「だからよお!誰が俺達の命を狙ってたのか知ってんじゃねえのかテメェらは!?えぇ!?」
俺達を回収したミデアの中で、指揮管制機ノーマッドに通信し怒声を浴びせているのはジャン中尉だ。先程からずっと興奮状態で喚き散らしている。
「落ち着けジャン中尉、ノーマッドは何も知らん。」
フォズ大尉が嗜めるが、効果は薄かった。
「何処にそんな証拠があるってんだ!俺達はハメられたんだぞ!?」
ジャン中尉が怒っているのはこの敵基地強襲作戦が敵に察知されていた事が原因だ。
俺がガンダムレギオンというガンダムと相対し、三人と分かれた後でフォズ大尉達は基地内部に侵入する為、フォズ大尉が先行し基地中枢へと向かった。
しかし敵の迎撃は殆ど無く容易に中枢へと辿り着くと既に自爆の準備が進んでいたのだ、大尉達は基地の制圧を諦め退路を確保するために動き、そして俺の所にはアーニャを派兵した。それが先日の戦いの流れだった。
ここで問題なのは『敵はそもそもこの基地にまともな兵力を置いておらず、俺達が攻撃して来たから基地を放棄して自爆する為に動いた』のか『俺達が来る事を事前に察知して最低限の兵力を残し怪しまれずに侵入した所で基地を自爆させ一網打尽にするつもりで動いた』かだ。
前者の可能性も無いとは言えない、対空迎撃やトーチカなど防衛設備は働いていた。
だが後者の方が圧倒的に説得力のある状況なのは間違いない、防衛用のMSはガンダム以外は雑魚と言っても良い戦力、そしてガンダムに乗っていた奴の言っていた『仕掛け』という言葉。
最初から俺達は嵌められていたと想定した方が分かりやすい状況だ。
だが、そうなると出てくるのは『何故俺達の行動がバレていたか』だ。
俺達は特務部隊、連邦軍ですらその動きを知る者は少なく限られた者しか内情を知らない。その俺達の動きがバレていたという事は……。
「指揮管制機にいる連中じゃねえって事はそれより上か!俺達の中にスパイがいるかのどっちかしかねぇじゃねえか!?アァ!?」
……そう、疑うべきは内部のスパイ、味方が裏切り敵に情報を送っている可能性……。
「落ち着けと言っているんだジャン中尉!今味方を疑ったところでどうにもならんのは分かっているだろう!」
フォズ大尉がデスクを叩き怒鳴る、現状仲間を疑った所でどうにもならないのは事実だ。情報も何も無い今はただ勘繰り合うことしかできないのだから。
「しかしジャン中尉の懸念も捨て置く事は出来ないでしょうフォズ大尉……、今回の件は余りにも……。」
俺もそう疑問を呈する。ガンダムの事、基地の事、余りにも疑う余地が多すぎる。
「ならどうするエイジス、関係者全員に自白剤でも飲ませて尋問するか?それこそ敵の思う壺だ。」
「……。」
「フォズ大尉の言う通りですお二人とも、敵の狙いはもしかしたらそこなのかもしれませんから。」
アーニャがそう発言する。
「考えても見てください、敵は自称とはいえニュータイプ教団と名乗る団体です。可能性としては私達が来る事を予知していたのかも知れません。」
「エスパーだとでも言いてぇのか……?有り得ねえ……。」
ジャン中尉はそんなまさか……という顔をするが有り得なくも無いと言った複雑な感情を見せている。
「チッ、少し頭を冷やしてくる。だが疑ってかかった方が良いってのは忘れんじゃねぇぞ、俺は味方に殺される為に任務を受けた訳じゃねぇ。」
スタスタと去っていくジャン中尉、張り詰めた場がやっと緩む。
「助かったハンナ少尉。」
「いえ、ああ言っておけばある程度は納得されると思っていましたから。」
ニュータイプの定義が人によってあやふやな今の時代の状況ならアーニャ自身はそう思っていなくともああいう風に言うことで説得力はそれなりに出るだろう。実際ジャン中尉はそれに納得した訳だし。
「ジャン中尉には悪いとは思うが、今は疑心暗鬼を植え付ける訳にもいかん。如何にこの状況が不自然であってもな。」
「混水摸魚でしたか、フォズ大尉の言葉の通り敵はこちらの動きを乱して狙い通りの動きをさせていると見るべきでしょうかね?」
こちらを撹乱し、思惑通りに動かさせる。そうなってしまえば敵は労せず俺達を御する事ができる訳だ。
「ノーマッドはこれからどうすると?」
「分からん、そもそもの狙いであった情報収集が失敗したんだ。逃げたガンダムも視界不良で追跡できなかったそうだ。振り出しに戻ったと見るべきだろうな。」
「……一先ずは連絡待ちとなりそうですね。」
「一旦二人は休憩しておけ。戦闘で緊張も張り詰めていただろう、少しリラックスしておけ。」
「それならフォズ大尉も。」
「俺は良い、こう言うのには慣れている。それにデータも纏めなければならんしな。」
部下を思いやる上官としては完璧だな、実際の階級は下になるがベテランの頼もしさは階級に関係ない。頼れる人だ。
「了解しました、一時休息を取らせて頂きます。」
「うむ、指示があるまで自由行動で構わん。ジャン中尉にもそう言っておけ。」
「了解です。」
ミーティングルームから出る、少し歩き辺りを見回して誰もいない事を確認するとアーニャに話しかける。
「どう思うアーニャ。」
「先程はジャン中尉を否定しましたが、スパイの可能性が高いと思っています。」
「……やはりそうなるよな。」
情報漏洩でないと敵基地の層の薄さはともかく手際の良い基地の自爆シーケンスはおかし過ぎる、俺達が来ると最初から分かっていたからこそ敵は基地の戦力を手薄にしガンダムを足止めに使う事で俺達を仕留めようとしていたはずだ。
「アーニャ、あのガンダムだが……。」
「えぇ……機体性能もそうでしたが、何か異質な感覚のする相手でしたね……。」
俺の知らない機体と俺を凌ぐパイロット、変わった歴史の流れの中でいきなりの未知の強敵だ。
「相手をしているとまるで人形と戦っているかのような感覚だった、殺気とか戦場特有の気配を感じない……まるで無のような。」
「無……、宗教団体と言うなら悟りや明鏡止水と言った境地に立っている……と見れるかも知れませんが、可能性としては他にもありますね……洗脳や強化と言った。」
そう、あの異質な感覚やパイロット能力の高さを裏付けるならどちらかと言えばそちらの方が合点が行く。
だが強化人間を作るとなればそれなりの規模の研究所やニュータイプ技術に関する知識が無くてはならない。ジオンならフラナガン機関や連邦ならニタ研などと繋がりが無ければ強化人間を作ることは難しいだろう。
……しかしこの教団の資金力やどの勢力のシンパがいるか分からない状況ならある程度の施設を隠し持ってると想定した方が無難か……。
あのガンダムにしてもアナハイムのガンダム開発計画のMS群や俺達EC社製のガンダムと比べたらどれほどの施設で開発されたか分からない物だから完成度は低いかもしれないだろうがそれでも侮れる機体じゃない、現にクロエが用意したあの中身は別物のハイスペックメガセリオンが速攻で大破寸前にまで追い込まれたのだから。
「これからどうするアーニャ、一度ジャミトフに現状の報告をした方が無難だと思うが。」
「……今は上からの指示を待ちましょう、ここで私達が彼に報告しここからの指揮を執っても道筋はあまり変わりません。それに……。」
「それに?」
「仮に上が今回の作戦のわざと漏洩をしたのであればこのまま泳がせておけば尻尾を出すかもしれません。私達は敢えて撒き餌になりましょう。」
「……准将と少佐の撒き餌か、良い餌が食い付きそうだな。」
一年戦争時のキャスバルとホワイトベース隊とは言わないが、俺達を厄介視してる勢力が内部にいて教団に同調してる者がいるのなら確かにこのまま指示に従っていればどこかで俺達を確実に仕留めようとしてくるだろう。だが……。
「仮にジャミトフが俺達を狙っていたとしたら、振り切れる保証はないぞ?」
「彼は有り得ないでしょう、私達に手を出せば真っ先に疑われるのはこの作戦を私達に指示した彼です、そんな分かりやすいリスクを負うタイプではありませんよ。」
そうなら良いが……。まぁ周りを疑っていても仕方がない、今はなるようになるのを見届けるしかないか。
「俺は一先ずジャン中尉のフォローに回る、疑心暗鬼になられても困るし彼の実力は本物だ、信頼関係さえ築ければ頼りになる。」
「任せました、私は先の戦闘データの解析をしてみます。少しは敵の機体について何か掴めるかもしれませんから。」
「分かった、頼んだぞ。」
アーニャと別れジャン中尉のいる部屋へと向かう。とは言ってもミデアの機内では男パイロットに割り振られた部屋は一つしかないので自ずと自室に帰る感じになるが。部屋の前で数回ノックをする。
「ジャン中尉、入っても?」
「あぁ。遠慮すんじゃねぇお前の部屋でもあるんだぞ。」
特に気は立っていないみたいだ。中に入り椅子に座る。
「なんかきな臭くなって来ましたね。」
抑揚を出さず世間話の様に話を切り出す、下手に同感して話し始めるよりは無難だろう。
「そもそも特務ってのがきな臭さの塊だからな。おいエイジスよ、フォズ大尉から俺のフォローに回れとでも言われて来たのか?」
フォズ大尉から、と言うのは違うが相変わらず洞察力の高さを見せてくる人だ……下手に受け答えできないぞこりゃ。
「え?そんな事ないですよ、ただジャン中尉の言ってた事も一理あるしハンナ少尉の言ってた様にニュータイプだから俺達の動きを察知したとも考えられるし、何れにしても面倒な状況だなぁと。」
「まぁ何とも言えねえ状況っちゃ状況だが俺はまだスパイ説を推すぞ、そもそもニュータイプってのがそこまで万能だったらよなんで一年戦争でジオンは負けてんだよ。」
そりゃそうだ。戦闘中の敵の動きを先読みするくらいならともかく未来予知して敵の行動を事前に把握するなんてそれが出来たら戦略上でも優位に立てる。
「そう考えたら敵の未来予知って線や内部からの情報流出の件も微妙に怪しくなりません?俺達の作戦時間が敵に分かってたなら自爆させるタイミングは少し早くした筈……?」
「……確かにな、俺達がギリギリ逃げられるタイミングを残す理由はねぇか。チッ、頭の中がこんがらがっちまう。この話はやめだ。」
ベッドに寝転がり雑誌を読み始めるジャン中尉、一先ずジャン中尉が味方を疑うことは避けられたが……話していて俺も感じだがこの一連の流れの不自然さ、違和感というのが纏わりつく。
スパイ説、敵のニュータイプの予知説、どちらかだとしたら爪が甘すぎる。敵のガンダムが俺達を逃す義理も無いわけだし狂信者が乗っていたとしたらそれこそ道連れにしてでも俺やアーニャを仕留めに来てた筈だ。
何も知らず偶々廃棄する予定だった基地に俺達が現れた、というのは流石にないか。敵は基地の仕掛けと言っていた訳だし……そもそもあのガンダムは何処で開発されてどうやってあの連中の手に渡っているのか……。
「……確かに頭がこんがらがるな……。」
足りない頭で考えた所で答えに行き着くとは思えない。アーニャも言っていたが、これが策謀の類ならどこかで尻尾を出すだろうし今はそれを待つしか無さそうだな。
ーーー
旧サイド5宙域の廃棄されたコロニーの残骸が漂うデブリ帯、一つの廃棄されたコロニーの周辺に一つ、また一つと光が生じる。
『クソッ!どうしてこの場所が!』
ジオン残党と思わしき者たちが駆る旧式のMSが数機、逃げ惑うように宇宙を駆ける。
「逃すかよ……!」
白い機体、ガンダムと呼ばれる機体が急加速しながら敵の機体に接近する。
『は、速い……!?なんなんだ……コイツは!?』
「消えちまえよ!」
跳ねるように機体を飛ばし、巧みに敵の攻撃を躱したガンダムはビームライフルで敵を射抜く。爆発の後、デブリからまた数機敵の機体が現れ強襲をかけようと試みるが……。
「キース!」
「避けるんだ!」
二つの声、側面から現れたのはキースと呼ばれた男が乗るガンダムとはまた別の二機のガンダムだ。
重装甲のガンダムが盾でザクのマシンガンを防ぎ、サーベルで切り捨てる。そしてもう一機のガンダムがバズーカで敵を仕留めた。
「……。」
「これで敵機の反応は全て消失、
「あぁ、分かったよレイ。……キース、アルビオンへ帰投しよう。」
「まだ、まだ何処かに敵が隠れてるかもしれない。アイツらは卑怯な連中だ、待ち伏せて攻撃するなんて当たり前なんだからな。」
「キース……。」
一年前のデラーズ・フリートの叛乱。そこで上官であり、人生の師とも言えたバニング大尉が降伏を装った敵に殺された、それを目の当たりにしたキースは心に深い傷を負い、未だに癒えずいる。
「ここにはもう敵の気配はないよ、それならグリム達の方がまだいそうなものさ、どちらにせよ戻ろうキース。」
キースを気遣い、そして自身の感応能力で敵がいない事をレイが伝えるとキースも漸く諦めアルビオンへと帰投を始める。
アナハイムで製造され試験されていた試作ガンダム三機による治安維持活動、それが今の俺達アルビオン隊の主任務だ。
一年戦争、そしてデラーズ紛争、その両方で英雄的活躍をした『ガンダム』という存在は今やMSという枠を越えて戦略的な価値を含むまでの存在となった。
そのガンダムを利用してジオン残党軍、そしてアクシズに呼応したり連邦軍から離反する勢力を威圧する事で反抗勢力の士気を下げる、それが上層部から与えられた今の俺達の役割となった。
試作1号機にはキース、そして試作3号機には俺が。
そしてコンペイトウで機能を一時停止しガトーが放棄した試作2号機は核装備を排除され、本来のプランであった中距離支援機として様々な装備を使用する砲撃機としての運用で使用されている。
そしてそのパイロットにはあの戦いで俺達と共にデラーズ・フリートと戦ってくれたレイ・レーゲンドルフが乗っている。
あの戦いの後、レイはアーウィンさんの引き起こしたコンペイトウでの裏切り行為や、その後一時的に連邦軍の特務を引き受けていたその立場を剥奪されたにも関わらず試作3号機に乗って戦闘に参加した事で、危うい立場に立たされていた。
しかしシナプス艦長やエルデヴァッサー大佐達が、強化人間として非人道的な環境下に置かれていたレイの境遇、そしてコロニー破壊に尽力した功績を訴えた事とアーウィンさんの裏切りをレイは知らされていなかった事により罪らしい罪も与えられず、レイが希望したこともありその後軍籍を新たに作り直しアルビオンでパイロットを続けている。
《こちらアルビオン。ウラキ中尉、キース中尉、レーゲンドルフ少尉現在の状況を報告せよ。》
「こちらウラキ。現在敵部隊の排除を完了し帰投するところです。」
《了解。曙光も敵残党の排除を完了したと報告がありました、帰投後作戦会議を開くのでをパイロットは戦闘記録を纏めておくようにとの艦長からの連絡です。》
「了解、直ちに帰還します。」
編隊を組み直しアルビオンに帰還する。
あれから一年、未だにこの地球圏からは争いの火種は消える気配は無い。
そしてアクシズへ逃亡したガトー……お前は今何をしている……?
「これでこの近辺の残党部隊の掃討は完了した。リング・ア・ベル隊の協力に感謝する。」
アルビオンに設けられた作戦会議室で自分達アルビオン隊のパイロット、そしてリング・ア・ベル隊の面々、あの戦いで何度も顔を合わせた人達だ。
「こちらもアルビオン隊の支援に感謝いたしますシナプス大佐。しかしながら探せばまだまだ出て来そうな所ではあります。」
曙光艦長代理であるジュネット大尉がそう発言する。
そうだ、これだけ虱潰しに叩いていてもまた何処からか敵は集いテロ行為を働く。それも一定の装備を保持した部隊レベルの勢力がだ。
「うむ、大元を叩かなければどうにもならんと言うわけだ。恐らく残党勢力は連邦からの物資の横流しとアクシズからの機体の供給、両方から支援を受けているのだろうからな。」
「しかしシナプス艦長、それほど簡単に連邦からの物資の供給など受けられるものなのでしょうか?」
「うむ、ウラキ中尉の疑念は最もだ。だがそれが有り得る状況なのだよ、一年戦争の折、オデッサの戦いで連邦軍を裏切りジオンに寝返ったエルラン中将、彼は腐っても将軍の地位にあった男だ、連邦の裏の道にはそれなりに通じている。」
エルラン中将、オデッサで寝返りレビル将軍をその指揮していた母艦や部隊を丸ごと核ミサイルで葬った後、マ・クベ大佐と共に宇宙へ上がった人物だ。
その後の動向は分からないが、一年戦争後にも発見されなかった事もあってキシリア・ザビと共にアクシズへ逃亡したと見られている。
「それに限らず一年戦争で連邦政府や連邦軍が管理していた情報は全てあやふやな物へと変質してしまったと言うのもある。何が原因か分かるかな?」
自分達若手のパイロットへ向けてそう問い掛けるシナプス艦長、色々と考えていると曙光のセレナ少尉が手を挙げる。
「はい。開戦直後のコロニー落としによる被害で喪失した記録や戦中のミノフスキー粒子散布下での戦闘による決定的な記録が取れない中での行動などで今までは統制の取れていたものが確実に取れなくなった事により、敵性勢力が入り込む余地が出来たしまった為です。」
「その通りだ。ミノフスキー粒子下の通信の取れない状況、レーダーで確認も出来ない中で味方の所在が分からなくなればそこに敵の入り込む可能性もある。一年戦争中には多くの志願兵も参加した事もあり一方面軍で管理がされていても連邦軍全体に全ての情報が行き届いて無ければそれを偽造することは難しくないだろう。そしてその偽造された人員によって部隊が編成されていればそこから機体や武器弾薬、補給物資を揃える事など造作もない。」
考えるだけでゾッとする内容だ。
これだけ大きな軍隊だ、大戦中の末端の人間の存在など完全に知っている者がいないのであればそこから成りすましてしまう事なんて難しくは無いはずだ。
「……?えぇと、つまりそれが有り得るならここ最近の軍の離反者も元から敵だった可能性も有り得るのでしょうか?」
首を傾げながら質問をするのはベアトリス少尉だ。グリム中尉が溜息を吐きながら頷く。
「その可能性も高い。それよりベアトリス、君はそんな事も考えずに戦っていたのか?」
「えぇと……わ、私は敵が誰であろうと全力を以って戦うだけでありますので……!」
苦しい言い訳にグリム中尉も苦い顔をしている、しかし自分自身も戦っている相手の本質が未だ見えていない、彼女の事は笑えないだろう。
小さな綻び、それが段々と大きくなっているのを感じる。このまま放置しておけば地球圏はまた大きく混乱しかねない。
そう思っているとキースが喋り出した。
「自分はベアトリス少尉の言葉も間違っていないと思いますグリム中尉。敵が連邦を裏切ってジオンの側になったとしても、そうじゃなく好き勝手やる為に連邦軍から離反したとしても、裏切り者だろうと残党だろうと関係ない、ただ打ち滅ぼしてしまえば良いだけですよ。」
「キース……。」
グリム中尉も辛い顔をしている、バニング大尉の死が未だにキースの心に深い闇を与えてしまっていることを察しているからだ。
それを感じ取ったシナプス艦長が再度発言する。
「……キース中尉の言も最もだ。だが今は有象無象を叩くよりもそれらを扇動している者達を何とかせねばな。その為に我々ガンダム部隊がいるのだから。」
「これに関してもベアトリスとセレナは教育がまだまだ必要だな。アルベドとルベドの機体性能に甘えている部分が多い。ガンダムパイロットとして恥じない動きをする様に心掛けるんだ。」
「りょ……了解です……。」
今現在軍務によりリング・ア・ベル隊の指揮を執っていないアンナ・フォン・エルデヴァッサー准将とジェシー・アンダーセン少佐の代わりにガンダム ルベド、ガンダム アルベドに搭乗しているのがベアトリス少尉とセレナ少尉だ、そしてグリム中尉は同じリング・ア・ベル隊のカルラ・ララサーバル軍曹と共にガンダム ニグレドに乗っている。
このガンダム6機という存在は連邦軍内外から大きな影響を与えている。味方からは戦争の英雄が援軍に来たという頼もしさを与え、敵からは自分達を苦しめたガンダムという存在が現れたと畏怖を与えることが出来るからだ。
だがそう言った存在だからこそ、気を付けなければならない。
その実力が不確かなら、その性能が優れたもので無かったなら、逆にその存在を蔑ろにしかねないからだ。
だからこそ自分達ガンダムパイロットは日々研鑽を積み、その存在に相応しい人間であろうとする。
……だけどふと思う時がある。
そう言った存在が敵に回り、逆に自分達を苦しめる存在になり得ないのかと。
一年前のトリントン基地、あの試作2号機と対峙した時に感じたあの恐怖。
アナベル・ガトーと言った歴戦の敵パイロットがガンダムに乗りこちらに牙を向ける、それは今振り返っても冷や汗が出るほどだ。
その経験があるからこそ思う。
敵がもしもガンダムに乗り、こちらに立ちはだかる存在になってしまえばこの地球圏はどうなるのかと……。