機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第8話 難民キャンプ

「難民キャンプ……ですか?」

 

 敵基地襲撃失敗から一日、ノーマッドからの定時報告を聞きに来た俺達にノーマッドからこの付近に難民キャンプが存在している事を告げられた。

 

《これが高高度から撮影した現地の状態だ。》

 

 映されたのは森に面した川沿いの平地に設置されている大量のキャンプだ。

 恐らくは千人規模ほどだろうか、多くの人々がそこで生活している姿が見える。

 

《逃亡したガンダムに似たMSを追跡中に見つけたものだ。フォズ隊はここで現地調査し何かしらの情報を手にせよ。》

 

「えらく大雑把な指示じゃねえか、とても特務隊の任務とは思えねえな。」

 

 小声で舌打ちをするのはジャン中尉、確かに行き当たりばったりな任務ばかりだが情報が全く無い状況では仕方がないだろう。それを分かっているからか敢えて声を上げて反論はしないようだ。

 

「任務は了解した。だが難民キャンプで情報収集するとなると表立って軍としては動けないだろう。少数による潜入任務になり、かつ時間をある程度かける必要があるかもしれん、其処は了解してもらおうか。」

 

《了解した、こちらも引き続き教団の情報を入手する必要がある。その間調査を続けたまえ、以上だ。》

 

 通信が切れる。今後の行動を決める必要があるな。

 そう感じていたらフォズ大尉が状況をまとめ始めた。

 

「目標は難民キャンプ、確認し得る限りでは規模は千人から二千人と言った所だな。寄り合い所帯の難民だろう、目視からでは統一された物を使用している感じはしない。つまりは本物の難民キャンプである可能性が高い。」

 

 ジオン軍や連邦軍が使っていたと思われる軍用キャンプやそれこそ一般に流通している物まで幅広く使われている……と言えば聞こえは良いが実際はある物を全て使っていると言った感じだろう、切羽詰まった状況が目に見える。

 

「だが連邦軍の支援を受けねえとは後ろめたい背景があるんじゃねえか?もしかしたらテロリストと通じてるかもしれねえ。」

 

「だからこそ、だろう?それに現在の連邦には全ての難民を把握出来るほどの情報収集能力はない、彼らが点在しているとなれば余計にな。」

 

 一年戦争にデラーズ紛争のゴタゴタと離反者が増えている今の状況じゃあっちにもこっちにも手が回らないのが現実か。

 手を回す人間が足りていないのも事実だ、だからこそ余計に手が回らなくなる事態は避けたい所だが……。

 

「調査となるとMSは使えませんね?」

 

 一応の確認をする、あんなところにMSを駆り出したら余計な敵意を与えるだろうし連邦軍がわざわざ向かうという状況になると敵は尻尾を出さないだろう。

 

「あぁ、俺達全員で行くわけにもいかん。下手に勘繰りでもされては意味がないからな。」

 

「大尉、提案があります。」

 

 アーニャ扮するハンナ少尉が挙手する。フォズ大尉は頷くと続けるようにとアーニャに言う。

 

「私とエイジス中尉は歳も近く、二人で夫婦かカップルを装って難民キャンプを訪れたという名目で偵察に向かえば警戒を最小限に抑えて潜入出来るかと思います。如何でしょうか?」

 

「成る程、良い案だな。俺やジャン中尉では軍人気質が身に染みているしお前達二人ならまだ言い訳も効くだろう、エイジス?お前はどうだ。」

 

 こっちとしては願ったり叶ったりだ、今みたいに別の人間に装う必要もなくなるし。

 

「自分としては問題ありません。」

 

「へへっ、良かったじゃねえか。敵基地の戦いじゃ大声上げてまで心配してたしなぁ。」

 

 ケラケラと笑うジャン中尉に思わず顔が赤くなる。本当に心配だったんだから仕方がないが……。

 

「ではデートと洒落込みますかエイジス中尉?潜入任務だということをお忘れないようにお願いします。」

 

 澄ました顔でそう告げるアーニャ、ハンナ少尉としての顔を出さなければならないから敢えてそういう風を装っているのだろう……とは言っても方向的に俺にしか見えないから良いが顔がニヤけないように何とか表情を抑えているのが分かる、可愛いやつめ……。

 

「それではエイジス中尉とハンナ少尉には難民キャンプへの潜入任務を告げる、必要な物を用意して現地に赴け。俺やジャン中尉も後方で待機しておく、何かあれば緊急無線を発しろ。」

 

「了解です!」

 

 さて、この任務が吉と出るか凶とでるか。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 それから約2日かけ現在俺とアーニャは馬に乗り難民キャンプへと向かっている。

 下手に軍用車両などで近くまできて移動では察知される恐れもあるというアーニャの判断で時間をかけての馬を用いての移動となった。

 

「しかし難民キャンプか……厳しい現実を見せつけられるな……。」

 

「えぇ。連邦政府や軍がまともに機能していないことの証左ですからね、私達の無能を見せつけられているのと同じです。」

 

 EC社でも戦災孤児や戦争で被害に遭った人達への支援活動を行ってはいる、だがそれは限られた範囲でしかない、現実には俺達の手に届かない範囲にまで戦争の傷痕は残り続けている。

 

「地球のこと、宇宙のこと、本当にやらなくちゃならない事がいっぱい残っている……。」

 

 もう昔とは違う、ガンダムの世界に来て何かを変える、そんな曖昧な考え方はもうしてられない。

 俺達の子供達の未来、そして今後の宇宙世紀を生きる未来の希望達の為に、大人がやらねばならない事が山積みだ。

 

「だからこそ、このニュータイプ教団という存在を見極める必要がありますねジェシー。貴方が知っている世界の知識では南洋同盟という存在があったようですが。」

 

「前にも話したがあれはこの世界と同じ流れを汲む更に別の世界の話だ、本来その組織を率いる者やそれに対する連邦軍のメンバーなんかは軍のデータベースに存在しなかった、この世界には彼らはいない。」

 

「けれど同じ宗教組織というなら何処か通じるものがあるかもしれません、そこから見える動機や活動目的がこのニュータイプ教団にも当て嵌められる場合もありますから。」

 

「うぅん……そうだな……。」

 

 アーニャに色々と説明する、しかし俺が知るサンダーボルトは俺がこの世界に来る前にはまだ未完で途中までしか内容が分からないので多くは語れなかった。

 

「成る程……僧正自身の経歴、そして未来を見たことで争いのない世界にする為に活動を興したと言うことですか。……この世界でも同じ事が有り得ないとは言い切れませんね、ニタ研の件もありますし。」

 

 ジェイソン・グレイやマルグリット、ヘルミーナさん姉妹、プロト・ゼロやアーウィン・レーゲンドルフ……ニュータイプ研究所で強化を受けていた彼らが実際にいるのだ、同じような実験を受けていた人間は連邦やジオンでも相応数いるだろう、レヴァン・フウのように世界を変えようとする者がいてもおかしくはない。

 

「そうなるとギレン似の男もそういう由来の男の可能性もあるわけだ。……早く実際に存在を確認しないと何か大きな問題になりそうな予感がする……。」

 

 息子……の線は薄いと思っている、整形で似せただけなのか或いはクローンか、フル・フロンタルのようにオリジナルのカリスマを利用し事態を動かす人間であるなら厄介な存在となる。

 味方になり得るのなら……と期待したい心もあるが、今のこの世界ではさらなる混沌に誘う存在と成りかねないだろう。だからこそ俺達は動いてる訳だし。

 ニュータイプという存在を戦争や政治に利用させたくはない、その為に。

 

「自ずと答えは出てくるでしょう、間も無くキャンプからこちらを確認されるでしょう、下手な動きはしないように頼みますねジェシー?私達はあくまで民間人なのですから。」

 

「分かっているよ、それにしても難民キャンプに向かう難民をせにゃならんのに小綺麗な服を用意した連中には流石に呆れたぞ俺は。」

 

 補給物資と潜入用の衣服を用意した補給部隊が新品同然の服を渡して来た時は流石に溜息を吐いた。

 現実をよく分かっていないか理解する気がないのか、貰った衣服は道中で敢えて泥や泥水を付けクシャクシャにさせてから移動している。

 

「これが今の連邦なのですよジェシー。敵の奸計に踊らされるのも、事態の悪化に何ら対応できないのも連邦政府や軍がまともに機能していないからこうなるのです。」

 

「それを変えるために俺達はいる、お前だって連邦議会議員になる為に色々してる訳だしな。」

 

「えぇ、お父様やお祖父様がこの現実を知っていても敢えて地上に残り世界を変えようとしたように、私もその意志を継ぎ戦うのですから。」

 

『動くな!!!』

 

 話の最中、崖の横穴から銃を構えた男が数名現れる。

 どうやら最初から潜んでいたようだ、よく見ると生活の跡がチラホラ見える。つまりは俺達が来ることを察知していたのではなく最初からこのルートの監視をしていたという事だろう。

 なら幾らでも誤魔化せるはずだ。

 

「お、お願いします撃たないでください……!」

 

 アーニャは怯えたような声色でわざとらしく震えている、俺も敢えてオドオドした風を装いながら銃を構えた男達を観察する。

 伏兵は無し、全部で三人か。服は使い古されてはいるが軍用のシャツだ。しかし銃の構えは一人だけしか訓練を受けていないのか一人だけは構えが軍人のそれだが、他二名は撃ち方を教わったくらいのレベルだろう、構えに隙が大きい。

 恐らくは一人が元軍人で三人の中のまとめ役辺りだろう。

 強行突破しようと思えば身体強化を施した俺なら行けるだろうがリスクは無駄に犯す必要はない。ここは難民に徹するだけだ。

 

『大人しくしていれば乱暴はしない。何の用でここに来た。』

 

「お、俺達は故郷を無くして転々としているんだ……!こ、この辺りに集落があると聞いて探していたんだ……!あ……貴方達がそうなのか!?」

 

 敢えて一般人のように情け無い感じで喋る、ここの所ずっと他人を装っている事が多いから演技力には自信があるぞ。

 

『チッ……買い出しに行った連中が喋りでもしたか。何故ここに来ようと思った!』

 

 ある程度警戒は薄れているようだが油断は禁物だ、言葉選びは慎重にしなきゃな……。

 

「俺達は色々な所を転々してるって言ったろ……!?戦争に関わらない安心して暮らせる新天地を目指していたんだ、こんなご時世じゃ特に……だろ?」

 

『……。』

 

 怪しんでいる、まぁ正常な判断だろう。どこの馬の骨とも分からない人間の言葉を信じるようなのを見張りにはおかないだろうし。

 

「助けてくれ……戦争続きで俺も妻も心身共に疲れ果ててるんだ……。」

 

 ジワリと涙を浮かべながら同情を誘うように喋る、隊長格の男以外の二人が「通してやったらどうですか?」と言ってくれている、何とかなりそうか?

 

『ここは軍の避難所じゃない、自分で生活する能力や金がないと誰も助けはしないし、怪しいことをすればどうなっても知らない、身の安全を自分で守れるなら通れば良い。』

 

「分かりました……ありがとうございます……。」

 

『……こんな時代だ、お前達のように思う人間は多い。ここは理想郷ではないかもしれないが人によっては楽園だ。中に入ったら適当な空き地に寝ぐらを作れば良い。』

 

「感謝します……。」

 

 頭を下げて道を通る。今の彼らの対応を見て余計に今の時代の悲惨さを身に染みらせられた。

 

「ここはニュータイプ教団とは関係のない場所かもしれません、彼らの服装を見ましたが宗教的なシンボルや装飾品は見受けられませんでした。本当にただの難民の集まりの可能性も否めません。」

 

「中はどうか分からないけどな、隊長格の人は元軍人だったからあそこの警備に置かれたんだろうし信仰心が必要ない配置かも知れないからな。」

 

 情報を掴めれば御の字だが、掴めなかったら掴めなかったでここの人達は争いに巻き込まずに済む可能性が高くなるからそれはそれで良いだろう。

 本当なら軍が助けに入るべきだがそれが後手に回っている状況なのだから手を差し伸べられる状況になるまでは平穏に暮らさせたいところだ。

 

 それから馬で小一時間程したところで難民キャンプの中心に辿り着く。

 上空からの写真ではテントなどで分かりにくかったが、中は小規模なバザーなど人の往来が予想以上に多い。

 

「これは……ちょっとした街だな。どれくらい前からあるか分からないが既に集落としての土台は完成してるみたいだな。」

 

 一年戦争中から後だとして最長で三年か、少なくても半年以上は経つくらいには人々の動きに迷いがない。生活の一部として確立された感じだ。

 

「その様ですね。あそこの青果を売ってる店の店主の動きを見てください、元来その職だったのかもしれませんが手際の良さは最近ここで店を構えたとは思えませんね。」

 

 チラッと見ると確かにその動きは熟練のそれだ。こういったスタイルの売り方など戦前はしていないだろうしこちらに来てからの動きとして見ればこのキャンプがどれくらいの月日で続いているのかをある程度は察することができる。

 

「あまりキョロキョロするのも怪しまれるな、中に溶け込むとしようか?」

 

 アーニャを連れて食料品を売っている並びを歩く。

 

「アンタら見ない顔だが新顔か?金は持ってるのか?」

 

 肉屋の店主らしい男が話しかけてきた。

 

「えぇ、さっき見張りの人に通してもらったんですよ。金は一応ありますけど使えるんですか?」

 

「あぁ。新参者ならここのルールもあんまり分からねえだろうから軽く説明しとくかな?まぁあんまり難しく考えるな、普通の街のように書いてある金額通りに金を払えば物は買えるどこの店でもな。中には物々交換に応じるのもいるが余程の貴重品でもなきゃ基本は金だな。」

 

「ここって難民キャンプみたいなものですよね?何処からこういう食べ物とか調達するんですか?」

 

 見張りの隊員は買い出しがどうこう言っていたから街にまで行って買ってる者もいるだろうけど聞いて損はないだろう。

 

「少し距離はあるが少し下った所にそれなりの街がある、生活用品や雑貨なんかはそこで買い入れて売ってるのが多いな、後は調味料なんかのスパイスもだな。肉や野菜は自分らで育てた物を売ってる奴もいる。」

 

「へぇ……、って言うことは自給自足が主なんですか?」

 

「いいや、俺らみたいな商いやってるのはともかくアンタらみたいな流れ者は金が必要になるだろ?簡単な土木や林業みたいなもんをやれば一応金は貰える。」

 

 ……?仕事があるのか、そりゃ自給自足が出来ない人間は餓え死にするばかりだし金が貰える仕事があるのは有り難いだろうが……。

 

「ここは難民の集まりなのですよね?何処からお給料が出るのですか?」

 

 アーニャが疑問を問いかける。そこはアーニャにしても気になる所だろう、もしかしたら教団が出資してる可能性もあるからここから情報が手に入れば良いが……。

 

「……一度連邦の連中が数年前に来たんだよ、この金やるから当分助けは待っとけよっていう感じでな。多いとは言えねえが少なくもねぇ額だったから此処らの拡張をする為の公共事業に使おうって話になってな。」

 

「それは誰が決めたのですか?此処にはリーダーのような方がいらっしゃるのでしょうか?」

 

 もしいるのなら、そいつを探れば良さそうだが……。

 

「いいや、リーダーなんて大それた人間は此処にはいねえよ。俺とか他に店構えてるようなここらの顔役みたいなのが集まって話してそれをみんなと共有するんだ、そもそも偉い奴らに従うのが嫌で集まってるようなのの集まりだからな。」

 

「それは凄い事ですね貴方、私達もそうあれるようにしましょう。」

 

「……あぁ、そうだな。」

 

 本心ではない、それは隠した拳を強く握るアーニャを見れば分かった。

 彼らを責める訳じゃない。ただ連邦の愚政が彼らがこうならざるを得ない状況を作り出している現実、そして自分がその一端である事を強く恥じているのだ。

 

 アーニャの手を握る、変えて行くのは俺も一緒だからと伝えるように。

 

「色々教えてくれてありがとうございました店主さん。情報料って訳じゃないですけど色々教えてくれたお礼にコレとコレ、買いますよ。」

 

 金額に書かれた通りの金を払い肉を買う、彼らの生活を実際に体験する事はこれから先の価値観を広げるのに必要不可欠だろう。

 

「おう、またよろしく頼むぜ。」

 

 店主に別れを告げ再度周辺を観察しながら歩いていく。

 だが宗教的なシンボルや装飾品などは見当たらない、あってもそれは昔からあるような十字架などありきたりな物ばかりだ。

 

「やっぱりここはニュータイプ教団とは関係無さそうか……?」

 

「今の所はシロですね。ただもっと情報を集めてからでも遅くはありません、一旦何処かに居を構えて明日からまた再度調査をしましょう。」

 

 そろそろ陽も落ちる時間だ、一旦落ち着いてから調べても遅くはないな。どうしても焦ってしまうが悪い癖が発動してると思うからアーニャに任せておいた方が良さそうだ。

 

「あぁ、そうしよ───?」

 

「どうしましたジェシー?」

 

 何だ?何処かから誰かに見られてるような感覚を感じて辺りを見回す。

 だが周囲は俺達を気にせず歩いていく人ばかりだ、気のせいか?

 

「いや、何でもない。気のせいみたいだ。」

 

 そして俺達は人だかりから離れた居住スペース用の広場のような所でテントを構え明日に備えるのであった。


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