機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第5話 忍び寄る影(後編)

 

《マモナク サクセンカイシジコク ケントウヲ イノル》

 

 アーニャが搭乗しているミデアより更に上空からこちらの動きを見ている指揮管制機ノーマッドから通信が入る。

 指向性を持たせたミノフスキー通信なので傍受の可能性はない、簡素とは言え俺達に気を遣っているのがよく分かる。

 

「作戦開始5分前、時計合わせ。」

 

 フォズ大尉の指示に合わせ時計を合わせる。

 

「ハンナ少尉の降下を確認後照明弾を放つ。エイジス機のキャノンと共に俺達もバズーカを放つが砲撃機ではない以上精度は見込めん、お前の腕が頼りだぞエイジス。」

 

「分かっていますよ、むざむざ彼女に死んでもらうつもりもありませんからね。」

 

 というか死んでもらったら困るので全力でやらせてもらうつもりだ。

 

「敵の総力は未知数だ。ハンナ機の降下後は即座に敵を制圧する、一瞬たりとも手を抜くなよ。」

 

「あいよ!やっこさんらの実力を確かめるのにも丁度良い、このしょっぺえ拠点に案の定旧型しか集められねえ連中なのかそれともこんな場所でも一線級のMSを持ってるかどうかも分かりゃ御の字だ。」

 

 この数日関わっていて思うのだがジャン中尉は普段の口調からは思えないほど洞察力が高い。……不良軍人らしく振る舞うのは何か理由があるのか、それともそうする事で気が紛れるのか……。

 

 っと、今はそれを気にしている場合じゃない。アーニャの援護をしっかりとやらなければならない……落ち着け……落ち着け……。

 

 キャノンの照準を遠くから見える敵の軍事施設へと向ける。

 軍事施設と言っても大規模な物ではない、恐らく一年戦争中に放棄された中継基地を改修し自然を利用して外観を少しカモフラージュしているくらいの施設だ。

 だがたった4機の俺達では難攻不落の要塞とも言える難易度になりかねない、この先制攻撃でどれだけ基地の機能を無力化できるか……。

 

 そう思うと途端に嫌な汗が出る、これは強烈なプレッシャーだ……。責任重大というレベルではない。というか作戦前にこんな緊張してて大丈夫なのだろうか。

 

 いや……自分を信じろ、ヴァイスリッターやアルベドに乗っていなくとも俺は十全にやれる……エースにも引けを取らないと信じるんだ。

 

【信じていますからね。】

 

 ……そう、信じる者の為に俺は戦うのだから。

 

「作戦開始時刻2000、ミッション開始だ!エイジス!」

 

 作戦開始と共にフォズ大尉の放った照明弾が敵拠点を照らし出す、その時電流が走るような閃きと共にアーニャの『気』とも言える感覚を掴み取る。

 

「俺にやって見せろって事だろアーニャ……!……視える……ッ!」

 

 まるでアーニャから視点を受け取るように捉え、研ぎ澄まされた感覚は敵の対空砲の位置を機体の照準とリンクさせる。

 

「当たれぇぇぇ!」

 

 放たれたキャノン砲は敵拠点の対空砲に当たり大きな爆発が起こる。

 

「ヒューっ!やりやがった!やるじゃねぇか!」

 

「全機突撃!敵拠点を無力化しろ!」

 

『了解!』

 

 機体をフルスロットルで動かし拠点へと向かう、無理はするなよアーニャ……!

 

 

 

ーーー

 

 

 

『間も無く敵拠点上空を通る、作戦開始時刻と共にハンナ機は降下を開始せよ。』

 

「了解。」

 

 ミデアの後部ハッチの減圧が終わりハッチが開く。この光景を見るのは一年戦争以来2度目だ、思えばあの頃よりだいぶ遠くに来てしまったと実感する。ほんの数年前の出来事ではあるがもう何十年も前のように感じてしまう。

 

 ……敵の思惑を知るための今回の任務、敢えて一番手となるこのポジションを選んだのは敵拠点へのダメージを最小に抑えるため、自分の手で最低限の行動は済ませたいと思ったからだ。

 フォズ大尉やジャン中尉を信用していない訳ではない、二人とも特務に選ばれるだけあってその実力は私達にも引けを取らないだろう。

 しかしパイロットの腕だけが全てではない、政治の面でも私はこの教団の内情を知らなければならないのだから。

 

「ジャミトフ・ハイマン……彼が本心のみでこの教団の動きを阻止しようとしている訳でもないでしょうしね。」

 

 ジェシーから聞いた本来の歴史の流れ、混乱を避ける為に唯一私だけに教えてくれた彼がこの世界にこなかった場合の世界線。

 その歴史では彼は地球保全のために敢えて地球圏を混乱させるようにアースノイドの過激派を集めて勢力を立ち上げた、この世界でもそうなる可能性はあるし、もしかしたらそうならない可能性もある。

 

 彼の行動の真偽が見えない以上、彼の言葉全てを信じるわけには行かず、自分の目で把握しなければならない。

 私達の子供達が……未来を生きる世代が安心して暮らせるように。

 

『作戦開始まで残り10秒、少尉の健闘を祈ります。』

 

「ありがとう、行ってくるわ。」

 

 真下に見える敵拠点は何の警戒もしていない、それは彼らの練度を示すものか或いは此方を誘っているのか、それは今に分かる。

 

『作戦時刻2000、作戦開始です少尉!』

 

「了解、ハンナ・エリシュ少尉。メガセリオンナイトシーカー、降下を開始します。」

 

 機体を降下させ気流に乗る。ジェットパックの噴出はまだだ、敵に気取られる訳にはいかない。

 目前に薄暗く見える対空砲を見つける、アレに狙い撃ちされればこの機体など一溜まりもないだろう。

 

「……私を護りなさい、ジェシー。貴方は私の騎士なのですから。」

 

 強く彼を信じる。疑ってなどいない、彼は私を……私の期待を裏切ることはない。

 

 直後敵基地から轟音と共に爆発が起きる、対空砲はキャノンの直撃を受けて大破した。その直後照明弾が放たれ基地は無防備な姿を曝け出す。

 

「機体のモニターを対閃光用モードに移行、……視える……!」

 

 敵MSが格納されているであろう敵拠点のハンガーへ狙撃を仕掛ける、使用しているライフルはジムスナイパーⅡにも使用されたロングレンジ・ビーム・ライフルだ、性能は十分に高い。

 ジェットパックのブースターを噴出させ、狙撃体勢を確保する。

 

「……そこっ!」

 

 放たれたビームはMSハンガーに直撃し爆発が起きる、直撃はさせた……しかし……。

 

「爆発の規模が小さい……!MSは殆どいないのか……或いは……!」

 

 その場所には多くのMSを置いていないのかのどちらかだ、敵が油断しているのなら良いが、そんな期待を今持ち合わせてはいけない。

 

「ならば、やれるだけやらせてもらいます!」

 

 中枢と思われる司令部以外の目立つ施設へ攻撃を開始する、降下中どれだけダメージを与えられるかで合流後の戦闘の難度が変わる……慎重に狙わなければ……。

 そして更に二発、拠点への攻撃をした所で敵もこちらを視認したのか歩兵用装備や隠れていたトーチカからの攻撃が始まる、こうなっては回避に専念するしかない。

 

「せめて……!」

 

 ジェシー達の進軍ルートの邪魔になるトーチカを狙い撃つ、これで進軍がし易くなる筈……、……!?

 

「何……!?この感覚は……!?」

 

 ザラっとした感覚が纏わりつく、殺気とも闘志とも違う表現し難い感情の波。

 それが敵拠点から放たれているのを感じる、これは……?

 その感覚に戸惑っていると、目の前にビームが放たれているのが分かった。

 ───直撃!?

 

 

 

ーーー

 

 

「ヒューっ!あの女もやるじゃねぇか!降下中の射撃だって言うのにどんどん火の手が上がっていきやがる!」

 

「大口を叩くだけはある、やはり特務に選ばれるだけの人材と言うわけだ、こちらも素早く合流するぞ!」

 

 降下後のアーニャの行動に驚く二人、俺からすればアイツならこれくらいはお手のもの……と言うか本職発揮と言うべきだ。空中での射撃はフライトユニット装備のガンダムルベドで何度も経験しているだろうから降下中とは言え誤差を考慮しての射撃はどんなエースよりも的確だろう。

 

「だが……何を焦っているアーニャ。」

 

 小声で呟く、射撃の頻度が高い。もしも敵に余力があるのならここで全力を出し過ぎるのは良くない、それに照明弾で視覚をある程度は塞がれているとは言え何かを焦っているように俺には見えた。

 キャノンによる砲撃で敵の無力化を図る、幾つかのトーチカを破壊して厄介な所に構えられたトーチカを確認する。

 

「チッ……!射角が合わない……!」

 

 砲撃機はこういう時が融通効かなくて厄介なんだよ……!と思っていると上空からビームが放たれトーチカを破壊する。

 

「……流石だよやっぱり。」

 

 その腕前に感心し上空から彼女を確認する。

その時だった。アーニャのナイトシーカーへ、一直線にビームの光が向かう。その直後大きな爆発が起きる。

 

「な……!?」

 

 一瞬何が起きたのか理解出来ずにいた、いや理解したく無かっただけだ。全身の血の気が引くのが分かる。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 絶叫を上げる、まさかアーニャが……撃墜されるなんて……!嘘だ……こんなの嘘に決まっている……!

 

「落ち着けエイジス!爆発したのはジェットパックだ!ハンナ機は自力で降下している!気を抜くな!」

 

 フォズ大尉の言葉にハッとする。

 大きな爆発はジェットパックの推進剤によるもので機体の爆発ではないと気づく、あの一瞬でジェットパックを射出したのかアーニャは……。

 

「だ、だが……一体誰だ……!?アーニャを相手に直撃コースを狙える相手なんて……!?」

 

 俺もアーニャも、自分で言うのはなんだがパイロットとしての格は中の上か上の下くらいはあると自負している。

 そしてアーニャは俺と違って天然のニュータイプ能力のセンスがある、そんな彼女を相手にあれだけ正確な攻撃を行える相手なんて……嫌な予感が過ぎる。

 

「このまま敵基地内部に侵入しハンナ機と合流する!フォーメーションを崩すなよ!」

 

「……!了解!」

 

 今はフォズ大尉の指示に従い動くしかない、独断専行する訳にもいかないし俺単騎でやれる事など限られている。

 

 散発して現れるザクを撃破していく、アーニャがMS格納庫を攻撃したおかげでまともな敵機は殆ど現れていない。

 ……だが、これが敵の本命では決してないだろう。本当に警戒すべき相手はこの基地の何処かにいる筈だ。

 

 そして敵基地深く、アーニャのナイトシーカーの信号が発信されている場所まで辿り着く。

 そこにいたのは、アーニャと攻防を繰り広げている敵のMS、その姿に……。

 

「なんだ……!?あの機体は……!まさか……!」

 

 フォズ大尉が驚きの声を上げる。

 

「……なんてこった……連中は一体……!」

 

 ジャン中尉も同じ様に驚く。そしてそれは俺も、アーニャも同じであった。

 

「あれは……()()()()!?」

 

 ツインアンテナにツインアイ、その特徴的なデザインは間違いなくガンダムのそれだった。

 だがその姿はどちらかと言えばジオン寄りにも見えるし、かと言ってジオン系を吸収した連邦製とも取れる造形である。一体このMSは……!?

 

「敵のガンダム!貴方は一体何者なのですか!名を名乗りなさい!」

 

 アーニャ扮するハンナ少尉が声を上げて通信をしている、相手がそう簡単に応じるとは思えないが……と思いきやその言葉のすぐに敵は返答を返した。

 

『名前……?()()に名前などない。我らは神に従う者、そしてこの機体こそが我らを新世界へ導く。』

 

 無機質な声、そして戦場で相対しているにも関わらず、ヒリつく様な殺気を感じずまるで人形を相手しているかのような感覚に襲われる。

 

「新世界だと……?」

 

 それが何を意味するのか分からないが、碌なものではないのは確かだ。

 敵の思惑は分からないが……今は倒すしかない筈だ。

 

「答えるとは思えんが敢えて聞こう!そのガンダムはなんだ!何処で手に入れた!」

 

 フォズ大尉の怒号にすら変わらず無機質な声で敵は返答する。

 

『知らぬのなら答えよう、我ら()()()()の剣であり盾であり、そして神より承りし我らが魂の依代、()()()() ()()()()()。』

 

「ガンダム……レギオン……!?」

 

 俺の知らないMS、そして俺の知らない存在達が駆る謎のガンダム……。

 いつの間に忍び寄っていた新たな戦乱の影の存在を、俺は今日実感する事となった。

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