機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

103 / 126
第2話 ニュータイプ教団

 

 遡る事1ヶ月前、ペズン基地で俺達はいつもの様に軍から言い渡される任務をこなしながら機体のテストに明け暮れていた。

 とは言っても問題は色々と発生する、特に今日は朝からクロエがカンカンになって怒っていた。

 

「有り得ない!有り得ない!有り得ないわ!」

 

「落ち着けよクロエ、今の連邦じゃ仕方のない事だろ……。」

 

「ジェシーくんは悔しくないの!?あれだけ汗水垂らして作り上げてたグノーシスが量産化不採用なのよ!?」

 

「悔しくないわけじゃないさ、けど仕方ないだろ?財政的に厳しい今の連邦の状況じゃ新型機を買い叩くのは難しい訳だし……、一応グノーシス用に開発してたバックパックや追加装備群はメガセリオン系に転用出来てそれの発注はOKが貰えてる訳だしさ。」

 

「甘い!見積もりが甘いぞアンダーセン少佐!確かに兵器や装備群の受注も不可欠ではあるけれどそれらは我が社からしたら大きな利益には繋がらないんだ、そもそも軍用の兵器と言うのは売り上げに対して大きな利益がある訳じゃない。僕らはそれをオマケとしてMSを売り込み、そこから得られたデータをプチモビや民間用MSやモビルワーカーに転用して民間に売り込んで行く事で大きな利益を得るのを目標にしているんだ。それに我々はガンダム開発で莫大な資金を使っているんだぞ、その資金を回収しようと思ったらどれだけのMSを売らないといけないのか理解した方が良いと僕は思うがね!?」

 

「そうですよねぇ!?アルベルト主計補佐もそう思いますよねえ!?」

 

「あぁ、ただでさえ民間用MSの類はアナハイムに先を越されているからね……グノーシスを量産しそこから得られる様々なデータを民間技術に転用出来ていればよかったんだが……。」

 

 クロエと一緒になって熱く語っているのはビスト財団からどういう流れかEC社幹部であり主計局長であるアーニャの親戚にあたるアレクサンドラ・リヴィンスカヤの補佐としてEC社で活躍しているアルベルト・ビストだ。

 デラーズ紛争の折に一時的にアレクサンドラさんの下で働く事になったのだが、思いの外ウマがあったのと彼が想像以上に優秀だと彼女が見抜いたらしく、アレクサンドラ氏直属の部下としてEC社に採用された彼は原作での汚名を返上するかの如く働いており、この通りアナハイムも目の敵にしているのかアナハイム絶対倒すマンみたいな感じになっている。

 

「二人とも落ち着いてください。ジェシーの言う通り連邦軍が現行機のアップデートで対応すると決めた以上、どれだけ駄々をこねてもグノーシスの量産は不可能なのですから嘆いていてもどうしようもありませんよ?」

 

「アーニャの言う通りだ。量産化は不可能になったが俺達リング・ア・ベル隊が使用している2機の運用や、この機体を欲しがる部隊がいれば生産して特別配備させる事自体は止められていないんだ。地道にEC社の利用価値を見てもらうしかない。」

 

 それにEC社は一定数のメガセリオンのライセンス生産もしている、MS運用ノウハウ自体は少しずつは伸ばせるし何より対抗馬であるアナハイムも抹消されなかったガンダム開発計画から得られたデータで量産機開発というのを俺達と同じように出来ていない状況なのだ、こちらがメガセリオンなら向こうはジムのライセンス生産を行っているので今の状況は財力や連邦に対しての影響力を見れば向こうが優勢だが、MS開発と言った点では中々互角に戦えていると思う。

 

「はぁ……EC社代表達がそれで良いなら構わないけど……はぁ……。」

 

 落ち込むクロエを何とか宥める、確かにグノーシスの量産化計画はEC社にとっても一大事業でその開発主任であったクロエのショックは大きいだろう。

 

「騒いでいる最中に悪いがアンナ准将、ジェシー少佐、ジャブローから通信が入っている。二人に緊急の要件との事だ。」

 

「ジャブローから?分かった、ありがとうジュネット。」

 

 俺達二人だけに用があるという事は幕僚向けの話という事だろう、緊急性を持った内容かもしれない。

 ペズン基地内にあるアーニャの執務室に着くとそこにある通信用の大型モニターの前に立つ。

 

『ジャミトフ・ハイマン中将だ。アンナ・フォン・エルデヴァッサー・アンダーセン准将、そしてジェシー・エルデヴァッサー・アンダーセン少佐、突然の連絡で申し訳ない。』

 

「ハッ、私達に問題はありません。中将、何か緊急の事態が起こったのですか?」

 

 モニターに映ったのはあのジャミトフ・ハイマンだ。今回デラーズ紛争が契機でティターンズが創設されていないので今はまだあんまり悪い人には見えてないのだが、突然の通信があると流石に何か起こるのではないかとヒヤヒヤする。

 

「うむ。他でもない君達に見識と判断を仰ぎ、かつある任務を遂行して貰えないか連絡させてもらった。……この通信を聞いているのは二人だけだろうな?」

 

「はい、閣下と私達2名のみとなります。」

 

『よろしい、まずここ最近の連邦軍離反者が増えているのは君達も知っているな?』

 

「ハッ、デラーズ紛争の折も敵に寝返ったジム隊とジェシーが交戦しました。それに我がリング・ア・ベル隊の直近の任務でも我が軍のモビルスーツを利用した残党軍と交戦しております。」

 

 そう、ここ最近連邦内で少なくない数の離反者が続出している。原因は不明だが単純に治安の悪化や連邦政府の求心力の低下も大きいだろう。

 

『有象無象の愚連隊となる程度なら何の問題も無い、だが貴君らがデラーズ・フリートの叛乱の際に遭遇した部隊など……つまりはアクシズの新生ジオンを名乗る残党や、それに並ぶ組織力を持った勢力に吸収されるのは厄介極まりないのだ。』

 

 それはそうだろう。テロ行為を行うだけの私利私欲に溺れた数名より、軍内の情報や機体を提供して敵勢力に寝返る連中の方がこちらが被る被害は大きい。

 

「閣下、我々2人を呼び出したのはそれに関する事なのでしょうか?」

 

『察しが良いなエルデヴァッサー准将、君達のその察しの良さ……君達は否定するがニュータイプという存在なら手を打てると思って連絡した次第だ。』

 

 デラーズ紛争の時にジャミトフにそれっぽい事をしたせいで彼からは俺達2人はニュータイプだと思われている。確かにアーニャにはその才覚があるが。

 

「しかし閣下、自分達がニュータイプと称されていても未来までは完全に予見できません。それは以前にもお話したと思いますが。」

 

『それは分かっている、私もニタ研とは少なからず関わりを持っているのだからな。あくまで特殊な脳波を感じ取れ、それを利用する事でエスパーじみた能力を発揮するのだと解釈はしている。今回の件は君達がその特殊な脳波を持っているという前提での頼みだ。』

 

 ……ジャミトフの要件は何だろうな、深く突っ込まず今は話を聞いた方が良さそうだ。

 

『貴官らは宇宙にいて知らないとは思うが、現在連邦軍の中東方面軍の一部が部隊丸ごと軍を離反した。問題は彼らが現在身を寄せている場所だ。』

 

「……中東?」

 

 アーニャが中東という言葉に疑問符を浮かべた。何か思い当たる所があるのだろうか?

 

『中東方面に現在【()()()()()()()()】と名乗るカルト団体が発生し、その指導者の元へ多くの人間が集っている。これはその代表とされる男の写真だ。』

 

 ジャミトフが一つの写真を見せる、その姿に俺とアーニャは驚愕する。

 

「……!閣下これは……この男は……!」

 

 写真に写っているのはまだ俺達とそこまで変わらない若さをした青年だ。だがその姿は……。

 

「ギレン・ザビ……!?」

 

『うむ。もう一つの写真を見せよう、こちらの写真は10年以上前のギレンの写真だ。』

 

「似ている……まさか子供が?」

 

 アーニャの言葉にうーんと考える、息子の可能性……有り得なくはないが他にも線はある。

 

「クローン人間……。」

 

『息子か、クローンか、或いは整形して顔を似せた偽者か。いずれにせよ写真の男はギレンにも劣らぬカリスマで急速に勢力を拡大している。これを放置していればいずれ大きな災厄になるだろう。』

 

 サンダーボルトの南洋同盟みたいなものと認識すればその厄介さは目に見えてくる。信仰という武器を持った狂信者というのは死を恐れないし教祖の目的の為だったらなんだってするのだから。

 

『ニュータイプ教団と自分達で名乗るからにはニュータイプ能力を持った人間を擁しているのは間違いないだろう。君達に頼みたいのはその教団へ潜入、教団の目的の解明とその目的の阻止、そして教団が連邦に害する存在であるのなら殲滅することを依頼したいのだ。』

 

 リング・ア・ベル隊の活動目的は反連邦勢力の鎮圧だ、その目的に反している訳ではないが……。

 

「しかし閣下、彼らが信者を募っているのであれば非戦闘員の民間人も多いでしょう。私達は民間人の虐殺にまでは手を出せません。」

 

『分かっている。それは教団のペテンを暴ければ騙されていた者達は去って行くだろう。それに信仰までは人は止められはしない、教団を殲滅しようと教えは残して行くようにすれば狂信者以外は行動は起こさないと連邦政府は見ている。』

 

「了解しました、連邦政府がその様な見解であるならば私達に異論はありません。」

 

『貴官ら優れた幕僚二人にこの様な潜入任務を頼むのは本来であれば有り得ない話だが反乱の恐れがあるニュータイプなどを派遣するわけにも行かぬのだ。理解してもらえると嬉しい。』

 

「承知しております閣下。」

 

 アムロなどホワイトベースの隊員だった者は史実通り既に軍の監視下に置かれている、軍が彼らを恐れる理由は分かっているが故に離反しないという確証のある俺達に依頼してきたのだろう。

 

『後ほど詳細なデータを送る。入り用の物があれば最大限揃えられるように務めよう。』

 

 通信が切れる。周りに二人しかいない事を確認するとふぅと大きく息を吐く。

 

「ニュータイプ教団……か。」

 

 この世界ではサンダーボルトの南洋同盟などに相当する勢力は生まれていない、そもそもあの世界は事実とは微妙に異なるパラレルという設定からかこの世界にはイオ・フレミングやダリル・ローレンツなどは色々調べたが存在していない。

 義手義足の技術は高いがリユース・サイコ・デバイスのような技術は確認されていないしこの勢力が南洋同盟のようなメンツを揃えているとは限らないだろう。

 だが敵の勢力が予想できないからこそ今回の件は用心して動く必要がある……あのギレン似の男の正体も気になるし……。

 

「中東……まさか……いえ、まだそうと決まったわけでは……。」

 

「どうしたアーニャ?考え込んで。」

 

 珍しく何かをブツブツと呟いて悩んでいるアーニャに声をかける。

 

「……ジェシー、デラーズ・フリートとの戦いの地球周回軌道上での戦いで私がコロニー内部に侵入していたのは覚えていますか?」

 

「あぁ、覚えている。なんて無茶をと思ったもんだが……。」

 

「その時……コロニーの降下予定ポイントはジャブローでも、貴方が知っていた未来の知識にあった北米大陸の穀倉地帯でもなかったのです。」

 

「……なんだって?」

 

「コロニー落とし自体は阻止されたのであまり気にしていなかったのですが、……それに今回の件が関わっているかもまだわかりませんが……。」

 

「……もしかしてアーニャ……。」

 

「えぇ、デラーズ・フリートは星の屑作戦の最終目的であったコロニー落とし、その降下ポイントをこの中東に向けていました。それが何を理由でそうしたのかは不明ですが……。」

 

 ニュータイプ教団と名乗る組織、そしてデラーズ・フリートが最終目標としたコロニー落としの落着地……。

 中東で一体何が起きようとしているんだ……?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。