。そしてその逆もまた同じだ。
不満の溜まったそれらが小さな勢力となりテロ活動を行う、今の連邦はそう言った内部抗争に近い状況に陥っていた。無論、その裏にはジオン残党勢力の介入もあるのだろうが。
ふぅ、とフォズ大尉は今日何度目かのため息を吐く。やりきれない世の中だと。
「指揮管制機ノーマッドへ、敵部隊の掃討完了。付近に敵影無し。帰りのミデアを寄越してくれ。」
《こちらノーマッド、了解した。ポイント更新、ミデアのランディングゾーンまで向かえ。》
「了解、フォズ隊帰還するぞ。」
「了解……。……すみません大尉、どうやらナイトシーカーの脚部に少しエラーが見られます。歩行に支障あり。」
機体のスコープからハンナ機が動きを鈍くしながら歩いているのを確認する。
「なんだと?……近くにいるのは援護していたエイジス中尉だな。ハンナ機の護衛に回れ。」
「了解、レディのエスコートは任せてください。」
キャノンがハンナ機を援護する形で離れる。
フォズ大尉は感じる。中々手際の良い動きをする二機だ、戦っていて他人の心配をする必要がない事はいいことだと。
出来るならば一年戦争の時に部下であったなら、そう感傷に浸りながら辺りを警戒してミデアへとフォズ隊は向かい始めた。
ーーー
「レディ、ナイトがエスコートに参りました。」
「臭いセリフはよして欲しいわね。敵が来た時の為に離れず動いて欲しいわ中尉。」
「了解。フォズ大尉、こちらに何かあった場合は連絡します。」
『了解した。』
通信が切れたのを確認するとエイジス機は接触通信用のケーブルをハンナ機に伸ばした。
「通信回線は切ったな?」
「えぇ。今この通信を聞いているのは私達だけですよ
ふぅ、と一息つくとノーマルスーツのヘルメットを脱ぐ。
「潜入任務とは言えお前を部下扱いするのは肝が冷えるよ
「いいえ?隊の女性隊員にもその様なフランクさで接していないかは不安になりましたが。」
「安心しろ、後にも先にも俺はお前しか見ていないよ。」
「ふふふ。」
リング・ア・ベル隊のみんなが見たら惚気るなと頭を叩かれそうな会話をしながらも直ぐに頭を切り替える。
「どう思うアーニャ?ここ最近の軍内の離反者、何が目的か理解できんぞ俺には。」
「私もです。とは言っても私利私欲の為……と見ればおかしくは無いのが多いですね。」
デラーズ紛争以降、ジオン残党勢力と呼応したり独立した組織となりテロ活動を行う連邦軍内の部隊が目に見えて増え始めていた。
しかし殆どが目的の不明瞭な悪く言えばやりたい放題したい愚連隊のような連中ばかりで統率された部隊ではない。デラーズ紛争末期にアクシズに寝返った艦隊などとは違い大きな勢力の離反がないだけマシと言える状況だ。
とは言え小さな火の粉を消さなければ大火事になりかねないくらいの火種を抱えているのは間違いない。このまま放っておけばまた大きな戦いとなるだろう。
「ジェシー、貴方の知識で何とかなりはしないのですか?」
「前にも言ったろ?連邦同士でいざこざを起こすとしてもまだ数年先な筈だったし何より俺の知ってるこの世界の世界史とはもう大きく異なっているんだ、アテにしないほうが良いさ。」
下手に原作知識で動けば今なら味方になり得る人でさえ敵と誤認しかねない、今の俺の原作知識など必要最低限に留めておいた方が無難だろう。
とは言えある程度は考えが浮かばない訳ではない、しかしそれはアーニャだってある程度は察している内容だろう。
「扇動をしている者がいるのは間違いないな。恐らくはアクシズのキシリア一派だと思うが。」
「そうですね、彼女ならこう言った策謀の手合いは得意でしょう。何を目的でしているのか……やはり地球圏への帰還を狙った計略でしょうか?」
「だろうな、デラーズ紛争でも暗躍していた訳だしアクシズの利になる行動を取るつもりだろ。厄介極まりないな。」
キシリアお抱えの謎の特殊部隊なども何処かで出張っている可能性があると考えると余計に頭が痛くなる。一癖も二癖もあるような俺の知らない特殊部隊がいたら流石にお手上げだ。
「そろそろ戻らないと怪しまれますね、機体のエラーは脚部のシステムエラーという事にし回復したと報告します。後は手筈通りに動いてください。」
「了解、ふぅ……バレない為の演技とは言えまたキザな男を演じるのか。」
「そういう貴方も私は好きですよ?」
「俺もクールビューティーみたいなお前は見てて新鮮だよ。じゃあ回線を切るぞ。」
「分かりました。」
エギーユ・デラーズの起こした叛乱から一年、地球圏には未だ燻る火種が多く残っている。
そして、この戦いから既に始まっていた大きな陰謀を俺達はまだ知らない。
新たな戦いが幕を開けていた。