俺達が中東へ赴き早3日、敵の動向を探る為に現地の調査を始めた俺達。
俺達はまず第一候補となる教団の拠点へ目標を定め、その進軍中に現れた先日の敵勢力の機体を調査していた。
「メガセリオンの方は連邦陸軍第115機械化混成部隊に配備されていた物らしい。機体内のデータに残っていた。」
「ってこたぁ欧州方面軍の機体だな。そっから裏切ったって事か、乗ってたパイロットのデータは?」
同じ連邦陸軍所属であったジャン中尉がすぐ疑念を持つ、機体だけが奪われたのか或いはパイロットも含め離反したのか。大きな点では無いがどういう背景かは知って損はないだろう。
「察しの通り持ち主だったパイロットも行方不明の状態だったようだ。そもそも機体もパイロットも一年戦争時の軍事行動中に行方不明になっており死んだものとして扱われていた。」
「……となるとその時から既に裏切っていた事になる……?」
俺の疑念にフォズ大尉は頷く。
「さて、難しいことは上の連中が考えてくれるが俺達も俺達なりに考えるとしよう。エイジスの言う通りこの敵はいつ裏切り、いつカルトと合流したかだ。エイジスはどう感じる?」
「……一年戦争当時だとするとMIAになるような軍部が状況を把握しきれないような戦いがあった筈です。欧州方面付近であった大きな戦いと言えば……。」
「オデッサ……。」
アーニャが扮するハンナ少尉の言葉に頷く。
オデッサの戦い。あの激戦の中であれば、どの部隊がどうなったか調べるのが難しいはずだ。
「察しが良いなハンナ少尉、先程言った一年戦争中の軍事行動……それはオデッサの戦いのことだ。エルラン中将の裏切りやジオンのマ・クベ大佐が使用した核の混乱であの戦いは混乱を極めた。戦後処理のゴタゴタで雑に扱われて碌に確認すらとって無かったのだろう。」
「あの戦いじゃ帰還報告の無かった連中は全員死亡扱いだろうな、あの時ぁ俺も戦車で従軍してたがレビル将軍のいた辺りなんてのは見るも無惨な状況だったからな。」
ジャン中尉がそう言うのならそれほどだったのだろう、レビル将軍という大きすぎる存在を無くしたあの戦い……そこから別の戦いが生まれるなんてあの頃は想像もしていなかった。
「パイロットの生死はともかく、機体はその後カルトに流れたと言う訳だ。残骸からのメカニックの推測だが整備は最低限の調整はされている。つまりは戦後何らかのメンテナンスは受けているのは間違いないということだ。」
「……敵にはMS整備の技術を持っている者がいると言う事ですね?」
「そうだエイジス、奴らは決して素人集団では無い。MSを操れるパイロット、そしてそれを整備できる者、装備を施せる者、それらが少なくとも揃っている事は確かだ。」
サンダーボルトの南洋同盟でもそうだったが、宗教から得られる富と言うのは大きいのだろうか?
あの世界では一年戦争以前から存在していた派閥であったから下地があったという前提があるがこのニュータイプ教団はまた別だろう、そんな存在が早くから存在していたら俺が気づかない筈がない。
「敵の目的は何でしょうかね?連邦内から寝返るものがいるのに何が理由で裏切っているのか情報が全く流れない、これはアクシズのキシリアに寝返る連中も同様です。狙いが見えてこない……。」
俺の疑念、仮にニュータイプ教団が多くのニュータイプを擁していたとして、アクシズの戦力が予想以上に残存していると考えたとして、それでも今の連邦軍を相手にするのは余りにも戦力差が大きい……。
いや、だが第一次ネオ・ジオン抗争では戦力を温存していたアクシズはエゥーゴとティターンズという連邦精力同士の戦いで漁夫の利を得て早期に連邦の上層部の首根っこを掴む事ができた。
なのでこちらを内部抗争で疲弊させ、力を削る事で同じ事を狙っているのではないか?という疑念を俺は抱いている。
この二つの勢力が根っこでは同じものかもしれない可能性は高い。あのキシリアならそう言う策略も得意な筈だ。
抵抗する連邦軍がいたとしても、軍の上層部や連邦政府さえ掌握してしまえば後はどうとでもなる。敵は最初からそれを狙っているとしたら……。
「
「混水摸魚?」
突然難しい言葉を使うフォズ大尉に頭を傾げる、孫子とかはほんの少し知っているがこれには聞き覚えが無かった。
「あぁ、古代の兵法書にある言葉だ。水をかき混ぜて魚が混乱しているときに、その魚を狙って捕まえるという意味で、これを兵法として応用すると、敵の内部を混乱させて弱体化したり、作戦行動を誤らせたり、自分達の望む行動を取らせるよう仕向ける戦術だ。敵は金か何かで味方を寝返らせこちらの撹乱を狙っているのかもしれん。その後に大きな行動に出るつもりなのだろう。」
成る程、やはり中から崩して行くのが狙いと考えれば良いのか。
だが油断は禁物だな、片方はそれが狙いでももう片方は別の考えかもしれない。迂闊に決めつけてると後で痛い目を見るだろう、難しい事はアーニャや軍上層部に任せた方がよさそうだ。
「友好的な勢力であったのならば融和の道もあったのでしょうけど、これでは難しいでしょうね。」
「そもそもニュータイプ教団なんてお名前を掲げちまってる連中が連邦に友好的になるたぁ思えねえけどな俺は。見るからに嫌がらせだろあの名前は。」
ニュータイプ、今やスペースノイドの革新の象徴としてアングラを始めに今や一市民にまで広まっている言葉だ。
この歴史の中でもアムロは自身のニュータイプ論をジャーナリストに向けて発信したが、俺みたいなある程度ニュータイプに対する理解がある人間には通じても英雄的解釈を求めた大衆にはアムロの言葉は抽象的な話過ぎて理解を得られていなかった。
大衆の中では既にニュータイプとは宇宙で新たに目覚めた革新を起こす者、英雄となる素質の持ち主として認識されているのが今や現状なのだ、だからこそこのニュータイプ教団と名乗る組織はその言葉を狙って付けている以上人と分かりあう事を良しとした者たちであるとは言い難い……。
「まぁここまで色々な御託を並べたがこれくらいしか俺達では考える事は出来ん、奴らの思惑はそれ以上かもしれんし、或いは贅沢な限りを尽くせれば良いだけの下衆かもしれん、何にせよ任務を遂行する事だけに集中するとしよう。」
「そうですね、敵の考えはいずれ分かる……。」
フォズ大尉の言葉に頷く、その直後隊の無線機に通信が入る。
《こちら作戦司令部。フォズ隊へ、次の作戦行動が決まった。ブリーフィングルームに至急集合せよ。》
「こちらフォズ隊。作戦司令部へ、任務了解今すぐ向かいます。」
次の作戦が決まったようだ、俺達は急ぎブリーフィングルームに向かう。
《こちら指揮管制機ノーマッド、先日の戦闘から得られたデータで敵の拠点の一つが発見できた。目標としている人物が潜伏している可能性は無いが、そこから得られるデータを収集し敵勢力の情報をアップデートする。フォズ隊は作戦時刻
通信が切れるとフォズ大尉は「ふぅ」と息を吐く、ジャン中尉に至っては溜息を吐いていた。
「敵拠点の破壊は最小限だとぉ?上の連中はこの戦力でそんな芸当をやってのけると思ってんのか?」
「やれると思っているのだからそう言っているのだろう、文句は言うなジャン中尉。俺とて思っていることは同じだ。」
特務に選ばれたパイロットだ、上からしたらやってのけると思うのだろう。
「愚痴っていても仕方がないですね大尉、どの様なプランで制圧しましょうか?」
アーニャが大尉にそう問い掛ける、アーニャにも考えがあるだろうが今は形式的に上官の考えを聞く場面だろう。
「……そこが難点だな。敵の戦力が掴めない以上、正面突破はやめた方が良いだろう。」
「となると奇襲しかねぇな、戦力的にもその方が良いだろ?」
ジャン中尉の提案にフォズ大尉が頷く、少数戦力である以上普通に戦うよりは奇策を用いて攻める方が良いだろう。そこはアーニャも同じであったのか頷いている。
「ミデアからジェットパックを利用して高高度による強襲をかけるのはどうでしょうか大尉?」
アーニャが奇襲の策を提案する、既にジェットパックを使用した降下作戦などは戦術が確立されており昔俺達がやったパラシュート降下も含めて今では然程珍しい作戦ではない。
「……無謀だな、敵拠点の対空迎撃能力が分からない以上不用意に上空から奇襲を掛けては蜂の巣にされかねん。」
相手も何も備えていない訳でもないだろうし確かにその懸念は最もだ。アーニャもそれくらいは分かっているとは思うが……。
「はい。ですから私単騎で降下し、大尉達はその間に照明弾で敵拠点を照らしエイジス機のキャノンで対空砲を狙い撃ち対空能力を無力化、私は上空から敵MSの格納庫など敵戦力が集まっている所を狙撃します。ナイトシーカーの機動力ならこなせる筈です。」
簡単に言ってくれる……まぁアーニャの実力ならやってやれない事はないが……、俺に対空砲を撃破しろと言うのは流石に無理難題だろ……。
と思っているとコチラを見てフッと笑うアーニャ……ハンナ少尉がいた。これは……煽っているな?
「特務で呼ばれている私達です。これくらいの事も出来なければどの道この任務を熟す事など無理だと上からは思われます。」
「威勢の良さは命取りになる。……だがこれくらいは俺達であれば威勢にすらならないと言う事だなハンナ少尉?」
フォズ大尉もアーニャが無謀な策を出しているとは思っていないようだ。実力があるからこそやれるという自信はアーニャにもフォズ大尉にもあるのだろう。
「よし、ハンナ少尉の策を採用する。作戦開始と同時にハンナ機はミデアから降下、俺達は拠点前の高地に陣取り作戦開始と同時に照明弾を放ち敵を視覚的混乱に至らせハンナ機へ注意が行かない様に即座に砲撃を開始する、その間にもハンナ機は可能な限り軍事施設への攻撃を放ってもらう。良いな?」
「俺ぁ問題ないぜ。」
「……自分も問題ありません。」
アーニャの事は心配だが露骨に心配するとバレる可能性もある、アーニャ自体も自信はあるからこそ言ってるのだろうからもう口出しはしない方が良さそうだ。
「よし、では作戦時刻まで各自休息を取れ。解散。」
『了解!』
作戦会議は終了し各々独自の行動に移る。俺は取り敢えずMSへと向かった、作戦前は機体の状況を確認する、今では日課になっている行動だ。
「この前の戦闘データから射撃補正を調整して……。」
ミリ単位とは言わないまでも照準と誤差が少なくなるように補正をかける。作戦が作戦だ、アーニャを危険には晒したくない。
「子供達に母親がいなくなった理由など説明したくもないからな……。」
子供達は俺の帰還後マハル孤児院から早期に宇宙へと移り今はペズンから近い旧サイド6、現在の新サイド5にあるEC社支部の近くにあるエルデヴァッサー家の別邸で養育している。
任務が無い時はほぼ毎回そこに戻っており子供達の面倒を見ている、物心も付き初めて時折手に負えなくなる事もあるがそれでも天使の様に可愛い我が子達だ、目に入っても痛く無いと言う言葉の意味がわかるくらい輝かしい存在だからこそ悲しませたくはない。
「精が出ているわねエイジス中尉。」
MSの調整をしているとハンナ少尉……アーニャがコクピットの外から声をかけてきた。今は周りの目があるので迂闊にアーニャとは呼べない、顔は変装しているとはいえアーニャはアーニャなのだからうっかり口を滑らせてしまいそうなのが怖い。
こういう任務は本来俺向けじゃ無いってのがよく分かる。
「えぇ、拠点の対空兵器を狙撃しろと言われていますからね。責任重大じゃないですかそれって。」
この任務前に割り当てられないエイジス中尉の設定は一年戦争末期に士官学校を卒業、そのまま少尉任官で星1号作戦に参加しその後はテストパイロットとしてルナツーで訓練している気さくだが生真面目な士官という路線らしい。なのでそういう真面目な青年を演じなければならない、ぶっちゃけ疲れる……。
「期待していますよ中尉、背中は預けましたから。」
そう言いながら手を振りすぐに去ろうとするアーニャ、しかしその前に口パクで何か呟いている……これは。
信じてますからね。
「……。」
期待に背く訳には行かないなこれは。俺の為にもアーニャの為にも子供達の為にも。
そして時は過ぎ、作戦開始の時刻が目前にまで迫ってくるのだった。