ジャミトフからの極秘任務を受けた俺とアーニャはリング・ア・ベル隊の主要メンバーのみを集めミーティングを行う。
「准将と少佐に潜入任務……、いくら二人が優秀なパイロットだからって流石にそれは無理がありませんか?ジャミトフ中将は二人を謀殺しようとしているんじゃないでしょうね?」
内容を話して真っ先に口を出したのはグリムだ、確かに軍上層部が俺達を厄介視していたらその可能性も高いだろう。
「だがニュータイプ教団という存在が本当ならば二人ほど潜入任務に適任な者はいないと言うのも軍の本当の見解だろう。連邦軍はニュータイプという存在を異常に恐れている、ホワイトベース隊の今の現状を見ればそれは明らかだからな。」
ジュネットの言葉に頷く。この世界ではアムロ、そしてカイは未だ軍属のままMSパイロットをしている。
アムロはともかくカイまで軍に残ったのは意外だったがこの世界ではガンダムに乗っている以上軍も簡単に退役させる訳には行かなかったのだろう。
ハヤトとブライトさんは史実通りの経歴を辿っており、この世界では生き残っているリュウさんはルナツーにいる。
だがその全員が軍の監視下というのが現実だ、軍は彼等素人レベルの人間がここまで成長している事実を恐れてニュータイプとして危険視しており、徒党を組んで反乱を起こさないように殆ど幽閉や閑職に近い立場に追いやっている。
味方に回れば頼もしい彼等も、上からしたらいつ敵になるか分かったものではない……というのはやりきれない。何とかしたいが俺やアーニャが彼等に手を出そうものならそれこそニュータイプの反乱だと思われてしまいかねないのが難しいところだ。
「何れにせよ中将からの特命だ、拒否する訳にも行かないだろう。それに個人的にも調べておきたい所だしな。」
俺の知らない存在達。未来が変わったからこそ用心しておく存在を自分の目で確かめなければならない、脅威となるのか……それとも味方になるのか。
「ジェシーの言う通りです、ニュータイプ……それを政治利用、軍事利用する者には注意をしておかねばなりません、内外全てに。」
アーウィン・レーゲンドルフを亡くし、今は少尉として連邦軍に編入されジオン残党討伐任務を受けているアルビオンでパイロットをしているレイ・レーゲンドルフ、またの名をゼロ・ムラサメ。
彼が受けた非人道的な実験はシナプス大佐や俺達を通して軍から各ニタ研に伝えられ、非人道的な処置を許さないことを徹底させた。
……まぁそれがどれだけ通用してくれるかは疑問だが。
でも内の問題をある程度解決しているからこそ、外の対策もしなければならない。
「乗り気になってる所悪いけど、シショーも隊長も知らぬ人はいない有名人なんだから潜入任務なんて出来るのかい?敵に『ジャブローの姫と騎士』が顔バレしてちゃ本末転倒だよ。」
「カ……カルラ……その異名は忘れなさいとあれほど……!」
……『ジャブローの姫と騎士』、それはアーニャが『ペズンの魔女』と呼ばれたりと一年戦争後からそこそこ呼ばれ始めていた俺達の異名を吹き飛ばす新たな異名だ……。
それはデラーズ紛争後、子供達を産んだアーニャに対する責任。そして男としてのケジメとして彼女と正式に結婚する事になったのだが軍の准将、そしてEC社代表という立場上身内だけの結婚式とは行かず、思わず「こんなに集まってどうすんだよ……。」とビビってしまうくらいあちこちから人が集まった。
キャスバルにガルマ、アムロ達や原作とは違い生き残ったマチルダ先輩やウッディ少佐達。ここら辺はまだ良いがビスト財団の人間もいるわ軍のめぼしい人達はいるわで感動する前に恐怖しかなかった。
……だがそんなビビり散らしはある男の一つの行動で吹き飛んだ。
仲人兼新婦側の父親代わりとしてアーニャとヴァージンロードを歩く事になったあの男……ゴップ前将軍、現連邦議会議員が式の途中サプライズムービーとして俺達に一言も知らせもせずある動画を流したのだ。
『汝、我が名誉と誇りを穢すことなく、我に偽りなき忠誠を誓えますか?』
『誓います。』
『汝、我が剣となって敵を討ち、また盾となり我が身を護ると誓えますか?』
『誓います。』
『よろしい、汝を我が騎士と任命します。』
新郎新婦の馴れ初め、と称して流されたコレを見て俺もアーニャも今までに無いくらい赤面するハメになった。というか俺達ですら忘れかけていた始めて出会った時の騎士の誓いの動画なんて物を後生大事に持っていたゴップおじさんのせいで数千人くらいの人にこの惨事を見られてしまったのだ。
しかし俺達がかつてない恥辱を味わったのを裏腹にゲスト達の反応はアホみたいに好評であった。
何やらロマンチックを感じる女性が多かったり騎士として姫を護る姿に感銘した兵もいたらしく、式後には俺はヴァイスリッターやガンダムアルベドのパイロットだった事から「連邦の白騎士」とか「ロリコン」だの呼ばれるようになりアーニャもまた姫様扱いされる事が増えたのだった。
そしてこの一連の流れは『ジャブローの誓い』と呼ばれ破られる事のない誓いとして各地で広まるのだった……。
「いやぁ、しかしねぇ。マジで顔は広まっちまってる訳だし何とかしないと。」
ララサーバルの言葉に現実に引き戻される、まぁ確かに無駄に広まった顔だし一般市民はともかく軍からの離反者なら軍の幕僚であれば知名度に関係なく流石に気付かれる可能性は高いよな。
「安心しろ、そこを考えていない程軍は馬鹿ではない。諜報部から准将と少佐用の特殊ゴムと変声器で作られたフェイスマスクを用意していると極秘の連絡が入っている。」
「なんだい?ジュネットにはそんな連絡が行ってたのかい?」
「当たり前だろう、二人がいなくなった後の隊の引率を誰がすると思っている。」
そりゃそうか。俺達がいなくなれば指揮系統は乱れるしそこら辺は軍もちゃんと考えているみたいだ。
「まぁ留守は隊の方はジュネットとグリムに、会社の方はアレクサンドラさん達に任せとけば良いだろう。他に何かあるか?」
「あるわよ。二人とも機体はどうするつもり?」
「機体?」
クロエからの問いに疑問符が浮かぶ。
「えぇ、潜入調査なんだしまさか一般市民装ってわざわざ歩きで教団に行く訳でもないでしょう?隠密行動からの偵察の可能性だってあるし、そもそもどういうプランの任務なのよ?」
「……聞いてないな。」
「えぇ……?」
詳細な情報は後で送ると言われたから概要しか聞いてないぞ……そう思っていたら自分の持ってる端末にデータが送られてくる。
「おぉ、噂をすれば何とやらだな……任務についての内容だ。」
まず準備期間に半月用意されている。色々な引き継ぎなども含めての期間だろう。
その後俺達は偽造されたパイロットデータを貰い別人に成りすまして特務小隊に編入、その後教団の潜入調査に当たるようだ。
「回りくどいわね、これならリング・ア・ベル隊で極秘任務をやれば良いのに。」
クロエの言もごもっともだがこれは流石に理由が分かる。
「リング・ア・ベル隊がニュータイプの調査をしてるってバレるのが嫌なんだろ多分。あちこちに余計な憶測を生むだろうし。」
だからこそ偽のパイロットデータまで用意してるんだろう、俺達だとバレて欲しくないのが軍の思惑だ。
「となると下手に二人のクセが出るようなMSを用意しない方が良いわね。これって向こうにMSの申請は出来るのかしら?」
「さぁ?でも中将は出来る限り対応するとか言ってたからやってくれるんじゃないか?」
「ふぅーん……じゃあ色々と考えておくわね。」
何を考えているのか分からないがイヤな予感しかしない、どんな機体を手配するつもりなんだ?
「では一先ず隊の軍務の引き継ぎ、社の方も私がいなくても滞りないように準備しておきましょう。」
「あぁ、俺達がいない間気を抜かないようにな。」
その言葉を聞いた一同はこちらをジロリと見た。
「それはこっちのセリフですよ。僕らがいないからってハメを外してイチャ付かないでくださいよ?」
「うっ……。」
「最近はガンダムに乗りっぱなしだったし機体性能にうつつを抜かしてないか確認もしないとだねぇグリム?」
ララサーバルの追撃、そしてそれに乗るグリム。
「そうだねカルラ、ベアトリスやセレナも呼んで旧型機操作でのシミュレーション対決でもやるかい?」
「良いねえ!ハハッ、なんだか昔を思い出すよ。」
おいおい、本人を無視して話を進めるな……!
「良い考えですね二人とも、機体性能に頼るばかりが優れたパイロットではありません。久しぶりに皆の練度を確かめる必要もありますね。」
「お前まで乗り気かアーニャ……。やれやれ、俺の実力を再確認してもらう時が来たかな?」
何だかんだやる気を見せる我が隊のパイロット達にクスクスとクロエが笑う。
「やる気があるのは嬉しいわ、みんなのデータは1から100まで把握してるから戦闘毎に使用する機体の組み合わせは私がしてあげる。……とにかく全員が苦手にしてる方面を重点的にね……。」
怪しげな笑みを浮かべるクロエに全員がギクっとする。最早染み付いた癖というのは厄介でパイロットとしての向き不向きが今でははっきりしているので、そこをクロエは矯正するつもりだろう。
その後、クロエ主導で行われたリング・ア・ベル隊の数十回に渡る模擬戦は物の見事に勝敗が均一化されたものとなった。なおベアトリスとセレナだけ散々に叩きのめされたのは言うまでもない。
その後、隊や社の引き継ぎを済ませた俺とアーニャは地球へと降下する。
連邦内にその動きを知らせない為に何便もの経由と隠しルートを使った移動でようやく中東へと辿り着いた。
砂漠化の進む中東ではあるが、俺達が赴いたのは未だ自然の残る自然保護区に近い場所だ。
そして少し寂れた中継基地に着くとそこで初めて部隊のリーダーとなる男性が現れた。
「お前達が今回の任務に当たるパイロットか?俺はフォズ・ロー大尉、貴官らの隊長を任ぜられている。」
精悍な顔つきの男性が現れる、見たところ俺より10は上か。
「ハッ、自分はエイジス・ガルド中尉であります。よろしくお願いしますフォズ大尉。」
敬礼すると綺麗な返礼を返してくれた。今時の連邦軍人としては珍しい。
「ハンナ・エリシュ少尉です。ジャブローより配属されました、よろしくお願いします。」
「ジェイ・ジャン中尉だ、連邦陸軍の北米方面軍所属だ。よろしく。」
俺に続いてアーニャ、そしてジェイ・ジャンと呼ばれる中年の男がだらしなく敬礼した。こちらは今時らしいな。
「既に聞いているだろうが俺達の任務はこの付近で活動していると思われるニュータイプ教団と呼ばれるカルト集団のアジトを突き止めることだ。その為に現地に潜入し情報収集する事が主な任務だ。」
「しかしねぇ、こんだけ広い土地でどうやって敵のアジトなんて見つけるんだ?砂漠で砂金でも見つけようって訳でもあるめぇし。」
ジャン中尉は溜息を吐きながらそう呟く。
言い方はともかく道理は通っている、闇雲に探しても効果は無いのは当然だからだ。
「軍もそこまで馬鹿ではない、既にある程度の目星はつけている……だが。」
「軍にばれる程度の場所を本拠地にはしねぇ……ってか。そっから得られた情報で突き止めろって事かい?」
「その通りだ、馬鹿な風を装っているようだが中々慧眼じゃないかジャン中尉。」
「へへっ、有り難き幸せってね。伊達にこの任務には選ばれちゃいねえってコトよ。」
「ジャン中尉の推測した通り軍も本命は別の場所にある筈だと考えている、そもそも本拠地を一つに構える必要も無いからな。俺達は得られる情報から徐々に敵を追い詰めて行く。」
拠点を転々とされれば確かに探し出すのは難しいだろうな。
末端の人間を捕まえた所でたかが知れているしあのギレンに似た男を探し出す方がいいだろう。
「了解しました。敵の動きを知る為に動くという事ですね。」
「それに呼応する反連邦勢力の動向に対してもだな。奴らも追えば更に確実だろう。」
潜入するにも場所が分からない今では敵に呼応した元連邦やジオン残党の動きも重要か。やることは多そうだ。
「お前達に割り当てられた機体は既に整備用ハンガーに用意させてある。整備員に確認し調整をしておくように。」
『了解!』
俺達に割り当てられた機体か……クロエは何とかすると言っていたがどうなっているのやら。
そう考えながら整備用ハンガーへ向かう。
「エイジス中尉ですね?機体の用意は出来ています、確認を。」
「了解、助かるよ。」
目前に鎮座しているのは一年戦争時のメガセリオンの宇宙用に再設計された後期型だ。それに戦後追加されたキャノン仕様のバックパックなど砲撃戦用に細かな調整のされた機体で物自体は言うほど悪くはない。
「私のは……メガセリオンの特殊戦機ね。」
アーニャ……いや、ハンナ・エリシュ少尉に割り当てられたのはメガセリオン後期型の空挺部隊用に作られたナイトシーカーだ。前部と後部に配置された全六基のスラスターは凄まじい機動力を発揮する。
一年戦争当時のヴァイスリッター改以上の性能を誇る良い機体だ、どちらかと言えば俺向きじゃないか?と言いたくなるくらいだ。
そしてフォズ大尉はメガセリオン改、ジャン中尉はジム改と現在の連邦軍機の中でもスタンダードな機体だ。言い方は悪いが俺の機体が一番ハズレに見えてしまう。
「……とは言え流石にクロエがそんな適当な物をくれる筈もないか。」
コクピットに乗り込みコンソールを開き特殊な手順を踏む。そうすると画面にクロエの顔が映る、事前に入れられたら入れると言っていた動画ファイルだ。
『久しぶりねジェ……じゃなくてエイジス中尉、一応一人だとは思うけど名前は誤魔化しておくわよ。さて、貴方に割り当てたのはメガセリオンのキャノンタイプよ。なんでナイトシーカーの方じゃないんだって喚いてるでしょうけど、見る人が見ればナイトシーカーだと貴方だってバレちゃうから砲撃戦仕様にしたんだからね。逆もまた然りよ。』
どうやらクロエには俺の心情がバレバレのようだ。
『模擬戦で貴方の射撃適正があんまり足りてないのは自覚してるわよね?及第点ではあるけどエース級と言える程でもない、だから敢えてキャノンを割り当てたわ。慣れない砲撃機で極秘任務なんて……って思うかもだけど一応リミッターを付けて敢えて機体性能を通常レベルに落としてるわ、この言葉の意味がわかるかしら?』
「まさか……。」
『その機体、そこに来る前にEC社で中の部品の入れ替えしてるから中身はかなり良い物だからね?流石に整備兵にバレない部分だけ変えてるから一線級くらいにしか出来なかったけど……。』
一線級『くらい』ってなんだよ、やれるならもっとやるつもりだったのか?と言いたくなるがクロエならやるだろうな。
『だからもしも命の危機!ってなったら遠慮なくリミッターは外してね?昔みたいに機体が摩耗するって事はないから。後この音声は再生後自動的に消去されるわ。健闘を祈ってるわよ。』
音声が切れる、クロエの配慮を無駄にしないようにちゃんと射撃適正も磨かないとな……。
そうしてフォズ隊に配属された俺達はニュータイプ教団を探る為に活動を始めるのであった。