機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

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第10話 前途多難な新型MS

「うおおおおお!?」

 

 制御に失敗したMSが地面に転倒する。

 何度目かの転倒、何度目かの衝撃、最早これが何回目の失敗か数えきれ無くなっていた。

 

「ヴァイスリッター転倒!あー……この子ちょっと勢い有り過ぎねやっぱり。」

 

 クロエ曹長が少し呆れて機体を眺める、新型MSの管理が出来ると最初は喜んでいたが曲者過ぎてか流石にちょっと辟易していた。

 

「クロエ曹長、何とかなりますか?」

 

「うーん……機体のポテンシャルをそのままでとなると難しいですね。機体性能自体にリミッターを掛けて諸々落とすんだったら何とかなりそうですが。」

 

「そんじゃあせっかくの新型が型落ちになるじゃないか、整備屋だったら何とかならないのかい?」

 

 口を挟んで来たのはラテン系の女性だった、クロエ曹長より年齢は年上なのだが……。

 

「……、ララサーバル軍曹。一応言っておきますが技術士官とは言え私の方が階級は上です。言葉には気をつけてください。」

 

 カルラ・ララサーバル、数日前にジェシーとシュミレーターで戦い惨敗した彼女は基地司令官に殴り込み、第774独立機械化混成部隊に加えてくれと懇願してきたのだ。

 

「すまないね!せっかくシショーの為の新型が来たってのにまともに戦えないんじゃ腹が立つからさ!」

 

 バンバンとクロエ曹長の肩を叩くララサーバル軍曹、珍しくクロエ曹長がナーバスになっているのは単純にノリが合わないからだろうか。

 ジェシーを師匠?と仰ぎ弟子にしてくださいと乗り込んで来たときは笑ったけどその崇拝っぷりは流石に私から見ても過剰なものであった。

 

「しかし……叔父様も厄介な試作機を作ってくれましたね。」

 

 GOP-001 ヴァイスリッター……

 例の敵試作機を解析し作り上げた素体を超硬スチール合金製だった装甲からチタン・セラミック複合材に変更し更に露出していた動力パイプなどは全面的に排除して内部に組み込む事でジオンの物だった当初とは少し似つかない様相になっている。頭部も所謂ザニータイプの物となっているがブレードアンテナを装備し通信機能強化に対応している、これは最前線の切り込みをするに辺り通信可能な範囲を広げる為のものらしい。

 搭載装備は敵試作機に積まれていた装備であるシールドとシールドに内蔵可能なヒートサーベル、その他は基本装備に100mmマシンガンや現在ヤシマ重工で開発中の試作ミサイルランチャーを装備する予定だ。

 最大の特徴は陸戦における機動性で胸部と背部ランドセルに合計四つのスラスターを装備して戦場で圧倒的な機動性を維持しながら敵に切り込むという設計内容だったみたいだが……。

 

「うおおおおおお!まただぁぁぁぁ!」

 

 転倒、そう転倒するのだ。はっきり言えば調整不足、だけどこれは調整しても今の機動性のままでは現在使われているOSでは動きが強すぎて処理しきれなかったのだ。

 

「はぁ……、クロエ曹長。機体性能が落ちても構わないので出力など調整してせめてザク並の挙動は出来る様にしておいてください……。」

 

「了解です、少尉ー!もういいんで降りてきてくださーい!」

 

「うぅっぷ……了解……。」

 

 機体酔いしたのか気分を悪くしながら降りてくるジェシーにララサーバル軍曹が近づく。

 

「しっかしあんだけザニーを乗りこなしてたシショーがこんだけ苦労すんだならコイツを乗りこなせたらエースパイロットも夢じゃないね!」

 

「こんなのニュータイプでもない限り乗りこなせないっての……。」

 

「!?」

 

 ふと呟いたジェシーの言葉に驚く、周りは気にしていないと言うことは誰も気づいていない。いや、分かった私の方がおかしいのだ。

 なんで彼がかつてジオン・ズム・ダイクンが提唱した『ニュータイプ』という単語を知っているの……と私の心に小さな疑念が生まれた。

 

 

 

「あー……しんど……。」

 

 宿舎のベッドで横になり込み上げてくる吐き気を我慢する、何度も転倒を繰り返していたからか脳が錯覚して揺れてもいないのに身体が揺れているように感じている。

 

「シショー!医務室から酔い止め持って来たよ!」

 

 ノックも無しにテンション高く大声で入ってくるララサーバル軍曹に思わず「うわぁぁ!」と驚き飛び上がる。

 

「ララサーバル軍曹!ノックくらいはしてくれよ!?」

 

「アハハ!ゴメンよ!シショーがヤバイと思って急いで来たもんでさ!」

 

「と言うかなんで師匠なんて呼ぶんだ?」

 

 別に流派東方不敗とかやってる訳じゃないんだけどな。

 

「パパがジャパンが大好きでね、小さい頃からアタイも一緒になって映画とか見てたからそれにハマってね!シショーはその映画に出てくる主人公のシショーそっくりなんだよ!」

 

 日本か……何もかも皆懐かしい……。今どうなってるんだろうか。かつての文化とか残ってれば嬉しいけど。

 

「師匠と呼ぶのは構わないけどララサーバル軍曹の方が俺より年上だろ?良いのか?」

 

「ただ年を食っただけのアタイより濃い中身してるシショーの方が頼り甲斐があるだろ?それに年功序列みたいな古臭いノリは嫌いだからね、強いヤツに従う!それが野生の掟だろ?」

 

「ここはジャングルとかじゃないからね?」

 

 中々調子の狂う事を言ってくる女性だ、比較的に大人しいタイプ?のアーニャやクロエ曹長と比べたら確かに野生児みたいな感じだが。

 

「まぁまぁ!細かいことは気にしない!酔い止め飲んで明日も頑張って訓練しようなシショー!」

 

 バンバンと背中を叩いて去っていくララサーバル軍曹、何というか駆け抜ける嵐みたいな人だったな……、取り敢えず言われた通り酔い止めを飲んで明日に備える。せめて体調は万全にしておきたいからな。

 

 

 翌日、再びの起動訓練に入った。徹夜で調整してたのかクロエ曹長は寝惚け眼でウトウトしている。

 

「一応スラスターの出力を30%カットして機体制御に細かなリミッター付けてます……手動で解除出来ますけど転倒したくなかったらぜっっったいに解除しないでくださいね。」

 

 めちゃくちゃ念押しされてリミッターの説明を受ける、これ調整するのに手間がかなりかかったんだろうな……後でお礼にお菓子でも持って行こう。

 コクピットに乗り込んで計器を確認後起動し運転してみる。

 

「おっ……、昨日より大分動きやすいな。」

 

 殆どザクだったザニーヘッドと比べたらかなりマシな機動性だ、まぁそもそもザニーヘッドはF型ザクの胴体なので恐らくこれでJ型ザクよりも上のレベルの機動性を期待できるだろう。これなら充分に戦える。

 

「よし、次は模擬戦形式で頼む。ララサーバル軍曹!」

 

「よっしゃあ!手加減はしないよシショー!」

 

 ララサーバル軍曹の搭乗するのは俺のかつての愛機ザニーヘッド、OSも最新版に変えてあるので最初期と比べたら機械エラーが無い限りは動きはかなり最適化されている。

 そしてララバーサル軍曹は普段の言動と同じで機体の使い方も基本的にショートレンジで戦うタイプだ、白兵戦特化のヴァイスリッターの相手に相応しい。

 

「それでは模擬戦開始!」

 

 アーニャの号令で模擬戦がスタートする、まずは相手と距離を取るために移動を開始する。

 

「これは……思った以上に快適だな!」

 

 出力を落としたとは言え最大四基のスラスターで動かせる機体だ、前後どちらかのみでの使用も可能だが四基同時に起動し一定方向に稼働させれば出力が落ちた今の状態でもかなりの加速が可能だろう、転倒が怖くてあまりやりたくはないが。

 

「逃げてちゃ勝負になんないよシショー!ほらほらぁ!」

 

 模擬専用のペイント弾装備のマシンガンをばら撒く、それに対処するように左へ移動し左へ撃ってくれば右へとジグザグに移動し今度は距離を詰める。これはかつて俺が初陣で戦ったジオン兵の動きを真似たものだ。

 ザニーヘッドでは見真似すら出来なかったがこのヴァイスリッターなら!

 

「ちぃぃぃ!」

 

 マシンガンで狙うのを諦め近接用のヒートホークへ持ち変えた、一応こちらも模擬戦仕様で攻撃能力はない。

 勢いよくこちらへ向かって来たところをスラスターを四基最大稼働させ上空へ機体を上昇させる。

 

「き!消えた!?」

 

「後ろだ!」

 

 ザニーヘッドの真後ろへ回り込み首元はヒートサーベルを突きつける。

 

「それまで!」

 

 終了の合図で模擬戦が終わる、ヴァイスリッターの起動試験としては上出来の結果だ。

 

「あぁーまたシショーに負けちまった!流石だよやっぱり!」

 

「とは言え機体性能のおかげな所もあるけどね、ありがとうクロエ曹長。」

 

「はぁーい……ごめんなさい、ちょっと仮眠してきます。」

 

 結果を見て安心したのかクロエ曹長はウトウトしながら宿舎へと戻っていった。

 

「昨日はなんとかしなって怒鳴っちまったけどホントに何とかしちまいやがった……あの子もショクニンって奴だね。」

 

「間違ってはいないと思うけど本人の前で言わないようにね?」

 

 あの人も怒らせると結構怖いからな、下手にあだ名つけたらバカにされてるのかと勘違いしたら恐怖のOS調整をしてくるかもしれない……。

 

「お疲れ様でしたジェシー、それにララサーバル軍曹。」

 

「ハッ!お疲れ様であります隊長殿!」

 

「フフッ、元気いっぱいですねララサーバル軍曹は。」

 

「元気しか取り柄がないとみんなが言いますからね!常に元気を保つ訓練は怠っていませんよアタイは!」

 

 元気を保つ訓練ってなんだよ、って思っているとアーニャはこちらを向き俺に話しかける。

 

「ジェシー、少しお話しがあるのですがよろしいですか?」

 

「あぁ。構わないけど?」

 

「……ここでは人目に付きますので30分後に私の部屋へ。」

 

「……?了解だ。」

 

 何の話だろうか?機体についての話なら別に人がいても問題なさそうに思うけど、とそんなことを思いながらも機体を整備ハンガーへ戻し着替えを済ませてからアーニャの部屋へと俺は向かったのだった。

 


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